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第113話:姫さんとカルラ

ーナーク視点ー



 3人で結界を張り直してから丁度1週間。

 王都の復興作業はボク等も手伝ったから少しずつだけど戻っていくのを見ると、なんだか心がポカポカする。


 うん。やっぱり時間を作って、里の皆の分のお墓とか作りたいなって思うからリベリーに相談はしよう。




(……王子は、まだ部屋から出てこないな)




 ふと、王子の事を思い出す。

 エリンス殿下の事でショックを受けているのを聞き、ボクも確かめる術がないからシュンとなる。俯いている時に、ポンと誰かの手が置かれる。




「バーナン、様……!!」

「久しぶり。元気にしてた?」




 王子と同じ人を明るくさせる笑顔。

 バーナン様がボクに気付いて様子を見に来てくれたようだ。


 今、ボクが居るのは王都の正門前。門番の人の横に居るから心配かけさせたようだ。

 あぁ、暑さで気分悪いとか思われたかな。

 ボクは平気だって言ったけど、バーナン様がそのまま背負ってくれて門番の人に証明書を提示した。

  

 ボク等はギルトの転送魔法で王都の中だったけど、本来なら証明書を提示して中に入る必要があるんだって。無断で入って来るのは暗殺者とか裏仕事している人達だけどね。




「よう。また会ったな」

「?」



 ふと、バーナン様に背負われてぼんやりと考えていたら声を掛けられた。

 ………誰だろう。


 ダメだ。主と関係のある人は覚えているはずだったけど、思い出せない。思い出せなくてバーナン様の背中をバシバシと叩いてしまった。




「あっ……」




 さっと青くなる。

 思い出せないからって、バーナン様の事を叩いてしまった。正面を向いているからどんな表情をしているか分からない。


 どうしよう…。と考えているとリベリーがすぐに姿を現した。




「おせーぞ、バーナン。とろいんじゃないか?」

「君みたいに身軽じゃないからね」

「んで? ナークは何で青くなってるんだよ」

「ん? あぁ。バーレルトの事を思い出せなくて、私の背中を叩いたからじゃないかな。ほら、私は王族だし処分とかが気になるんでしょ」

「………」




 ボクはそんな会話をしてるのも構わずに、ガタガタと震えていた。バーレルトと呼ばれた人は「苦労、してんだな」と励ましてくれた。


 ボクはそれにもまともに答えられずに、コクン、コクンと頷くしか出来なかった。


 王子のお兄さんだからかな。

 怒ってないのに、まるで怒ってる感じに思うのは何故だろう。寒くないのに勝手に体が震える……どうしよう。

 リベリーが心配してきたのが珍しい。


 バーナン様は、何がなんでも怒らせないようにしないと。

 ボクが心の中でそう誓った矢先。


 「にゃー!!」と主がボクに抱き付いてきた。バーナン様ごと、まとめて……。ふにっ、と柔らかいものが押し当てられた。それが何かを理解する前にボクは意識をなくした。


  

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリベリー視点ー



 姫さんが猫化したと、そうルベルト王子が知らせる前の事。


 俺は姫さんとばったり会った。

 そのぉ……下着姿で、な。ナークに抱き付いてきたんだよ。普段なら絶対にしない行動だから、おかしいなとそこから思っていた。

 アイツ、今まで服を来た状態なら平気だったと言うかワザと気にしなかった。表情に出すわけにはいないから、ってな。


 まぁ、でも……なぁ?

 今度は下着姿で抱き付かれたからな。しかもずっと「にゃー、にゃー♪」と言うから姫さんどうした? ってなった。

 思春期だからかナークは、恥ずかしくなったからと自分から頭を打ち付けて気絶した。

  



「にゃにゃ!?」




 その行動に驚いたけど、まだ猫化したと知る前だったから引き剥がしながら俺の上着を羽織らせた。バーナンも手伝っていたら、今度は甘えたようにすり寄ってきた。




「え、ちょっ……」


 


 慌てるバーナンに唖然としたオレとバーレルト様。

 そのまま姫さんはバーナンに抱き付きふにゃりと顔を綻ばせて離れなくなった。




「ウィルス様、一体どうしっ……!!!」




 ピキリ、とバーナンが固まる。

 オレも同時に固まり、2人で視線を追った先にはクレール姐さんがいた。




「……。」




 いつもは無表情であまり笑みを浮かべない。だと言うのに、今の彼女はとっても良い笑顔をしていた。

 

 それだけ。

 たったそれたけでも体感的に背筋が凍った。あ、ヤバい感じしかないんだけど……。

 



「……バーナン」

「「はいっ……!!」」




 オレもつられて返事をしてしまった。いや、だって怖いし。ナークの事をバーレルトに頼んでたら、オレに「なにしてるの?」と訴えかけられる様に視線を向けられる。

 



「最低」




 パンッ、と。

 バーナンの頬に強烈なビンタ。そんでもってオレにもパンッときた。ヒリヒリする肌を摩りたいけど、ここでやったら倍に来そうだから我慢したんだ。

 目尻に涙が溜まるのなんか久しぶりって位に。それ位に強烈なビンタ。




「行きますよ、ウィルス様。服を着ないとダメです」

「みゃ……」

「服を着たらまたバーナンに抱き付いたらどうです?」

「ふみゃみゃ」




 大きく頷いたと思ったら、クレール姐さんの後を付いていく姫さん。ってか今、気付いた。……尻尾、生えてるのか?




「待て、待て待て!!! なに、さらっと受け流すんだ!!!」

「みゃ?」




 首を傾げて振り向く姫さん。

 キョトンとオレと姐さんの事を見て、姐さんの服を引っ張る。ずっと「みゃみゃ」とオレの方を指差し何かを伝えようとしている。


 多分、オレが声を荒げたから疑問に思った。だからそれを知らせようとしている。

 でもあんまり激しく動かないでくれ。中途半端に隠れてる胸が揺れるのキツい。直視出来ないから!!!



 

「お姉様!!!」

「ふみゃみゃー」




 ガバッとルーチェ様に抱き付いてゴロゴロと甘えてる。さっと視線を逸らした。クレール姐さんが拳を見せてくるから、見るなって事だよな。

 バーナンもバーレルト様を後ろに振り向かせて、前を見ろと言わんばかりに姫さんの方を向くなと圧力をかけてる。




「あっ、ちょっ……く、くすぐったいですよ」

「うみゅみゅ?」

「あ、いえ……お姉様を嫌いとかではなく……」

「うにゃーん」

「ふふっ。お姉様が甘えてくるの嬉しいですー」




 ルーチェ様? 意思弱くないか!!

 多分、姫さんの事を連れ戻しに来たんだよな。だから追って来たんだよな?

 なんか、キャキャウフフとかしてるように聞こえるんだが……。振り向きたい衝動をどうにか抑えて、ルーチェ様が姫さんの服を着せるために部屋に連れて行く。


 どっとした疲れが出て、オレ達はガクリと膝を折った。

 ナークを、落とさないようにしてくれたバーレルト様には感謝しかない。




「ん、んん……」

「あ、やっとおき──ぐはっ」




 な、何で1発腹に殴るんだよ……!!!

 オレ、なんもしてないのに。うずくまるオレの元にリバイルが来て「お兄さん、大変だね」と面白がる。


 ちっ、あとで覚えてろ!!




「にゃーん♪」




 ちゃんと服を着た姫さん(カルラ)は、オレにすり寄るから逃げられる前にと抱き抱える。大人しくしたかと思ったら時々、ぺちっと顔に向けてパンチがくる。


 リラックスした状態なのか痛くない。


 ピクピクッと動く耳が気になって軽く触れようとすると、姫さんが下から覗く視線と絡む。あ、マズいかと思ったらずいっと目の前まで持って来る。




(触って、いいんだよな……?)




 軽くつまむ。……うん、猫を触るのとなんら変わらない感触だ。城で姫さんと弟君、ナークの3人で飼うと決めた子猫や大人の猫。面倒を見る事もあり、その時に耳や体を触れた事はある。


 その時の感触は、今目の前に居る姫さんとなんら変わらない。しかも気をよくたのか「ふみゃみゃ♪」って可愛く鳴いてくる。


 くぅ……。猫なら思い切り抱きしめてるけど、ここでそれをやる訳にはいかない。ナークとかクレール姐さんから抗議が来る。ナークに至っては蹴りが来そうだから我慢してるのに「みゅう? みゅうみゅう~」って甘えて来る姫さんをどうすればいい!?


 そう思ってバーナンに助けるようにと視線を送ったら……無視された。くそっ、巻き込むなって雰囲気で訴えて来るな。ラーファルさんが姫さんに対して手を振ってて気付かないフリをしているし、その後ろではレーナスさんがブツブツと言っているのが怖い。

 

 もう少し離れてくれると助かるんだが……何でそんなに距離が近い。




「……全員揃いましたね。まず、なんでこうなったのかは分からないけど――」




 そんな中、ルベルト王子から経緯を聞いた。

 オレの事を一瞬だけ見て、ふいっとワザとらしく視線を逸らす。


 なんでも最初はギルダーツ王子の部屋に突入したと言い、次に大人しくしたと思ったからリバイルの隙を突いて窓から脱出。そのままバーナンと途中で会ったオレ等と遭遇。




「ルーチェに頼んだのに、結局上手く捕まえられないんだ。ウィルスの……飼い猫のカルラは、バーナン王子やナーク君の方を探したんですよ」




 あぁ、知り合いに会って安心したいみたいな心理状態か。

 んでもって、カルラはギルダーツ王子がお気に入りだからそれとなくひっついている。……だから、最初に飛び込んだのか。




「まぁ。見てわかる通り、見た目は姫猫ちゃんだけど中身がカルラの状態だから普通に考えてサイクルがズレたんだろうね」




 ラーフェルさんが姫さんの事をニコニコしながら頭を撫でる中での説明。切羽詰まっている筈なのにこの緩い感じは良いのか?


 姫さん、時々オレの事をペシッて叩くの止めような。

 そう思っていたら「ふみゃん!!」と元気よく返事したのに、またペシッと尻尾で叩かされる。そんな楽しそうにされたら怒る気になれん。……無心に、無心になるんだ。




「3日間、この状態なのかこのまま馴染んでしまうのかは分からないけど……。馴染んでしまうと今後困る事が多くなるから解決方法としては、呪いに詳しい人にどうにかして助言を貰えると助かるんだけど……」




 そう言って、魔女見習のネルの方へと視線が集まる。

 ネルの方は仲間のレインとニーグレスの2人の後ろに隠れてる。あぁ、カルラになんかされたのかなって思っていると……姫さんがネルの方に行こうとしている。

 ダメだと思っていると、さっとラーファルさんが気を紛らわす様に頭を撫でて上機嫌にさせた。……流石だ。




「………なら、大ババ様に聞けば何か分かるかも、だけど……」




 ビビる様にして答えるネルを気の毒に思いながら、ふと考えた。


 魔獣から隠れて今まで暮らしてきた魔女達だ。場所は何処かと思っていると既にリバイルが大ババ様の所に向かって報告しに行っている。そうルベルト王子から聞き凄いと思ってバーナンを見る。




「私に何を求める気なの」

「いや、別に?」




 先を見るのが優れているのはそっちもなんだが、と思って見ていたら変な誤解を生んでしまった。その後、姫さんを世話をするのに何故だかルーチェ様とギルダーツ王子、ラーファルさんが張り合う形になった。


 既にルベルト王子は仕事が終わったとばかりに、応接室から普通に出て行くし……って、え、止める気ゼロなの? ってか、オレ達に任せっきりか!!!



 オレは弟君が何も発さないでいる事と、姫さんが全然近寄らないのを疑問に思いながらも、誰が姫さんと居るかと言う変な争奪戦に巻き込まれた。


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