第140話:彼女のプラン
ーウィルス視点ー
き、昨日っ……。やっ、やっと!!! レントに想いを言えた。ずっと言えなくて、やっと言えた。
レントだけの、妃でいたいって……。
エリンスと初めて会った時の披露宴とは違う。あの時は、私を守る為の処置と言う意味で私から言った事だし、身を守るのにナーク君にはずっと傍に居て貰っていた。
ナーク君には言われてた。
レントから伝わる好きを、ちゃんと伝えないのかって。
伝えたい気持ちはあった。でも、カルラと代わる呪いを解かないといけないからという目的もあった。じゃあ、その呪いが無事に解けたら私は傍にいても良いのってふと思ってしまった。
レントの事だから居て良いよ、って言ってくれる。
いつも貰ってばかりだから何かお礼をしたいし、ちゃんと伝えたいんだ。
イヤリングと婚約指輪を貰ってても、私からハッキリとしたものはあげられていない。形に残る何か……。ずっと考えても思い浮かばないし、バーナン様達にもお礼をしたい。
だから……。
レントには内緒でネルちゃん達の居る薬屋で働いた。私が考えた薬が噂になってお客さんが入る様になって、大ババ様から「贈り物を考えているだろう?」と言われてはっとした。
つい、お店の方も楽しいからと夢中になってしまい呆れられた。
本来の目的を忘れているし、ね……。ナーク君と一緒に反省しつつ、贈り物を考える。形に残せる物は高価なものだし、私が貰ったイヤリングや指輪は薬屋で稼ぐには相当の時間が必要だとも聞いた。
『とてもじゃないが、半年以上費やしても無理だよ』
そう言われてしまえば次はと考えて、ネルちゃんがリーガルさんお手製のプリンを食べているのが目に入った。……作れば、良いのかなって。
そこからリーガルさんにお願いしようと厨房に突入し、ダメだと言われて丁寧に出される日々が続く。
どうにか方法は無いかと考える。
代わりになるか分からないけれど、ギルダーツお兄様とで料理長同士で話をさせて欲しいなとお願いをしていたのを思い出す。向こうでの料理が美味しかったし、料理長が南の国の食材を珍しがって厨房から居なくなっているのを聞いてた。
『ぜひ、話しを進めてくれ!!! 料理長が居なくなるとこっちが困るんだよ』
話して見ればリーガルさんからの強い要望で、お兄様と話せる水晶でレントに秘密裏に話を進めていく。
それが南の国の見習いさん達とリグート国との見習いさんを交換して、互いの感性を刺激し合うと言う形に納まった。追加とばかりに、特産品が送られれば料理長は喜び、リーガルさんは別の意味で大いに喜んだ。
そこから料理長の頼みで厨房に入る許可と、リーガルさんからお菓子作りを教わる事になった。
徐々にではあるが、作れる種類も増えつつ厨房の人達との交流を忘れずに進めていく。その間に、儀式に関しての本をミリアさんとで調べたりと色々と忙しい日々を送った。
「おーし、お前等!!! 気合いいれろ!!!!」
「「「おおーーーーー!!!」」」
何故だか私よりも気合の入り様……。
ギース様、ラウド様に婚約者として諸外国に知らせると言う報告をした。今までは呪いがあるから、その隙を狙われる可能性があった。ナーク君が警戒してても、猫になっている私は簡単に攫われる。
珍しい体質だからと、何処かに売り飛ばされるだろうから、と。
呪いが完全に解けた今。行動を起こすのも早く、レントからの「妃になって欲しい」と言う言葉に応えて私も同じ気持ちだと伝えた。
今、思うと……カルラと居た時はまだ冷静に思えてたんだと思う。
けど、急に1人になった時にレントから向けられる笑顔や甘い言葉が自分には凄い毒になるのだと自覚した。
(うぅ。また思い出して、顔が赤くなる……)
「暑いですか?」
「い、いえっ。大丈夫です」
南の国から来た人達とも、あれから話すのに時間は掛かったけどそれなりに話せるようにはなった。心配してくれてるけど、思い出して顔が赤くなったなど恥ずかし過ぎで言えない。
……多分、レントにはバレてるんだろうけどさ。
顔が赤くなりやすいからとお母様には気を付けるように言われていたのに……。レントの言葉は私の心臓が保たないんのでは、と考えて逃げていた。
すぐに捕まったんだけど。
しかもレントにはそれが全部バレているんだから、と観念した。
「姫様。昨日、考えられる限りの案を出したんですよ。なので――」
「クッキー!!!」
「マフィン!!!」
「フィナンシェ!!!」
「お前等の好みを言ってどうする!!!!!」
パン、パン、パン。とリーガルさんが意見を出してくれた人達を叩いていく。それが面白くて笑っていると、料理長がその様子を見ながらこそっと私に言ってくれた。
「姫様。料理は味付けも大事ですし、見た目も大事ですが……愛情が一番の味付けになります」
「あ、愛情……ですか」
「誰かを想いながら料理を作る。料理とはそれらが大事です。姫様がレント王子を想いながら作るだけでも、最高の物になりますよ」
「……」
料理長の言葉に心が染みる。
リーガルさん達も、私達の事を想って作ってるんだものね。そう思ったら何だかやる気が出て来た。
本来なら恥ずかしい事だけど、そこからお菓子の種類やどんな感じに飾るかなど色々と意見を出し合った。お礼にとリーガルさんから褒められたプリンを配ると……泣きながら食べてくれた。
「姫様からって言うのが嬉しんで気にしないでくれ」
「は、はぁ……。これからも作りますよ?」
「……すまん。そうしてくれると、アイツ等も喜ぶから」
「はい。私も勉強になりますから」
こそっと教えてくれるリーガルさんに、思わずクスッと笑った。
ミリアさんは怖がらせていないかと心配していたが、話してみて良い人なのは分かるし料理に情熱を持っている上に向上心が高い。
言葉も悪いかもだけど、そう言ったのも含めてリーガルさんなのだと思う。
翌朝、ナーク君と3人で寝ていたから凄くすっきりした気分だ。
ファーナムに手伝って貰いつつ、朝食を……い、いつものように食べさせ合いをし、別室で整えていく。
「今日は動きやすい服を選びながらで、髪を簡単に結いましょう。そうそう。王子から貰ったバレッタは必ず身に付けておきます。……いっそ、王子から貰ったもので固めますか」
「お、お願いします……」
ファーナムの気合がいつもよりも数倍ある。
公式の時みたいな気合の入れようで、ちょっと困りながらも準備を進めていく。
「ふぅ……。これでよしっと。楽しんできて下さいね♪」
「「お話、楽しみにしています!!!」」
一部、聞かなかった事にしつつ部屋を出る。と、リラル様が待っていた様子。思わず駆けだしそうになって「大丈夫」と言い傍まで来てくださった。
「あ、の……今日は」
「ん? レントが浮かれているのが分かるからね。先に見ておこうと思って」
「怒られるんですけど……」
「それは分かってるよ。見越してやってるんだから」
思わずむっと睨み返すも、リラル様は気にしない感じで進んでいく。王都に繋がる門ではなく、正反対の方へと向かうのは王城の敷地内だからだ。
すれ違う人達は「楽しんで下さいね」と言われ、思わず赤くなる。その様子を見ていたリラル様は、楽しそうにしているのからもっと気まずくなる。
「あっ、それなら知らないね。悪いけど、デートするの何でか伝わってるんだよね。誰が言ったんだろ?」
「えっ!?」
そんな初耳な情報、言います!?
驚いている内にレントの姿が見え、リラル様を見た途端に睨み付けていた。ざっと私から引き剥がしては、腰を引き寄せられて固定される。
「ちょっ」
「リラルの仕業?」
「まさか。レントが昨日、浮かれているのはこっちまで届いてるんだ。……逆に聞くけど、普段と違う事でもしたの?」
普段と、違う事……。
ふと思ったのは昨日の自分の言葉。
あっ、と思い出して頭を抱えた。そうだ。場所とか時間とか考えずにやってしまった。
レントの姿が見えたから、ついその場で言っていたんだ。デートをしたい、と……。
「見覚えがあるんだね。しかもウィルスの方なんだ……。へぇ」
ギクリ、と体が自然と震えレントの後ろに隠れる。
意地悪そうに私達を見ているリラル様は実に楽しそうにしている。レントが「イジメないで下さい」と言って喜んだのに、すぐに自分だけの特権だと言ったのが酷い。
もうっ!!!
レントもリラル様も私の事、なんだと思ってるんですか!!!
「ん? 可愛い小動物」
「私の愛する人♪」
……。
2人からの攻撃に私が打ちのめされた。リラル様から逃げるようにして、レントと走り出す。それすらも楽しそうにしているから、全部リラル様の所為で調子が狂うんだ。
「しょげないでよ、ウィルス。大丈夫。これから楽しもう?」
むくれた私をレントが慰める。
微妙にレントからの言葉にもショックを受けているんだけど、知ってるんだよね。知っててそんな事を言うなんて……。でも、レントに惚れているのは事実だし妃にもなると言ったのだ。
彼の言葉1つ1つが調子を狂わせる。
嬉しいし、もっと楽しみたいと思うのは……普通の事、だよね?




