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第128話:迷い


ーウィルス視点ー



 イーザク宰相からディルランド国との連絡で、夜会を始めると言う説明を聞いてから2週間。準備に追われたけど、私はいつものようにレントに内緒にしつつ薬屋で働いていた。


 ファーナムには無理を言って、地味めの服を選んでもらいナーク君と内緒で出て行く。リベリーさんには速攻でバレているから恐らく……いや、確実にバーナン様にもバレている。

 ……レントに話していない様子だから、察してくれているのだと思う。




「へぇ。まだバレてないと言うよりは周りが協力しているって所だね」

「あははは……。ますます申し訳なさが出てきます」




 今日も笑顔が似合うルベルトお兄様。

 ハルート様から受け取った連絡用の水晶。レントには王都で見付けた時に買ったと言い、お兄様達と話せる道具だと伝えていない。


 言うタイミングが無かった……。

 仕事に戻って来たレントは毎日疲れた様子で、なんだか話すのも躊躇したんだ。

 レントは私に頭を撫でて貰う事が好きだから、戻ってきた時には必ずしている。膝枕をしながらが良いと言うのは彼からのお願い。




(最近、お願いされると「うん」って言ってしまう……)

「ふふっ。毎日が楽しそうでなにより」

「……ごめんなさい」




 ニヤニヤ顔のルベルトお兄様。

 思わず謝ったけど、後ろでナーク君が「主の幸せ顔、好き」と言うからもっと顔が赤くなる。




「あ、そうだ。今度、ディルランド国の夜会ね。ギルが行くからよろしく頼むね」

「え、ギルダーツお兄様が……?」




 聞けば私達がディルランドに行くのと合わせて来るんだとか。

 だから、いつもよりも書類整理をするのが多いと。その日はギルダーツお兄様だけだから自分達はお休みと言う事だから、何かあったらよろしくと言われてしまった。




「よろしくって……」

「ほら、ギルはウィルスの事になると暴走するからね」

「えっ、私……?」




 自覚ないからなーと言い、またねと通信を切る。

 ナーク君に今日はどうするのかと聞かれ、この事を大ババ様達にも言おうと思って向かう事をお願いした。


 その準備をする間、忙しいレントの代わりにナーク君とダンスの練習をした。慌てるナーク君は面白くて、なんだか新鮮でちょっと可愛く思えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そんな事があったのか」

「はい。ナーク君、面白くって……。でも、ダンスの練習をしているの好きだから巻き込んで悪かったなと」




 そんなこんなで、ギルダーツお兄様とダンスをしながらこれまでの事を話す。些細な事なのにお兄様は、嬉しそうに話しを聞いてくれるからついつい話してしまう。


 チラリとデートル様の方を見れば、お母様のお兄様と話しており……なんだか雰囲気が険悪にも見えた。それを見たお兄様はクスリと笑い「おかしいだろ」と言った。




「レーベ様の事もあるからな。今は難しくともいずれは解消される」




 その時、お兄様は踊りながら後ろを振り向いた。

 レントがイーグレット様と踊っているのが見える。ふと、視線が絡む。




ー綺麗だよ、ウィルスー


「っ……!!!」

「どうした、ウィルス」




 不意の、レントの声。未だに慣れない……。


 お兄様は気付いていない。

 お互いの声が聞こえるのは知らない、と思う。バクバクと心臓の音がうるさく鳴って、気付かれたくない気持ちがある。


 でも、それすらもレントにはバレているのだろう。

 だって。


 だって、私を見たレントの瞳が嬉しさで染まっていたから。

 その目が愛おしさで見られているのが分かるから……すごく恥ずかしくなって思わずお兄様に抱き着いてしまった。




「お、おい……」

「っ、ごめんな……ひぃ!!!」

「ひぃ……?」

「な、なんでもないです!!!」




 寒気がした。

 誰だか分かってる……。レントが一瞬だけど、睨んでた。


 お兄様に抱き着いたからだ。でも、待って欲しい。従兄弟なんだよ、ギルダーツお兄様とルベルトお兄様も。それでも、ダメらしい。


 まず異性と言う時点でレントにはダメらしい。

 多分、その事がお兄様に分かったのだろう。ポン、と頭に手を置かれた。




「彼に事情を話してくる。そう不安げな顔をするな」

「うっ……」

「分かっている。ウィルスとレント王子は婚約者同士。例え血のつながりがあっても異性と言うだけで嫌なんだろう」

「………」




 どうしよう。

 お兄様の言う通り過ぎて何も言葉が出てこない。


 そんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか……。

 そう思っていたら、お兄様はニコリと笑顔を返した。




(そう言えば、ナーク君にも分かりやすいって言われたな……)




 遠い目をした私にギルダーツお兄様はクスクスと笑った。

 結局、恥ずかしい気持ちのままレントと踊りバーナン様とも踊り、エリンスとも踊った。


 そう言えば……。

 エリンスとイーグレットの様子が少しおかしいと思ったのは気のせいかな。

 妙に互いを見ていたり、気付けばちょっとだけ顔を赤くしたり……。




(そう言えば、イーグレットの左手の薬指……指輪があったわね)




 薔薇の形のガーネット。

 金色のリングと合っていて素敵だと思った。……あとで聞いたら話を逸らされてしまった。


 良い事があったのだと思い、その先の事は聞かないようにした。

 だって、あんなに嬉しそうにしているイーグレットが何だか自分と重なったように見えたから。



 お互いの気持ちが通じて、1つになったような感じに。


 こうして密かな夜会は終わりを告げた。

 あとでレントから色々と追及はあったけど、何とか切り抜けた……と思いたい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーミリア視点ー



 それは思ってもみなかった衝撃だった。

 天地がひっくり返ったような、そんな気分。




「3カ月ですね。これからは体に気を付けて下さいね。もうお一人の体ではないのですから」




 にこやかにそう告げられる。

 それは……そうなのかも知れない。


 人によっては授からない、奇跡だ。

 嬉しい筈。なのに、私はただ呆然と……何処か魂が抜けた様に受け答えをした。


 リーガルに何て言えば良いのか。

 ウィルス様に……どう説明をして良いのか、と。


 私はただ、それだけしか考えられなかった。

 話が終わり名前を呼ばれれば、受付の人に注意事項を話される。次に来る時には……リーガルを連れて来ないといけない。


 でも、と思う。

 自分に起きた事実に未だに頭が重い。考えが……まとまらない。

 フラフラとした足取りで向かったのは、大ババ様の薬屋。


 魔女は皆、大ババ様や薬作りが得意な魔女から教わる。

 生き抜く術として。森の中で暮らすのも、おババ様のように各地を転々としながら売り買いをしたりするのにも必要な事だからだ。




「そうかい。それは良い報告だねぇ」




 私が報告した事に、大ババ様は当たり前のように迎え入れそして分かったように頷いた。

 相変わらず勘が鋭い。


 たまに来ていたのも原因かと思い、出されたお茶を口にする。見た目は緑色なのに、ほのかに甘い香りと味がした。驚いているとウィルス様が作ったものだと言う。




「実はね姫様の言うように味を変えてみたんだよ。いやー、この年まで生きて来ても分からない事が多いね」




 なんでも苦いのが当たり前の薬。

 それを、ウィルス様は無味に出来ないか。もしくは甘みを加える事は出来ないかと、ずっと試行錯誤してきたのだ。


 今ではそれが評判を呼び、子供に人気だからとお客が来るようになった。

 前は休憩が出来たものが忙しくなる位に。




「ある程度の資金が集まったら、ここを出てまた気長に旅をするよ」

「……私は」

「ミリアには旦那が居るだろう」




 でも……。

 私は今だ魔力が封じられた身。魔女としての戦闘能力は望めない。でも、エリンス殿下が魔獣ごと大森林に飛ばした時には魔法が使えた。


 そう……。あの雪のような結晶の、不思議な魔法。




「ほぅ。姫様の魔法はそこまで届いたのかい」

「ウィルス様の……?」




 聞けば彼女は魔獣にも魔物にも通用する魔法の使い手。


 白銀の魔法。

 魔女の中でも使えた者は数人。

 魔獣に狙われるリスクを考えれば、ウィルス様はここを離れた方が良い。でも、王子がそれを許さないのも分かっている。


 ギルダーツ王子もその魔法について解明を進めている事から、これからは強力して望むのだと言う。




「………東で動きがあったんですか?」

「調べていた仲間からの連絡が途絶えた。あの国はもはやハーベルト国だけのもの。中に入れたとしても無事に出られるかどうか……」

「なら、やっぱり」




 手で制された。

 大ババ様は私の言いたいことが分かったんだろうけど。でも、やっぱり何も出来ないのは嫌だ。

 戦えない事が嫌なんじゃない。


 私、1人だけが取り残されるのが……嫌なんだ。

 こんな気持ちのまま、私は……戦いを放棄しないといけないのか。

 5年も探し回って何も見付けられずにいた。

 



「そろそろネルを継承させても良いかもね」

「っ、でも」

「ミリア。あんたは戦闘から離れな。……家族がいるんだから」




 幸せになってもいい。

 離れる事は恥ではないのだと。でも、ネルがそれに選ばれると……だって、彼女は魔獣に対して憎しみで戦っている。


 拳をギュっと握った私に、大ババ様は自身の手を重ねた。




「安心しな。あの子はもう前のあの子じゃない。……平気だよ」

「っ。それでもっ、私は……」




 目の前が暗くなる。

 ウィルス様に申し訳なくて、ネルにごめんと謝りたくて。


 こんな大人でごめん、と。

 泣きじゃくる私に大ババ様はいつまでも、大丈夫だと何度も言ってくれた。背中を撫でてくれた……。


 この時、私達は知らなかった。

 ネル達が密かに聞いていたのを……。



 私が覚悟を決めないと迷う私とは違い、ネルは覚悟を決めた様に私達の前に姿を現した。




「ミリア姉さん。私……やる。姉さんの代わりに私が継承する」

「だな。俺達、ミリア姉さんに助けられてきたんだ」

「うん……。だから安心してよ。ここからは私達に任せて欲しい」

「みんな……」



 

 気付かない間に、ネル達は成長していた。

 3人が私の事を抱きしめてくれる。優しくて、温かくて……。そんな中、リーガルが私を探しに薬屋にまで来た。


 夜遅くの事。

 抱き合う私達に驚いたように見たリーガル。


 話そうと心に決め覚悟を決めた。

 リーガルと私の……もう1人の家族の事を。




 

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