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第105話:失いたくない

ールーチェ視点ー



「すみません。ご無理をさせてしまって……」




 ルベルトお兄様の傷が塞がり、アースラからも順調に回復していると聞きほっと胸を撫で下ろした。ルベルトお兄様の方には、アースラが付いているから安心だ。


 今は、バーレクの護衛をするムジカがウィルスお姉様を簡易式のベッドへと横たわらせた。




「ううん。私は平気。……あの魔法を使うと、こうなんだ。結界を元に戻した時にもそうだったから」

 



 だから気にしないで、と笑うウィルスお姉様。

 私は……治癒魔法の適性がないから元々無理だし、バーレクも適性はあるが軽い傷位。ルベルトお兄様の体は、何かで貫かれたような痕があった。


 それが3箇所。

 両肩と左横腹。お姉様が治したのは、両肩の部分。左横腹は……あの人が治していった。今でも、本当に……不思議でよく分からない人だと思った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それは、ルベルトお兄様が襲撃を受け行方不明と聞き、次にギルダーツお兄様が襲撃を受けたと言うのを聞いてからだった。




「ルーチェとバーレクは暫く、部屋から出るな。食事は運ばせる……色々と窮屈だと思うが我慢してくれ」




 暫くは外部からの講師での勉強もなくなり、本来なら喜んでいる所だ。しかし、理由は私やバーレク、お父様、お母様に被害を出させない為だと分かるから……素直には喜ぶことも出来ない。




「………」




 当然、私は不機嫌でムスッとした顔を直す気はなかった。


 何処にも行くな、王女らしくしていろ。溜まっている課題をこなせ。


 ギルダーツお兄様からの雰囲気から読み取れたものに……深く、深く溜息を吐いた。

 そんな私の態度に、世話係でもあり護衛を勤めているアースラは紅茶を淹れ、クッキーを用意してきた。


 これで機嫌を直せ、と言う事よね。

 ふんっ、そんなのでは直らないから安心して!!!




「美味しい……」

「それは良かったです」




 はっ、いかんいかん。

 思わず、ペチペチと自分の頬を叩く。


 アースラは私が6歳の時から居る察しの言い2つ年上の男性だ。

 執事服を着こなした見た目では、失礼だけど騎士には見えない。でも、彼は騎士団に所属している正真正銘の騎士であり私の護衛として仕えている。


 朱色の髪に優し気な緑色の瞳。肩まである髪を、時々軽く結んだりしているなど彼の好みや気分で変わる。

 今日は結んでおらず、伸ばされた髪が私に向けられる度に揺れる。笑顔が似合うし、これがいつもの彼だと言われてもそうなのだろうと言う位にキラキラと輝いている。


 彼の家は何でもそつなくこなすのが普通らしく。

 それこそ、執事の仕事から諜報員の仕事など多岐に渡るものをこなしてきているのだと。思わずそんな人が私の護衛兼執事として良いのかなと思っている今日この頃。




「ルーチェ様が明るく元気で過ごしているのが、自分にとって嬉しい事なので」

「……そう」




 チラチラと様子を窺う様にしながらも、私好みの紅茶の味とお菓子の所為でいつものように過ごしてしまった。


 あぁ、こうではないのに……もう、アースラのお菓子はどうしても進んでしまう。




「……お姉様、は……平気なのかしら」




 ウィルスお姉様の事を想う。

 ルベルトお兄様とギリギリまで話していたのは私とウィルスお姉様だ。


 彼女は自国を失い、家族を親友を居場所を失くした身。

 私達と従妹であると分かってから、もしかしたらもっと前からそうだと気付いていたのかギルダーツお兄様は構う。


 別に悔しくはない。

 お兄様の雰囲気を変えたのは、間違いなくウィルスお姉様だからだ。


 ギルダーツお兄様は凛々しい方。

 周りにも自分自身にも厳しく接する。それはこの国の次期王としての務めだと兄様は言っていた。


 私には……その勤めに縛られているように思えた。

 バーレクもその辺は分かっているのだろう。私達は、幼い頃からお兄様に楽しくもっと大らかになって欲しいと思いイタズラをした。


 どうも、小さい頃からだったらしく私やバーレクに早くも護衛を付ける事になった。


 その原因は私達2人だと聞かされて、むっとした。

 何でお兄様の為にと行動を起こして怒られるのか。……そこから、バーレクと共にお兄様に笑顔になって欲しいからと悪戯を実行する毎日。


 アースラには相当迷惑だっただろうに、文句も言わずに私とバーレクを捕まえる日々。それも楽しかったから良い。



 それがリグート国に外交と言って、そして帰って来た時には驚いた。

 お兄様が……ワクワクしたような嬉しそうな表情をしていたのだ。

 勿論、仕事をしている時は普通。食事をしている時も普通。


 変わったのは……ウィルスお姉様と会った時だ。

 驚いた表情をしたのはもちろんだけど、その後にすぐに嬉しそうに微笑んだ。その変化にお姉様の服を選んで整えたアースラでさえ、驚いて手が止まった位だ。




「ウィルス様は魔法師団の方に今日も行かれています」

「……ずるいです」

「いえ。彼女の周りには常に誰かが居ます。婚約者のレント王子が居ますしべったりだそうですしね」

「会えないの……辛い」

「ルーチェ様」




 お姉様にもだけど、一番はルベルトお兄様だ。


 ギルダーツお兄様がまた自分を追い込む様な真似をしそうで……怖い。すると、壁からコンコンとノックする音が聞こえてくる。バーレクが内緒で遊びに来るのだと分かり扉のように壁を開ける。




「ルーチェ!!! お願い、来て!!!」

「え、あ、ちょっ……」




 ただならぬ雰囲気にアースラは「素直にした方が良いですよ」と言われ、そのまま王族の認証が無ければ入れない秘密基地へと入る。


 地下室の様な複雑な造り。

 ここでは寒さも暖かさもなく、一定の過ごしやすい温度での管理がなされている。それも、一重に魔法を扱う魔力を原動力としたものだからだとギルダーツお兄様から聞いた事がある。




「ムジカ。まだ居る!?」

「はっ。大丈夫です、バーレク様」




 ムジカは黄色い髪を1つに結んだ、バーレクと同じ位に元気のあるアースラと同い年の男性。2人共、幼馴染みだからこその仲の良さもありギルダーツお兄様とルベルトお兄様の信頼も厚い。


 アースラと同じく執事服なのはもう趣味だと言ってもいい。


 ムジカが固くそう返事をしたのは訳があった。

 私は驚いて思わず、アースラがいつも腰に下げていた剣を持って警戒する。




「今すぐ、お兄様から離れて!!!」




 ムジカが私とは反対側で武器を構えている。


 バーレクが慌てて来たのも分かる。

 アッシュがルベルトお兄様の事を抱えていた。ギルダーツお兄様を襲っただけでなく、まだ何かをしようとするのかと睨み付けた。




「警戒されるのは慣れている。……彼を、ルベルト王子を助けたくはないのか」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーウィルス視点ー


 ルーチェちゃんから聞いた内容。

 ルベルト様の左横腹を治したのは、アッシュだと言う事。


 彼はそのまま治癒を施してからすぐに姿を消したという。転送作用のある魔法瓶を使って消したのは自分が追われているからと分かっているのだと思った。


 ラーグレスが、彼に……枷を付けたと言うからその力を無視して魔法を使ったのは明らかだ。




(……カーラス。無事でいて欲しい……)




 ルーチェちゃんとバーレク君も、今日まで秘密にしていたのは辛かったのだろうと思う。本当ならすぐにでもギルダーツ兄さんに報告をしようとしていたはずだ。


 でも、まずはルベルト様の怪我を治すのを優先にしたのだろう。

 護衛の2人から包帯の取り方や服を着替えしたりと今まで大変だったのだろうなと思った。




「……役に立てたのなら良かった」

「はい。私、お姉様に会えて良かったです」

「皆さん、すぐに――」




 アースラさんからの声を最後まで聞く前に、ムジカさんと共に吹き飛ばされる。バーレク君が咄嗟に防御魔法を展開した。瞬間、衝撃が肌に伝わって来た。

 ビリビリと空気を震わす様な振動。眼前には黒くて長い腕。




(っ、魔獣!?)




 何処から来たのか分からない。でも、ここでルベルト様を見付けたら私達だって危ない。一緒に殺される可能性だってある……。




「っ、お姉——」




 ルーチェちゃんとバーク君の口を、自分の手で軽く塞ぐ。

 2人共、驚いて目を見開いているのが分かる。私は小声で言った。


 あれは、引き受けるから大人しくしてて、と。




「ほ、ほら!!! 狙いは私でしょ? 捕まえれるなら捕まえてみなさい!!!」




 幸い、顔は出ていない。

 人を見てすぐに襲ったから、暴れるのが目的なのかも知れない。でも……魔獣に関係した人らしきは私の事を狙っている感じだった。


 だから、多分……平気。




「にゃにゃ!!!」




 うん。カルラの声が私の中で響く。

 道はこっちだね!!!




「ダ、ダメ……お姉様!!!」




 ルーチェちゃんが呼ぶ。バーレク君が止めるようにと大声を上げる。


 でも、ごめん。ここで3人を見付けるような真似はさせない。私はきっと大丈夫。カルラも居るし、ラーファルさんから魔法について教えて貰った事もある。




「大丈夫、大丈夫……」




 無意識に出た言葉を無理矢理に飲み込む。

 平気だ。カルラと融合してもう5年。絶対に時間を稼いで見せる……。


 捕まるのも、ルーチェちゃん達が犠牲になるのも嫌なんだ。


 もう、誰も……失いたくなんてないから。そんな思いを込めて私は走る。黒い体の魔獣は予想通りに私に狙いを定めた。


 

   

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