第146話:襲われる王族
ーミリア視点ー
ウィルス様が普通に過ごせている。
今の私はそれを嬉しく思う。生まれてくる自分の子供と合わせて、だ。まさかアーサーがディーデット国に所属しているとは思わなかった。
あの、慌てんぼうで周りを見ないアーサーが。
「私も知らなかったです。ミリアがいつの間にか人妻だだだっ……!!!」
ギリギリとアーサーの事を絞め上げている夫のリーガルだ。慌てて止めれば「ふんっ」と不機嫌そうにして離れて行った。何がそんなに不満なのかと聞けば私の事をバカにされたとだと思って、行動に移したんだって。
恥ずかしくなって今度は私が、リーガルの事を引っ叩いた。
ウィルス様達がお城で過ごしている頃。アーサーが大ババ様に会いにと薬屋に顔を出した。私はウィルス様が作ったクッキーを持ってここに来た。リーガルはその付き添いで少しの間だけ居てくれる。
「はあ~~。大ババ様のお茶、久々なのに何だか新しい感じの味がしますね」
「当たり前だよ。姫様が作ったんだから」
「ごほっ!!! ごほっ、ぐっ……ウィ、ウィルス様が作った!?」
余程、彼女が作った。と言うのがアーサーには衝撃を受けたのだろう。
その証拠にさっきまで飲んでいたお茶を危うく吐き出しそうになっていたんだから。その後ろでは彼の部下であると言うカーラスがそれはもう美味しそうに飲んでいる。
「姫様がこれを……。何とも美味しい。持ち帰って保存したい。魔法で永久的に保存しましょうか」
……危ない人かなと思ったのは普通だと思う。隣でリーガルが引き攣った顔をしているからだ。
透明感のある水色の髪を1つに結んだ男性。氷の魔法を扱う彼は、ウィルス様と同じバルム国の出身者だ。彼女の護衛を務め身の回りのお世話をしていた実力が折り紙付きの人。
確か……バルム国の魔法師団長を務めているんだったかな。
(氷か。確かバルム国の最初の王妃も同じ氷で、私達と同じ魔女だったわね。まぁ、同じような魔法は誰にでも現れるから不思議ではない)
魔法を扱う属性が被る事はあるのが普通。
特異な魔法は存在するし、大昔に使われていたものが失われて別の魔法へと変わるのだって普通だ。
それこそ大昔の時代には、自然系の魔法が多く存在していたと言われている。風、水、火、土。この4つが自然系の魔法を象徴するものだったと伝えられている。
変化してく中で変わらない魔法もある。
それがウィルス様の扱っている白銀の魔法とそのお母様が扱っていた光の魔法。魔獣を倒せる力に特化した魔法。アーサーが昔から調べていても謎が多い、私達にもどこか不気味さを秘めている。
「すみません。このお茶、在庫はどのくらいありますか? 全て買いたいのですが」
「そんなことしないでくれ。そんなに欲しいなら姫様に直接言えば良いだろう」
カーラスが凄い勢いで大ババ様に迫る。でも、私達も気に入っている上に大ババ様自身も、好きな味なために絶対的な死守に入っている。お互いに一歩も譲らない攻防。
リーガルは姫様が厨房の出入りしている時に貰っている。だから自分はいつでも飲めるのだと勝ち誇ったような顔をしている。それが面白くて笑ってしまったのは内緒だけど……。
「良かった。ミリアが普通に笑っていて」
「えっ……」
アーサーからそう言われて思わずキョトンとしていた。
今、ネル達は王都を散策中だ。
東での動きを探る為に、お店をたたむ準備をしているのだ。だから、こうして話が出来るのもあと少し。
ウィルス様がそれを聞いて、シュンとしていると連れて来た猫達までシュンとしたようにしているのを思い出す。子猫はネルの足元に集まり、寂しく鳴いている。
それを「うっ」と気まずそうに逸らすネル。
レインとニーグレスは、カルラとビーに遊ばれて助けられない状況。孤立させてネルだけでも居て貰おうとする猫達の策略が怖い。
「そうだっけ」
「いつも何かしら背負っているからね。私が攻撃系を使えれば良かったんだけど……魔力が強くでも守りの力だとどうしてもね」
「仕方ないよ。魔女が全員、攻撃系を使えるとは限らない。使えても私みたいな強力なのはないし」
「だからだよ。君は……1人で何でも背負って、傷付いて。見ていられなかったんだけど、私だと守ってやれない」
だからリーガルのような人が私の傍に居てくれるのが嬉しいのだと言う。
チラッと見れば照れくさそうにしているリーガル。それにつられて私も顔が赤くなる。
「ふふっ。まぁ、ミリアが幸せなら良いんだよ。お兄さんとしては嬉しいのは事実だし」
「お兄さんなんて思った事ないけど」
仕返しにそう言えば、ショックを受けたアーサーがその場に崩れ落ちる。
しかも「うぅ、頼りないけど……」とウジウジし始めてる。カーラスが止めとばかりに「今に始まった事ではないでしょう」とグサリと突き刺さるような事を言い放つ。
「貴方が役に立たないのは知っています。労働は全部私任せなんですから少しは役に立って下さい」
「うぐぅ……」
さらに縮こまって涙目を浮かべている。
リーガルが「あっ」と言って食材を買う予定があるからと出て行く。入れ替わりにネル達が入って来て、アーサーとカーラスを見て固まった。
2人とは改めて会った事が無かったのを思い出し互いに紹介をした。カーラスの事はウィルス様から聞いていたけど、実際に会った事は無かったらしく緊張している様子。
「姫様と仲が良い人に敵意なんて向けないですよ」
何故だろうか。
言葉ではそう言っているのに、全くそう受け取れないと感じるのは。
「……王子と同じ感じがする」
3人が口を揃えて言い体を震わした。
にっこりと笑みを返すカーラスに私も同じように寒気を感じた。人形みたいに綺麗な顔つきなのに底知れないものを感じ取れる。
アーサーが勝てないのも仕方ないなと感じる瞬間でもあった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーバーレク視点ー
今、紅蓮の魔女ミリアが働いている図書館にいる。一緒にナークと本を読んでいる。こっちが歴史関連のものを読んでいるのに、ナークが見ているのは魔法に関する本だ。
お姉様と契約して光の魔法を扱う様になってからは、感覚的に魔法を使っていたんだと。それで実際に魔物を撃退しているし、魔獣を倒しているんだから才能は恐ろしいと思う。
ただ本人が言うには誰も教えてくれなかった、ではなく自分から学ぼうとしなかったんだって。
「リベリーに学べる時は学べって言うから。勉強、あんまり得意じゃないけど頑張る」
お姉様の為だと小さい声で言いつつ、恥ずかしそうに顔を逸らす。
同じ年だけどこういった仕草が弟のような感じで、思わずクスッと笑った。その後で師団所属のスティングさんと副師団長のラーファルさんとで、魔法の抗議に流れたのは焦った。
何で普通の会話から勉強にいくのか、と。
逃げたい気持ちで一杯だったのに、隣に居たナークが目を輝かせて聞いているから逃げられなくなった。
スティングさんが小声で「まさか、お友達を置いてく……なんてことはしないよね」と言って来たから完全に退路を断たれた。
(あの人、ルベ兄ぃと同じだ!!!)
空気と言うか人の事を面白半分でかき乱す部分とか。ルベ兄ぃを見ている気分にげんなりした。結局、魔法の抗議を終えたのは夕方だった。
(魔法好きな国なのは同じなんだけど、何でこうも疲れるんだろうか……)
「大丈夫じゃないね」
「見れば分かるでしょ」
唸るナークに思わずキツイ言い方をしてしまった。
今は第2王都にある噴水の縁で話してる。抗議から逃げるに逃げられなくなり、人通りが少ないここにきた。
もうすぐ夜になるから通るのは馬車だ。
ただ不思議としんとしているのがおかしいかなとも思った。
「……ごめん、立って」
ナークにしては珍しく凄みのある声。
なんだろうと思って起き上がると、キラリと何か光るのを見た。
「えっ」
「!!」
それが何かと確認する前にナークが動いて弾き返す。
カラン、カラン。金属音にも似た何かが地面に落ち、ぎこちなく見ると短剣なのが分かった。
しかも先端が少し緑色になっている。これは――。
「誰に依頼された」
ギクリと鋭い声を発したナークを見る。さっと僕の前に出て、手を握って大丈夫だと小声で言う。そこでやっと自分達が囲まれている事に気付かれた。
ザッと見渡しても、8人くらいは居るんじゃないか。
こんなの、ナーク1人でどうにかなる訳がない。
「大丈夫。僕だって戦える」
「ダメ。怪我させたら主に悲しまれる。そんなの、許さないしさせる気もない」
「でもっ!!!」
人を庇いながら動くのはやり辛い。そんなの護衛されている僕は一番、分かっているし知っている。
「っ……」
「ぐはっ……」
バタン、と倒れていく相手。
何が起きたのか分からないでいると、音を立てずに隣に立つ人物を見て思わず声を上げた。
「リバイル!!!」
「遅れてすみません。お待たせしました」
ギル兄ぃの護衛をしている筈のリバイル。
彼はニコリと安心させるようにして笑い、隣のナークへと視線を向けた。
「数は?」
「あと6はいる」
「そう。とっとと始めようか」
まるで初めから組んでいたかのように自然と背中合わせに立つ2人。それがカッコよくて目が離せないでいた。
この時、僕以外にも狙われている人が居たなんて思いも知らずに……。
申し訳ありません。
次回更新、11月18日(金)に変更します。




