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第133話:条件


ージーク視点ー



 最近、ウィルス様の様子がおかしい。

 レントは変わらず執務のスピードが速いから待てをしている状態。


 今はウィルス様が作ったサンドイッチを食べて、物凄く幸せそうな顔をしている。既に緩み切った表情なのに、それ以上にもっとだらしがない表情だ。


 密かにため息を吐き、今までのレントと比べれば良い傾向なのだと思いながらとスティングに念話で状況を聞いた。




≪おっ、どうした?≫

≪ウィルス様の方はどうなんだ≫

≪変わらずミリアさんと話してるね。でも、読んでいる本の系統が儀式関連の物ばかり≫




 儀式関連、か。

 私はレントの護衛も務めているからそう簡単には離れられない。

 本当なら嫌だけど、スティングにそれとなくウィルス様の様子を知らせるように伝えれば「何があった?」とゾクリとするような笑みで聞いて来た。


 まだ詳細すら話していないのに、スティングの鋭さが怖い。

 考える仕草をして思い出したかのように伝えて来た。


 ここ最近、ウィルス様は王都に出掛けているのだと。

 護衛はナーク君だから彼を連れているのは良い。問題は誰にも見付かる事なくひっそりと城を抜け出している事。




『俺も尾行したけど、隠れるのが上手すぎて途中で断念した』




 それから宰相の諜報機関を使ってナーク君とウィルス様の事をそれとなく調べて貰った。兄のバラカンスが毒で死にかけたのをきっかけに、宰相は自分達の息子にも調べられる部下を配置した。


 個人で持つ様にして、周辺を注意しろと言う事。

 だが、バラカンスは人を信じる事を捨てたくないからと自分に配置された部下は使わない。使う時は大事にしている者が危ない時だけの緊急用。


 その分、弟のスティングはガンガン使う。

 聞けば弱みを握っておいて損はない。寝首を掛かれるのは勘弁だからだと言った。

 それもある意味、兄が毒で倒れたのを知っての事。

 バーナンが変わるきっかけは、少なからずスティングも影響を及ぼしている。




≪秘密裏に抜け出してるけど、夕方になる前には戻って来ているんだって。見張っていたのに、戻って来た瞬間を誰も見ていないんだから怖いんだけど≫




 暗殺者としての技能をいかんなく発揮しているナーク君。

 リベリーに頼もうとすれば、彼の性格上まずい。彼の主であるバーナンにも伝わる。

 私の気のせいでバーナンにまで迷惑はかけられない。暫くはスティングの協力の元、調べるだけ調べる。




≪あっ、別れた。同僚に頼んで後を付けさせてみる。こっちも仕事の合間で見張ってるから≫

≪無理を言って悪い。バラカンスとも交代で見ているから≫

≪ウィルス様の事で苦労はしないよ。癒しパワー貰ってるんだし♪≫

≪……そう、だったね≫

≪何で間を置くのさ。んじゃ、またね~~≫




 もう1度ため息を吐いた。

 スティングの可愛い物好きにさらに拍車をかけている。それはウィルス様と会ってからだ。

 亡国のお姫様、第2王子の庇護対象、諸外国が求める程の美貌の持ち主。


 色んな言い方をされるが成る程とも思った。

 白い肌はきめ細かい。日に当たらない生活を送っているのだと思ったら、猫達と遊ぶから結構な頻度で外に居ると聞いた。

 

 なんでも護衛のカーラスという人物が。常に魔法で日に焼けないようにしていたらしい。……過保護過ぎる。




「どうしたの、さっきから」




 いつの間にか、レントが話し掛けていた。

 なんでもない振りをして場を凌ぐ。続きをと書類の山をドン、と置く。


 途端に嫌な奴だな、と思われるのも覚悟の上だ。

 処理を山のようにこなしていたら、こちらを見ずに言ってきた。




「ウィルスの事は心配ないよ。ナークがいるし、危険な事なら相談してくる」

「なんの事?」




 内心、冷や汗ものだがシラを切る。そんな私にレントは笑いながら告げた。バーナンが気にしているから、無理はするなと。




「内緒で動くのに反対はしない。調べたいならコソコソしなくても良いのに」




 この兄弟、動きを読んでいたな。

 知らないと思って動いた私がバカみたいだ。


 あぁ、こう言う所は本当に……叶わない。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーウイルス視点ー


 

「ありがとうございました!!!」




 店内に残っていたお客様は今ので最後。

 ネルちゃんと送り出して、笑顔で手を振る。閉店の看板を出して店内へと戻る。ナーク君もすっかり馴染んでおり、慣れた手つきで掃除をする。


 ナーク君は里の皆と、遊ぶ事も多いから自然とお世話する係になっていたんだって。

 薬草や食べられる木の実、食べられる草なんかも知っている。リベリーさんも知っていた事だから、年長さんにはそういう教育になっていったのかも知らない。




「ネルちゃん。次の満月って、あと何日?」 

「明日」 

「へぇ、明日かぁ……えっ!?」


  


 思わず掃除する作業を止めてネルちゃんの事を見た。

 変わった様子はない。いつものようにしているから、焦った私が悪いみたいに見えてしまう。


 大ババ様が儀式を行うのに必要な場所が未だに見付かっていない。授ける側と、受けとる側はミリアさんとネルちゃんだから条件は揃っている。




『儀式と呼ばれるものには複雑な条件がある。一番苦労するのが行う場所と時間だよ』 




 魔法陣を幾つも書いて複雑な工程にするのは、儀式を行うのにリスクを減らす為。さらに条件を厳しくて行えば、魔力量の軽減にも繋がるのだとか。

 そして、一番魔力が強く影響が出るのが満月の日。


 ミリアさんの負担を考えるならなるべく早い方が良い。

 それはそうなんだけど……まさか明日だなんて。




「確か場所って、魔力密度が濃い所なんだよね」

「……うん。大国の魔法師団は、訓練を行うのに魔法を使う。その残留した魔力でも積み上げれば密度が濃くなる」




 大国なら必ずあるがこれはレント達には内緒で行う事だ。

 かといって、明日すぐにギルダーツお兄様の所に行く事を考えて……止めた。魔獣との戦いの傷跡はまだ残っているし、療養をするのにも魔力密度が濃い方が自己治癒を促す効果にもなる。


 大ババ様はすぐにでも協力するだろうと言うが……レントは察するのが早い。その時点で隠し通せない気がしてならない。




「……あとは自然の中、かな」

「自然の……中?」

「うん。森や谷、長い年月で積み重なって出来た大地には微量だけど魔力が漂っている。でもそう言った場合、魔物もいるから危険が多い」




 今日、ミリアさんに本で見せて貰ったから分かる。

 儀式を行うのにはどうしても維持をするのに、複数人で魔力を注ぐ大作業。無防備になるのを防ぐのに、護衛をする人が必要な位だ。対して私達は少数人数であるから、護衛を頼めるのが男性陣しかいない。


 出来れば安全に行いたいので、自然の中で行うは無理と考えていい。




「ほら、あんまり姫様を遅くまで働かせると王子に感付かれるから早く帰るんだよ」

「は、はいっ!!!」

「行こうか、主」




 ひょい、といつものようにナーク君に抱き抱えて貰いネルちゃんに手を振る。私が「おやすみ」と言えばネルちゃんは恥ずかしそうに返してくれた。それが嬉しくってつい笑顔になる。


 すぐにナーク君が城に帰れるようにとポイントを作って、一瞬でお城に戻る。いつも思うけど、どうやっているのか分からない。どうも、私が離れていてもすぐに駆け付けられる様にしたのと同じように設定した、らしい。


 リベリーさんもそれが出来るから、ナーク君達だけが行えるものなのかも知れない。




「………」




 ファーナムが戻った私に「お帰りなさい」と言って夕食を用意していた。ナーク君と一緒に食べて、お風呂に入り夜着に着替えてからソファーに座る。どうしても考えてしまうのは、魔力の濃い場所の事。


 しかも明日だ。


 時間が無さすぎる。こうなったら、当日にギルダーツお兄様に協力をお願いしようと思いナーク君とベットに入る。レントが夜遅くまで仕事をしているのを聞き寂しくて一緒に寝て欲しいと言ってしまった。


 一瞬、考える素振りをしたが次の瞬間には快く良いよと言ってくれた。私の傍に居たいからって手を握って眠ると凄く安心できる。


 1人で寝るのは凄く怖い。

 カルラが共に居るのだけど、どうしても人肌が恋しくなってしまう。だから、今までレントが傍に居て一緒に寝てくれるのは凄く嬉しかった。それがなくなるのが……私には凄く寂しい。




『王子に許可取ったから今度から平気だよ』




 いつの間にそんな話になったのか、ナーク君から聞いてビックリした。そして、レントにも寂しい思いさせてごめんねって額にキスを落としながら言うから……もう、顔が真っ赤になりっぱなしだった。



 眠っているといつも見る夢があるんだ。

 レントと出掛けた大森林の中で見付けたあの泉。そこに綺麗な狼が水の上を立っているのだ。


 銀の毛並みに銀色の瞳、なのにとても大きな体だけど優しそうな雰囲気を持っていた。

 じっと見ていたらその狼は私へと歩み寄る。いつもは触れるか触れないかの所まで言って目が覚める。


 なのに――。


 今日は違ったのだ。

 触れられないだろうと思って手を伸ばしたら、ペロッと舐められた。




「きゃっ……」




 まさか触れられると思わずに声を出してしまった。

 いつもならここで目を覚ます。なのに、今日は起きる所は狼に触れられたのだ。驚くのは無理ない……と、思う。




【驚かせて悪かった。我が主よ】

「へ……」




 こ、ここここ、今度は喋った!?

 え、えぇぇ!!!??




「え、あ、あのっ……えっと、え……」




 動物って話せるの? 

 それも私が知らないだけで他は普通なの?




「でも、猫ちゃん達は普通に鳴くし……。まさか、猫ちゃん達以外は話せるの!?」

【それは違う】




 あっさりと返されたし否定された。

 何とも言えない空気が流れて……そっと視線を合わせないでいると、その狼さんは私に話しかけて来た。




【今まで見ていた。儀式の場所を探しているのだろう? なら、この泉に来ると良い】

「どう、して……知ってるんですか?」




 何処で見ていたのかな。

 こうして夢で会っているのが、現実にも繋がっているの?

 



【それは秘密だ】




 悪戯っぽく言われてしまったし、笑っているようにも見えた。そこで、唐突に夢は終わり起き上がる。


 行ってみよう。そう思った私の行動はとても早かったのだった。


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