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第120話:お礼

ーウィルス視点ー



 昨日はルベルトお兄様と踊り、ギルダーツお兄様とも踊って楽しかった。そうそう、ルーチェちゃんとも踊ったしバーレク君とも踊ったんだ。

 ……あんなに踊ったのは久しぶりな気がする。いい運動にはなったかな。


 いつもはレントがいるのが当たり前だから、今度は違う人と躍るのも良いかも知れない。……ナーク君に言ったらなんて返されるのか気になる。


 よしっ、ものは試し。

 考え込む前に聞いてみれば良いんだよね!!


 そう意気込んだ私を不思議そうに見ていたお兄様達と、これからの事を話した。時間が過ぎるのは本当に早くて夜になるからってルーチェちゃんと一緒に寝る事になった。




「あ、お、お姉様、と……2人……」




 分かった途端、ルーチェちゃんがピタリと私の背中に張り付く。何故だかグリグリと頭をこすりつけられ、どう反応して良いのか分からずにルベルトお兄様に視線を向けると――




「珍しいね、恥ずかしいんだ」

「違います!!!」

「ならウィルスに面と向かえば良いんだよ。出来ないんだから、無理って言うのと変わらない」

「……いつも以上に意地悪です……」

「あれ。気付くの遅いね? 私はこういう人間だよ。ウィルスにも意地悪してるし」

「えっ!?」




 バッ、と勢いよく離れたかと思ったら大股でお兄様に近付き「謝って!!!」と言い笑顔で「嫌だ」と言えば……ヒートアップしていく2人。オロオロする私にバーレク君も同じようにオロオロとなる。


 2人揃ってあわわわっと言っている間にも一歩も引かない状況が続く。ギルダーツお兄様が見かねて、ルベルトお兄様を引っ張り出し、ルーチェちゃんをそのまま私に預けた。




「酔っているだけだ。またな」




 そう言葉をかけられ一瞬キョトンとなった。

 私とルーチェちゃんの2人に言っているんだと思い、慌てて「お休みなさい」と言って下がる。


 お兄様達は騎士団、魔法師団の人達とまだまだ飲む様子。……次の日、平気かな?


 ルーチェちゃんからルベルトお兄様の意地悪さ、私に対して行った事をずっと怒り続けていたが、一緒に寝られると聞いてすぐに切り換えた様子。


 


「ふふ~ん、お姉様♪」




 朝からずっとこうなのだ。

 ずっと私に寄っては甘えたような声に、年上として頭を撫でているとすぐにふにゃりと幸せそうにするのだ。


 ………可愛い。


 そう思って2人並んで城内を歩いているとクレールさんがバーナン様と話しえているのが見えた。

 膝から崩れたバーナン様が何かにショックを受けている様子。それに見向きもしないで行くクレールさんに思わず「良いんですか?」と気になって聞いた。




「変な事を聞いて来たから良いんです。あんな感じなのは放っておくんです」

「……」




 チラッとうずくまるバーナン様を見る。

 凄いショックを受けているし、クレールさんと出掛けたいのではと思う。バーナン様はクレールさんを婚約者にしている訳だし……私とレントみたいに出かけたいのだと言えば暫く瞬きをして考え込まれてしまった。




「………ハッキリ、言わないのが悪いんです……」




 ちょっとだけ顔が赤い。

 あ、ではバーナン様と出掛けるのだと思って声を掛けようとしたらレントに「ダーメ」と言われ後ろから抱きしめられる。




「他人は良いの。他人は」

「バーナン様もクレールさんも、家族になるのだから他人ではないと思うんだけど」

「「………」」




 あれ??

 何で2人揃って驚くのだろうか。ルーチェちゃんは顔を真っ赤にして「キュンキュンします!!!」と言っている。




「ウィルス!!!」

「わうっ」




 レントが嬉しそうにスリスリと顔を寄せてきた。クレールさんがバーナンの所に行き話をしているのが見えた。徐々に顔をあげていき、ぱあっと明るくなったバーナン様。


 子犬のような反応に可愛いなと思って見ていると、2人はそのまま何処かへと足早に行ってしまった。ルーチェちゃんがニコニコと私の事を見てて、レントに離れるように言ったらギュッと逆に力を入れて抱き締め返してきた。




「ちょっ、レント……」

「私達もデートしよ?」




 囁くように言われビクリとなった。

 目の前にはルーチェちゃんが居る。恥ずかしくて答えられないでいるとレントがしつこく聞いてくる。私の状態なんて丸わかりなのに、決してそれには触れない。


 私に、言わせたいんだ。




「わ、分かった……から。だからまずは――」

「ちゃんと言葉にして欲しいな」

「っ……」




 一気に熱が集まる。

 ルーチェちゃんの目の前で言えと? 


 期待を込めた目で見て来る彼女に答えるのと同時に、レントの絶対に言ってくれると言う自信。嫌だと思うも、この後はカーラスと出掛ける予定が控えている。

 

 時間を、無駄にする訳にはいかない。


 なら言えば良いのだろうけど……どうしても恥ずかしさが増す。やっぱり2人きりで言うのとそうでない、という違いがあるんだと思う。


 ……結局、押しに弱かった私はレントの言われるままの言葉を言った。


『私も、だよ。レントと一緒に……いたい』



 あぁ、もう無理!!!!!!

 状況が状況なだけに……。仕組んできたレントにイラっとなるし、ルーチェちゃんの期待に応えないとと言う変な使命感? みたいなのが働いた。


 ぐったりした私は逃げるようにしてカーラスとの待ち合わせ場所に向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「今日はありがとうございます。……あの、お水飲みます?」

「へ、へい、き……ちょっと、走っただけだから」




 そうですか、とちょっとだけ悲しそうに言ったカーラス。

 なんだろうか。ナーク君と被るような、捨てられた感のある雰囲気は……。

 



「や、やっぱり……貰おう、かな」




 チラッと見れば嬉しそうなカーラス。それを見て、ほっとしたような、してやられた感があるように思えた。

 ……うん。違うよね、と思っているとパキ! と、私の目の前にコップと水が出て来た。

 それを受け取ればひんやりとした感覚が手に伝わってきた。もしかしてと彼を見ると笑顔で「そうです」と肯定した。




「私の魔法で作った氷と水です。この暑さでも溶けない加工した物です。調整は元々、得意なので苦ではありません」




 話を聞きつつ水を飲んでほっとする。

 そんな私の反応にカーラスも嬉しそうにしている。王都の中央広場の噴水に私達は2人でいた。

 昨日、パーティーをした名残か行き交う人は、何処か眠たげにしながらもお店の準備をしたりしているのが見える。


 私に気付いた人達が「英雄さん」と言って話しかけられたり挨拶をする。ギルドに行く人は依頼の更新がないか見たり、カーラスが隣に居るのに気付いたのもありそんなに長い時間拘束はされなかった。




「英雄……ですか」




 ポツリと言った言葉。そう言ってどこか遠くを見る彼を盗み見る。


 カーラスが私に魔法を教えない方が良いと告げ、父様と母様もそれに賛成した。母様が魔獣に対抗出来る光の魔法の使い手なら、娘である私も近い力を持つ可能性はあった。


 大ババ様が言うには、その上の白銀の魔法と呼ばれるものであった。そして彼女は私に言ったのだ。娘の私が目覚める前に全てを終わらせようとしていたのでは、と。




(母様……優しいものね)




 カーラスに聞いたら私は無意識に物に魔法の力を付与していたようで、幼い時渡した金色の髪飾りがそうだったのだ。5年前に魔獣が攻めてきた時にカーラスは、周りが倒れていく中でただ1人耐えていた。


 彼の両親は共に魔力が高く、カーラスは氷と言う珍しい魔法の使い手。そんな彼が勝てなかったのが私の母様だと言う。




「レーベ様のコントロールもですが、瞬時の切り替えが早くて……手も足も出なかった」 

 



 今までの状況を話ながら、余程私の母様に勝てなかった事を悔しくしているので笑ってしまった。結局、勝てないまま別れてしまったけど……。




「ギルダーツ王子にした治療は姫様が行ったんです。その後、2週間ほど熱でうなされて彼は別れを言えないまま、国へと戻りました」




 きっかけはギルダーツお兄様ではあったけど、いずれは魔法の使い方を覚えてる必要があったのだと言う。それが成人年齢の15歳であり、父様もそれで納得したんだって。




「本当なら違う方にと探していたのですが。姫様はレント王子がお気に入りの様子で、頑なに嫌だと言っていましたからね」

「……」




 だから最終的に父様は折れたのだと言う。

 私が反対していた上に母様には「諦めなさい」と常々言われていた様子。


 幼い時の自分の話は、とてもじゃないが恥ずかしさが倍増だ。顔に集まる熱をどうにか逃がそうとしていると、私達の後を追ってレントが来る。




「ウィルス。おまた……せ?」




 ぽすん、とレントに飛び付く。慌てて支えるレントは、カーラスに何があったか聞くも彼は答えない。気になるなら姫様に、と言われて思わず睨む。




(意地悪……!!!)




 うぅーと唸る私にカーラスは笑顔で回避。

 レントだけが状況についていけないといった表情。だけど私を落ち着かせる為にと、愛おしそうに頭や頬を撫でれば「ひゅー、熱いねぇ」と言う声にギクリとなる。


 ギギギ、と振り返ればニヤニヤとした表情で私達を見ている冒険者達。見世物にされたと気付き怒る私にレントは楽しそうにして逃げる。



 そんな私達を暖かな視線で見守る人達は笑顔で溢れていた。その中でカーラスの表情は確かに静かではあるけれど、私を見守る様にして見ていたのは分かった。

 それは嬉しかったんだけど………。




「貴方方、気安くあの方に触れないで下さい。分かっていますか?」

「はい……すみませんでした!!!」




 その後、私に話しかけたからと言う理由で正座をさせたカーラスを必死で止めた。レントは笑顔で「別に彼の行動はおかしくないでしょ?」と何でか止める気はない様子。


 えっ……いつの間に2人は仲良くなったのだろうか?

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