第142話:予想不能な2人
ールベルト視点ー
ウィルスから聞かされた内容に、私は良かったねと言いお祝いを送る為にと急いでギルの所へと走った。こんなに全力で走った事がないと思いつつ、それだけ自分が知らない間にウィルスの事を心配していたのだと実感した。
「ギル!!!」
「うおっ……!!!」
勢いよく扉を開け、私にしては珍しいであろう大声で兄を呼ぶ。
そんな私にギルは驚きのあまり、椅子から転げ落ち尻もちをついていた。這い上がって睨まれる。
でも、そんな事は関係ないとばかりにギルに話した。
ウィルスの呪いがネル達によって呪いが解けた事。今も普通に暮らしていて変化がないからと嬉しい報告をしたのを。
「……そうか。元に戻ったんだな」
私以上に感動しているギルは、既に涙を浮かべていた。涙を拭い、今朝がたリグート国からの手紙を読んでいた時に私が飛び込んできたのだ。驚くのも無理はないなと思った。
「これでウィルスにお祝いの品を送れるね♪」
「そうだな」
「3日ごとにお祝いにって色んなものを買った甲斐があるね」
「あぁ」
「だからって3日間入れ替わるのを忠実に守って、お礼の品を買わなくても……。執務室がその品で埋め尽くされて、倉庫に置く事態にもならなくて良かったよね」
「そう、だな……」
マズいとばかりに視線を逸らすギル。
ウィルスが私の言うイタズラを実行してからのギルはおかしかった。あのまま石化して動かない。そう思っていたら、急にその場で倒れるから周りが大慌てだった。
すぐに復活してきて、私の事を睨んでは「お前の仕業か!!!」と怒って来た。
いやーー。あんまりイジメるのも考えものだなと、思いつつあんまり反省はしていない。する気も無いんだけど……。
(過保護ぶりがあれから増したから……原因は、私か)
自分で煽って自分でダメージを受けるんだな、と思いながら積まれた荷を見る。
そこには綺麗に包装された大きさがバラバラな箱がある。呪いが解けた祝いにとギルが選んで買った物の数々。いつ解けるかも分からないのに、あの時からせっせと買っている。
小物、ドレス、イヤリング、指輪などなど。
ギル以外の分だと、私達家族のと、ギルド経由からの資金で周りも様々な物を買っていた。
冒険者達の間でウィルスはすっかり英雄として通っており、愛らしい女神様だとまで聞く。
……レント王子が聞いたら、彼等はどうなる事やら。
聞かなかった事にしようと判断したのは実に早かった。
「なら、品を送る時にアーサーとエファネをリグート国に使いとして行って貰おうか。2人にはお礼を言える機会だし」
「密かにギルも行く?」
「なんでそうなる……」
脅す様な声色でそう聞かれた挙句、睨まれた。
何でもないように笑って、行きたそうにしているよと言うと分かりやすく顔を逸らした。
(あ、拗ねた……)
そのまま何事も無かったかのように、事務処理をしていくギル。
無言の圧力で私にも仕事をしろと訴えてくる。結局、その圧力に負けた私はギルと同じように仕事を開始した。
チラリ、と積み上げられているプレゼントの数々を見る。
このまま膨れ上がるのなら本当に倉庫を用意しておかないといけなかった。そう考えるとウィルスの呪いが解けたのも良いと考え、ふと思った。
(そう言えば、手紙にも書いてあったけどまだ彼には伝えてないんだっけ)
ギルにも言ってない事。
ウィルスがリグート国に帰った翌日から密かに手紙のやり取りをしていた。ナーク君も字を書く練習になるからと参加しているし、リバイルにも何度か書いて貰って魔法で送っている。
いけない事をしている気分で私としては面白いんだけど。
最近のウィルスの行動も、水晶で話すのよりも詳しくだけどね。
お菓子作りをするようになって、隣国の王妃やイーグレット嬢とも仲良くしている事も知っている。
(楽しそうにしているのを知れるのは……本当に嬉しいな)
密かに笑った私にギルが怪訝な顔をしている。
こんなやり取りをしているから気付けなかったし、油断した。
アーサーとエファネに連絡を取りつつ、段取りを決めている時に私達以外でこの話を聞いていたなんて。気付いた時には全部が遅かったんだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーリラル視点ー
「それにしても、凄い量だね……」
運ばれてくる荷を降ろす作業を見ながら、自分の顔が引きつっているのが分からる。隣に居る王城の近衛騎士からはも苦笑しながらも同意してくれた。
「まぁ……相手が相手ですし」
「そうだね。友好条約も結んだし、ディーデット国とは密に連絡も取っているしね」
「……それにしても、凄いですねぇ」
私達2人は遠い目をするのも無理はなかった。
レント達から聞いてた、南の国との友好条約。国王同士で話をし、隣国のアクリア王とも話をした時には色々と大変だったとお父様が言っていたのを思い出す。
お父様が呼び出されたのだって、仲介役と言うよりは3人でいる空気が嫌だと泣きつかれたんだって……お兄様に。
(そう言えばアクリア王も様子が、おかしかったって聞いたな……)
国王同士での話ではピリピリとしているらしい。
主にアクリア王と南の国の国王とが……。その会談が終わって数日の内に、互いの国同士での魔獣対策と、東の国ハーベルト国の対策へと話し合いが続いてた。
そんなある日。
ディーデット国からお礼の品が送られてくるとの連絡を受けた。
何のお礼だろうかと考え、事前に送られてきたリストに別の意味だとすぐに分かった。
(装飾品、ドレスに、部屋着、カバンに……どう考えてもウィルスに対するお礼じゃないか!!)
誰が送ったのかはすぐに分かった。
レントから聞いていたギルダーツ王子とルベルト王子。王族4人兄妹とは仲良くなれたと聞くし、兄2人はウィルスを妹のように接していると聞く。
ちょっと暴走気味だとも聞いたけど……。
ウィルスの事情を知っている私達にも、呪いが解けたと言う報告は聞いている。妹のように接して来たと言う2人の王子なら、お祝いの為にとこれだけの物を送る可能性はある。
ただ、その量が多すぎるんだけどね。
念の為にと荷物点検を進めている中で、警備の者達から「これは……」と戸惑いの声を上げているのを聞いた。
「どうしたの?」
「あ、リラル様……そのぉ……」
皆して凄く言いづらそうにしている。
彼等が見ているのは大きな箱。それを囲うようにして見ているのだから、何か王城に持って行けない物かと思い中を覗いて頭痛を覚えた。
「リ、リラル様!?」
フラッと倒れかけるのを何とか踏みとどまると、慌てた様な声が周りから聞こえてくる。それもそうだろう……。
箱の中に2人の少年少女が入っていると予想が出来るのか。
(あれ……)
1人は金髪の少女、もう1人は薄い紫色の髪の少年。
2人共、気持ち良さそうに寝ているのが不思議だ。船で揺られて来たのだから窮屈だと思うのだが……。
すると、少女の方が「んん」と目をこすりながら起きて来る。
「……ここは?」
「気分は悪くない? ここはリグート国の港町なんだけど」
「っ。バーレク、起きて!!! 起きて!!!」
少年の方を起こそうと体を揺らして大声を上げる。
身なりが綺麗な上、着ているドレスも高い物だと分かる。王族に属する人だとしても何でここに入るのか……。
これでは内緒で来ているような感じに受け取れ、起こされた側の少年は驚いて飛び上がる。
「うわわっ。ちょっ、ルーチェ、揺れる、揺れるからっ」
「うきゃ……」
勢いよく暴れたからか箱ごと倒れていく。
幸いにも中に入っていたのはドレスとかの衣類だから、傷がつくことはあんまりない……だろうと思う。
「あれ……ルーチェちゃんに、バーレク君?」
「「お姉様!!!」」
そこにウィルスとナーク君が近寄って来た。
今日はレントが絶賛するサンドイッチを持って来て貰う約束をしていた。時々、王城に行く事が増えたから自然と接する機会も多くなる。レントにウィルスとの仲を聞く流れで必ず言って来るんだ。
サンドイッチだけでなく、焼き菓子など色々とね。
同時に私の中で確定した。
この2人、ウィルスの知り合いと言うよりも話に聞いていた王族なのではと。
ナーク君が良い笑顔で、ルーチェと呼ばれた少女と睨み合いをしている。向こうで何かがあったとみて良い。
「相変わらずお姉様にくっついているんですね」
「そんな当たり前な事聞かないでよ」
「「ふんっ!!!」」
うん。すっごく仲が悪い……。
ウィルスを挟んでの喧嘩。バーレクと呼ばれていた少年は、いつの間にか彼女が持っていた大きなバケットを代わりに持っている。
楽しみにしていたのに何故だか、胃が痛くなった瞬間でもあった。




