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第125話:あり得ないお客


ーナーク視点ー



 主が皆の為にと秘密にお金を作ろうとして、ネル達の薬屋に働き始めてから早1カ月。賑わいのある第1王都のほんの隅っこにあるお店。


 最初はギルダーツ王子がやった遠見の魔法で、主を見付けた事がきっかけ。バルム国の1人娘のお姫様、それが主で契約を交わしたのがボク。




「ナーク君。薬って嫌い?」




 王子に内緒で行っている資金集め。

 それをノートに書き留めて、いくら溜まっているのかと細かく書いている。なんだけど……たまに王子が早く帰ってくる時は注意が必要だ。

 この前も、軽く休憩するつもりがガッツリ寝てしまい危うく王子に見られる所だった。


 素早く奪う様にしてそのまま部屋を出た事が何度あったことか。

 主も気を付けるようにしているから、計画ノートはこの薬屋に置いている。


 そんな時。

 ネル達と休憩している時にふと主からそんな質問をされた。




「………苦いのが当たり前で、無味があんまりない。だから、薬は苦いものって言う認識だから嫌いとか好きとかはないかな」

「……どちらかと言えば?」




 うーん。どちらか、か。

 厨房で主が作ったサンドイッチを食べつつ、モグモグしながら考える。

 でも、苦いのは当たり前で育ったから本当に好き嫌いとはないんだよね。 

 小さい時は本当にいい思い出がなかったから嫌いになるのか。




「今は平気だけど、子供の頃は嫌いって感じ」

「そっかぁ……」




 ボクがそう答えると主は考え込む。何を考えているのかな?

 

 大ババ様はあの転送の時、リグート国の近い場所で転送された。だから、すぐに戻ってディーデット国に行こうとして代役の魔女をこのお店に置いたんだって。


 それで、大ババ様も戻って来たらかなり店の雰囲気がガラリと変わっていた。主の言う様に前は薬屋と示すのは小さな看板だけだった。


 でも、お店の前には小物を並べ、薬の材料になるものを表に引っ張り出した。流石に冷所で保存するものは出さなかった。




『なんてことしてくれたんだい、あの子は……』




 自分で頼んだ事もあるからか強く出なかった。


 でも、店の装いが以前と違いある程度は目立ってしまったのも原因らしい。隅っこだけどそれなりにお客が入るようになった。


 南の国の事も解決したからか、ここに店を構える必要もなくなったからとお店をたたむ気でいたみたい。そんな時、主が資金集めをしたいからとお願いをした。


 大ババ様も主のお願いに乗り気だから構ってくれる。


 その分、ボクは薬の材料になる薬草とか魔物の部位とかを探すはめになったんだけど…。無論、レインも強制だ。




「ふむ……薬の味を変える、かい?」




 表ではネルとニーグレスの2人が、王都を歩き回りながら小物を売るやり方を行っている。夕方までには戻るからと休憩が終わった時に、さっさと出て行ってしまった。


 ちなみに今、お客は居ないからボクとレインは店内の掃除をしつつ主と大ババ様の話を何となく聞いている状態だ。




「薬が苦いのは仕方ないのかも知れないんですけれど……。さっき、喉が痛いと言っていた子供が飲みたくないって言う声を聞いて」




 話によれば主とネルは王都の中を、散策しながら買い物をしていた時に見かけたものだと言う。小さな男の子と母親、父親が歩いている時での会話から、嫌がる子供の理由が薬が苦くて無理というものだった。


 両親は近所でも評判が良い薬屋に求めていたが、どうしても苦みがあるからと子供からは不評なんだ。でも、子供には不評でも効果はあるし早く治るのは本当だ。


 しかし、子供側からすれば治るのを代償に苦いのを我慢したくない心理状態。親からはかなりの高評価だし、他に安くて手に入りやすい薬屋はないんだって。




「それで苦みを抑えるか、味を変えてみる……か」




 顛末を聞いた大ババ様は何だか面白そうな顔をしている。

 ニヤニヤとなんだか、ワクワクしているような様子にボクとレインは、同時に嫌な空気を察する。

 そっと、そっと出て行こうとするボク等を大ババ様から待ったをかけられた。




「丁度いい、お前達……実験体になりな」

「「えぇ!!!」」




 こうして、ボクとレインは薬の改良の為にと実験をさせられた。

 気力を奪われて倒れているボク達を見たネルとニーグレスが、不思議そうな顔している。それがムカつく。こうなったら――。




「え、ちょっ」

「待って!? 巻き込む気!!!」


「「当たり前だ!!!」」




 さっと顔を青くした2人はすぐに出口に行こうとしたんだろうけど、ちょうど扉が開いたから逃げる事は叶わなかった。しかも、思い切りぶつかって尻もちをついた。




「ててっ」

「う、うぅ……」

「ごめんよ。怪我はない?」




 そう言って2人の目線に合せてしゃがんだ人物を見て、ボクはすぐに主に念話で≪出ないで!!!≫と伝えた。

 でも、遅かった。

 ちょうど奥から完成させてきた別の薬を持ってきた……主が。




「……やっぱり」

「っ!? ハ、ハルート様にリラル様!?」




 お客として来たのは王子の従兄弟で、南側の港町を管理しているハルート様と息子のリラル様だった。全員、何とも言えない空気になりどうしようかと迷い出す。

 視線が泳いでるのは仕方ない。ボクも何でと思う位だ。




「あまり仰々しいなりの者はお断りだよ。護衛の者達は目立ってしょうがないね」




 大ババ様が普通にそんな事を言う。

 しかも、彼等を奥へと連れ主も一緒に奥へと行ってしまった。


 とりあえず内容は気になる所だけど、主から言ってくれるのを信じて……。


 ニヤリ、と顔を見合わせたボク等はネルとニーグレスにも主の薬作りの手伝いをして貰った。

 無論、ボク等がやられた実験だけどね!!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーリラル視点ー



「………」




 奥へと通された部屋は、様々な薬の材料を保管している場所だからか薄暗い。その部屋には小さな丸いテーブルに、4つの木の椅子と用意がなされた。私達が来るのを知っていたかのような感じ。


 見た目は何処にでもいるような老婆で少しだけ若く見える。


  


「王族の人間がこんな隅っこの薬屋に何か用でも?」




 誰も発しないままの空気に耐えかねてか、彼女から話を切り出された。正直助かっていたから良いのだけれど。それよりも私達の後ろを付いてきているウィルスがずっと青い顔をしている。

  

 前に来た時は綺麗な色合いのワンピース風のドレスだったと記憶している。しかし、今の彼女は明らかに違っていた。綺麗な顔立ちはそのままだけど、服装が第1王都で暮らす人達と何ら変わらないと言う点。

 町娘のような装い。色も茶色や灰色と言った地味目のものになっている。


 ……何か理由があるのだろうけど。




「とはいえお客様だからね。悪いがこれでも飲んで落ち着くといい」

「すみませ……」




 思わず出されたコップに手を付けるのを躊躇してしまった。

 いや、だって……。水とかなら分かるよ。でも……赤ってどういう事?




「おや、何か悪いもんでも入っているのかい?」

「あ、いや……」




 手を出してしまったのだから、好意は受け取らないといけない。しかも、自分からいったのだ。引っ込めるタイミングを見失った。




「姫様。飲むかい?」

「はい………」




 飲むの!?


 えっ、とギョッとした私を無視してウィルスが躊躇なく赤い飲み物を飲んでいく。父を密かに見て見ると、声には出さないもののかなり驚いた様子で見ている。




「はぁ……落ち着けました」




 あれで!?

 うっ。彼女が飲んだから、これ飲まないといけないよね? 

 

 意を決して飲んだ私は苦かったりするのだろうと思ったが、意外に爽やかな味わい。後味がすっきりするからどんどん飲んでしまう。




(あっ、なんだか胃の部分がスッキリした感じ)




 不思議な感覚だなと思っていると、大ババ様が「公務で疲れているのなら効果はあるよ」と笑って言ってくれた。それを見て安全だと判断したのだろう。

 父が普通に飲んでいた。思わずジト目で見ているも、そんなのを軽く受け流すからモヤっとなる。




「——そうかい。ここの国王から色々と聞いている、と。姫様、秘密にするのも難しくなっているようだよ。どうする?」

「うっ……」




 うな垂れるウィルスに、ニヤニヤ顔の大ババ様。

 こうなった経緯は警備隊の人間からの報告がきっかけ。


 レント達が南の国に居るのを知っているのは、王族である私達と宰相だけ。周りにはバカンスだと言う理由で居ないと言えば、2人の仲がさらに深まると盛り上がっていた。


 それだけでもあの2人の注目度が城内だけでは収まっていない事実。王都に働いている人達にまで仲の良さは伝わっている。兄のバーナンよりも、だ。




(……影の支配者にでもなれるのかも)




 本人に言ったら仕返しが怖いから言わないけどね。


 警備の人達から、ウィルスらしき人物を第1王都で見かけたのだと言う。最初は見間違いだと思ったが、確かめるべくこの薬屋に通っている日数を調べた。


 3日おきに通っている事。あとは飼い猫のカルラが入っていくのを確認し、私に密かに教えて来たのだ。

 彼女の事情は知っている。呪いのサイクルとも合うから彼女がここで働いているのは間違いないと思った。


 そう報告したら父も彼女に話があるからと、視察と評してこの薬屋に入った訳だ。今日、来ない場合もあるけれど居て良かったよ。




「お、お願いです!!! レントには……秘密にしていて欲しいんです」




 そう懇願してくる彼女は必死さがあった。

 まぁ、私達もそれに関して問い詰める気は無いよ。……ホント、レントが羨ましい限りだよ。




「ならウィルス。……何でここで働く、なんてなるのか説明が欲しいな」

「そ、それは……」




 途端に彷徨う視線。

 ……何故だろう。イジメていないのにそんな気にさせられるのは。


 こそっと大ババ様の背に隠れたウィルスの姿を見て思う。全部、隠しきれていないのに必死だからか、妙に可愛いとさえ思ったのは……秘密だ。

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