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第111話:やり過ぎ

ーエリンス視点ー



 ドサッ、と自分が落ちたのを理解するのと背中からの強い痛みに思わず咳き込む。




「ぐぅ、ぐっぞ……こっち、は……怪我、してるんだっての」




 なんとか体の向きを変え、這いつくばる様にして前へと進む。俺の予想通りなら、ここは自分の国とレントとの国の近く……ナークが魔獣化した大森林の中だと思う事ばかりだ。


 俺の魔法適正は炎だけ。


 だが、父親であり国王の魔法が扱える特異な2つの魔法を扱える。でもやっぱり父親の魔法を操るのには俺の身体は適していないのだと理解している。

 使う度に魔力を奪われるし、飛んだ距離に応じて体力も奪われるってデメリットしかない。


 短い距離なら全然良い。

 だけど、やっぱり無茶だったか……。




(まさか、ディーデット国からディルランドの自分の所まで、なんて……こんな無茶今までならしない)




 レントが努力して来たのを知っているからか、俺が感化されるとはな。とは言え俺が来たって事は当然だが魔獣も来てる。距離は離したが……向こうからしたら関係ないもんな。




「貴様!!!」




 あぁ、ほら。やっぱり来るんじゃないか。

 武器は壊されたし、体力も防御する為の魔力も空。意識もギリギリ保てるのが不思議な位だ。




(絶望的、だな……)

 



 迫る魔獣に対して火柱が上がる。

 俺が使うのより強力な、魔力密度が濃いもの。目の前に誰か来たのを確認したら途端に眠くなった。




(レントに伝え……)




 最後に頑張ったね、と言われた。

 誰かがそう言った。答えられる気力がないまま俺は気を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーバーナン視点ー 


 

「バラカンス、ジーク。殿下をディルランドに」

「「了解」」




 さっと動く幼馴染みに思わずクスリと笑う。


 リベリーから南の国であるディーデット国に、魔獣だけでなく魔物が来ていると念話を受けて大きな魔力が忽然と消えたと報告を受けた。誰のものかは分からない、と告げた時に感じた魔力。


 ナークが魔獣化してから出入りがあまりしなくなった大森林。


 両国で規制しているのもあり、商人の達はワザワザ迂回して貰う手間をとっている。

 あれ以降、魔力が溜まりやすいのか魔物が発生しやすくなっているとバラカンスからの報告で聞いていた。だから、魔物が強力になったのかと様子を見に行こうとした時、赤い魔方陣が大森林の頭上に一瞬で現れたのを見て慌てて飛び出した。


 赤い魔方陣はディルランド国の印。

 ディーデット国でその国の者はエリンス殿下以外にはあり得ない。ラーグレスが扱う時に出てくる魔方陣は青だ。だから、自分の直感を信じて向かえば隣からミリアが追って来たのだ。




「魔獣の気配がする」




 本人から言わせると居るらしい。

 何で出て来たのかと聞いたら銀色の光が彼女を包んでいるのが見え思わず「どうしたの、それ」と言ってしまった。


 聞けばミリアにもよく分からないのだとか。

 自分の内から出て来たものであり、包まれたかと思ったら魔獣の気配を感じてここに来たと説明してくれた。



 そうしている内に魔獣の真横に起きた火柱。それが意思を持ってうねり、蛇のように絡みついたかと思ったら色んな所から爆発が起きた。


 えっと……距離もなかなか近いからそう言うのは止めて欲しいんだけど。




「ミリア……あの、手加減……」

「え、何です?」   




 聞かれた本人はクルクルと持っている黒い杖を回しながら答えた。

 緋色の髪に同じ色の瞳のミリア。ナークの報告とウィルスから聞いて、彼女は魔女であり今は魔力を封じられている事情を知っている。

 魔獣が居るのを確認した途端に炎をぶつけてくるからビックリしたよ。

 




「お世話になっている人達に手を出すんじゃないわよ!!!」




 今もレントの親友であるエリンスに対して攻撃したからか八つ当たりの方に魔法を使っているしね。

 

 流石にこの辺一帯を焼き尽くすのは止そうか。

 ってか、いつもは大人しいのに本当はそっちが素なんだ。




「バーナン様、ボサッとしないで下さい!!!」

「あ、はい。ごめんなさい」




 反射的に謝ってしまったけど、あれ……なんかおかしくない?

 

 そんな事を思いながらも半分は魔獣、半分は男性の体つきと言う何ともアンバランスな魔獣を追いかける。握る剣に魔力を込め、鋼色から一気にエメラルド色へと変わっていく。

 その様子を見ていた魔獣は驚愕した感じでこちらを見てきた。




「っ、貴様……!!!」

「あ、知ってる感じかな?」




 なら遠慮なんていらないよね。

 縦に剣を振り下ろせば、巻き起こる竜巻。四方から来たそれらを退路を塞ぐようにして操れば当然、どれかには当たるよね。




「バーナン様も十分、怖いやり方を……」

「え、ミリアみたいに火炙りじゃないから良いでしょ?」

「風で押しつぶすのもどうかと思いますが……」

「形は残っているんだから平気平気。それに――」




 すっとミリアに目線をワザと合わせる。

 それを怖いと思ったのか彼女は無意識の内に後ろへと下がった。


 でも、魔獣以外に魔物も連れて来たのかミリアに襲い掛かるのを剣を投げ、頭の部分を刺された所から風化するように消える。ヒュン、ヒュン、と剣はまた私の手元へと戻る様にして舞うから普通に受け取る。




「レントの親友を殺しかけたんだ。あれくらいでは軽いよ。無論、ウィルスの事を狙おうだなんて思っているようなら容赦なんてしないから」




 風がなびく。

 ミリアの頬を私の頬を撫でるようにして流れる。でも、私が手を上げた途端にそれは強い風を生み出し手の平に竜巻を作り上げた。




「あ、もちろん。魔獣もなんだけどね♪」 




 逃げようとしたから真上から竜巻を叩き落としておく。

 ドカンと言う派手な音と周囲を巻き込むようにして、暴風が生まれて木々を薙ぎ倒していく。

 魔獣に向けた地点以外は見事に全てが薙ぎ倒されている状態。……しまった、派手にやり過ぎた。




「俺の出番をとるとはな」




 そこにアクリア王が現れた。

 あらら……見事にタイミングを見逃してしまったか。息子の無事を確認してからなんだろうけど。って、何でかこっちを睨んで来るんだけど?




「派手にやるなと注意しておいて、自分は普通にぶっ放すとはな」

「あ、あはははは。………ごめんなさい」




 シュン、となって謝る。

 ペコペコと謝ればその様子を見ていたミリアからは「……どっちがバーナン様なのよ」と不思議な事を聞く。


 ミリアに纏っていた銀色の光が薄れていき、完全に消えた途端に力が抜けたのか倒れるのを寸前の所で抱き上げる。




「ちょっと。いきなりどうしたの?」

「す、すみません……。あの膜が無くなった途端、魔力もゼロになった感じで……やっぱりあの仮面の者を倒さない限りは戻らないですね」




 ウィルスにかけた呪いが解けなくなる、と嘆く様子のミリア。溜め息を吐き完全に私に体を預けている辺り、彼女なりに色々と考えているようだ。そして、かなり疲れている様子なのも分かる。




「………完全に魔獣は消えたか?」

「一応、捻りつぶす様にしてやりましたけど」

「ギースの子供だが、そんなに過激だったか」




 おかしいな、と考え込まれるけど別に不思議でもなんでもない。

 家族を、大事にしている人を傷付けられたら誰でもこうなると思うんだよね。


 怒ってリミッターが外れる、なんてことも普通に起きるでしょ。




「魔獣の捜索と痕跡が無いかをすぐに調べろ」

「「はっ!!!」」




 アクリア王の指示を受けて魔法師団の面々だけでなく、殿下の護衛騎士達がすぐに動く。魔獣は形が残らない程に、私が思い切り派手にやってしまったから残ってないんだって……。


 宝剣の力って凄いな、と現実逃避をしつつアクリア王からの質問を上手くはぐらかす。


 その後、エリンスが目を覚ますまでの3日間。イーグレットが世話をし仲がますます深まった、と言う報告を受けて安心した。

 後からリベリーに聞いたらレントの落ち込み様が凄いんだと。今までのレントからは想像できない位にショックを受けているんだって。




「………じゃ、行くか」 

  



 エリンスが無事だと言えば元気を無くしたレントも元気になるだろう。

 1人で納得した私はさっそく父を丸め込んで許可を貰い、ディルランドからも誰か付き添いで来て貰おうかなと思ったら宰相の息子を紹介された。


 ラーグレスと共にディーデット国に向かった事があるから使えるだろうと、無理矢理に決めたみたい。


 さて、レントに会うのも2カ月ぶりかな。

 レーナスに至ってはもうどれ位会ってないのか数えていないけど……。事前にギルダーツ王子に話して置けば許可は簡単に降りた。



 いやー。着いた途端にあんなことに巻き込まれるとは……。

 うん。流石はウィルスだ。レントの婚約者なら楽しく過ごせる人が良いとは思ったから、本当に彼女で助かったよ。




「にゃにゃにゃーーー!!!!!」




 再会したウィルスが涙目なのはいつもの事、かな。


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