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第144話:不思議な子


ールーチェ視点ー


 ふふふっ。

 お姉様と共に居られるようにとお願いし、レント王子には悪いとは思いつつ独占中。

 お姉様が私達の国に来て共に居たけれど、どちらかと言えばお兄様方と居る事が多くカーラスと行動を共にしている時が多かった。嫉妬……かも知れない。

 上が男だらけで、お母様と私は唯一の女性。


 ……姉が欲しい。

 そう思うのは普通だ。むしろ、姉のような存在が欲しかった。それは叶ったのだと思う。今も、お姉様が私とバーレクと楽しく話をしているから余計にそう思う。




「そう言えばお姉様。チョーカーに銀の水晶があるのですね。不思議な色合いですよね。青と、赤、銀色って」

「あぁ。これはね」




 前に見た時には水晶の色は青と赤だけだった筈。

 いつの間に、と思って聞いてみればお姉様もよく分かっていないようだ。いつの間にか水晶が埋め込まれていて、気付いたのは王子とのデートを終えた翌朝。


 じっと観察しながら、お姉様の話を聞く。

 

 刻印で王子と結んだ魔力の色が青。

 憎たらしいあの護衛をしている彼とは赤。


 契約の度にその人物の色なり、特徴が現れる魔力の色がそのままお姉様の水晶のチョーカーへと吸い込まれる仕様。一見して装飾品にも見える物に、魔力を通りやすくする為の道具。流石は一国の王族が持つ品だ。




(お姉様の呪いを抑えるきっかけの物。……はぁ。もっと早く会いたかった)




 悔しいが、これもお姉様が頼れる場所が無くて思いついたのがこのリグート国だ。砂漠の、それも海に面して城が建つ私達の国であるディーデット国。


 魔法の宝庫、魔女達の隠れ場所の1つであり、交流の場も意味している。


 加えて砂漠と言う過酷な環境の所為で、その地に住む魔物達の皮膚は固く中央大陸の魔物と比べると強い。まだ魔法について知らなかったお姉様がもし私達の国に居たら、確実に保護が出来たかは不明だ。


 最悪、魔物に襲われてしまう。いや、確実にか……。

 猫の姿で出来る事は少ない。今、お姉様が居る事に私は心の底から嬉しく思い思わず抱き付いてじゃれる。




「もう、ルーチェちゃんは甘えん坊さんだね」

「はい。お姉様に弱いです~」

「ちゃっかりバーレク君も来てる事に、毎回驚くんだけど……」

「えへっ。バレましたか♪」




 てへっ、と自分の容姿を思う存分使っての笑顔。

 猫かぶりのバーレクめ。

 お姉様の前では非力な弟王子と言う演技を通しているが、彼だって私と同じ王族でありあのお兄様の弟だ。


 そう、あのお兄様の。


 ギルダーツお兄様もルベルトお兄様も、そして私達の父も剣を扱うし武器を手に取る事に躊躇はない。剣、斧、槍、魔法銃。ギルドを運営する中で冒険者達に武具を売るのは武器商人だけど、その商人を管理しているのは私達王族だ。


 自然と荒事には慣れている。

 勿論、私だって剣を使うし自分の身は自分で守るだけの力はあるつもり。

 でも、お姉様はそういった事に慣れていない。……いや、恐らく遠ざけられている。




「姫様。あまりお2人を甘やかさないで下さいね?」

「……カーラス。分かってるんだけど、でも可愛くって」

「何事にもほどほどに、です」

「はーい」





 そう、過保護過ぎるこのカーラスにだ。

 彼はルベルトお兄様が拾って保護をした元バルム国の魔法師団長。魔法について詳しいのは勿論、その技術と魔力はかなり高い。


 この人も絶対にお姉様の前で、いい子ぶってる。




「………」




 軽く睨まれたから思わずギクリとなる。

 彼に王族どうこうは関係ない。彼はお姉様が第1にと保護をし、次にルベルトお兄様を守る為に力を使う人だ。


 ……お姉様の気付かない所で戦闘に慣れているのは、彼の漂う雰囲気を感じ取って分かる。うん。怖いもの。




「主。彼の言う通り、あんまり甘やかさない」

「ナーク君……」




 うっ、と息を詰まらせているお姉様。

 「でも……」とチラチラと私達を見るお姉様は、私から見てもとても愛らしくそして守りたくなる存在。

 ただし、護衛としているナークは邪魔だ。そう思ったら彼は宣戦布告とばかりに「あとで覚えてろ」と目で語っている。




(ふんっ。お姉様は私が独占中だもの)




 べー、と舌を出して挑発する私にナークが無表情になる。

 小さく舌打ちしたから自分が近くに入れられないからと悔しいのだろう。


 ふふふっ、うふふふふ。


 笑いが込み上げるのを必死で我慢する。声に出さない様にしてるけど、肩が震えているからお姉様は「大丈夫?」と気にしてくれる。




「お前も、猫かぶりじゃんか」




 ボソッと。

 バーレクが言った言葉を無視して私はすりすりと、お姉様に甘える。

 仕方ないとばかりに頭を撫でてくれる。何だろうか、この幸せな感じは……。


 フワフワな気持ちになってそのまま寝れそう……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふわぁ……」




 本当に寝てしまった。しかも起きたら朝って……。 




「ふふっ、ルーチェちゃん。あのまま寝るんだもの驚いたよ」




 ああああっ、寄りにもよってお姉様の前でこんな醜態をさらすとは!!!


 くっ。あとでバーレクに状況を聞こう。脅しててもだ。

 ついでナークが私を侮辱するような高笑いが想像できた。

 



「負けてたまるか!!!」

「ふへ!? ど、どうしたの、ルーチェちゃん!?」

「っ……。な、何でもないですよ、お姉様」




 天井に向かって高く手を伸ばして、そう宣言した私にお姉様は驚いている。気分が悪いんじゃないかとか、色々と心配してくれるんだけど……それが恥ずかしいです。


 再び羞恥心で埋まりたい気分になった。


 しょげたりテンションを高くする私を不思議に思うお姉様は一瞬、何かを考えてから共にお風呂に入ろうかと提案してきた。




「はいっ、喜んで!!!!!」




 昨日、入っていないのだと別の意味で恥ずかしい気持ちになったがどうにでもなれだ。現金な私はお姉様と共に過ごせるという日常で既に、顔を緩みまくっていたし自覚もある。


 鼻歌交じりでのお姉様との朝風呂は実に……そう、実に嬉しいものだ。


 自分の顔をこんなにもふにゃりとなるのかと思う位に。迎えに来たバーレクが驚く位に「熱、ないよね」と言われる程に。



 朝食をいただき、お姉様の予定もないからと私はバーレクと共に王都へと出掛けた。もちろん、お姉様も一緒だ。お揃いのピンクのワンピースを着て、フリルは軽くだから目立たない。




「王族である事に変わりないですが、ウィルス正妃も王都に出掛ける時には色を抑えているのです」 




 お姉様付きの侍女からはそう説明を受けた。

 貴族が通う第2王都は第1と違い、華やかではあるが少し静かだ。港町は第2王都に近かったので、活気があると思っていたから驚いた。




「令嬢達の殆どはお店の中で過ごす事が多いから、国民達が多く住んでいる第1王都よりも静かだけどね。でも、こういう静けさ私は好きだよ」




 確かに。

 心を落ち着かせたい時とかには便利だ。活気はあるのは良いのだけど、時には静かな風景も悪くない。


 川を覗いてそう思う。そのまま近くのベンチに座って空を見る。お姉様とバーレクは3人で入れるお店がないかと、少しだけ外れている。すっと立った私にフラッとぶつかる人物がいた。

 咄嗟に支えるも、バランスを崩したために私も一緒に尻もちを付いてしまう。




「ご、めんなさい……」

「いえ。私も前を見てなかったからお互い様よ」

「……お互い、様?」




 キョトンと私を見上げるのは青に近い黒の瞳。

 漆黒に見間違う位に、息を飲むほどに綺麗な色だと思いじっと見つめる。


 すると、顔をみるみる赤く染め上がっていくのが分かる。 

 よく見れば日に当たらない生活をしているのかと思う位に、肌は白くてきめ細かい。髪も日がさしているのに光が吸収される位に、黒くて惹かれるような色合いだ。




「あっ、ごめんなさい。そんなに、じっと見られるとは思わなくて……。家族にも、そこまで見られてないから……」

「そうなの? 綺麗で透き通ってて、私は好きだよ」

「っ……」




 お姉様と同じ位にボンッと顔が赤くなる。


 慌ててフードを深く被り、顔を見られないようにとしている。日に当たらない生活と言うよりは、この人自身が光に当てたがらないのかも知れない。




「あぅ、その……あ、貴方の髪……綺麗ですね。金の髪ってなんだか憧れる」

「あら、ありがとう。褒めてくれるんだ」

「だ、だって……。僕、が好きな、本に出てくるお姫様と同じ色……だから」




 モジモジとして話す言葉に、私はクスクスと笑いお礼を言う。スッと伸ばされた手は髪を触り、すぐにぱあっと明るくなる。




「あぁ、良いな。髪なのに糸みたいな細さですね。……あ、あの、この国の人なんですか?」

「違うわ。私は親戚を訪ねて来たの。今、その人とお出掛け中」

「そ、そうなんですね。……ぼ、僕もここの国の人じゃないんだ。一緒に来た人と別れちゃってて……。じゃなくて、僕がワザと外れたんだ。1人で居たくて」




 はにかんだ笑顔の中に、寂しさを滲ませた不思議だ子。

 話し相手になるならと私が座っていた所を示す。首を傾げた彼はやがて、私の意図に気付いたのか遠慮がちに隣に座った。


 聞けば彼は世界中を回っているのだと言う。

 



「何か依頼を受けているの?」

「冒険者って訳じゃないよ。でも、まぁ……依頼に近い、かな。兄に頼まれたし」

「お兄さんが居るんだ。私もなんだ」

「……そう、なんだ」




 同じ兄と言う共通からかそこから話が弾んだ。

 お姉様とバーレクが来たのはそれから程なくして来て、隣に居る彼と共に楽しい1日を過ごした。



 弱気な感じだけど、何処か強い思いを持った子。

 名前を聞いたらアークと言った。私もルーチェとお互いの名前を聞き、お姉様のとバーレクのも聞いた。


 アークはとても嬉しそうにしていて「また、会えたら良いな」と言って私達と別れた。


 なのに、私はその背中が気になった。

 会えたらいいと言うのに、凄く寂しそうな……何かに飢えているような印象を持った彼に。


ルーチェの1人語りで、何やらエンカウント。

皆ウィルスには弱いって言う話を書きたかった。


次回更新、10月4日に行います。

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