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第136話:解ける時


ーウィルス視点ー



 私がネルちゃんとミリアさんの儀式に飛ばされてすぐの事。泣きながらも抱き合うネルちゃんの姿を見て、結果がどうなったのかなんて分かった。


 成功した。


 直感でそう思い、拍手を送りたい気持ちでいた。そう思っていたら、自分の足元に光が流れ込んできてそのままガラスが割れた様な音が響き全てが崩れる。




(っ、これは……)




 元の場所へ戻ろうとしている。そうだと分かったのだが、心臓に悪いなと思いながら光に包まれて行った。瞼が何だか重くて、目を開けるのが難しかった。



「……じ!!! あ……る……!!!」




 誰かの、声。凄く心配した、切羽詰まった感じの声に起きないといけないと思うのになかなか実行出来ない。体が重くて、意識が重いからなのか言う事を聞いてくれない。




「……がい。起きて……主!!!」




 ようやく目を開ける事が出来た時、目の前にはナーク君が心配そうな顔。既に泣きそうなのが、とても申し訳なく思う。泣かせてしまったのは自分だと思い、大丈夫って言いたいのに口が重い。

 だからナーク君の頬を優しく撫でる。心配させてごめんって、平気だよって伝えたいのに伝えられない。




「急に倒れるから。心配で……ボク……」



  

 大ババ様から聞くと、私が強く魔力を込めた時に異変を察知したナーク君が来たと言う。今まで一定に魔力を注いでいたのに、急に力のバランスが変わったから心配で来た時に……私がその場に倒れたのを目撃した。


 魔方陣が銀色に輝き、大ババ様もその異変に気付いた。

 でもそれはほんの一瞬の事だったみたいで、光が収まったらミリアさんとネルちゃんが戻って来た事。私が倒れたまま目を開けないから、ナーク君はそれですごく焦った。


 魔力の使い過ぎで目を覚まさないだけだと言う彼女達に、ナーク君はじっとしていられずに声を掛け続けていた。ようやく私がその声に応えられる時には、泣きそうになっていたんだって。そう聞いて、ナーク君に「ごめんね」と言うと首を横に振って違うと言った。


 凄い勢いだったらしく、ネルちゃんが止めた位に。それでも止めないから、今はネルちゃんに首を固定されてしまっている状態だけど。




「平気だって言われても心配なものは心配。ちゃんと目を覚まして、声を掛けてくれないと不安だよ……」

「うん。ありがとう」




 ここで謝ると言う選択は無かった。謝り過ぎるのも申し訳ないし、感謝をしてお礼を言うべき所かなって……。そうしたらネルちゃんが呆れた様にその辺にして欲しい、とナーク君と私を引き剥がす。




「いっつもお城でベタベタしてるんだから、この時くらいは離れろ」

「嫌だ!!!」

「何でそうなるの!? 護衛なんだからずっと居るのは当たり前でしょう。姫様だって気疲れしちゃう」

「そ、そうなの!?」




 ショックを受けた様に私を見るナーク君。

 違うと言おうとするのをネルちゃんが「そうだよ!!!」と被せて来た。えっ、と思っているとニーグレス君とレイン君がナーク君の事を取り押さえる。


 すぐにぱっと抜け出して、私の後ろにピタリとくっつく。ネルちゃんから「離れろ」と言われても無視している。




「主が違うって言うから良いの!!!」

「言ってない!!!」

「念話で聞いたよ」

「ずっる!!!!!」




 そんな方法で聞くなと怒るネルちゃんに腕を引っ張られ、逆側ではナーク君が譲らないとばかりに腕を掴まれる。大ババ様に怒られて手を離す2人に、ミリアさんが「本当に変わった」としみじみと言っているのを聞いた。 

  



「ネル。そんな所でシュンとしてないで、早く姫様の事を治しなさい」

「っ……うん!!!」




 ちょっとだけ不安げな表情だったけれど、意を決してネルちゃんは私と向き合った。私はどうすれば良いのかとミリアさんを見ていると、そのままじっとしていて欲しいのだと言った。




「……ふぅ……すー、はー」




 深呼吸するネルちゃんを見守るのは大ババ様達だ。ネルちゃんが私に向けて手をかざす。手のひらに集まる魔力を感じ、身を構える。あの時の、炎の中で実行された魔法。


 それを瞬時に思い出して、逃げだしたくなった。

 周りは誰も頼れる人が居なくて、お父様とお母様も炎に包まれていたあの光景。それを「大丈夫」と言って抱きしめてくれたのはミリアさんだ。




「怖い思いをさせて、ごめんなさい……。今まで辛いをさせて……ごめんなさい」

「ミリア姉さんの事を責めないでくれてありがとうと言うのは変かも知れない。……でも、言わせて欲しいんだ。姫様を助ける為だったのに、結果として辛い道のりになってしまった事を」

「ネルちゃん……」




 そうしている内に足元に魔方陣が浮かび、ネルちゃんから放たれた魔力が私の周りを漂う。その流れが私の中に澄み渡る様にして広がっていくのを感じ、安心しても良いのだと思い目を瞑る。

 力を抜いたのを確認したネルちゃんは「行きます」と私に一声を掛けて魔法が発動した。




「っ……」




 最初に来たのは痛みだった。電撃が自分を襲っているのを思うとどうしても、呪いを掛けられた痛みと被る。あの時は何が起きたのか分からなくて、単純に気絶させれたのだと思った。


 最初に来た衝撃がまた自分に襲っている。


 でも、不思議と不安はなかった。だって、ネルちゃんが必死で手にした力。ミリアさんも方法が無かったとはいえ、助ける為に苦渋の選択をした結果の力。そのどちらにも大事に思いやる気持ちが含んでいる。




(大丈夫……大丈夫……!!!)




 信じていればいい。身をゆだねて流れに任せる。

 時間は数秒だったかも知れない。長かったのかも知れない。ギュと強く目を閉じる私に呼びかけて来たのは――。




「ミャア~~!!!」




 親友のカルラの鳴き声だ。

 いつもと違うのは心の中で聞く声じゃないって事。恐る恐る目を開けると、そこには毛づくろいをしてのんびりと待つ白い毛並みの、赤い瞳の猫の姿だ。




「あっ……ああっ、カルラ? カルラ、だよね?」

「フミャ!!!」




 ぴょん、と肩まで飛び乗ったかと思ったらプ二プ二と頬を押される。本物だと言わんばかりの自信たっぷりな親友。ずっと傍に居て、見守っていてくれた大事な飼い猫。




「う、うっ、うぅ……」

「成功!!! 成功したよ、姫様!!!」

「よかっ……主!!!」




 同じように泣きながら喜ぶネルちゃんの声。次にナーク君が嬉しさのあまりネルちゃんごと巻き込んで、抱き付いてくる。次いでニーグレス君とレインも安堵した様子で見守り、ミリアさんも大ババ様も笑顔だ。




「う、うん。ありがとう、ネルちゃん」




 カルラがネルちゃんの肩に乗って、見守っている。そう言えば最初に会った時も相当気に入っていたから、これからは仲良く出来るだろう。そんな確信を持っていた時に――




「呪いが解けたようで良かったよ。ウィルス」




 一気に場が凍った。

 ピタリとさっきまで喜んでいた私達は、その声を聞いてすぐに青ざめた。


 いや、何故? 誰にも見られないで、来た筈……。


 ナーク君を見ると、彼も何でなのかと混乱していた。でも、すぐに思い立ったのか「裏切者!!!」と後ろから来ていたリベリーさんに向けて怒鳴った。




「いや、違うし。弟君がヤバ過ぎなんだってば」

「リベリー?」

「あ、いやなんでもない。何でもないっす」




 否定しながらも私達に向けて「悪い」と合掌したリベリーさん。それを見て何故だか、私達3人ガタガタと体が震えた。戻れたことを喜んでいるんじゃなくて、これからどうなるのだろうかという恐怖からの震えだ。


 現にカルラはレントの事を威嚇している。

 小さい時に会った場面を思い出していると、シュタッとお城で飼っているビーや子猫達までレントを威嚇し始めた。




(あの子達まで付いてきたの!?)




 私だけでなくレントも驚いていた様子。でも子猫はクレールさんが、ビーはバラカンスさんに回収されて行った。その間にも威嚇するようにずっと鳴いては睨んでいる。

 スティングさんとジークさんからは頑張ってと言われてしまうし……。何より驚いたのは、大荷物を背負っているリーガルさんだ。


 ミリアさんの事をつけて、見えなくなった所をレント達にここまで案内されたのだと言えば私達と同じように顔を青くままリーガルさんを見つめている。

 私と同じだ。隠し事がバレてしまったのだから……。そんな説明をバーナン様から聞いてけど、頭の中がもうぐちゃぐちゃだ。




「レント。脅すなんて酷いことしないの。姫猫ちゃん、怖がってるし」

「とにかく全員を移動すれば良いだろう。場所は……師団の大広間で構わないな」




 ラーファルさんにレーナスさんの声が聞こえるが、私はちゃんと聞いていたかは分からない。こちらに歩いてくるレントが怖くて怖くてしょうがない。怒られるのを覚悟したのと、場所が移動したのは同時だった。



 レーナスさんの言う大広間に、私達は全員移動させられたのだから。

 

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