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第112話:猫化……?

ーギルダーツ視点ー



 ウィルスが新たに張り直した結界で、国の中に来ていた魔物や対峙していた魔獣達が倒されていった。あの雪が降るような幻想的な光を思い出す。


 魔獣がその光から逃れるようにしたら、駆け付けてきたルベルトの雷を喰らって消滅。アッシュから聞いていたが、本人の姿を確認するまでは信用出来なかった。




「ギル。遅くなってごめん」




 変わらない弟の姿。


 少しやつれたと感じるのはそれだけ会っていなかったからなのか。そうしている内に、アーサーとギルドマスターのエフィネが見付かったと言う報せが届く。



 2人共、魔獣に憑依されていたからと暫くの間、療養して貰う事にした。対処していたのがリベリーと合流してきたネル達だったから良かった。もし王都で冒険者達が防衛している所で暴れていた場合、魔獣が人間だった事で仕事に支障をきたす場合がある。


 知っている人間で対処したと言う幸運。ほっとした傍から、次々と状況は変わり知らされる報告の数々。


 父様も母様も無事だ。

 ルーチェが率先して2人と秘密部屋でじっとしていたからだと聞いた。その間、バーレクも頑張って防衛をしたのを聞き嬉しい成長を聞いた。


 しかし、普通にイタズラをしルーチェといた時には怒った。あの2人は俺を休ませる気がない。幼い頃からずっとそうだ。

 もう毒されたから無くなったら、それはそれで寂しい気もする。……いや、やっぱりなんでもないか。



 そして、結界を張り直し夜になった時の事。

 城の内部が破壊されていた出入り口、武器庫、魔法師団が使っていた施設や部屋がめちゃくちゃにされ別の場所へと移動を変えた。


 緊急時だからと本来なら王族の移住区にまで幅を広げて、働いている者にも使うようにと言った。住み込みで働く人達は、一瞬戸惑った様子ではあったが――



「あ、ありがとう、ございます……」




 と、何とか納得してもらい家族が居る者は同伴を許した。

 王都にも城も襲撃を受けている上で、誰かと寄り添いたいと言う気持ちの心理は働くからな。家族であれば無事を祈りたいのが普通だ。そう言ったら、最初に驚いた表情をし次のお礼を言われた。


 おかしな事は言ってないと思うんだがな。そう思って、リバイルの事をチラリと見れば彼はニコニコと。自分の事のように嬉しそうにしているのが謎だった。




「主の雰囲気が変わったからですよ。普段、思う事はあってもあまり言わないじゃないですか」

「……そう、か。おかしいか?」

「いえいえ。むしろそっちの方が嬉しいですよ。まぁ、ルベルト様は最初から見抜いていた節があるようですしね」

「………」



 

 優秀な弟だ。そうものかと思えば、リバイルは静かに笑った。

 なんだか、違うような感じも見えたが俺は俺でやる事を済ます。国王である父の働きで、城と王都の復興作業が進んでいく。 


 王都の方はあの人に任せているから平気だろう。 

 魔力が結晶化した、あの雪のような現象。念の為と言うか、研究熱心だからか既に第3魔法師団の人達が降った先から回収する為にとガラス瓶に入れていたと聞き頭を抱えた。




(欲望に忠実と言うか……いや、なんか違うような)




 その後、友好条約を結ぶ前だったがリグート国とディルランド国からの書状が届くと言う報せを聞く。以前からバーナン王子とは何かと連絡をとっていたが、条約での報せなど聞いていなかったな……。


 そう思っていたら、その書状を持ってディーデット国に来るんだと。

 リグート国の代表としてバーナン王子。ディルランド国からは宰相の息子がと聞いて驚いた。バーナン王子からの言葉を思い出す。




「弟のレントが気になってたんだ。ほら、こっちに離れて随分経つしさ。様子見がてらそちらに行くのでよろしく♪」




 ……うん。書状の件なんか一言も言っていないな。

 書状を持ってくると聞いたのは、バーナン王子との通信を終えてからだ。計られたなと思いつつ、弟の事を心配しているのだと無理に納得させた。


 レント王子とナークはあの結界を張り直した時に、気絶するようにそのまま眠ったとカーラスから聞いた。その後、ウィルスと違いすぐに起きてきたが途中で別れたエリンス殿下での事を引きずっている様子だとラーグレスから詳しく話を聞いた。




(魔獣ごと、消えたか……)




 エリンス殿下は父親の転移魔法を扱える。

 かなり厳しい条件付きでの扱いであり、彼自身デメリットにしかならない部分があると言う。飛ぶ距離に応じで魔力と体力を奪われるのなら確かにそうなのだろう。


 短い距離ならまだ良いが、長距離だとすると……。


 その可能性をレント王子はすぐに察しただろう。

 ナークが心配するが、彼はあれ以降塞ぎ込んでいるんだと言っていた。力になれる事は少ないが、こればかりは本人の力でどうにかして貰うしか方法はない。そして、結界の張り直しと調整をしたウィルスは2人と違い6日間は眠ったままだ。


 そして、7日目の朝、事件は発生した。




「にゃー!!!」

「………?」



 

 自分の上に何かが乗っているのを感じる。

 しかし、俺自身ずっと執務と復興作業での事でギリギリまで起きている事が多かった。夢と現実の区別がしにくい程、疲れ切っているのも事実。




「ふみゃ!!! みゃみゃー!!!」




 猫の夢か。

 確かに昨日は子猫が来た気がするが……。やけに近く聞こえるな。




「にゃん!!!」

「…………ウィルスか」

「うにゃにゃ!!!」




 もぞもぞと声がする方へと向ける。

 そこには馬乗りしてきたウィルスだ。彼女の頭にはひょこりと白い耳がピンと立っている。


 何だか、目尻に涙を浮かべているように見える。




「ふみゃみゃ。うみゃみゃ!!!」




 バシ、バシ、と。俺の肩を叩きながら何かを訴えている様子。

 俺が瞬きをしていると、今度は目の前をユラユラと揺れているものに目がいく。




(……尻尾?)




 ユラユラと。

 子猫が来た時に見た動き。ちょんちょんと器用に俺の頭を突き、今度は手で頬を触られる。

 ふにっ、ふにっ。それなりに強い力で押されるも、泣いている状況に全く事態が掴めない俺は夢だと断言した。




(確かに、癒される物は欲しいと……思ったが……)




 まさかウィルスが猫化してくるなんて思わずに眠いなと言う睡眠の欲求には勝てない。だから悪いが寝させてくれと頼んだら、ペシッと尻尾で叩かれた。




「うにゅう………」

「悪い。寝るぞ」

「ふにゃ!?」



 ビックリした表情をしたのを確認してそのまま寝た。

 起きてからも復興作業や執務やらで予定が詰まっている。悪いが、夢なら多分後でも見るだろうと思って目を瞑る。




「みゃ、みゃみゃー!?」




 今度は揺さぶって来た。

 次に頭をポンポンと軽くではあるが起きるようにと促される。


 現実でないと判断した俺は尻尾を掴んだ。途端にビクリとなった様子のウィルスに構わずに2度寝に入った。




「うみゃーーーーーーーー!!!!!!」




 声がリアルだと感じつつ、睡眠に勝てない俺はそのまま眠りにはいった。

 その後、どうなったかはリバイルに起こされるまで知らずにいた。 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ールベルト視点ー



 ギルの部屋から聞こえて来た叫び声に驚いて慌てて起きる。

 敵の襲撃かと思い、傍に置いていた剣を持ち隣の部屋へと足を踏み入れた。




「ギル!!! なにがあった……!!!!」




 リバイルも一緒に入って2人で対処しようとして手を止める。でも、私は慌てて扉を閉め近衛兵に部屋に入らないようにと伝えた。  

 そんな私の発言に戸惑いを見せた様子ではあるが、中の状況を見せる訳にはいかない。なんとしても、だ。




「し、しかし、ルベルト王子」

「ごめん。大丈夫だから気にしないでと言うのは無理だけど。……うん、大丈夫だから」

「で、ですが……」

「平気、だから」




 やけに強調した言い方をした。これ以上、近付くなと安易に伝える為だ。

 それが伝わったのだろう。私から言われれば無理に入る事は出来ない。説得して私が平気だというまで中にもだけど、暫くはレント王子の所での警備を任せて来た。

 ふぅ、と息を吐けばリバイルが「ご苦労様」と労わってくれるが。問題はここからだ。




「うみゃ!!! ふみゃみゃーーーー!!!」



 

 まず信じられない光景だと思った。

 でも、これは現実だし夢でもない。互いの頬を引っ張り、痛みを感じる事から改めて夢でないと認識できる。




「どう、します……」

「……そうだね」




 言ってても考えなんて思い浮かばない。

 なんせ、目の前では尻尾を握られた事で暴れるウィルスと暴れ回る声を聞いても起きないギル。




「みゃみゃ!!! うにゃーーー!!!」




 割と強めにギルの頭を叩くウィルス。

 頭から生えている猫耳がピクピクと動きながらも、必死で離れようとしている。だけど、握る力が強いのかビクともしない様子。




「っ。よしっ……これで」




 なんとか2人掛かりで引き剥がせば、手が離れた途端に素早く離脱される。スタッ、と私とリバイルの後ろに下がりながらも耳と尻尾が真っすぐ立ち「うみゅ~~~」と唸るような声をしてくる。




「警戒されたね」

「その様子ですね。………主が起きないのが不思議だ」

「連日の仕事量だから。疲れすぎて夢と現実の区別が出来なくなったんでしょ」

「あぁ。だからウィルス様のあの姿が夢と判断して、思い切り尻尾を握ったと」

「………やっぱり、ウィルスだよね」

「そのように見えます。ナーク君の事呼んでみます?」

「いや……混乱しそうだからよそう」




 そう言えば彼は「そうでしょうね」と予想がついていたかのように言った。とりあえず、部屋から出て行かないようにと2人で挟み込むようにして囲うしかないなと思いジリジリと迫る。

 その動きにピクン、ピクン、と耳が動きウィルスと目が合う。




「みゅ……」

「ウィルスで良いんだよね?」

「うにゃん!!!」




 よし、返事はしたし肯定も貰った。

 なんとか話しながら近付けば急に大人しくなっていく。その隙をついてリバイルがウィルスの首と尻尾を同時に軽く掴んだ。




「みゅうぅぅ………」




 ヘナヘナと力が抜けたかのようにペタンとなる。耳が折れ曲がり体全体がピクンと痙攣しているようだけど、なんとか大人しくなったとほっとしていると。リバイルが視線をさっと逸らした。




「す、すみません……何か上に羽織る物を……用意して下さい」




 そう答えるリバイルの表情がどことなく赤い。

 あっ、と思ってすぐに来ていたガウンジャケットをウィルスに被せる。忘れてた。今の彼女は水色のワンピースを着ている。下着と一体化しているけど、尻尾がお尻に近い部分だからパンツが丸見えか……。




「ごめん。色々、刺激が強かったね……」

「い、いえ。……このままと言うのも悪いので手を離します」




 そっと手を離し距離を取るリバイル。その間に、私が抱き抱えれば「うみゅみゅ……」と体を預けて来る。一先ずは警戒心を解く事が出来たと考えて良いんだなと思い、すぐにリバイルに指示を出した。




「……悪いけど、レント王子達を呼んできてもらえるかな。この状態の原因とか調べないと。その前にギルの事を叩き起こして良いから」

「分かりました」




 そして、私の言葉を受けたリバイルは割と容赦なく叩き起こした。

 寝ぼけているギルにどう説明しようかと思いながら、いつの間にか寝てしまったウィルスを見て静かにため息を吐いたのだった。


 

 

 

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