第124話:禁断症状
ーレント視点ー
リグート国に戻って来て安心した矢先、ウィルスと部屋に閉じこもって1日を過ごす。彼女に甘く囁き、好きだと伝えれば顔を赤くしながらも答えてくれる事に嬉しさが込み上げる。
父様、母様に報告しないといけない事もあるけど……まずはウィルスとゆっくりしたいんだ。でも、彼女は無自覚に私を煽るから知らない間にペースを乱される。
そこは良いんだけどね。どうせ、主導権は私が握るつもりでいるんだし。
「………ズルい」
翌朝、寝台から出るのが辛そうなウィルスを、ファーナムに頼んでおけば彼女は「無理させないで下さい」とキツイ一言。その返事を曖昧にして向かった先はお父様の執務室。
南の国での事を話しつつ、ウィルスに婚約指輪を渡した事。それとは別にイヤリングもプレゼントしたと告げた。
そしてお父様は全てを聞き終わり、放った言葉は「ズルい」だ。
他にもあるだろうと思うが、そこをツッコむのはよした。下手な事言って、ウィルスとの時間を減らしたくない。
「彼女の指と耳に宝石があったから不思議には思っていたが……うぅ、せめて言った日に報告をくれ。祝いたいのに……これでは何も準備が出来ていない」
何気に見ている所は見ているんだなと思いつつ、よっぽどお祝いをしたいのだろう。ウジウジし始めるのを見て、本当に国王なのかと疑いたくなった。
「じゃ、これ頼むね。レント」
「……なんの、冗談なの。これ」
文句を言われつつ適当に逃げて自分の執務室に入る。
いつものようにバラカンスとジークから朝の挨拶を交わし、さて仕事をしようと思ったら持ってきた量の書類を睨む。
「普通でしょ。国を3カ月も空けていたんだ。……仕事、処理してよ。バーナンがやった所はあるけどさ」
敬称で呼ばないのはそれで慣れているから。護衛の2人は兄様とは幼馴染み。でも兄様の護衛に付かないのは、兄様に疑われるのを阻止したいから。毒で死にかけてからの兄様は、幼馴染みの2人でさえ信じれないでいた。
今は普通に接している。リベリーと契約を結んでから、徐々に戻っていった。私達の言葉よりも、いきなり自分の側に置くと言い出した彼の言葉を信じたんだ。
(悔しかったな)
家族や親友の言葉よりも、と言うのが正直に思った事。
でも今は感謝している。
兄様にはぶっ飛んだ人物の方が良いのかも知れない。
そう思ったのは最初だけ。本当に最初だけだ……。
「………」
「おーい。レント、起きろ、おーい」
「……やだ」
あまりの量をこなし、目の前が暗くなる。と言うか既に暗い……。
無駄な抵抗だと分かりつつ、机に突っ伏して顔を上げないでいる。そんな小さな抗議にジークは何処かため息交じりで「何かしたいことは無いの?」と聞く。
バラカンスも聞き耳は立ててる。黙っているだけで、作業は続いている。紙をパラパラと捲る音が私に追い打ちがかけていく……。酷い、従者だし護衛だ。
「ウィルスに、会いたい……」
「まだ別れて4時間だよ?」
「やだ。ウィルスに触れたい、抱き合いたい!!!!」
叶うなら1日中でもいい!!! むしろそれでいい。
2人だけでのんびり、心地の良い風を浴びながら話したい。
……彼女の笑顔は癒されるんだ。
そう、癒される。それで猫達が一緒にいればなんでもいい。ウィルスの事を抱きつつ、猫達と遊ぶなんて最高じゃないか!!!!!
「王子の発言としてどうなの、それ……」
「全部、声に出しているのはワザとだろう」
ふんっ、2人共猫達にもみくちゃにされればいいさ!!!!
「……レント。ついに心で思う事、全て私達に言ってきたよ」
「だからワザと、だろ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うぅー。終わんない、終わんない、終わんなーい!!!
気付けば外は暗い。朝だった筈なのに……。ジークが明日でいいって言うから、そのまま帰る。ぐったりしながら、自室に戻ればウィルスはソファーで寝ていてナークも同じようになっている。
でも、距離が近い。
肩寄せ合っちゃうとか、恋人みたいな事して……。ちょっと睨んでいると、バサリとウィルスが持っていた本が落ちた。
「……なんだろう」
拾い上げようとした瞬間。
素早く動いたナークが本を持ってすぐに逃走。さっきまで寝ていたのに、狸寝入りだったのか?
しかもあの慌てよう……。何かあるなんて言うのはすぐに分かる。ナークは初めて会った印象よりも分かりやすい。と、言うよりもウィルスと会って自分を押し殺すのを止めたようにも見える。
『アイツ、結構子供っぽいから』
そう話すのは同じトルド族の兄貴分であるリベリー。
ナーク自体はうるさいお兄さん的な感じらしく、何かと言って来るリベリーに対して「うるさい」とか「しつこい」とあしらうんだって。
でも、同じ東の国の出身でリベリーが出て行く前まで一緒に育ったのだから、兄弟的な絆はあっても良いと私は思うんだけど……本人が認めてたがらない。
(……認めたら見ている風景が変わるのかな)
今までの関係が崩れるなんてことはない。
恐らくは本人的にそう感じるのかも知れない。そう思うと私や契約したウィルスに素直になっている。兄と認めてしまったら、意識していない部分で恥ずかしくなるのかも?
『その割には……リバイルの野郎の事を、お兄さん呼びだぜ? 酷くね。オレが一緒に居るのに、その目の前で……。アイツ、性格悪くなったぞ』
ナークの変化に落ち込んだりしているリベリーも相当だけど。それを言うと私に突っかかるから言わないのだけどね。
「……ん」
ユラユラと寝ていたウィルスが起きて来る。
目をこすり周りをキョロキョロと見渡して、私を見付けると「んーー」と言いながら寄ってくる。
「無理しないで良いよ。今、戻って来たばかりだから」
「ん」
ヨタヨタな感じで来るから思わず抱き寄せる。
するとそれが嬉しいのかギュっと抱きしめられてしまった。
突然の行動に驚きつつ髪を触る。
ふとした時に私は彼女の髪の色を注意深く見るようになった。結界を張り直した時に一気に変わったあの感じ。ラーファル達でさえ、魔法を扱うのに髪の色だけでなく瞳も変わるのは初めて聞いたと驚いていた。
それも……やはり、彼女が白銀の魔法を扱うからかと結論する。と、言うよりもそれしか判断材料がないと言わざる負えない。
『……暫くは観察を続けよう。姫猫ちゃんの手の空いている時に、こっちでも調べられる範囲は調べよう。呪いも自力で解いたとして……影響がどんな感じになるかは未知数だしね』
『私達が知らない魔法なんていくらでもある。刻印と呼ばれるものだって、代償が大きすぎて伝わらなくなった代物だ。ワザと世に知らせないものもある』
レーナスの意見には賛成している。ウィルスの場合は世に知らせるには危険な魔法だ。そう言う認識が私の中であるのだ。
『私達よりもその違いに気付けるのは君だけだよ、レント。自室に帰れば愛しの婚約者が居るんだ。どう考えても君が気付くのが早そうだけど』
『どんな些細な変化も見逃す事がなさそうだ』
そのつもりだと答えれば2人同時に溜め息を吐かれた。
いや、呆れられてるに近い感じも思う。
そして2人揃って可哀想だと言うのだから訳が分からないね。何で、可哀想なのかな? そこはお似合い、というべき所だと思うけど。
『『愛が重い』』
『好きなんだから当たり前だと思いますが?』
真面目に答えたのに何だか遠い目をされた。
え、そんなにおかしな事言ってないよ。
失礼な師団長と副師団長だなと思っていると、リベリーから『通常通りだな』とこれまた呆れられた。
いつから居たのか。もしくは会話がおかしいからか、彼はちょくちょく面白そうに寄って来る。
そう思っていたら、兄様からレーナスにと土産物としてお酒をいくつか持ってきたようだ。
……王子に頼むって凄いよね。
兄様は実行したけど、普通ならダメでしょ? と、思っているとこれでも飲み友達なんだってさ。
『いやー。見つけるのに苦労したけど、今からバーナンも来るから用意しててだってさ』
そう言いながら慣れた様に用意を始めるリベリー。ちなみに居る場所は、魔法師団の師団長室。……仕事場でお酒を飲むんだ。
そして、ちょくちょく遊びに来ている兄様も兄様だ。
「レーンートー」
「はいはい。私のお姫様は甘えん坊だからね。考え事してて、夢中じゃないのは許さない、だったかな」
「ん♪」
かぷっ、と私の首筋にかぶりつく。
そんなことしなくて十分、私はウィルスに夢中だと思うんだけどねぇ。寝ぼけてる彼女は妙に自己主張をする。
普段、そう言った行動を示さないからか夢だと思っているかは分からないけど。
あぁ、夢だと現実じゃないから行動が大胆になるとかそんな感じかな。
「……明日も頑張ろう」
愛しの彼女は今だ夢心地なのに、時々起きては甘えて来る。
疲れ切った体と頭には十分すぎる程の癒し効果だから良しと思って、頬を撫で頭を撫でれば嬉しそうに微笑んでくれる。
……うん。やっぱり癒しは重要。
例え翌日から地獄の書類処理が待っていたとしても!!!




