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第137話:大事に思う(ウィルス、レント篇)


ーバーナン視点ー



 私達の治めている国のリグート国と、隣国のディルランド国。その2つの国のちょうど真ん中位にウィルス達が内緒で行った儀式とやらの大森林はある。大体真ん中に位置するこの森林は、古くから魔力が多く集まりやすい特殊な場所。


 リグート国寄りに広がっており、密かな散歩コースとしてもまた商人達が通る道。自然と私達が整備するようになっていったのは空気の流れとも言うべきか、精霊に感謝している祈りを捧げているからなのかも……と思っておく。


 この世界には不思議な現象を巻き起こす存在がいる。


 目に見えないその存在は、私達が扱う魔法の源と言われている魔力を生み出している精霊。レントがあの大森林の中で出会った聖獣と呼ばれる存在とも被る。


 精霊と聖獣。

 レーナスの見解ではその他大勢か、個人の違いなのではという事。




『探せば精霊士がいるかも知れないが……希少な存在な上に、昔と比べてその数は少なくなっていると聞く。探し当てるのは無理だな』




 レーナスはその精霊について調べようと、南の国に行っていた。リグート国以上に魔法に詳しい国だからだと。……でも、それで長い間その席を空けられても困ると言うのものだ。

 そう言ったら『気を付ける』の一言だ。


 絶対に反省をしていないとすぐに分かった。ラーファルが信じていない目をしていたし、スティングは『嘘ですね』とキッパリ言い切ったのだ。




『今は研究対象が近くに居るから、そんな簡単には居なくならない』 

『レントの前では止めてよね、その話』




 彼の言う研究対象なんて1人しか居ない。婚約者のウィルスだ。

 ディーデット国の第3魔法師団の団長のアーサー。彼が調べた限りだと、白銀の魔法はこの世で1人だけらしい。その1人にウィルスが選ばれているのだから、運が良いのか悪いのか……。

 現にスティングから『次に言ったら容赦しないですから』と殺気を向けられている。お気に入りの子を傷付けられると思ったのだろう。


 ……私も嫌だな。と、密かに目配りをすればレーナスは参ったように白旗を上げて来た。




『それで? 私達は一緒に行ってウィルス様達をここに転送すれば良いんだな』




 念の為の確認をしていた彼に私は無言で頷く。

 

 ウィルスには悪いんだけど、レントには全て筒抜け状態の内緒の行動。レントの為に自分で貯めたお金でお礼をと、色々と考えていたり厨房に出向いたり。図書館で様々な本を読んではミリアとも何やら楽しそうに話している。


 健気なその行動を私はリベリー経由で知っているし、従兄弟のリラルからそう報告を受けている。彼はスティング経由から聞いたというのだから、ウィルスはもっと理解して良いと思う。


 レントの婚約者以上の知名度を持っている、と。


 レーナスとラーファルの2人掛かりで、私達は全員大広間に転送されて来た。魔法関連の研究をしている塔とは別に訓練場と合わせて大きく場所をとった仕事場所。

 大広間を選んだのは大人数で入っても余裕あるし、大事な話をするのによく使っている。リベリーが防音対策もされているから、誰かに聞かれることは無いという話だ。




「レント。君も止めなかったんだから怒らないの。怒るなら最初から気付いた時点で言いなよ」




 むすっとした弟の様子をどうにか宥める。

 相談しなかった事にショックを受け、日々レントの為に内緒で行動をしているウィルスの行動を止めなかった。本人は気付かれていない設定で、次から次へと行動を起こすのだ。


 あの大森林で呪いを解こうと何やら儀式をした。

 スティングとジークから何か調べている様子なのは聞いていたし、それが儀式関連や師団の人達が読む様な難しい書物を中心に積まれていたのだ。

 実際にジークの同僚が不思議そうにしているのを聞いているし、スティングの方も同じ事を言っていた。

 まぁ……バレるべくしてバレた、と言えば良いんだろうね。




「ウィルス。そろそろこっちに寄らない?」




 クレールの後ろで隠れているウィルスとナーク。そして、魔女見習と報告を受けているネルがくっついてた。

 それが可愛いんだけどね。……顔が緩みそうになるのを、ジークに気付かれてさっきから小突かれる。




《レントにバレたら叩かれるよ》

《はーい》




 ワザワザ念話で知らせて来る徹底ぶり。

 幼い頃からの親友であり、私達の保護者かと思う位に優しい。……言ったら睨まれるから言わないんだけど。




「話しの規模がデカすぎて理解が追い付かない……」




 そううな垂れるのはリーガル副料理長。

 そうれもそうだろう。彼も妻であり魔女のミリアの様子のおかしい事から後をつけて、この現状を知ったのだ。ミリアと視線を合わせづらい上に、ラーファルから簡単にはだけど説明をされた。


 ウィルスが飼い猫のカルラと3日間代わる生活をしていた事。

 その呪いを施したのがミリアである事。

 新たに魔女の力を上乗せしたのがネルである事。




「……」




 今もカルラとウィルスとを交互に見ていた。

 ちょっと気になったけど、ラーファルが出してきた焼き菓子をパクリと1口食べて気を紛らわす。


 本当なら呪いが解けた事を喜びたいんだけど……。ウィルスはもう怯え切っててそれどころじゃない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーレント視点ー



 クレールを盾にし、怯えた様子のウィルスに私は視線を合わせづらい。

 怒ってないけど、せめて儀式の事は言って欲しかった。呪いを自力で解くとは思わなくて……悔しかった気持ちの方が勝っている。


 本当なら私が解きたかった。でも、やっぱり専門家、もしくは呪いを掛けた本人での方が詳しいのは仕方ない。5年で得られる情報は少なすぎた。


 


「ミャア、ミャア~」




 今も私に攻撃をしてくるカルラ。それにつられて行動を起こそうとする子猫をジークとバラカンスに押し付けて相手をして貰っている。ビーはリベリーに押し付けて大人しくさせた。


 クレールがウィルスに何度も、話をさせようと行動を起こしてくれている。が、その度に後ろに回られて上手く行かない。追いかけっこのような一連の流れにスティングは「可愛い……」とうな垂れる。


 その様子にドン引きしている同じ魔女の仲間であるニーグレスとレインは、大ババ様の後ろに隠れると言う色んな状況が動いている形になった。




「姫猫ちゃん。レントには全部バレてるから、ショック受けなくても良いんだよ」

「!?」




 肩を震わして驚くウィルスに、ナークはさっと顔を逸らした。まぁ、私がおかしいと思ったのだって、2人で寝てた時に落としたノートが原因だもの。中身は見てないけど、そこからウィルスの行動を見るようにはしていた。


 そうしていたら、私とウィルスの親衛隊として名乗った女官がウィルスの行動を報告して来たんだ。厨房に居る時と図書館に居る時がある、と。

 執務室に向かう手前で聞いたし、彼女が城の中で自由にしているのは良いかとなんとなく聞いてた。




(まぁ、その後から詳細に聞かされるとは思わなかったんだけど)




 誰かの目があるなら安心かと思って、彼女達にそれとなく様子を見て欲しいと言えば「喜んで!!!」と元気よく返事をしてくれた。しかも、見回り兵から近衛騎士まで、果てまで料理長から話を聞くからウィルスの行動は筒抜けな感じだ。


 彼女にこの事を話す気はないんだけどね。言ったら恥ずかしがって部屋から出ないと言うにきまっている。ナークを使って、見られないように脱出される方が困る。

 その困る方に報告が来た時は正直に言って……ヒヤッとさせられた。




「うっ。じゃ、じゃあ……」

「内緒で王都に出掛けていたのも、ネルちゃん達の所で働いているのも皆知ってるよ」

「……」




 そこまで知られているとは思わなかったのだろう。

 力が抜けてペタンと座り込むウィルスに、私は近寄ると恐る恐る顔を上げて来る。

 私はしゃがみ込んで「悔しかっただけだよ」と、髪をすくってそのまま触る。拒否をされなかったから、次に移動しても良いかと優しく頬に触れる。


 途端に目を閉じて大人しくなるウィルスに、カルラも危険とみなさなかったのか子猫とビーを呼んでさっと大広間から出て行った。




「ネル、ミリア。呪いを解いてくれてありがとう。私達では解決出来なかった問題だ。こうして交流できる事に感謝する」

「い、いえ……私はあんまり役に立っていないです」

「……ひ、姫様の役に立てたなら……良いです」




 ミリアはすぐに答えてくれたけど、ネルの方は恐怖心が勝ってあんまり素直じゃない。今度、じっくりと話し合う必要があるかな。彼女の仲間も一緒にだけど、ね。




「「っ……!!!」」

「何で隠れる」

「つ、つい……」

「なんか、寒気した……」




 2人を怖がらせたようだ。大ババ様が気のせいだと言ってくれているけど、気を付けないと……。

 

 父様には今後、彼女達の扱いについて話をしておく必要がある。その為にはギルダーツ王子達と密に連絡して置こう。でも、まずはと愛しの彼女に伝えないといけないことがある。




「良かったね、ウィルス。これで正真正銘、自由の身になったよ。これで好きなだけカルラの事を愛でれるし、いつでも一緒だよ」

「っ……」




 その事実を、意味を分かった途端にウィルスは顔を真っ赤にしてオロオロとし始めた。ナークを盾にして逃げる辺り、理由は恥ずかしいからと言うのが分かる。

 いつも一緒に居るのに。いつまでも恥ずかしがる婚約者に、私はつい何でも許してしまうのだ。こうして彼女の行動を縛りたいと言う割には、一切その行動に制限をかけない。我ながら、矛盾している自覚はあるよ。 

    

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