表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/256

彼の独占欲


 ギルドマスターであるエファネはウィルスに説明をした。

 未だ貰ったブレスレットをガタガタと震えた様子で、落とさないようにとしているからだ。


 南の国は鍛冶職人も多くいるから、自分の身を守れる道具を作るのに自然と覚えていくのだと言う。冒険者ギルドの本部を構えている事もあり、初めて冒険者となる者達に最初に行うレクチャーに含まれる。




「生まれが南の国なら、幼い頃から武器を作れるようにと見たり武器屋が多いですから。でも、誰でも武器をすぐに作れる訳ではないので、次に作れるのがアクセサリー類なんです」

「私達の城の者達は大抵の人であれば、簡単な装飾品は作れるんです。兵も騎士も作れるので、女性に贈る品を自分で作ったりする人も多い」




 へぇ~、と頷くが震える手が止まらない。


 よく見れば顔が青ざめているような感じに、思わずエファネとアーサーはどうしようかとカーラスを見つめた。

 彼は笑顔で「なんでこっちを見るんです」と言わんばかりの雰囲気で、逆にはね返す。




「ウィルス様。異性からの贈り物に抵抗があるのではなくて、レントの逆鱗に触れないか不安なんですよね?」




 優しく問いかけてるのはジークだ。

 ウィルスは首がはち切れんばかりに、首を縦に振る。その様子にジークは小さく溜息を吐く。


 どれだけ独占欲が強いんだ、と。




(そう言えばギルダーツ様にも睨んだと言っていたが……。プレゼントもマズいか)




 あの後もバラカンスとで説得してもレントの機嫌が直る事はなかった。

 ウィルスと過ごすだけで、翌日何事もなかったように執務を始めた時は2人揃って疲れたのを思い出す。




「ウィルス様。では、こう考えたらどうでしょうか」

「えっ」

「異性からのプレゼントではなく、魔道具と言う風にレントに伝えればどうでしょうか」

「……」




 うっ、と息を詰まらせるウィルスにこれもダメなのかと思ってしまう。

 どうしようかと考えていると、カーラスが思い出したかのようにウィルスにとある物を渡して来た。




「わあっ、ありがとう♪」




 喜んで受け取ったのは以前、カーラスが渡そうとしていたハーブティー。記憶が戻る前のアッシュとしては仕事に疲れた時、ゆっくりとしたい時にといつの間にか増やしていたコレクション。


 記憶が戻ってからも、カーラスにとっては癒しアイテムになっている。

 そして、アッシュの時にウィルスにハーブティーをプレゼントしようと考えていたが色々とあって機会がなかった。


 そうして日々を過ごす中、ある出来事が起きた。


 第4王女のルーチェ、第3王子のバーレク。2人の起こした行動だ。

 自由奔放で、一番上のギルダーツ王子に怒られたいのか、構って欲しいのかと色んな行動を起こしては怒られる。

 そんな流れが1日の始まりのごとく、何処かで必ず起こす。


 またかと思うが、その時はそうはいかなかった。

 城から居なくなるのは大体は秘密基地で過ごしているというのがカーラスの考えだが。この2人、考え方が斜め上をいった。ウィルスの呪いが解けたという祝いで、船でプレゼントを贈った時に慌てて止めたのはルベルト王子だった。




「あーーー、もう、ダメだ。間に合わなかった」

「……どうされたのです?」




 普段では見ないような慌てよう。

 カーラスも祝いの品が船に運ばれていくのを見ていた。聞けばその中にルーチェとバーレクが居るのだと言った。


 流石にそれはないだろうと、思ったがカーラスは言えなかった。

 何故だか、出来てしまうと思ってしまう辺りに2人の怖さを思い知った瞬間でもあったからだ。




(流石、いつも自由にしているだけあって考え方が柔軟な方達だ)




 すぐにルベルトがカーラスもリグート国に行けるようにと手配をしている中、彼はマイペースにあの時の約束を果たそうと持ってきた。


 選んだのは自分のお気に入りでもある物。

 日々を忙しくしているウィルスにと選んだものだと告げる。聞いた途端に分かりやすく目を輝かせるので、渡して正解だと自分で自分を褒めたい位だ。




「では姫様。私に考えがあるのですが……」




 隣では未だに見て来る上司。

 内心で仕方ないと思いつつ、カーラスはウィルスにある説明をする。聞いていたジークも頷きながら「それなら平気でしょう」と許しを得られた。


 それを全て聞いたウィルスは嬉しそうに「レントに報告する~♪」と言って、執務室に向かって行った。




「お手間をかけてしまい、申し訳ありませんでした」

「何の事です?」




 ウィルスが出て行った後。ジークはすぐにカーラスにお礼を言った。

 しかしカーラスは何でもないようにしており、アーサーとエファネはほっとしたように安堵していた。




「いえいえ。彼の扱いは思った以上に難しいのは一緒に行動していて分かりましたし、脅しましたし」

「えっ……」




 今の言葉で、しんと部屋が静寂に包まれる。

 上司のアーサーはダラダラと冷や汗をかいているのか、顔が真っ青でありエファネに至っては感情の読み取れない鋭い目で睨んでいた。

 そして、近くで聞いていたジークは戸惑いながらも「……あぁ、貴方が」と納得した様子でいた。




(レントが言っていた怒らせたら怖い人って……カーラスの事か)




 戻って来て早々に苦手意識をしたというレントに不思議そうに聞いていたが、今ので納得でき自分も気を付けなければと決めた。

 そんなジークの反応をカーラスは何処か楽しそうにしているのを、果たして本人は気付いているのかいないのか……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「レント。入ってもいい?」




 仕事中かもと思ったがウィルスはすぐにでも知らせたかった。

 夜に話せば完全にレントのペースに飲まれて、話さなくていい事もつい話ししまう。と、言うよりも話さざる負えない状況に追い込まれる。


 それを実体験で知っている上に、早い段階で伝えておく必要がある。

 そして、望めるのであれば仕事中とか話をゆっくり聞けないような状況であればなおいい。そう、ウィルスは思ったのだ。




「うん。平気だよ」




 顔を出したレントは嬉しそうに顔を綻ばせ、後ろに花が見えるかのような明るさがある。同時に分かってしまった。


 仕事、終わらせているのだと。




「……どうしたの? 中に入らないの」




 絶望的な表情をしているウィルス。

 しかし、そんな様子の彼女をレントは不思議そうに見つめていた。いつまでも中に入らない訳にはいかないと、思い中に入れば部屋に居た人物に思わず瞬きをしてしまう。




「…バーレク、君?」

「お邪魔してます」




 互いに引き攣った顔での挨拶。

 バーレクの場合は、ナークの仕事の速さとリグート国の少し斜め上な行動に驚いての事。ウィルスの場合は、自分の思惑が上手くいかなかった事に対して。


 はぁ、と同時に溜め息をしたのは偶然。


 ナークはそれを黙って見ており、どこか楽しそうに微笑んでいた。レントの方は作業机から、バーレクと向き合う様にして座りウィルスに隣に座るようにと促す。




「お邪魔します……」

「もうちょっと近くで良いでしょ」

「わわっ」




 隙間を開けての距離が気に入らないのかレントはすぐに、自分の元へと引き寄せる。ナークは既に見慣れた光景であるからと思ったが、バーレクの前でやるのかと思わず睨む。


 そんなウィルスの抵抗にレントは小さく笑っている。

 



「ウィルス。それはどうしたの?」

「あっ。これはね……」




 目ざといのかと思っていると、一瞬だけ背筋が凍ったようないつもの悪寒を感じピンと背中が伸びる。すぐに気のせいだと思い、カーラスの言うようにハーブティーを貰ったという事実を伝える。


 そして、ウィルスの右手首に付けられているブレスレットを見てそれもお礼を一部化と聞かれてそうだと伝える。


 ここでアーサーとエファネの名前を出すのはレントに余計な嫉妬を抱かせる可能性がある。だから、カーラスからのだと嘘を言い様子を見ることにした。




「……そう。まぁ、彼はウィルスの事をよく見ているからね。魔力を帯びているから危険な物でないのは分かるし」

「そ、そうなんだ……」




 そこまで見ていたのかとドキリとなるもどうにか誤魔化せた。

 心の中でカーラスにごめんと思いつつ、その場を乗り切ろうとしているとバーレクとナークは図書館に行くと言ってささっ出て行く。




「……」



 妙な居心地の悪さを覚え、ウィルスはすぐにでも出て行こうとした。しかし、そんな行動を見透かすようにレントがしっかりと腕を掴んで離さない。




「レント。あの」

「ねぇ。何でカーラスの名前を呼んだのか……教えてくれる?」

「ひえっ」




 本能でマズいと思った。

 しかしレントの行動は早く、流れるようにしてソファーへと押し倒される。まず彼の目が笑っていない時点で、自分の負けは確定だと思い知らされる。




「あ、あの、レント」

「ウィルス」

「……はい」




 反論は許さないとばかりに名を呼ばれ、素直に「はい」しか言わせない選択。参ったと言ったのはウィルスではなくレントの方だった。


 自分以外のプレゼントを身に付けているのが許せない。のではなく、誰からのだとちゃんと言えばそこまで怒らないのだと言った。




「ホント?」

「嘘言わないから。それで? カーラスからなのは分かるけど、ギルドマスターとアーサー師団長から貰ったの?」

「うん。防御仕様の魔法道具だなんて見えないよね」




 ほっとして貰った経緯を話していく。

 しかし、それを嬉しそうに話すウィルスにレントは知らない内にイライラとしていた。




「やっぱなし」

「へっ? んんっ!!」




 聞き返したその瞬間。

 強引にレントからの口づけを受ける羽目になる。これ以上、話すのを許さないとばかりに迫るレントの目が、嫉妬に染まっているのを見た瞬間でもあった。




「う、嘘つき!!! あうっ」

「聞き分けの無い子はお仕置きだよね」




 耳たぶを噛まれ、激しい口づけをさせられる。

 体に覚えさせるようにすれば、ウィルスが「参った!!!」と言うのは早い。それがレントの狙いであったなど彼女は知る由もない。




次回更新、11日(金)の予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ