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第116話:みんなが変だけど、私はいつも通りだよ?


ーウィルス視点ー



 なんだか長く深く寝ていた気分。

 結界を張り直してからの記憶がない。頭が何だかフワフワとなって考えるのを拒否しているみたい。

 あれからどれくらい経って、私は……どうなったんだろうか?




「平気? 大丈夫?」

「ネル……ちゃん」




 そこまで考えてネルちゃんを見る。

 こそっと少し怯えながらなのが何でかなって思ったけど、あまり深くは考えられない。んー、頭がポワポワする……。

 するとネルちゃんの後ろからナーク君と似た年齢の男の子2人が同じく覗き込んできた。

 誰だろう????




「初めてまして。ネルの仲間です。ニーグレスと言います」

「え、別にちが──」

「でね。姫様!!!」




 急に痛がる彼――レイン君は恨めしそうにネルちゃんの事を見ていてそれを宥めているのがニーグレス君。


  


「と、言う事で私達はナーク君達と行動を共にしていたんです」




 そっか。ナーク君も私と同じように憑依されていた魔獣を、人に戻せるようになっていたんだ。凄いなぁ。


 今は復興作業中で、王都での被害もそれなりに収まっているからいつもの通りに戻るのは時間の問題。お兄様達が頑張っているのを聞いてなんだが嬉しくなった。


 ルベルトお兄様が無事で、本当に良かった。自分にも何か役に立てたのならそれでいいのかも知れない。




「姫様の魔法で助かった人達が多くいるんです。王都では既にその話題で持ちきりなんです。奇跡を起こしたのは誰だーって!!!」




 聞けば魔獣にされたアーサーさん、ギルドマスターのエファネさんも無事なのも私のお陰なんだって。ネルちゃんはそんな興奮状態のまま、レント達に起きた事を伝えに出て行く。そこにスティングさんが入れ替わりに入って来た。


 何故たが、頭の方を見てちょっとだけ残念そうにしていたのが疑問に思ったんだけど……そう思うとレイン君もチラチラと見ていたような気がする。


 見た目、なんかおかしいのかな?




「ルベルト様も変わりなく過ごされています。ウィルス様の治癒のお陰ですね。……体に異常はないですか?」

「あ、それならっ……!!」




 大丈夫ですと言おうとして、急に体中に痛みが走った。

 思わず「ぴっ……」と自分でもよく分からない声を上げてしまった。


 おかしい。寝てて体中に痛みが走るなんて……!!!




「ウィルス、平気!?」




 スティングさんの事を当然のように突き飛ばしてきたレント。呆気に取られるレイン君とニーグレス君が「えっ」と言っていたのを綺麗に無視した。


 


「スティング。緩和魔法」

「はいはい……」

 



 動じないスティングさんも普通にやってる。痛がってないなと思ったら我慢しているのだと言い、レントには何かとやられているから慣れだと。


 レント……スティングさんに何の恨みがあるのだろうか。

 そう思っていたら、その後ろから来たバーナン様に慌てた。え、来ているの知らなかったんですけど。




「慌てなくて平気だよ。私も突然来たって訳ではないし」

「兄様。ウィルスにはそう見えます。それに――」

「うん、分かってるよ。スティング、ウィルスの事を少しだけお願いしても良い?」

「はっ。自分に任せて下さい」




 キリッと礼をしたスティングさんに思わずポカンと見てしまった。

 バーナン様はリグート国の第1王子で、ギルダーツお兄様と同じ立場。今、思うと彼もこの国に来て平気なのかと今更ながらに心配になってしまった。




「ウィルス様。体を動かして痛い部分はありますか? あれば言って頂いて構いません」

「……。」

「ウィルス様?」




 スティングさんの呼びかけにはっとなり、腕を回したり肩を回して調子を見る。うん……大丈夫だ。さっきは動かそうとするだけでもかなり痛かったのに……スティングさんのお陰で歩くのにも支障はない。

 

 走るのはよそう。様子を見ながら、ね。


 カルラの時は色んな所を走り回ったりしてるんだけど、たまに私の時にその分の疲労が来る時があるんだ。




「ウィルス様が起きたのを聞いたよ。もう平気そう?」

「クレールさん!!!」




 笑顔で私を迎えてくれたのはクレールさんだ。

 王都で離れて以来だったから思わず抱き付いてしまった。……嫌われてしまったかなと思ってじっと見てしまう。




「私もウィルス様と会えて良かったです。ナーク君から聞きましたよ。料理を作るようになったとか」

「はい!!!」

「え。なにそれ、気になる……」




 バーナン様達が戻るまで、私はここに来てからの経緯を話しクレールさん達も飛ばされてからの出来事を話した。補足するように、ニーグレス君が話してくれたから分かりやすかった。



 そこにルーチェちゃんが入り、バーレク君も入ろうとしてギルダーツお兄様に連れて行かれたりとバタバタした。

 それがあっという間で、時間が経つのが早すぎる位に夕方まで語り合ってしまった。


 だけど、バーレク君の言っていた猫耳と言うのが少し気になった。

 いつの間に猫を飼うようになったのかな?

 

 カルラになったら、1番にバーレク君の所に行こうかな~~。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーレント視点ー



 大ババ様のお陰でウィルスは元に戻ったし、その際に記憶を塗り替えたという。

 今までずっと寝ていたと思っているのはその為であり、昨日までのウィルスの行動の部分は忘れているようにしているらしい。




「ギルダーツから念話で聞いたからね。……普段しない行動を本人の意識がない時は1番恥ずかしいからな。大胆な行動は姫様はしないのだろう? 私達が見なかった事にすれば良いだろうな、と思って」




 正直に言って助かった。

 知っているのは関係者だけだし、猫耳の時には近衛騎士は控えさせないようにしてもらっていた。

 第3魔法師団の人達には珍しがっていたし、スティングとレーナスとで何かしていたようだし……放っておいた。


 兄様がクレール達に口外しないように話してくれたから、ウィルスが気付く事は多分ないと信じる。

 まぁ……普段しない行動をしている訳だしね。

 ナークとネルなんかは嫌がって逃げてたし、ルーチェ様とバーレク様は逆に構い倒していたし。いや、上のお兄さんも同じ感じだったから甘えさせるのが上手いのだなと思う。


 無論、この事は彼等の父親に言うしかなかった。

 リベリーに抱き着いた時とかまだ城に居る人達だったけど、私達の世話をしている人も居る訳で……報告されるのは早かった。




「みゃ!!!」

「…………」




 実際、ウィルスの猫化のまま対面させたんだけどね。頭を抱えているのは仕方ないよねと、隣に立っていたルベルト王子をチラッと見る。

 彼は笑いを堪えているのか肩が震えているし、ギルダーツ王子は共に来ていたバーレク様とワザとらしい会話をして気を紛らわしていた。

 そして、カルラの意識のままだけど見た目はウィルス。そんな彼女は王様の周りをウロウロし、雰囲気が似ている事からギルダーツ王子の事を見ていた。




「雰囲気が似ているのは父様だからだ」

「みゃみゃ!!!」

「あぁ。俺はこの国に生まれて良かったと言えるよ」

「みゅみゅ……ふみゃみゃ!!!!」




 その後、ギルダーツ王子に抱き着いて甘えているのにちょっとばかりの……いや、かなりイラっとなる。不機嫌になるのをルベルト王子に注意されるしね。


 その流れでウィルスの呪いの事を言ったら、知っていたと思われる3人を思い切り睨み「隠し事か。……いい度胸だな」と結構な脅しをしていた。さっと青くなった王子達に、あぁやっぱり勝てないんだなと思いつつ自分の父様の事を思う。


 んー。あんまり威厳がないな、と言うのが私が感じる印象かな。

 



「じゃあ……もう知っているの?」




 経緯をウィルスに話すと驚いたように顔を上げた。ベットの上でくつろいでいたのが、食い付いたように私の事を見る。お風呂に入って髪を風で乾かしながら隣に座る。


 今は王族の居住区ではなく、秘密基地の中での隠し部屋とも言える場所。

 本来なら王族のみが住まう場所を、ギルダーツ王子が住み込みで働いている人達や近衛騎士達の為にと開放している。


 王族にしか反応しない仕掛けのここを私達が使う。

 部屋と言うよりは寝る為のベットが置いてあるだけだ。2人で寝ても余裕はあるし、フワフワなのはこの場所を維持している魔力で保っているという状態だからだとか。

 離れた所では兄様達が使っており、通路は入り組んでおりもはや迷宮に近い。ギルダーツ王子が歩き回って良いが迷ったらリバイルを呼ぶように言われた。




「じゃ、リベリーを伝言係に使うよ」

「おい……」



 睨んでいるリベリーを無視してそのまま迷宮の中を歩き回る事にしたみたい。クレールは落ち着けるからとさっさと寝てしまっており、兄様は誘おうとして早々に追い出されてしまった。




「………」




 その時のギルダーツ王子の何とも言えない表情が印象的だった。

 次に私の事を見て「あんなに落差があるのか」と言われた。それはウィルスとの仲の事かな?

 

 師団組は既に研究科での寝泊まりをしており、早急に作っている物があるからとスティングを引っ張っていった光景を思い出す。




「嫌だ!!! 俺はもっとウィルス様と話をするんだ。レーナス師団長はさっさと作って下さいよ」

「無理だ。発案者であるスティングが責任を持て」

「強制だから諦めてね? 私だって姫猫ちゃんとあんまり話せていないんだし」

「副師団長は俺と違ってウィルス様と一緒でしたよね!? 嘘、言わなくて良いですから」

「じゃあ……ね? 諦めてよ。終われば好きなだけ姫猫ちゃんと話して良いから」

「却下」




 すぐにそう言った私は悪くない。

 スティングが私の事をギロリと睨んて「お前はいつも一緒じゃんか!!!」と文句を言う。


 心が狭い? 当たり前でしょ。本当なら婚約者のウィルスの事は誰にも見せたくはないんだ。だって彼女の周りには人が集まり過ぎる。


 独占したくてもどんどんその時間は減る。

 スティングは話掛けなくて結構だ。そう言ったら「意地でも話す!!!」と大声で言いながら引きずられていった。


 もうこのままリグート国まで会わなくて良いかなって思う。

 兄様にそれは可哀想と言われた。クレールだって頷いているんだから別に構わないと思うんだけどね。

 ラーグレスが何も見ていないって感じで居てくれるのが助かる。




「えいっ」




 そんな事を考えていた時だった。

 ボフッ、とウィルスが勢いよく私に抱き着いて来た。




「どうしたの?」




 平静を装いながら私は質問をした。

 驚いたのもあるけれど、彼女はたまに大胆な時が多くなった。嬉しい反面、やっぱりカルラの時に起こした行動を忘れている事にほっとしている。

 ……うん、あれは色々と困るな。私の心が落ち着かないし、先が読めない。


 気付いたら何処かにフラッと行く。


 大体はギルダーツ王子、ルベルト王子の所。構って欲しいからとバーレク様も巻き込み、尻尾を強く触ってしまったルーチェ様にはあまり近付かない。なのに興味本位でまた近寄るから彼女の嬉しそうな表情が、ウィルスみたいにコロコロと変わるのが微笑ましいと聞いた。


 その間、私がどんだけ探し回ったのかを知らない。

 呑気に「みゃあ!!!」と元気な声を聞くと、安堵とどっと疲れる。マイペースに人を巻き込むのは止して欲しいな。




「ううん。こうしたかっただけ」




 甘えるような彼女の声が嬉しくてしょうがない。そう言えば2人きりなのは久々だなと思う。

 頬を撫でればくすぐったいように体を捻じらせながら、スリスリと体を寄せて来る。ずっと撫でているとぎゅーっとお返しに抱きしめて来た。


 分かっているのだけど、ウィルスはカルラと居るのが長い。自分が世話をしてきたのもあるし、呪いで苦しんでいた時にもカルラと過ごしている時間の方が長いのだから当たり前だ。その影響なのか、甘えたり嬉しそうにしている仕草が猫っぽい。


 本人は気付いていない。いや、気付いていたらこっちが翻弄されっぱなしだ……。何だかそれは嫌だなとも思う。

 



(主導権は握っておきたいんだよね)

「……レント」




 むっとしたように睨むウィルスに何でもない様に言う。

 今日の彼女はどうやら自分の事だけを考えて欲しいみたいだ。考え事しているのを「私だけ見て」って言われるし。




「ごめんごめん。平気だよ、ウィルスの事を考えていただけだから」




 そう言って頬にキスを落とす。

 嬉しそうにするから額や髪にもしていく。幸せそうにしているから、私も同じように嬉しい。


 その日、久々にウィルスと甘い夜を過ごした。ナークが朝、起こしに来るまで私は彼女の事を抱きしめなら寝ていたのだった。 


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