第117話:意外な繋がり
ーバーナン視点ー
「ウィルス。ちょっといいかな?」
「はい!!」
元気に返事をし早歩きで来るウィルスに思わずニコニコとしていると、隣に居るクレールから軽く小突かれた。
「顔。緩みすぎです」
「妹みたいなウィルスの事を、兄のように接したらダメなのかい?」
「……。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。怒らないで、怒らないで下さい」
「バーナン様。どうしました?」
そっぽ向いているクレールに、あたふたしているとウィルスが不思議そうに聞いてきた。
あっ、と気付いて何でもないように振る舞う。
ウィルスの猫化が完全に治り、ギルダーツ王子と近況報告もした。王都では魔獣と魔物に蹂躙される所を、突然降った雪のような結晶の事で話題が持ちきり。
それが魔法によるものだと噂になれば、その英雄にお礼を言いたいと城に殺到。対応に追われる中、壊れた建物や瓦礫なんかを魔法で次々と解体または組み立てが始まった。
冒険者の魔法使いとか手伝っているのも地元の人だ。被害は本当に小さかったのだとギルダーツ王子は言っていたのを思い出す。
「王都での負傷者はゼロだ。王都だけでなく俺達が外に居たのも含め、城に居た者達も全て怪我と言う怪我はなかった。負った先から傷が治っていくんだからゼロなのも頷ける」
結界を張る前は本当に被害が酷かった。
魔物の攻撃を護る為の防御を張りながら、攻撃にも転じないといけない師団の人達の負担もある上いつもなら騎士団の人達が居るのが全員王都の外側――ギルダーツ王子やレントが居る場所へと移動させられていた。
リグート国も騎士と魔法師団との連携を重視している。
……こっちも、万一離れた場合の事を想定しないといけないようだと思い、話しの続きを聞く。
でも、それも結界を張った瞬間に全てが変えられた。
キラキラと雪のような結晶。その光が王都中に散りばめられ、魔物を弱体化し魔獣に関しては憑依された場合は人へ、そうでない場合はすぐに消滅していった。
他にも驚くことが起きていた。
怪我をしていたのは戦っている人達だけじゃない。王都に住んでいる人達も魔物達の攻撃から逃げる。その際に怪我をした人達も、時間が経っている怪我でも瞬時に治り体力も回復していったのだと言う。
「回復魔法の範囲を超えている。国全体を覆うだけの範囲魔法と魔物、魔獣に対しての攻撃魔法。大ババ様もそれだけの規模の魔法を扱うのは聞いた事がないんだと言った」
同時に違う物を発動させる。出来るのは違う魔法を交互に出し入れするだけで、そのスピードを上げる位。レーナスもラーファルも、同時に魔法を使っているように見えるけど、2人は瞬時の切り替えが早いだけ。
それだけでも大変なのに防御と攻撃の魔法を同時に使うなんて……。
ちょっと気が遠くなるのを「俺も、同じ気持ちだ……」とギルダーツ王子が言い互いに肩を叩きあった。うん。分かる……行動が読めない人が居ると大変だし、こっちの気持ち分かってくれないものね。
そう言った事も含めて彼とは仲良く出来そうだと思った。2人で感動している所にルベルト王子が「ここ、廊下だから部屋でやって」とズルズルと引きずられていったのは良い思い出だ。
「私が寝ている間にそんな事が……」
私の話を聞きながらショックを受けている様子のウィルス。クレールは「何しているんですか」とボソッと言われたけどね。
あぁ、誰も褒めてくれないの辛い。
言っておくけど、ここに来るまで大変だったんだよ。バーレルトさんは魔法が使えないから、私が全部魔物を倒したんだよ!? 護衛されるのは慣れてるけど、まさか自分がする側だとは思わなかったよ。
それを知ったラーグレスがすぐに「謝って下さい!!!」と、速攻で床に頭をこすりつけて2人して謝ったからね。……いや、私は怒ってないんだけどね。ただ、驚いただけでと言ってようやく収まった。
「義兄さん。お願いですから分かって下さい。魔法を使えないんですから危険な所に来ないで下さいよ」
「上から命令されたら無理だしな!!!」
「怒って話を方向転換しないで下さい」
「………」
どうやら向こうの家の上下関係ははっきりしているようだ。
ラーグレスが実戦で強いって事ね。
バーレルトさんの話をしたらウィルスが嬉しそうにまた家に遊びに行きたいです、と言っていた。……ごめん、それはダメかな。ほら、レントを怒らせる事になるし……。
「レントに聞いてみようかな」
自ら地雷を踏むんだね。チラッとクレールを見て、止めて欲しいなと視線を送ると首を振られ「そう言うのも全部分かっているのでダメでしょう」ともっともな事を言われた。……刻印、ズルい。
思っている事が互いに分かるのは、ね。
「うぅ~~やっぱり、緊張してきました。あの、本当に……出ないとダメですか?」
そんな上目遣いをしてもダメだよ、ウィルス。
首を振ると「うっ」と声を出しクレールに助けを求めるけど、彼女も私と同じで首を振ったから諦めた。
流石にここまで伸ばすのもね。
「頑張って。エスコートはギルダーツ王子だから平気だよ」
「………で、でも」
「ウィルス。遅いよ」
「へ、うっ……?」
迷っている様子のウィルスを引っ張り出したのはルベルト王子だ。
青いジャケットに白いズボン。右胸にはこの国の象徴を表わす花の形のダイヤモンド。そのブローチが日にあたっている事で、光の加減ではピンクっぽい感じにも見える。
(ローズクォーツも採れるからそう言った加工のものか)
光の加減でピンク、紫、透明と代わっていくのがこの国の王族の特徴としている色。ウィルスの事をチラッと見る。
妹のルーチェ様が侍女を連れてウィルスの事をドレスを仕上げて来た。と、言っても昼は夜会と違い軽装な服にするからと水色のワンピース。大きな花の髪飾りをしており、華やかさと明るさが彼女に合っていると思う。
レントは……似合ってるからとバタッと倒れたよ。
もうあれは気絶だよね。……ウィルスが気付く前に、バーレク様とナーク君のコンビが速攻で「何でもない!!!」と言ったのには笑ったけどね。
さっとウィルスを連れ出すルーチェ様が流石と言うべきなのか、素なのか気になるんだけど。
今日はこの国にとっての一大ベント。
国を助けた彼女を祝う為のものと新たな一歩を踏み出すと言う意味でのパーティーが行われる。
昼と夜の2回。
昼は無論、王都に暮らす人達とギルド関係者達の為のパーティーだから……既に出来上がってるんだよ。
「皆さーん。主役の到着だよ~~」
「ちょっ、ルベルトお兄様!?」
大声で言う王子にウィルスは小声で止めるように言うけど、彼は綺麗に無視してどんどん中へと連れ出して行く。
「おおっ、英雄様のご到着か!?」
「おっわ。か、可憐……だ」
「お、おお、お、女!?」
祝いの場って言うのもあるからか、既に冒険者達はお酒を飲んで陽気な雰囲気を一気にぶち壊している。……酔っぱらってウィルスに近付かれると、ね。
彼、来るし。
「うおわっ!?」
「あんまり近いと反応に困るんだ。無礼講とは言えその辺は分かってくれないと……」
不用意に近付いたが為にナークの蹴りを喰らいそうになった。
男の顔面ギリギリで止め、低い声で忠告したナークは多分怖い表情をしているんだろう。現に注意された男は無言で頷いている。
「あっ。ナーク君、何処に居たの。ルーチェちゃんと探してたのに全然姿を見せないんだもの」
「………」
ピクッとナークの肩が揺れる。
ルベルト王子は笑顔で静観を貫く中、ナークはゆっくりと振り向き――
「ごめんなさい!!! ボク、すぐに行きたいのにリベリーに邪魔されたんだ」
さっき脅した声はどこにいったのやら……。
凄い早変わりだけど、ウィルスは気付いていない。だってナークが脅している時、ルベルト王子と食べ合っていたんだ。
リグート国、ディルランド国から物資や食料を送ったし、それらを既に王都中に行き渡されたんだろう。既に自分達に合う好みの料理が次々と運ばれては、冒険者達によってすぐに消えていく。
「ふふっ。彼等は日々、ギルドの依頼をこなして貰っている。こういう楽しむ場も必要だよ」
「す、凄い酔っている人が多いんですね」
「悪気はないな。で、だ。お前さん、いい加減には離れたらどうだ?」
「いやだ」
既にウィルスの背中にくっつくナークが通常転過ぎる。
話しかけて来た男性をじっと見て見た。
金髪に浅黒い肌、薄い紫色の瞳を持った男性。ガタイはしっかりしているけど、見た目と違ってオールラウンダーっぽいかな。あれ、あの人……。
「イーベルさんじゃないですか」
「おっ、さっきはどうも」
私に気付いて挨拶をかわす。
さっき、と言うのはこの国の国王と話をしている時だ。ウィルスが私とイーベルさんを交互に見て、頭にハテナマークを浮かんでいる様子。
クイッ、クイッ。とルベルト王子の服の裾を引っ張る。
「あ、あの」
「あぁ、そう言えば言っていなかったね。彼はイーベル。表向きはこの国のギルドのSクラスの冒険者。裏は私達と同じ王族で、諜報員をしているよ」
ルベルト王子の説明にウィルスとナークは驚いて大声をあげた。
……あれ、リベリーから聞いていると思ったんだけど。私は聞いてたんだけどウィルスには……知らせてない?




