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第132話:彼女の暴露


ーウィルス視点ー   



「まずは飲みな」    




 ミリアさんに案内されたのは大ババ様の、私も働いている薬屋。中に入ればお茶が用意されていた。暖かいお茶を一口飲んでいると大ババ様が口を開いた。




「姫様。事情を聞いて良いね」    




 思わずミリアさんを見ると、大丈夫だと言った。

 その後、私が聞いた話を大ババ様に話した。全て話終えた時、私が怒られると思ったらミリアさんだった。




「爪が甘い」 

「うっ」

「姫様に聞かれた時点でもだがね」




 グサグサと刺さる言葉を言い、私は申し訳なくなった。

 そうしたら、私にも「爪が甘いのは姫様もだ」と言われ……思わずキョトンとした。


 私も爪が甘い?


 なんの事だろうと、思っているとネルちゃん達が帰って来た。泣き顔のミリアさんに私が居るのを見て表情が固まり寒気を感じた。


 


「泣かせのは誰?」

「ミリア姉さんに酷い事しやがったのは……」

「潰す」




 あ、あわわわ。

 皆、目が怖いっ……!!! ネルちゃん「誰?」の言い方怖い。レイン君、いつもの爽やかな笑顔はどこにいったの、顔怖いよ。

 ニーグレス君も普段、そんないい方しないのにぃ~~。




「落ち着いて。主が怖がってるから」




 ナーク君が3人を宥めてる。

 あぁ、安心できる。いつの間にあんないい子になったの、ナーク君!!!




「お前達は早とちりなんだよ」




 大ババ様がそう言うも薬を作る作業を止めない。 

 ネルちゃん達には大きなたんこぶが出来ており、何故だか止めに来たナーク君にもたんこぶが出来ていた。

 

 私はそこで初めて知った。

 ミリアさんは生まれてくる子供を産まないでいた事。そうしたら、私の呪いを解くのに時間がまたかかってしまうからだと。




「私達、魔女の呪いと呼ばれるものはね。独自の魔力調整と魔女が得意な魔法との合成で生み出されるものなんだよ。だから、私達の呪いは掛けた本人でしか外せない仕様のものなんだ」

「ミリアさんやネルちゃんみたいに、得意な魔法が違うからですね」




 ラーファルさんとレーナスさんから魔法を学ぶにあたって、色々と教えてくれた。どうも、私の扱う白銀の魔法はどの文献にも出て来ていない魔法らしい。

 ディーデット国でもごく僅か。同じ魔女の人達でも知っている人があまりにも少ない。大ババ様が今の魔女達の統率をしているのだって、他に同じような年齢の人が居ない。




「長生きはしているが、白銀の魔法と言う言葉も初めて知ったんだよ。その辺はアーサーにでも直接聞いてみてくれ」




 ……アーサーさんは魔獣に乗っ取られた影響で今も静養中の筈。

 そんなすぐには来ないだろうと思っていると、大ババ様が「急ぎだと言えば嫌でも来る」と言うので全力でお断りした。




「そう言った経緯で、ミリアは姫様の呪いを解く前に子供を産まないと言う選択をしたんだ。魔女に子供が出来るとね、子供に魔力が移るんだよ」

「移る……?」




 生まれてくる子供はこの世に出た時から高い魔力を有する。

 それは母親が魔女であったり、父親が魔女でも起きる。問題は母親なり父親なり、使っていた魔法の類の力は全て子供に移る。


 だから、呪いを解くには子供が生まれるのを待つか、産まないと言う選択をする事になる。つまり……ミリアさんは私の呪いを解くのを優先して、自分の子供を産まない選択をした。


 夫であるリーガルさんには魔女である事、魔獣と遭遇したのは知っていてもその詳細を知らない。深く聞いても自分には分からない、というのがリーガルさんの答えだ。

 なんだか、リーガルさんっぽくて笑ったのは仕方ない。




「だから、ミリア姉さん。そんな選択しなくても、私が継承すれば――」

「危険な目に合うのにそんな事を頼めるわけないでしょ」

「……」




 ネルちゃんが他にも選択肢があると含んだ言い方をする。

 チラリと大ババ様を見れば「実はね」と説明をしてくれた。


 継承の儀。

 彼女達はそう呼んでいるそれは、一方の魔女の力を別の魔女に与えると言うもの。自分の命がもう長くないと悟った時、魔獣に対抗する為に行うもの。




「簡単に言えば、魔女同士の決闘。無限ループだから、脱出するには勝つしかないんだよ」

「精神同士での事だけど、痛みも現実のものと変わらない。……まず、そんな簡単に儀式を行える場所はないよ」

「でもっ!! 私がミリア姉さんの力を持つことが出来れば、姫様の呪いだって治る可能性があるんだ。やってみる価値はある」

「ネルちゃん……」




 ミリアさんの紅蓮の魔法。

 ネルちゃんの音の魔法。

 

 大ババ様は私の事も気にかけているのには、あまりに呪いに慣れすぎると戻った時の衝撃で何が起きか分からないと言う事。こうして彼女達に会ったのだって奇跡に近い事だから、出来る事なら早めに実行に移すべきだと言う。


 でも……ミリアさんが人並みの幸せを得られるのを嬉しいと思うのも事実。どうにか出来ないかと思った時、ネルちゃんの覚悟が中途半端だと儀式にも影響する。

 大ババ様がネルちゃんを見た。その目はとても真剣だけど、心配していると言った表情だった。




「私はお前が不安でたまらなかった。通常、1人前の魔女は自分の魔法を極めるか儀式を得てようやく1人前だ。なのに魔獣を前にした時のネルは復讐心に囚われ過ぎてる。それは同時に自分の魔法にも悪影響を及ぼす」




 どんな時でも平常心で行う。

 魔法を扱うのに必要なのは自分の事をコントロールする事。どんな時、どんな場所、状況でも落ち着いていられるか。心が不安定であれば発動する魔法はどうしても暴発するし、自分の命も危うい。


 昔、まだ魔法が馴染む前の時代は自分を律せずに滅んだ国々が多かったのを歴史書で読んだことがある。だから、今では魔法は普通に認知されてもそうなるまでの道のりは長かった。


 国が管理するようになったのだって、ディーデット国のやり方を取り入れたからだと知り、母様の故郷は今も昔も最先端をいっているのだと聞き嬉しく思った。




(大ババ様達が隠れ里以外でも、住める環境がある。……もっと広がればいいのに)

「前は……そうだった。でもっ、今は違う!!! 姫様に会って、本当は魔獣を倒せる魔法を自分の物にしようとした。でも無理だ。会って話し合って、自分の価値観が違うのも分かった」




 ネルちゃんは言った。

 今がとても楽しい日々だって。そうしている内に、自分の魔法が思うように動くし確実に自分の力としているのも実感している。

 前では考えられない変化だと言って私に向き直った。




「姫様。私が……楽しいって思えるのは姫様が教えてくれたからだ。呪いで不便な思いをしているのに、全然苦しそうにしていない。そんな姿をみて、今の自分のままでいるのは間違っているって教えてくれた」




 苦しそうにしていない。

 最初は……苦しかった。訳が分からなかった。

 何で自分がカルラと融合したのか。何で、母様と父様を失わないといけないのか……。お城の人達を失ってまで私が生き残ってしまったのはって、自分を責めたし苦しんだ。




「ううん、ネルちゃんがそう見えないのは本当に最近なのかも知れない」

「えっ……」

「初めは苦しかったよ。でも、そんな時カルラが励ましてくれたの。自分だって苦しんでるのに、私の事を心配してくれた。それにレントに会えたから」




 国を失って5年生き延びたのだって、このままだといけないと思ったからだ。可能な限り情報を見付けようとしたけど、その日食べる物にも苦しいのに調べられる事なんて殆どないんだ。


 レントに会って、彼が面倒を見ると言って……それが亡国だからとか、物珍しさから来てない。彼はいつだって真剣に私の事を好きだと言ってくれた。それに私が応えたいと思うのは普通だ。




「レントに会ってなかったら、ネルちゃん達にも会えなかったし、ナーク君とも会ってない。今を大事にするのだって、レントに愛してるって言うようになったのだって全部全部、皆のお陰でレントのお陰なの」




 その勢いのまま、ネルちゃんの手を取り「私も手伝う」と言った。

 ミリアさんが出て行かなくて良い様に、ネルちゃんが危険に立ち向かうのだと言うのなら私だって協力は惜しまない。


 私以上にネルちゃんが危険に晒されるのなら、守りたいし協力したい。今を大事にしてくれたお礼と思ってくれればいいのだ。




「その辺にしときな姫様。ネル達には少々、刺激が強いよ」

「へっ?」




 大ババ様に止められて周りを見る。

 ミリアさんは驚いたようにポカンとしていて、レイン君とニーグレス君は何故だか顔を赤くしてこっちを見てくれない。ナーク君はずっとニコニコとしていて、ネルちゃんは床を見て私の事を見てくれない。




(刺激が、強い……?)

「ギリギリ成人年齢でも、王子との溺愛ぶりをここで披露しなくてもねぇ。この子ら、好きな人とか居るかもしれないが。……それらを飛び越えて愛してるを叫ばれると恥ずかしいもんだよ。下手すれば毒になる」




 溺愛ぶりを、披露……?

 キョトンとした私にナーク君が念話で伝えて来た。


 愛しているって言ったからと思う、と。




(あっ、私……!!!)




 ハッと自分の口を手で覆う。

 自分が何を言ったのかと思い出す。何だか勢いのまま協力するとは言ったし、そのまま好きって言えば良かったのに愛しているって言った事を思い出して赤くした。




「……今頃かい。無自覚は怖いね~~」

「っ、うぅ……!!! ち、ちがっ、これは……と、ととにかく!!! 私もミリアさんの考え方には反対です。一か八かでも良いんです。ネルちゃんに儀式を行いましょう。そ、それでリーガルさんにも事情を全部話してすっきりしましょう!!!」

「おや、逃げたね……」




 大ババ様を睨めば「おお、怖い怖い」と全く怖がっていないまま、ゴリゴリと薬作りを再開させた。ミリアさんは私に手を取られた事と言われた意味を理解したのは「ごめん」と謝る。




「こういう時はありがとうで良いんです。自分を責めないで下さい。私、ミリアさんにも会えて嬉しいんですから!!!」




 ミリアさんはその言葉に救われたように嬉しそうに微笑んだ。

 その微笑みが綺麗で美しくて、心の底からのありがとうに私も同じように応えた。

 

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