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第129話:デートプラン


ーウィルス視点ー



「主。似合ってる~」

「あり、がとう……」




 ナーク君の言葉に素直にそう言い、顔が赤くなるのを抑えたい。


 でも、無理だ。

 レントとお出掛けする。つまりはデートだ。



 発端は、ディルランド国の夜会から2週間経った時。

 ジークさんとバラカンスさんから呼ばれて来たのは、騎士団の訓練所。その間、レントは模擬戦をしていると聞いた。

 ……見てみたい。レントが剣を振るう姿。




「話が終わったら案内しますよ」

「!!!」




 ジークさんにそう声をかけられ微笑まれる。

 う、嘘。また、顔に出てた……?


 た、確かに見たいとは思ったけど。で、でも、許可とか必要ないのかな。




「平気です。むしろレントは喜びますよ。あ、でもやっぱり難しいですかね。……加減がなくなる」




 急にトーンを落としたジークさん。へっ。な、なんの……?




「魔法、ですよ」




 ジークさんが言った途端、訓練場から激しい音が聞こえて来た。

 なんだろう。爆発音……?


 えっ、なんだか、黒煙が上がっているんですけど!!!




「な、なにが……」

「ひどっ!!! ちょっ、ジーク。あれをなんとか」




 ひょい、と顔を出してきたのはスティングさんだ。

 さっきまで不機嫌顔だったのに、私を見た途端に笑顔に切り替わる。あまりの早変わりにいつも知っているスティングさんなのかと、ふと思ってしまった。




「ウィルス様が居るなら最初から言って下さいよ。あぁ、もう……分かっていればもう少し服装だって変えたのに」

「いや、意味ないだろ」




 バラカンスさんに注意されるスティングさんを見る。

 黒髪が少しボサボサで、いつもゆったりとした師団の制服を着ている。なのに今日はピッタリとした服を着ている。

 クレールさんやバラカンスさんが着ている訓練用の服装だ。

 

 剣を振るうのだろうか……?




「……ウィルス様、俺が剣を扱うと思ってる?」

「違うんですか?」

「俺はあくまで護身用。近接は出来る兄さんに任せきりだよ」

「じゃあ、何で――」

「ウィルス!!!」




 バン、と扉が乱暴に開けられ入って来た人物が誰とは言わない。

 私の婚約者であるレントだ。


 むっとしたままジークさんにここに私が居る理由を問いただしている。汗をかいていたのだろう。汗特有の匂いがした。




「……」




 さっと自分の姿を見てもハンカチを持っていない。

 だから、自分の着ている服の裾を使ってレントの額に流れていた汗を拭きとる。




「……えっ、え、え」




 キョトンとしたレントがちょっと新鮮に思えた。

 でも、と次にスティングさんの傍に寄って同じように汗を拭きとる。無事に終われることが出来たから、ほっとした。


 そしたらスティングさんの顔が……赤く? なっているようにも見えて――。




「近い!!! すぐに離れて!!!!!」

「へ、へうっ……」



 

 すぐにレントに引き離されて、すっぽりと彼の腕の中に納まる。

 むむっ、と下から見上げるようにして睨むとスティングさんが倒れた。


 何故だか「尊い」とか「ズルい」と言っている。

 何の話だろうかと思っているとレントは無理に自分へと私を向けさせる。




「前にも言ったけど、ナーク以外とはあんまり近付かないで」

「え、えぇ……?」

「「範囲、狭すぎ!!!」」




 すぐに復活したスティングさんとジークさんがハモる。

 バラカンスさんは分かり切っていたかのように「知らなかったのか」と一言だけ。




「で、でも……。用があるとき」

「ファーナムを呼べばいいし、ナークに雑務を頼めば良い。彼は私の親友なんだから」

「あの、リベリーさんとか」

「ダメ」

「えっと」

「絶対、ダメ!!!」




 何故だろうか。

 レントのお父様もバーナン様もダメ、従兄弟のリラル様もダメ……。ダメダメづくしじゃないかな?


 ラーファルさんもダメなのかと言ったら彼は良いと言った。レーナスさんもと聞いたら魔法にしか興味ないから、平気だと言った。

 ラーファルさんには奥さんがいる。レーナスさんは魔法に興味があるから、結婚とか考えていないらしい……。


 基準はそこなのか、と恐らくは全員が思った。


 妻が居るか居ないか。研究にしか頭にない人は良いみたいだ。それ以外は全部、レントにとってはダメなんだと。

 あぁ、だからギルダーツお兄様にも敵意を向けて……。聞いたら厨房の人達はギリギリ合格なんだって。




(もしかして……)




 ジークさんに視線を向けるとコクリと頷かれた。

 隣ではスティングさんが猛抗議している真っ最中。レントは文句を言いながら絶対に私の事を離さないでいたりと大変な目に合った。


 今度、来るときはちゃんとレントに言おう。

 言わなかったら後が怖いのは知っているし、実体験済みだ。



 その後、どうにか話を聞く場を設けて貰いレントはバラカンスさんに任せて貰った。体格が良いバラカンスさんは、さっさと連行していくから面白かったのは内緒だ。




「あの、もしかして」

「はい。時々、訓練場に来ては魔法を暴発して巻き込まれるんです。……騎士達が」

「それで、俺がレントのうっぷん晴らしの相手をさせられているって訳です」




 夜会が終わってからも仕事が終わる事はなく、書類整理と判子押しの地獄にとうとうレントの怒りが爆発しそうなんだって。いつも朝早くから夜遅くまで拘束されて、私からの手料理を食べても……その機嫌は日に日に増すばかり。


 このまま行くと部屋を丸ごと壊しかねない事態になる。

 だから、いくらか広さのある訓練場で……と言う事なんだけど、被害が既に出ているんだと言う事だ。




 私と1日ゆっくり出来る日……つまりはデートをして欲しいのだと言った。まずは癒しを、と言う事らしい。


 デートで癒されるのだろうかと思うが、ジークさん、スティングさんから言わせれば良いと言われてしまった。




「レントの機嫌を直せるのはウィルス様しかいませんから」

「ウィルス様は癒しの塊です」

「………」




 何だか乗せられている感じが否めない。

 じっと見ると2人して顔を逸らすから自覚ありと判断する。


 日程とかはジークさんが調整してくれるし、仕事量も徐々に減らしていくんだけど……。レントが日に見えて暗くなるから私も私の仕事をしよう。




「よ、よし……」




 髪を1つに結んで留めたのはレントから貰ったバレッタ。

 大きなバケットにサンドイッチと持ち運びが出来る水筒を入れて、ランチョンマットを入れて……。と、していたら結構な大荷物になってしまった。

 どうしよう……。




「ボク、持つ♪」




 凄く機嫌が良いナーク君。既に離す気がないからお任せする事にした。

 レントにとサンドイッチを作っていたら、いつの間にかリーガルさん達も手伝って貰う事に。

 

 厨房で用意する事になるとは思わずにいたら、楽しんで来て下さいと笑顔で送り出された。……いつにも増して恥ずかしくなった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 馬車に揺られながら来たのは大森林。

 リグート国とディルランド国とで管理している場所で、他国の商人や観光で来た人達がよく通るのをリベリーさんから聞いた。


 ナーク君が魔獣になって、私が止めた場所。

 だからか警戒体制が外されたのは夜会が始まる少し前だと聞いた。




「んー。空気が美味しい」

「ずっと城にこもってたからね」

 



 降りてからは散策をした。

 行き交うのは、冒険者だったり観光の団体さん。何故だか、微笑まれるような視線を感じた。


 それらが続くと何でなのか気になる。

 そう思っていたレントがクスクスと笑っていた。




「あれじゃないかな。私達、恋人同士だから羨ましいんじゃない?」

「そ、そう……」




 顔が赤いのを知られたくなくて、思わずギュッとレントの手を握る。足早になるのなんて気にしてられない。

 道なりに進んでいく。

 開けた場所に出たなと思ったら、レントが「ここに出たか」と残念がる。




「ここ……」

 



 その場所には大きな泉があった。

 透き通った水が綺麗で、手ですくうとキラキラと輝いている。泉の傍には綺麗に咲いている見たことがない花達。


 銀の粒子をまとった花なんて、初めて……。 




「私もエリンスとで見つけたからね。ウィルスには教えておこうと思ったのに、もう見つけるとか……参ったな」




 どうやら秘密で連れて来たかったようだ。

 ……なんか、ごめんなさい。


 シュンとしていたら、ポンポンとレントの手が頭を撫でていた。ぎこちなくそちらに目を向けるとニコッと笑顔を返される。




((うん……癒される))




 同じ事を思っていたのか同時に響く自分達の声。

 一瞬の沈黙を生んだ後。大きな声で笑った私達はしばらく途切れる事はなかった。


 なんとかマットをひき、サンドイッチを食べればレントは「あ」と何かに気付いた様子。




「味付け変わったね。この所、厨房での出入りが多いって聞いていたけど……誰から習ったの?」

「リーガルさんからだよ。まだ、ディーデット国の見習いの人達とはあんまり会えていないんだけど」

「会わなくて良いよ。これ以上、ウィルスの事を知る人を増やしたくない」

「城に居る限りは無理でしょ。私はレントの事が好きなの。誰か他の人、だなんて絶対にないの」

「………っ」

「レント?」




 んん? 食べ終わったのに、どうしたんだろう。

 急に黙って……。はっ、もしかして嫌いなもの入ってたの!? え、え、どれだろ。バーナン様には聞いてあらかじめ抜いたし、ラウド様にも聞いてたのにっ。 


 慌てる私に構わずにレントが引き寄せた。

 えっと思う間もなく、体温が直に伝わり慌てた。ドキドキしてる音、こんなに近くで聞いた事がなかったから驚いた。

  

 徐々に上を見上げれば……。

 そこには顔を赤くしたレントが見えた。そうしている内に、彼の髪が元の銀髪へと戻っていく。


 魔法で髪と瞳の色を黒に変えていたけど……いつものエメラルド色の瞳に、いつもの銀髪になったレントにまたドクンッと自分の心臓が鳴るのを感じた。




「あ、あの……」




 見慣れている筈なのに、今日は特におかしい。

 いつも以上にカッコよく見えて、レントが婚約者でいてくれて良かったのだと思った。


 だからか、今日はレントの仕草1つで私は……ドキドキが止まらない。


 それを知られたくなくて、顔も見られたくなくてと下を向く。そんな抵抗も空しくキスを落とされた。どこまでも優しいキスに私は心地よくて……目を閉じた。


 この瞬間が時間が続けば、良いのにな、と心の中で思いながら。


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