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第110話:苦労人

ーレント視点ー



「はあああっ!!!」



 

 迫りくる魔物を一閃する。

 剣を振った先から風が巻き起こり、竜巻となって他の魔物達を巻き込んでいく。魔力をさらに込めて質量を上げれば鋼から、エメラルド色へと変化しそのまま魔物を焼き尽くす。 


 続けざまに後ろから迫る巨体の魔獣。

 瞬時に十字を切る様にして防ぐも無理な体勢の為に、上手く力を流せずに軽く吹き飛ぶ。




「うぐっ……!!!」



 

 すぐでも後ろに下がりたかった。でも、ここは砂漠で足場がかなり悪い。

 今も、後ろに下がりながらも足を取られる場面が多い。その隙を付くように魔獣が攻撃を繰り出してくる。


 今度は口を開き、そこから魔力の圧縮を感じた。




(光線……!!!)




 少し離れた場所ではエリンスが魔物の相手を引き受けている。

 私ごとエリンスを巻き込もうとするなら、魔力を圧縮して光線として繰り出すのが良いに決まっている。


 瞬時にそう判断し、剣に魔力を自分自身に魔力を纏う。

 私の周囲に風が巻き起こった事で、向こうも即座に危険だと判断した。


 バクン、と1度自分で作った圧縮した魔力の塊を飲み込み――一気に口から書き出す様にして放たれた。




「!!!」




 自分を守るように、エリンスを守るようにして斜め上に剣を十字にして構える。




「っ、レント!!!」




 私を呼ぶエリンスが聞こえたが構っていられない。

 衝突した力はそのまま直進してくる。


 バチィ!!!


 魔力同士の衝突。

 込めた力が拮抗している場合、あとは魔力の質で簡単にひっくり返る。




「あああああああっ!!!」




 負ける訳にはいかない。

 私には、帰る場所が……守らないといけない人がいる。ここで負けたらウィルスに会えなくなる。そんなの、そんなのは――




「耐えられない!!!!」




 宝剣が更に輝きを増す。

 使い手を選ぶ、魔法の力を付与された特別な武器。私に、声に反応する。ここで負けたらダメだと言われているようで、そんな風に聞こえるような不思議な感覚。


 


「グ、グオッ……」  




 一瞬だけ魔獣が後退したように見えた。

 逃がさないと足を踏ん張り、剣を前へと突き出す。輝きを増した刃は魔獣が放った光線ごと飲み込んで魔獣へと押し返す。




「グガガガッ……」




 光線を出して硬直していたのか、逃げる間もなく弾き返された光は魔獣へと戻される。エメラルド色の光が魔獣だけでなく、後ろに控えていた魔物達にも攻撃が届き消滅していく。




「はあ、はあ………や、やっ、た……」

「レント!!!」




 片膝をつく私にエリンスが魔物を倒しながら駆け寄ってくる。

 そちらに振り返る力もない。どうにか倒れないようにするのが精一杯で、足と手がガクガクと思う様に力が入らない。


 無論、そんな私を魔物達が見逃すはずがない。

 空から飛翔してくる鳥型の魔物が、狙いを定めた様に突っ込んでくるのが見える。




「弟君!!!」




 迫る直前。真っすぐに突っ込んできた筈の魔物が真横へと吹き飛んでいく。それを何処かスローモーションのようにして、見ていればもう1度私の事を弟君と呼ぶ人物にやっとの思いで声を掛ける。




「リベ、リー……」

「レント!!! しっかりしろ!!!!!」




 意識は保っていた、と自分では思っていたけどエリンスの焦り様からそうでないと気付かされる。

 抱き寄せられる中で、なんとか笑顔を向けて「大丈夫」と言う風にした。即座に「バカかよ!!!」と何故か怒られる事になった。むっとしていると、体に力が入らなかったのに満たされる力に不思議に思った。


 「ご無事ですね!!」とラーグレスが気配もなくいきなり現れた。驚きすぎてビクリとなったのは仕方がない。

 うん、許して欲しい………。




「ほーーう。そう言う事情があったのか」




 リベリーが魔物を一掃していると急に遠ざかり追撃はせずに私の所へと戻った。ラーグレスからアッシュが記憶を取り戻し、本来のカーラスとしてウィルスの傍に居る事を聞いて一安心した。


 やっぱり、あの時の彼の様子……勘を信じてよかった。




「弟君。もしかして……こうなるって思ってたのか?」




 私がラーグレスの話を聞いてもあまり驚いていない事から、リベリーが疑問に思って聞いてくる。エリンスも無言だけど、同じ事を思っていたのだろう。


 軽く睨んで来るからため息交じりで答えた。




「なんとなく、ね。……ラーグレスと護衛をしていたって聞いていたし、ウィルスに会ってからの彼は明らかに様子が違っていたんだ。ここ数日の間、行動がいつもと違うと師団の人達から聞いていたからね」




 そう。アッシュ……いや、カーラスはウィルスと会ってから普段の行動とは違うと言う事を聞いたのだ。

 ミスをしない彼がミスをしたり、ブツブツと何かを呟きアーサー師団長の様に壁にぶつかったり転んだりと色々。




「そ、うですか……」




 笑いを堪えている様子のラーグレスに、エリンスは「そう言えば仲悪いって来たぞ」と小声で教えてくれた。……何かあるんだろうな、と思いつつある程度の体力の回復が出来た。

 水の魔法は治癒力を行えるけど、騎士であるラーグレスが治癒を扱えるのは珍しい。本来なら師団の……後方支援向きなのに凄いものだ。




「カーラスから色々と文句を言われたんですよ。こんな事も出来ないのかって」




 凄く、嫌な思い出だったのだろう。

 いつもの彼にしては珍しく、苦い顔をしながら言っていた。エリンスもその辺を感じ取っているからこそ、ワザワザ小声で教えてくれたと言うのに失敗した。




「え、あ……。わ、分かった……」




 誰かと念話で話しているのか、ラーグレスが妙にぎこちない。

 終わった後も何故だか溜め息を重く感じられる。しかし、その内容は彼にしか伝わっていない。




「今、カーラスからの念話で姫様と結界の張り直しをする装置の所まで来ていると連絡が来ました。あと、30分は持たせろと言う事です」




 30分、か……。

 一から作り直して新たに結界を張る作業がどういうものかを知らないので、想像は出来ない。ラーファルがやるような、新しい魔法を作る感じに近いのだろうか?




「カーラスが言うには2人の居た方向に魔獣が向かったらしいんですが」




 俺はそれで飛ばされたのでと、困り顔で言われエリンスと顔を見合わせれる。さっき対峙した魔獣以外にも、居る……?

    

 魔物は散り散りになって逃げたのが居るけど。そう考えていたら、ラーグレスがヒュン、と剣を抜いたのだろうが……早すぎて見えなかった。

 その剣筋は私の後ろに居たリベリーへと向けられており、ポタリ、ポタリと顔には血が流れていた。




「つぅ……なんだよ、いきなり……」




 右頬。そこに綺麗に線を引かれ、痛そうに顔を歪める。ラーグレス自身は首を落とす気でいた様子なのが分かり、私とエリンスは自然と剣を握っていた。




「おいおい。なんだよ、弟君まで」

「カーラスの氷はさぞ痛いだろ。思い切り上から落とされたからな」

「……は?」




 だから、とラーグレスが指を指した方向はリベリーの肩の上。そこに小さな氷の小人がいた。肩の上に寝そべりながらも、パキ、パキン、とこの暑さの中でも肩が凍っている様に私達は驚いていた。




「仲間に氷を使う奴がいて、カーラスも同じ氷だ。だから、身代わりにでも使えるんだと思ったんだろうが……間違いだったな」




 特殊な使い方をする、と含んだ言い方をした瞬間にリベリーの体が氷に包まれ柱を形成した。その柱の周りには、氷の小人達が囲んでおり新たに氷を作り出し近付かせない様にしていた。




「一体、どういう……」

「カーラスは、氷の扱い方が上手いんです。自分の代わりに探索させたりなどの使い魔を作り出すことに長けているからか、そこに自分の得意とする氷を付与させた」




 情報取集の役目を担う使い魔にそれを付与させたから、他と違い戦闘能力がある。そこを生かして、あとはどんな条件でもどんな天気でも適応出来るようにと日々研究を重ねて来たという。 

 だから、彼はバルム国の師団長と言う地位に居たのだと話した。




「今でこそ凄いと言われていますが、きっかけは姫様なんです」

「え、ウィルス? そこで、ウィルスが出てくるの?」




 何でもウィルスに作った小人や騎士。


 初めは動きがカクカクだったが、彼女にとってはそれが可愛く映ったのだろう。凄く褒めてまた作って欲しいのだと言い……そこからカーラスは寝る間も惜しんで研究を進めて来て、今の功績があるのだと言った。


 その時のラーグレスの……何とも言えない表情が印象に残った。

 苦労しているだと思っていると、リベリーの体が黒く変化し獣の咆哮が上がった。


 氷で動けない筈だった。

 腕がその中で急に大きくなり、人間の腕にしては大きく膨れ上がったそれが氷を砕く。膨張した腕に合わせて、人間の体を捨て新たな肉体へと変化していった。


 メキメキと体を大きくしていき、体長5メートル位。身体が黒く膜の様に包まれ、手の部分は尖って鋼にも見えた。




(でたらめな構造……だけど、溢れ出てる魔力が不気味に感じる)




 ナークが言っていた気持ち悪さが分かり顔をしかめた。

 それがいけなかったのだろう。その、ちょっとした隙をつくように彼の姿は一瞬で消え私の目の前に現れ腕を振り下ろしていた。




「!!!」




 いつもよりも宝剣に魔力を吸わせたと言う無理な使い方をした。その反動なのか、ラーグレスに回復して貰ったのに反応出来なくなる。しかし、それも一瞬で風景が変わった。


 ラーグレスの方へと倒れ掛かる様にして私は飛ばされた。私が居た位置にはエリンスが入れ替わる様にして立ちはだかり、代わりに攻撃を受けていた。




「エリンス!!!」




 直撃を避ける為に剣と鞘を使いう後ろに下がり、少しでも軽減しようとしたのだろう。

 心臓部分は守れても両肩がやられている。武器である剣も握れない様子で、既にその手に武器はない。




「ったく……無茶、しやがって。ラーグレス、命令だ!!! レントとウィルスは絶対に守れよ」

「な、殿下……!!! 何を――」




 ラーグレスが向かう前に、エリンスと対峙した魔獣の足元に赤い魔方陣が浮かび上がる。魔獣が再び私へと攻撃しようとするのを、炎で形成された檻が阻む。ハッとした私は体を無理に動かす。まさか、彼がやろうとしている事は――。




「お前と行動すると、苦労ばっかり……だな」




 それが私が聞いたエリンスの言葉だった。


 彼の魔法が発動した時、魔獣と共に姿を消した。


 あとに残ったのは変わらない砂漠。エリンスが居たという証拠がそっくりそのまま消え失せ、存在などしていないと言われているようなそんな気さえした。



「エリンスーーーーーーー!!!!!!」




 私はもう1度叫んでいた。

 友の、親友の名前を。可能な限り大声で叫んでいたのだ。

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