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第122話:変われる環境

ーウィルス視点ー



 私が何でネルちゃん達の居る薬屋で働こうとしたのか……。答えは簡単。前から思っていたお礼も兼ねて、お金を作ろうとしていたからだ。

 

 レントが執務室に籠りっきりになって早1週間。 

 エリンスのお見舞いを、と考えていた。


 レントの無理に付き合わされて、と本人からは聞いていたけれど。それでも……あんな危険にまで居て文句も軽くしか言わない。男同士の友情とも言えるのだろうか。

 なんだか良いなとも思い、少し羨ましくもあった。だから、レントが働いている間にと思ったのだけど……。




「……王があれだから殿下まで」




 文句を言い続けているのはディルランド国の宰相であるラーガさん。水晶ごしでの通信の為に半透明の姿ではあるが、今までの分も含めてなのか分からないけれど、これでもかと言う程の文句の嵐がきた。



 私は少し戸惑った様子でそれを聞き、ディルランド国に連絡を入れてくれたイーザクさんは小声で「彼も溜まっているので……」と濁した言い方をした。

 ちなみに、ラーガさんの斜め後ろでは息子のバーレルトさんが私にずっと笑顔で手を振っており、反対側にいたラーグレスはすぐに手を降ろさせた。


 後ろでそんな攻防があるとは気付かないが、文句を言い続けていたラーガさんは声を掛けて来る。




「聞いているのですか?」

「は、はいっ……!!!」

「良いですか。レント王子をこれ以上暴走させないで下さい。……今回、貴方の事で多くの人が巻き込まれているのですから」

「も、申し訳、ありません……」




 自覚はしている。


 大ババ様と対面し自分に魔力があるのを完全に認識したあの時。たまたまとはいえ、簡易的に場所を移動出来る魔法の薬に触れたが為に、南の国の領土にまで飛ばされてしまった。


 それをナーク君が追って、レントもリベリーさんも来た。レントがバーナン様に後を任せて追ったと言うのもバラカンスさんから聞いている。


 魔封じの枷を外すのにギルダーツお兄様の国であり、お母様の出身国のディーデット国に行く事になって……その国で私の使う魔法でないと結界を張り変えられないと聞いた。


 魔法を学ぶいい機会だからと師団にお邪魔したらカーラスとも再会をした。魔獣が攻めて来て皆で防衛して……私とレント、ナーク君の3人で改めて結界を張り直した。


 向こうで過ごした時間は3カ月。

 当然、王子としての仕事もあるレントの仕事は溜まる一方だしそれはエリンスにだって同じことが言える。




(……そう、だね。エリンスはレントの言う無茶を……私が巻き込んだのも事実だ)




 しかも、その所為で死にかけたんだ。

 謝りたいと思ったし、お見舞いをとも思ってイーザクさんに連絡を取りつけて貰った。

 

 彼は私の事を快く思わないと思っていたのに、意外にすんなりと協力してくれたから不思議に思っていた。スティングさんから何か聞いてた、のかな。

 

 考えれば考える程、迷惑を掛けてしまっている事しか浮かんでこない。自然と気持ちが沈んでいくけど、ラーガさんの文句を黙って聞き続けた。

 



「………。」

「これ以上、殿下を妙な事に巻き込ませないで頂きたい」

「はい……。すみ、ませんでした……」




 泣きそうになるのを我慢した。

 向こうの怒りは当然だ。私が考えなしに……周りを巻き込んで……。




「……しかし、今回は不運な事故だ。先程、ギルダーツ王子がレント王子とエリンス殿下とを交えて交流をしたい、と言うのを連絡が来た。遅くなって申し訳なかった、と謝罪とお見舞い品を頂いた」

「えっ……」




 思わず沈んでいた顔を上げた。

 ギルダーツお兄様がそれとなく理由を作ってくれたんだと思って、また泣きそうになった。ラーガさんもそんな私を見て、気まずそうに顔を逸らしながらも言葉を続けた。




「どうやら向こうの事情で貴方を呼んだようだし、貴方に感謝している人達が多いとか……。英雄と呼ばれるなど、一体何をしてきたんだか」




 英雄……。


 思わず向こうの冒険者達の事を思い出した。私達が発つのを察しながら、送り出してくれた温かい人達。




「向こうの事情もあるからか、詳しくは聞けないがこちらとも友好条約を進めていきたいと言っていた。貴方が我が国の事を好きだと言ったのもきっかけだといっていたし」

(……えっ?)




 まだディルランドをゆっくり見ていない。

 だから、ラーガさんが言うような事は言っていないと思う。


 すると、バーレルトさんが手をクロスさせてバツ印を作った。……言わないで欲しいみたい。だけど、良いのだろうか? 私達から見えていると言う事は、イーザクさんにもバレている訳で……。




「………」




 イーザクさんの方を見たらすぐにふいっ、と。ワザと顔を逸らし後ろに控えていたスティングさんが「下手すぎ」と笑いを堪えた様に言った。




「何が下手なんだ」

「いえ、お気になさらず。ラーガ宰相」




 耳が良いのかスティングさんの反応が、自分の物だと勘違いした様子。後ろにいたラーグレス、バーレルトさんが笑うのを我慢する番になり、怒られているのに何だかおかしな雰囲気になってしまった。 




「エリンス殿下もその処理に追われているから当分は無理です。しかし、予定が空き次第に連絡は入れます」

「……えっと」




 ゴホン、と。

 ワザとらしく咳をし色々と言ったが、歓迎をするからその時間が欲しいのだと言った。

 



「まだそちらでやった夜会のお礼もしていませんからね。今後の事も含めて遊びに来て下さい」




 気難しい顔をしながらも、少しだけ顔が赤いような気がした。

 そのまま通信が切れて魔力の輝きがなくなり、ただの水晶になる。恐る恐るイーザクさんを見る。




「ラーガ宰相と、日程を合わせるので休んでいて下さい」

「は、い……」

「前に……貴方に対して酷い事を言いました。このまま国に置けばバルム国のようになると」

「………」




 控えていたスティングさんから睨まれたような気が、した。

 気になって後ろを軽く振り返れば、父親に向けているとは思えない程の怒りに燃えた目で……睨んでいた。




「で、でも、宰相の仕事としては間違っていませんよ。……ふ、不確定要素の、ある私を……傍に、レント王子の傍に置くのは……嫌、ですものね」




 なんだろう……この気持ち。

 自分で言っていて、凄く嫌な気分になって来た……。




「あの時の自分の言葉に恥を覚えました。他国との交えた夜会でも、堂々とした姿勢で高い評価を得られました。……気付かない間に仲間も増やしていますし、騎士団も魔法師団の者達も、居ない間も何処か覇気がない感じでいましたから」




 私が居なくなった事で、ファーナムも何処か元気がなかったと聞くし侍女さん達はなにやら【見守り隊】から【親衛隊】へと代わり今では、王城の厨房の人達まで入っているのだとか。


 初めて聞く事ばかりで戸惑った。

 通る人に親身にされるのもそれが影響しているのだろうか……。




「不思議な魅力があるでしょう。……今では貴方は無くてはならない存在です」

「え」




 そう言ってイーザクさんは頭を下げた。

 こんな事では私の気が収まらないだろうと言われたけど、慌てて頭を上げるように言った。そしたらスティングさんが笑顔で――




「滅多に見れない光景ですから、記念に覚えておいて良いですよ」

「……遠慮します」




 何故だろう。親子の間でピリピリとしているのは……。 

 緊張した中での通信は終わり、スティングさんは私と居ようとしたのを「お前はこっちだ」と言って仕事場に連れて出されていった。




「ミャー!!」

「ミャミャ!!!」

「ごめんねーー!!!」




 長い間、離れていたから忘れてるかもと思ったけど、私に気付いたら耳をピンと伸ばして駆け寄って来る猫達。叩かれるのを覚悟したらポン、ポン、と顔や体に押し立ててスリスリと寄っては集まって来る。


 子猫に至っては私の頭の上に器用に乗って鳴いている。

 

 そこにナーク君がスタッと姿を現す。今まで騒いでいた猫達がピタッと動きを同時に止めた。




「えっと……今まで、ごめん」




 恐る恐る言うナーク君。

 猫達が私から離れ、あぁナーク君も歓迎するのだろうと思ったら……ボコボコに叩かれた。思いもしない行動に私が止めるように言っても聞かず、途中で様子を見に来たリベリーさんも巻き込まれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 意を決した私は翌日、ファーナムに言って派手にならなにワンピースを選んで内緒で城を出た。ナーク君と一緒に出てある薬屋に向かった。


 第1王都の薬屋。

 前に来た時は石造りの店だったと記憶していたが、今は木で作られた店構えで小さく掲げていた筈の看板。それが分かりやすい様にカラフルになっており、外には薬だけでなく雑貨も売っている様子。




(随分……様子が違うような……)




 でも、前に見た青や緑だったりと飲み薬の見た目としては触れずらい物が置かれているから……多分、間違いなくネルちゃんと大ババ様が居た薬屋だ。




「おや、珍しい客だね」

「……平気なの? ここに来て」




 内緒で来たと言い、2人は目配りで早々に店を閉じ入らせないようにと魔法をかけた。中に入ればレイン君とニーグレス君が掃除をしていた様子。

 私達に気付いて驚いた様子で目を見開いたけど、大ババ様が掃除をするようにとキツく言われてしまった。




「ふ~ん。王子やお世話になった人達に物を贈りたい、ね」

「………難しい、でしょうか」




 リグート国に来てお世話になってからと言うもの……何かを贈りたいにしても手持ちのお金はない。ナーク君に危険がない依頼を受けようかと冒険者になった方が良いかと相談したら、速攻で拒否をされて「ボクが代わりにする!!!」とまで言われてしまった。


 ……それは色々とマズいから断ったけど。




「物を贈るにもお金は必要だ。手持ちは全くないで良いんだね?」

「はい……。働くにしても料理は最近覚えたばかりですし、何かを作るにもお金が必要です。……色々と困ってます」




 居場所が作れても、認めても……やっぱりお礼がしたいと思うのはおかしな事だろうか。エリンスとの調整はまだ時間が掛かるみたいだし、レントは仕事で殆ど戻ってこないから、体が心配だけど。


 今の内に何か残せる物。もしくは贈り物をしたいけど、貯める為のお金の産み出し方が分からない。働いてお金を得るのだと分かったら、今度は何処で働くか、になるんだけど……。




「ならここで働くかい?」

「へっ……」

「ここならギルダーツ王子とも話せる。相談の1つや2つは乗るだろうよ」

「えっと……」

「薬の材料は……。そうだね、暇な男達に取って来て貰おうか」

「「「げっ……!!!」」」




 バッと3人が大ババ様を見てガタガタと体を震わした。

 ……え、そんなに危険なの?




「まず何をするにもお金が必要なら、ここで働いてみるのもいい経験だよ。妃になったらまず出来ない体験になるだろう。……今しかできない事もあるよ」




 今しかできない、か。

 この先、レントと共に歩むと決めたのなら確かに今日みたいな事は出来なくなるかも知れない。


 動けるのは今だけ……。内緒にするのは心苦しいけど、と思いながらも私は大ババ様の言う様に働くと言う事を始めた。

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