表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/256

忌み嫌われた力


 カーラスの容姿は見た目が女性と見間違う程に美しい上に細い。両親が整った顔立ちなのは良いが、何故男らしい見た目ではなかったのかと思った。しかし、その謎はすぐに解けた。




「おぉ!!! これは凄い……!!!!」




 バルム国の貴族は子供達を教育する為の機関を持っていた。初代の王と王妃が恵まれた高い魔力を有していたのもあってか、この国の者は昔から騎士でも魔法を扱える事が多かった。

 そして、カーラスは両親の秀でた才能を受け継いでこの世に生まれた。

 コントロールが難しく扱う者が殆ど居なくなった氷の力を持っていたからだ。




「………」




 思わず自分の手を見た。

 そこには手をかたどる様に淡く、だけど強く光り輝く水色の魔力の光。そこから感じるものは冷気。今もカーラスの周囲を囲うようにして生み出し続けられる氷の塊。




(……氷、なのか……よりにもよって……!!!)




 当時6歳のカラースは自分の力が氷以外であれば良いと思っていた。

 両親の、特に父親がその力で周りから遠ざかった過去を聞いていたからだ。出来る事なら母親と同じ風であって欲しいと言う願いはすぐに打ち破られた。




「………」




 自分の扱う魔法の力を見る試験。

 自分と同年代の子供達が集まる中、カーラスに集まる好奇な目と初代の王妃が扱っていたとされる氷に畏怖を覚える人と反応は様々。ここからずっとこんな目で晒されながら学ばなけれなならない事、それを両親に告げないといけない事の気の重さに早くからため息が零れた。


 反応を気にして帰り、嫌っていた力に目覚めてしまった事で両親の期待を早々に裏切ったと感じていたカーラス。




「そう、か……気を使わせたな」




 ふっと力を抜いたように笑い、そして自分の頭を撫でる父親の顔をどうにも見る事が出来ない。目覚めて欲しくない力に目覚めたのだから、もっと嫌がられるのだと思っていたが、父親も母親も自慢の息子だと笑っていたのだ。




「……がんばろう……」




 そんな両親の期待に応える。嫌っていても、こんなにも自分に対して祝福してくれるんのだから……。


 そう思ってからカーラスの気持ちはすっと軽くなったのだ。

 彼の才能は凄く飛び級で学園を卒業し、成人年齢の15歳には史上最年少の魔法師団の団長と言う地位にまで登り詰めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 カーラスの過去が話され、レントはお茶を飲みつつ聞いていた。

 ラーグレスから氷の力は珍しく、その為にその力を嫌う者達も居たと聞いていたからだ。




(才能がある人間は疎まれる、か……)




 王族である自分も含め、そう言った期待の目があるのは身に染みている。その分、彼等の隣に立てる妃と言う立場を欲しがる者達もいる。その言った視線や雰囲気に嫌気がさしている私達になんてお構いなく、とレントは心の中で吐き捨てていた。


 しかし、そんな2人の様子を意に介さないのが――




「嬢ちゃん。サービスだよ!!!」

「あ、ありがとう、ございます……!!」




 目の前に出されるのは色鮮やかな料理の数々。

 ウィルスは嬉しそうに食べ、周りでは騒ぐ声は冒険者達のもの。カーラスはレントに聞こえるように隣に座り、ウィルスも座ろうとしたらその前に向かい合わせに連れて行かれ、出てくる料理にすぐに目を輝かせた。


 最初はカーラスの過去だからとウィルスも聞こうとしたのだが、出てくる料理に夢中になり、その様子を微笑ましそうに見ている大人達は次から次へと持ってくる。




「……嬢ちゃん達、もう発つんだろ」




 悲し気にしっかりと告げた内容に思わずウィルスとレントは驚きに目を見開く。この国の結界は正常に戻り、既に王都での活気も元に戻りつつある。


 ウィルスに掛けられてしまった魔封じの枷から随分と長く居た様な感覚に、ふっと心にぽっかりと空いたような穴を感じた。





「平気だ。英雄の嬢ちゃんが助けて貰ったんだ!!! いつまでも頼りきりになる訳にはいかないって」

「そう言いながら、泣き顔をこっちに向けるなーー」

「そうだ、そうだ!!!」

「うっせーーーな!!!!!」




 騒ぎ立てる冒険者達にウィルスは笑いつつ、出された料理をゆっくりと食べその間にもカーラスは話を続けていた。

 自分の力を好きになれたのは彼女のお陰だ、と。




「……不思議な方です。私が嫌いなこの力を綺麗だと言ったんです。一度も聞いた事がない言葉だったので、ホントに驚きました」

「ウィルスの不意な言葉は心臓に悪いですよね」




 自分も自覚があるのだと言うレントにカーラスは何処か嬉しそうにしていた。その後、昼間からお酒を飲んで騒ぐのを気に止めずに適当な所で抜け出した彼女達。


 夕方の海辺は暑さが照り返す昼とは違い、涼しくも程よい暑さに包まれていた。ザザァと波が立つ音を聞こえる中、ウィルスは裸足で砂場に立ち海の香る匂いにほっと一息をつく。




(あっ、波が来ちゃう……)




 慌てて引き返すも、また波打ち際へと戻りを繰り返す。

 海に濡れないようにとスカートの裾を握り、膝下までの高さまでまくり上げては楽しそうにする。

 そんなウィルスの姿にまだ海辺で遊んでいた男性達はゴクリと自分の唾を飲み込む音が聞こえた。それに対してレントはギロリと睨み付けた。


 彼女は自分のだと言わんばかりの睨みに、最初は怖気ついたものの密かに見る視線は変えない。そこを、男達の彼女であったり母親であったりが連れ出していく奇妙な光景。


 しかし、ウィルスはそれに気付かないまま海と気ままに遊んでいる。

 彼女の仕草1つ1つに、人を惹き付けるような魅力を醸し出しては気付かない間に魅了される。




(……ホント、心が休まらないな)




 これを容姿が整った婚約者を持った者ゆえの宿命なのか……と呟く。何故だかリベリーが「いや、弟君だって同じだろ」とツッコミを入れた声が聞こえてくる。




「ふふっ。大変そうですね」




 そんなレントの表情から何を思ったのかを読み取る様に、カーラスが2人にと飲み物を持ってきた。未だに海と追いかけっこをしているウィルスを見て「あぁ……」と納得の表情をした。




「無自覚で人を魅了されますから、敵は多いですよ?」

「でしょうね……」

「でも、貴方はそれを覚悟の上で挑むのでしょう?」




 飲み物の入った容器を受け取りつつ、レントはニヤリとした。そんなの最初から覚悟の上だから、と。




「悪いですけど既にウィルスは私に夢中なので」

「……ちょっと、イラっとしますね。しかし貴方にしか託せないでしょうしね」




 頼みますよと言いながら、その瞳はレントを鋭く睨んでいる。

 ウィルスを悲しませたらどうなるかと言う脅しも含んでおり、ビリッと刺さるような空気にレントは怯まずに言った。




「任せて下さい。彼女を幸せにしてます」

「そうでないと困りますから」

「レントーーー、カーラスーーー!!!」




 夕日に照らされ髪が揺れる。

 薄い色素の為か夕日の色をそのまま髪の色へと纏うような、幻想的な輝き。それを放つのはレントの婚約者であるウィルスであり、彼女は自分の妃になる人物。


 いつも心を揺らされるのは自分だと言ったウィルスだが、彼女は自分の魅力をあまりにも知らないでいる。それが危うくてでも、それも彼女の魅力だと言われてしまえば何処か納得してしまうのだ。


 惚れた弱みだと言われれば素直に受け取るだろう。

 それ程に、レントは十分に彼女に夢中なのだから。




「カーラス。今度、騎士さん作って!!! また遊びたい」

「えぇ。いつでも作りますから遠慮なく言って下さいね?」

「やった!!!」




 ただ、とレントは思う。

 何で自分よりも先に他の男性に声を掛けてしまうのか……。そしてレントに向けてドヤ顔でいるカーラスも十分いい性格をしているなとこの時に思った。






~おまけ~



「それで、ウィルスがね――」

「姫様の可愛らしい所はこれだけではないんですよ」




 戻って来たレントとカーラスは、嫌がらせとばかりにリベリーとルベルト、ギルダーツに向けてウィルスの魅力を紹介し始めた。げんなりして逃げるのを逃がさないとばかりに、巻き込まれたリバイルもそのまま犠牲になった。




「止めろーーーー!!!! 姫さん中毒はもうこりごりだーーーーーー!!!!」




 木霊するリベリーの言葉を無視する位に、嫌がらせを続行する2人に早々に諦めモードの王子達。

 助かったのは二日酔いと判断されたラーグレス、バーレルト。倒れたナークと介抱していたスティング達。弟と同じようにクレールをデートに誘ったバーナンだけだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ