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第106話:危険な賭け

ーレント視点ー



 自分の心臓が鷲掴みされたような、苦しい感覚に思わず膝を折った。




「うぐっ……」




 今まで感じた事がない感覚。

 危険を知らせる警鐘だとしても、こんなに苦しんだことなど1度たりとも無かった。でも……それが今、現実に起きているのを理解したと同時にある事に気付いた。


 ウィルスからの信号。

 私が彼女に結んだ刻印の力だと気付く。ラーファルは、既に正常へと近付いていると言っていた。それは段々ではあるが、私にも分かった。


 初めは私にも色々と我慢し、自分の言おうとしている事を押し込んでいた。

 それでも、心の声は私には届いているしその時の彼女はそれには一切気付いている様子はなかった。


 だが、この感覚は危険を知らせるにはあまりにも生々しいものだ。




「どうした、顔色が悪いぞ弟君」




 さっと私に立ち、額から流れていた汗を拭うのは兄様の護衛でもあるリベリーだ。私の顔色の悪さに「姫さんに、何かあったのか……」と察しがいい質問をしてくれる。


 ホント、兄様が羨ましいとさえ思った。

 まぁ、私にも察しがいい護衛はいるからお互い様だと思っておく。




「そう、だ。……悪いが、付いてきて欲しい」

「おうよ、任せろっての」

   



 ニヤっと八重歯を見せる笑顔に思わず気を抜く。

 楽しい限りだと思っていると、エリンスとラーグレスが私に伝えて来た。


 例のギルドについて色々と分かった事があるのだと。




「こっちに協力してくれる人が居るんだ。その人は信用していい。……と、言うよりは俺達は会ってるしな」

「そうなの?」

「あぁ。それより……大丈夫か」




 顔色が悪いぞとエリンスに心配される。

 でも、これは私にというよりはウィルスの身に起きている事だからと告げるとラーグレスがはっとした。


 口に出そうとしてすぐに押し込んだ。

 恐らく自分が、と言おうとしたのだろう。でも、私が断ったのとエリンスがラーファルとレーナスに連絡をしようとしたことで意図している事を読んだ。




「怪我をしている可能性もある。治療できる人間を用意していおく必要もあるしね」




 未だに心臓を掴まれている感覚に吐き気にも近い症状を覚える。

 それだけ危険だと物語っているようで、私はすぐにリベリーと共にウィルスの元へと飛んだ。



 刻印がウィルスの居る所へと転送される。

 飛んだ先で視界を覆い尽くす程の黒。リベリーがすぐに風で目の前のものを真横に吹き飛ばす。




「ちっ、魔獣がここに入り込むってどういう事だよ」




 舌打ちしながらも対象への警戒を怠らないリベリーには、本当に頼もしさしか感じられない。

 そのままリベリーが魔獣を引き受けて気にするなと、既に役割分担もなされている。ウィルスの所へと駆け寄った時、私は腰に下げた双剣の柄に手をかける。


 そこには逃げている筈のアッシュがウィルスの事を横抱きに抱えていたからだ。




「彼女を攫う気?」




 自然と相手を威嚇するような声で告げる。

 アッシュは初めは微動だにしなかったが、少し遅れて私の方へと振り向く。




「リグート国の……王子、ですか」




 ふっと笑ったその表情に違和感を覚えた。

 なんだか、いつもと雰囲気が違うように思えたからだ。




「失礼。……彼女が、魔物に囚われていたので……体が勝手に動きました」

「………」




 ちょっとの間が気になった。

 彼女と呼ぶのに少しだけ、抵抗を覚えているような感じに見え彼の事をよく見る。


 ウィルスから聞いていた通り、彼は水色の髪に同じ色の瞳。

 以前は髪を短くしていたようだけど、今は1つに結んでいた。その髪を止めている髪留めが淡く光っていた。




(魔法が付与されている……?)




 魔法を付与させるのは相当な技術がいる。

 私が使っている宝剣でさえ、大昔の人達が作り出した遺産のもの。だから宝剣はレアアイテムであり、希少価値が高いものとして知られている。


 武器に付与させるだけでも難しい。それが身近にある物でも難易度は変わらない。付与させる対象は魔力に耐えられるだけの耐久性が必要になる。


 それだけに成功している事がどれだけの脅威となるかは想像がつかない。




(護りか……攻撃系か)




 さらに警戒していると、アッシュは「彼女の事、頼みます」と言って来た。


 思わず「は?」と言ってしまう。それ位に、アッシュからの申し出に戸惑いさえ覚えたからだ。




「彼女の体力は限界に近いんです。早く休ませて欲しいので……恐らく体力がすり減るような事をしたのでしょう」




 魔力の減り方が尋常ではないと答えた。


 そう指摘されて、私には身に覚えたあった。ウィルスが結界を張り直した時に、彼女はフラリと倒れそうになったのだ。聞けば魔力と体力を奪われるからだと答え、もしかしてその魔法を使ったのだと理解した。




「……何か思い当たる節があるのですね」

「……貴方に話す気はないですよ」

「えぇ、そうしていただいて構いません。いつ裏切るか分かったものではないですから」




 あと少し、と言った彼の言葉を聞き逃さずにいると魔獣を倒したと思われるリベリーが即座にアッシュの後ろへと移動していた。




「そのまま姫さんを弟君に預けろ。そんで動くな」

  



 いつでも捕える気でいるリベリーの気迫もそうだが、アッシュはそれに負けじと睨んできた。


 やっぱり、今まで会った印象の彼とはかなり違う気がする。


 そう感じたからか、私は自然とリベリーに離れるように言った。当然、彼は驚いていたがアッシュの言う様に今はウィルスの体力を回復させる方が良いと思ったんだ。




「………そうですか」




 渋々と言った感じで離れていくリベリーに満足気に微笑んだアッシュ。

 私が行こうとしたのを、彼は制して自分から行くと言った。




「貴方とは仲良く出来そうで安心です」




 耳元で告げた内容。

 それを質問する間もなく、アッシュは消えた。


 彼が消えたと思われる所から、水色の魔方陣が光るもすぐに消え去った。リベリーはそれに疑問に思いながらも、ウィルスを休ませようとこの場所からの脱出を行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ごめんなさい」




 アッシュの言う様に体力の限界の為に、ウィルスはルーチェ様と話終えた時には既に眠っていた。

 だと言うのに、彼女は私が来たのを感覚的に分かったように謝罪してきた。これには参った……。危険な事はしないでと言うつもりだったのに、怒るタイミングを見失ったではないか。




「少し寝たらどうだ」




 リベリーが心配したように声を掛けてきた。

 ウィルスの身体は水に濡れていた。魔物によるものだからとラーファルとレーナスが守護の守りを施した後で、すぐに侍女達が急いで体を拭き代わりの服をと用意をした。


 その間、ギルダーツ王子は妹のルーチェ様、弟のバーレク様の2人を連れて別室に呼んでいた。その後にルーチェ様だけはウィルスの様子を見に来ていたのだ。


 既に夜になっており、私は殆ど動かずにウィルスの傍に居たのだ。リベリーが心配に思うのも仕方ないのかも知れない。




「食事はここで食べる。今は……ウィルスの傍を離れたくない」

「……オーケー。俺は表に居るから何かあったら物音だけでも知らせてくれ」

「ごめんね」

「気にするなって。弟君の性格は理解しているつもりだしな」




 倒れるなよーと兄様とは違った感じの兄のように、心配したリベリーについ顔が緩んでしまった。

 今、エリンスとラーグレスにはルベルト王子の護衛も含めて頼んできている。ルーチェ様、バーレク様の護衛の者もいるから守りは万全だと思いたい。




≪レント。ちょっと良いか?≫




 その時、エリンスから念話が届く。

 それに耳を傾けつつ、私は寝ているウィルスの唇にそっと重ねた。




「ここに居るから安心してね」




 手を握ってそう言えば、応えてくれるように握り返される。

 それが嬉しくて私は暫く彼女の髪を撫で、頬を撫でた。


 そうされている間のウィルスが幸せそうに微笑むのだから、止めると言う選択肢はなかった。

 結局、リベリーが食事を運んで「姫さん見ながら倒れるとかマジで勘弁!!!」と乱暴に置いてきた時には……反省した。


 でも、と渋る私。

 それに彼は溜め息を零したかと思ったら「ほら」と私の口の手前で食べやすいようにとスプーンで運ぶ。




「………」

「このままだと絶対に姫さんよりも倒れるって。どうせ、離れる気が無いって言うんだから大人しく食べろ。文句言うな」

「はーい」




 そのまま恋人同士のあーんをさせられるとは、思ってもみなかったけど正直助かった。

 確かに殆ど動かないでいる私だ。恐らくは食事も頼まないだろうなと思いつつ、戻って来たエリンスに話せば爆笑された。



 ………本来ならイラっとしたのだろうけど、それよりもウィルスが無事でいた事と翌朝には元気な姿で居てくれた事の方が勝ってどうでもよくなった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーギルダーツ視点ー



「誰だ」




 ウィルスがルーチェ達の代わりに囮として、秘密基地を駆け回っていたと聞きその理由を問いただし終えた時。妙な違和感を覚えて誰も居ない自分の部屋へと声をかける。

 既に静かに抜刀している。出て来た時には斬り倒す気でいると「私です」と聞き覚えのある声に警戒心をさらに上げた。




「妙な奴だな。自分から俺に殺される事を望む気か?」

「流石にそこまではしないです。私はあの方を裏切らないと、決めたのですから……」




 俺の部屋は、まるで執務室の様な空間だ。

 自分の部屋にまで仕事を持ち込んでいるのだから、ルベルトからは休まらないだろと何度か注意を受けた事がある。


 自分で集めた趣味の本、1人掛けのソファーと執務が出来る簡易的な机とペン置き。その隣には寝室と言う物が少ないにも程があるのだろう部屋に姿を現したのは……追われている筈の人物――アッシュだ。




「逃げきれないからと俺を再び襲うか?」

「いえ……貴方にはお願いがあって来ました。そちらにとっても有益な情報だと思いますよ」




 俺の部屋の証明は少ない。

 今は、執務をする為の机にしか照明を当てておらずにおり闇夜に紛れて暗殺をする人間にとっては都合が良い。


 俺はそこで見た。アッシュの瞳が水色だと言う事を……。




「そうか。話は聞く……だが、俺に近付くな」




 俺が予想している事が当たっているか分からないが、これは賭けだ。

 追われている相手を信じるなど、普段はしないし行うべきではないのは分かっている。


 だから、それが無意味だと気付いたなら俺はウィルスに嫌われようともアッシュを手に掛ける心構えはある。それを感じ取った筈だろうに怯む事もなく彼は俺に告げて来た。




「では、ルベルト王子を襲った者の素性をお話いたします」


 


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