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第109話:仲の悪い2人

ーラーグレス視点ー


 俺はいつもの通りに殿下の傍に控えていた。

 すると、レント王子やリベリーが城の外での異常を感じ取った。と、同時に殿下は俺の手を咄嗟に取った。




「っ!!!」




 俺達が部屋に目を開けられない程の光が満たされる。

 すぐに収まったと思われる光を不思議に思いながら、次に自分の置かれた状況に困惑した。




「殿下……。っ、レント王子!!!」




 つい先程までいた筈の人達がいない。

 俺以外の人物達が忽然と姿を消していた。状況を理解する前に起きた爆発音。


 窓から見えた黒煙。

 王都にも広がっているのだとしたら、誰が何の為に起こしたのかと言う疑問。

 とにかく、と1度思った疑問は切り捨て姫様の所に向かう事にした。胸騒ぎを覚えてたんだ。


 5年前にも感じた事。

 姫様の近くで守れなかったあの時の自分と被ったからだ。




「あ、足が……足が……」

「ぐ、ぐしい……ぐるじぃ……」




 城内で勤務している文官や研究員、侍女達が突然の事にパニックにも近い状況に陥っていた。魔法を扱える師団もいるが、いくら優秀とは言え大人数を治療するのにはここは落ち着かない。

 何処からか入り込んできた魔物が狙いを定めて襲い掛かるのを、俺は即座に斬り倒す。後ろを振り返れば、恐怖で体が動かなかった侍女達が呆然と俺の事を見ていた。


 じっとしていると次の爆発が起きる可能性があった為に、俺はすぐに足を集中的に魔力を込めて治療を開始した。せめて、走られるだけには回復させる必要があると判断したからだ。




「あっ……足が……」

「これで走れる位には回復していると思います。さっ、彼の後の続いて下さい」




 師団の者が転送魔法を使い、ギルド本部へと移動すると言う説明を受け彼女達はそのまま姿を消した。姫様が居る部屋はここから近いと思い、向かいながら怪我をしている人達を治していく。

 下からの爆発の割には中はそこまで大きな破損はなかった。

 守りの魔法が城自体に施しているからか、もしくは姫様が張った結界の力のお陰かなと思いながら先へと急ぐ。




「……姫様?」




 姫様の居る部屋にもう少しで着く。そう思った時に。


 彼女は物凄いスピードで部屋を出て、一気に出口へと向かっていくのが見えた。何故だと疑問に思っていると、部屋から出て来た人物を見て咄嗟に瓦礫へと身を潜め自分を落ち着かせた。





「………」




 一瞬だけ。

 ほんの一瞬だけ、こちらに視線を感じたが気のせいかと思ったのだろう。

 吐く息を焦らず、一定にしながらも相手に気付かせないようにと気を使っていく。その内に気配が遠ざかるのを感じ取り徐々に瓦礫から身を乗り出す。




「今のはこの国のギルド本部のギルドマスター……だったな」




 レント王子も殿下も、この城に居る間は冒険者としてギルドの依頼をこなしている。だから、自然とギルドマスターとも顔を合わせている。そんな時、2人が同時に同じ事を言っていた。




「「雰囲気が変わった気がする」」




 言った本人達も何でそう思ったのか分からずに首を捻らせており、俺は時々でしか彼を見ていない。でも、姫様の慌てようと静かに出て来たエファネを見て2人の感じていた事が当たっていたのだと思った。


 そう考える中でも、姫様が逃げた方へと追いかけながら暴れている魔物を倒していく。バルム国での時よりも少ないとは思い警戒しながら進めていった。


 思った以上に時間が掛かったが、姫様の居る所はすぐに分かった。

 自分の魔力が何かに引っ張られるようにして、体が勝手に動いたからだ。そこでカーラスと合流し、姫様の無事を確認した。


 それと同時に……偽名でもあるアッシュではなく。

 本来のカーラスだと言う事はすぐに気付いた。彼は……姫様の前では猫かぶりをするし、雰囲気がガラリと変わるのだ。


 記憶が戻った事に感謝しつつ、やっぱり俺に対して敬語を使ってきたカーラスには正直……気持ち悪いとさえ思っていたので助かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーカーラス視点ー



 ラーグレスからある程度の状況を聞き一応は「ふうん」と返した。私が聞きたかったのは、何で彼がここに残されたのかという1点のみ。

 どうやって来たかなんて、関係ないし聞くなんて無かった。




「……あの人はどうした」




 エファネの事を言っているのはすぐに分かった。

 動きを鈍らせて思い切り刃を突き刺し、上からペシャンコにしてやった。いくらかの動きは鈍るだろうと言ったら途端に「おい」と言われた。




「やり過ぎだ。城の出入り口でそんな事」

「そんな事より姫様の安全が第一だ。お前もそうだろうが」

「……それは。まぁ……」




 渋々と言った表情だが、怒りがこれで治まるなど思うな。

 私を使って勝手に操った報いは確実に……確実に負わせる。そしたら「魔力洩れだ」と注意を受けた。


 私としたことが……。

 怒りのあまり周囲を氷漬けにしてしまった。どうしようかと思っていると姫様がピクリと動いたのを見逃さなかった。




「んん……」

「姫様。ご無事――」

「平気ですか、姫様!!!」




 抱えていたラーグレスを思い切り突き飛ばしておく。姫様が目を開けた時には私が映るようにして体を滑り込ませる事は忘れずに。

 目をこすりながらも私の事を呼ぶ姫様。……あぁ、本当に良かったと顔が緩む。

 



「大丈夫ですか。気分が優れていないのであれば言って下さい。すぐに治しますので」

「………カー、ラス?」




 もう1度名前を呼ばれる。

 困惑気味なのは分かっている。記憶を無くしていた時、2人きりで居る時には本来の名前で呼ぶようにと約束を交わしていたからだ。


 ラーグレスの存在は綺麗に忘れておく。

 ここで邪魔をしたら、奴でも容赦なく凍らす。絶対に、そう徹底的に動きを封じる事を心に決めていた。




「……もしかして、記憶が戻ったの?」




 コテンと首を傾げる姫様がそう判断をした。

 私が笑顔のみで答えれば、彼女は目を見張り口を手で抑えていた。既に目尻には涙が溜まっており、いつ流れてもおかしくない状況。


 手で拭いながらも、処理切れなくて流れてしまっている。そのまま、姫様は私に体を預けるようにして傾けて来た。




「もう、大丈夫……なんだね。カーラスって……呼んで、良いんだね……?」

「はい。今まで偽名で呼ばせてしまい……申し訳ありませんでした」




 そっと抱きしめれば姫様は「カーラスの方が、辛かった筈だから」と優しい言葉をかけてくれた。視界の端にラーグレスが起きていたのを確認し、ニヤリとしつつ姫様の事をぎゅっと抱きしめる事は忘れない。




「ラーグレス。大丈夫?」

「はい。姫様に怪我がなくて良かったです」




 私の傍に居てくれればいいものを、ラーグレスを気遣う姫様。

 あ、いえ。そんな優しい所も素敵ではあるんですけれどね……。むしろ、長所としてこれからも伸ばしてくれて良いんです。




「まずはレント王子達と合流した方が良いでしょう。魔獣に扮した人の見極めは出来ませんし」

「この城に仕掛けていた魔法道具は全て破壊してきた。この中で魔法を使うのに苦労はしない筈だ」

「魔法、道具……?」




 初めて聞いたのかキョトンとした表情。

 私は軽く姫様に説明を行った。

 

 魔法道具は魔力を込めた物を指す。

 物に魔力を込めるのは付与を呼ばれる特殊な技術が必要だ。魔力を放出するのが魔法のやり方なら、込めたものを物に宿す事が付与と呼ばれるもの。


 ものに魔力を込めるのはかなり難しい。冒険者達の間でなら、レアアイテムとして認知されているし、付与を行える人物を血眼になって探し製造機として酷い仕打ちをする連中すらいる。


 それ位に、付与を行える者は珍しい上に狙われる。


 


「それが敵にいるなら厄介です。敵……魔獣側に付与が出来る者が居るのなら、魔法を妨害できるように作れます」




 そう口にすれば、ラーグレスと姫様は驚いた様子。この城にはその妨害が出来るものが多く設置されていた。ラーグレスに師団の者も、普段よりも魔法の発動が遅くなっていた筈だと言えば奴は「あぁ……だからか」と納得したような表情をした。




(あのバカ、気付いていなかったな……)

「そう言えば、少しだけ遅く感じられたかも……」




 ラーグレスが気付かない中で姫様は気付いてた様子。心の中で拍手を送りつつ、凍らせた魔獣を見に行けばそこに姿はなかった。逃げられるのは想定内だと思い、自身の魔力を探る様にして探索の範囲を広げた。




(……風と炎の魔力の方へと飛んだか。姫様にはもう1度、結界を張り直すのをお願いするしかないか)




 結界の厄介な所は張った術者が解除しない限り、中で何が起きようと外で何が起きようと出られない点にある。


 唯一の脱出方法は転送魔法や転移魔法などの空間を介する魔法だけ。例え行えたとしても、張った人物が強い力なら反発の所為で魔法の発動させる度に魔力を取られている筈だ。


 元々、姫様を狙っていたのなら傍に居たレント王子達は邪魔でしかない。

 そうでなくても、彼女は常に誰かと居る状況だった。1人になった途端に、派手に動くなと思いつつ、姫様の為にやり返す事は絶対に忘れない。




「ラーグレス。ここから東側に向かってくれ。風と炎の魔力付近に魔獣が複数集まってきている」

「東……? 分かっ――お、おい!!!」




 奴から慌てる声が聞こえたが無視して、その方向へと転送を行った。突然、居なくなったラーグレスに姫様は「えっ……ラーグ、レス?」とキョロキョロと辺りを見回す。

 どうしたのかと私に説明を求める視線を送っており、当然のように私は答えた。




「彼を援軍として送り出しました。姫様が大事にしている人に、ね」




 含む言い方をすれば、姫様は恥ずかしそうに顔を伏せた。

 ……えぇ、貴方がレント王子と婚約者であるのも知っていますしアクセサリーを身に付けている事にも気付いています。幼い時に嬉しそうに話してくれたのとは違い、今は気恥ずかしそうにしているのが微笑ましいです。


 姫様の心を満たしてくれているレント王子には嫉妬を覚えますが、同時に彼女が笑顔でいるのならば……と思える人物はなかなか浮かんで来ないのが事実でもある。




「姫様。体が辛い所、申し訳ありませんが……結界の張り直しをお願いします。今度の調整には私も同行いたしますので、ご安心して下さい」




 跪いて頭を下げる。忠誠を示す様に、姫様を裏切らないと言う意味を込めれば彼女はお願いします、と返してくれた。差し出された手に忠誠真であると軽くキスを落とす。




「なにがあろうとも、姫様をお守りいたします」

「うん。……またよろしくね」




 まるで護衛をしていた時の気分が思い出される。

 あの平和を、笑顔を護れるのであれば……私はこの命を惜しまないと心に刻んだ。


 その後、姫様からラーグレスとダンスをしたと聞き、お風呂にも入ったのだと聞き笑顔をしつつも心の中では怒りで満たされていた。姫様、そう言う事は言わなくて良いんですが今回だけは感謝いたします。


 戻って来たらどう痛め付けてやろうか、と氷漬けの刑以外にも考えなければいけない。姫様と行動を起こしつつ、出て来た魔物に氷を繰り出した。

  

 八つ当たりをするように、姫様の視界に現れるなと込めつつ先を急いだ。

    

カーラスの優先順位

1位:ウィルス。

   自分を拾ってくれたルベルト王子。

   カルラ

   王族(ウィルスに関してのみであり、レント王子も含む)


2位:魔法師団関係者


3位:ディーデット国の騎士団


4位:ラーグレス


という基準で行動を起こしています。彼の中でラーグレスは何を行っても、最低順位です。

一緒に行動している時間は長い筈なのに……。ウィルスの見てない所では喧嘩ばっかりな2人です。


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