第143話:不機嫌
ーナーク視点ー
今日は主と久々の港町まで出掛けてる。
港町を管理している王族のリラル様と昼食を食べる約束をしたからだ。
「よしっ、出来た♪」
綺麗に詰めたサンドイッチが完成する。
リベリーから料理を教わってから、主はよく行う様になった。魔封じの枷を付けられた主は時間が多くある。
初めて知った事、それらに関しての知識欲は凄いと言うべきか集中力が凄い。
リベリーが教えていくんだけど……。どんどんレパートリーが減っていく。途端に悟ったように「姫さん、悪い……もう教えられない」と白旗をあげた。
そこから主は街へと出掛けて行くようになり、お店の主人とか住民達のお話を聞く。そこから最近の流行りとか料理の知恵みたいなことを色々と聞くようになる。
なんでも、主と王子が婚約者同士でいるのが既に広がっているとか。愛する人の為にと主に知恵を教えていく人達の熱量は凄い。護衛しているのに、すぐに追い出される。
(あれは護衛泣かせだよ……)
思わず懐かしい出来事を思い出した。
リグート国に戻ってからはお菓子も作るようになって、ラウド様に喜ばれた。
ボク、気付かなかったけど甘い物が好きみたいだ。
『じゃなくて、お前は姫さんが作った物なら何でも良いんだろ』
リベリーにはこう言われたから思わず首を傾げた。
お城の人達との交流が増えていくのは主にとって良い事だ。
悲しい事も色々あったけど、やっぱり主には笑顔が似合う。王子はその為に全力を尽くすし、ボクだって同じだ。
なのに。なのに……。
「これは……どういう事、ですか」
「お姉様に早く会いたかったんです!!!」
「驚かせたかったんです!!!」
引き攣った顔をしているのは、ディーデット国の第3師団長のアーサーさん。隣に座っているエファネさんは主の作ったサンドイッチを食べて現実逃避中。
応接間の長いソファーでは主の両隣に妹のルーチェと弟のバーレク様が居る。
あぁ、妹さんも王族だったね。ルーチェ様ね、ルーチェ様。
「なに?」
「別に」
嫌な気配を察知したのか彼女はボクを睨んだ。
でも、主が「どうしたの?」と同じくボクの事を見ると彼女はすぐに「なんでもないです」と笑顔で対応。
……良い度胸だし、ホント性格悪いな。
反対にいたバーレク様が「反抗的な態度だからだろ」とボソッと言ったのを聞き逃さない。流石、友達。
良く分かってるね♪
「追いつきましたよ。ルーチェ様、バーレク様」
「「カーラス!?」」
リラル様に案内されて中に通されたのは、主の護衛を務めていた魔法師団長だ。驚く2人を他所にアーサーさんがほっとした表情になったのを見た。
早く連れ帰って欲しい。ルーチェだけ。
そう思っていたらまた睨まれた。おかしいな、ボクはそんな表情は出さないし出す気もないのに。
剣を多少扱うようだけに、勘が働くのかも知れない。……相性、悪いな。
「もしかしてお兄様に連れ帰す様に言われました?」
「まずはこれを」
そう言ってリラル様に耳打ちをし、少しの間だけ退出する。
すぐに戻って来て「平気」と言ったのには疑問だった。すると長方形の長いテーブルの上にコトン、と水晶玉が置かれた。
転がる筈なのにピタリと止まった状態。
主にと送られて来た通信用の物に似ているなと思った瞬間、静かな声が響く。
「やってくれたな、お前達……」
「「ひっ……!!!」」
ガタガタと体を同時に震わし、真ん中に居る主に抱き着く。
それもそうだろう。そこには半透明だけど、お兄さんのギルダーツ王子が睨んでいたからだ。その後ろではルベルト王子が僕達に手を振っている姿が見られる。
「あっ、それウィルスの手作りかな。良いなぁ~~。私も食べたいな」
「黙れ、ルベルト」
「ごめん……」
ドスの効いた声で黙らせるからマズいと思ったんだろう。
素直に言う事を聞くルベルト王子に苦労するんだろうなと思いつつ、そのまま見守りを続ける。ボクの隣に来たリラル様は「大変だね」と小声で言って来たので頷く事で、そうだと言う意思表示をする。
「エファネには悪い事をしたな」
「いやいや、王子の無茶と比べれば……なんてのは冗談。冗談だよー。私と君の仲だろ?」
無茶……。主と会った時の事を話してるのかな。
無理に笑う所を見ると触れられたくない話題みたいのようだ。
そう思いながら話を聞いていると、ギルダーツ王子は既に諦めの表情をしカーラスさんと、アーサーさんにそれぞれ護衛をするようにと言って主へと向き直る。
「すまない、ウィルス。妹達がかなり、かなーり迷惑を掛ける」
「い、いえ……」
かなり、を強調して言う辺り本人も嫌な事をされたのかなと思っているとボクの視線に気付いたルベルト王子がニコリと笑みを深くした。
……当たり、か。
「だが、通信越しで言うのはマズいとは思うが言わせてくれ。……おめでとう、ウィルス。自由になったとは言えルーチェみたく無茶をしないでくれ」
「ありがとうございます。ギルダーツお兄様」
「酷いです。私がいつ無茶なんて」
「毎回、騎士団の訓練に割り込んできては爪痕を残していく妹の事だが?」
「う……」
「気付かないとでも思ったのか。悪いが報告は来てるんだ」
「……むぅ」
ダメージを受けているのか表情がどんどん暗くなっていく。
心の中でもっとやれ、ガッツポーズをしていると途端に睨みがきつくなった。
「余計な事考えてたでしょ!?」
「うん。ダメ?」
「っ、この……。お姉様、何でこんな人を護衛に選ぶのです!?」
「ルーチェちゃん。こんな人って言うのはダメだよ」
怒りに任せて言った所為で主に怒られてる。
はっ、ざまみろ!!!
「……性格悪くなったんじゃない?」
ルベルト王子のそんな言葉も耳に入らない位に、ボクは良い気分に浸っていた。リラル様が王子2人と何か話している中、ボク達は会話の邪魔にならないようにとサンドイッチを食べていた。
美味しい~~♪
ボクも、今度習っておこうかな?
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ーバーナン視点ー
「じゃあ、1人1人に部屋を用意したからなにか、あったら近衛騎士になんでも言ってね」
「「ありがとうございます!!!」」
リラルからの念話で状況を把握し、お父様にすぐに連絡を入れた。
予想通り、イーザクは頭を抱えているのにこっちは全然、慌ててない。なんなんだろうね、この差は。
「でも、2人共。いくら驚かす為とは言え、あんな方法で来なくても良いのに」
そう言えば揃ってウィルスに会いたいが為に起こした行動だと言う。自分に素直な子達だなと思って見ていると、仕事を終えてこっちに来たレントと目が合う。
「ナークから聞いています。さっきカーラスとも話をして状況を理解しました」
「お疲れ様。クレールも疲れてない?」
「仕事ですから大丈夫です」
「……そう」
レントと共に来たクレールにそう声を掛けるも、彼女はいつものように素っ気ない。もっと、こう……レントとウィルスみたいに2人だけの世界。みたいな事を望みたい。
「………」
そう思っていたら思い切り睨まれた。
お、おかしいな。私達は婚約者同士だよ? なんでそんな顔で見て来るのか。
「兄様?」
「ううん。なんでもない」
ちょっと落ち込んだ私をレントが心配そうに見てくる。
良いよね、そっちは……。あとでウィルスと一緒に居るだろうし。
そう思っていたらレントが意地の悪い顔をしている。すんごいニヤニヤしてるのが余計に腹が立つ。
「拗ねてます?」
分かり切った事を、よくもまぁ……。
無言を貫いている時に、ウィルスはルーチェ王女とバーレク王子とで楽し気に話しているのが見える。こちらの会話に参加していないのをほっとしてると、レントの上着の裾を遠慮がちに引っ張っている。
なんだろうか、あの小動物は……。ちょっとスティングの気持ちが分かる。
ちょっと顔が緩んでいたら、後ろから来ていたバラカンスから「妙な事を考えるな」と脅された。聞けば弟と同じ良からぬことを考えている気配を察知したとか……。
うわぁ……。相変わらず弟に厳しいな、バラカンスは。
「あのね、レント。今日、ルーチェちゃんと泊まりたいんだけど……ダメ?」
「「ぶっ……!!!」」
ピキッと固まるレントに思わず笑ってしまった。
でも声には出していない。バラカンスも同じように肩を震わしているから同じ気持ちだと思う。
一方のウィルスはそんなレントの様子に気付いていない。密かにクレールが溜め息を吐いているから、呆れているのかレントを憐れんでいるのか。まぁ、どっちでも良いけど、この展開は面白いからそのまま見守る。
「どうしても?」
「2人が国に帰るまで。……やっぱりダメ?」
首を傾げながら聞くウィルス。可愛らしい動作にレントは困ったように腕を組んではそのまま考え込んでいる。
「2人が帰ったらレントの所に戻るよ。そしたらまた好きな物作るよ」
「良いよ。ちゃんと私の所に戻って来てね?」
はやっ……!!!
さっきまでショックを受けていた男とは思えない速さだな。
隣に来ていたバラカンスからは「まぁ、ウィルス様のお願いですし」と当然のように言うから、そうれもそうかと納得した。
その後、ウィルスと別れたレントの背中はとても悲しそうにしていた。見るからに構って欲しい空気を出しながらも、それが出来るのはウィルスだけだと思い見なかった事にした。
更新が遅くなり申し訳ありません。活動報告にも書きますが、次回の更新は28日(土)になります。




