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第104話:お願いします

ーナーク視点ー



 はぁ……ユイちゃんが意外に強引だった。

 クローバーで作った指輪は、互いにものだと言う証でもありあの村では好きな人に渡すのによく使われると言う。




「良かったねナーク君。お嫁さんがあんなに可愛い子で」




 スティングさん、思い切り楽しんでるし……。主になんて言えば良いの。女の子から告白されました、ついで結婚指輪も貰いましたって言うの!?


 いやだ。軽蔑されそう……。




「ウィルス様なら祝福するわよ」




 クレールさんが意地悪だ。ネルがため息交じりに「守れる者が居るのは良い事だろ」と言われ、思わずむっと睨んだ。




「そう言う事じゃないんだけど……」

「でも女性って時に大胆だよね。ユイちゃん、行動が活発なんだと思った」




 そうだね。

 最初の、魔物の時も周りから反対されていたのにそれでも母親を助ける為にと薬草を探していたんだものね。


 そう言ったら、スティングさんが「やっぱりユイちゃんの事好きになった?」とニヤニヤして聞いて来た。




「………今の年齢で好きになったら、危ない人じゃん」

「でも、成人した年齢なら5歳差でも平気よ。ナーク君だって、21歳になるんだし」

「………それまで彼女作るなって言われたんだけど?」

「むしろ作る気だったの?」




 ネルにそう言われたけど……んー、無理っぽいかな。

 今は主の傍に居る方が精一杯だ。




「よぅ。さっきの見させて貰ったぜ」

「女性は大事にしないと、いけないですよ?」

「………誰?」




 現れた2人組に思わず睨み付けた。

 ネルと同じく、黒いフードに身を包んだ。2人組の、ボクと同じような年齢の男。1人は優し気な表情の銀色が入った緑色の髪と同色の瞳。もう1人はクセっ毛のある茶色い髪に黒い瞳……。

 あぁ、スティングさん達以外の気配を感じていたからこの2人がそうなのかと思っているといきなり肩に手を置かれた。




「まぁ、成長して5、6年すれば美人になってるって!!! そんな美人な人が奥さんになるって羨ましい限りじゃないか」

「自分がそうじゃないからって、ボクに話しかけないでよ」

「………」




 ピリつく空気に構う気はない。

 そしたらネルが突っかかる人物を思い切り蹴り飛ばした。




「止めてよ、レイン。ナークの言う様に彼女がいないからってからかう必要ある?」




 ネル。ユイちゃんを彼女確定にしないでくれないかな……。そう思って見つめていると「似合うと思うよ?」とか言われた。




「連れが悪かったね。私はニーグレスと言う。君の予想通り、今までスティングさん達と行動を共にしてきたんだ」




 その後、2人はネルと同じ魔女であり拠点を移動しながらだった所を飛ばされたスティングさん達と知り合ってそのまま南の国、ディーデット国へと進路を決めていたのだと言う。


 その中で、今回の様に不自然に人が攫われて廃村される所が多くなっている現状にぶつかった。聞けば魔獣を増やす為の実験をしていた可能性があるって話。




「にしても、君は運が良いね。普通、魔獣と関わったらそのまま憑依の対象にされそうだけど」

「だって、ボクは1度憑依されたし」

「「…………え」」




 驚いて固まるニーグレスとレイン。

 ネルが驚かない所を見ると、2人からそれなりに事情を説明されたのだと思う。って事は、主に治して貰ったのも知っているんだな。




「憑依……されたのに、生きてるの?」

「うん。主に治して貰った」

「誰だよ、その主って」

「ボクにとっては命の恩人で大事な人。大好きな人である事には変わりないよ」

「「………」」




 別に変な事を言ってないし、隠す必要もないから言ったんだけど。

 2人して開いた口が塞がってない……。

 スティングさんがこのままだと埒があかないのを感じたんだろう。そのまま2人にボクの事を簡単に説明して貰った。   


 ボクが暗殺者だったのと、主に会って契約して自分がトルド族だって言うのを聞かされてさらに驚かれた。

 東の国からの方面だと知り、暗殺者になった経緯にも予想がついた様子。生きていく為に覚えたものだし、自分で選んだからそれに後悔はない。


 逆に言えばこれがなければ、主にも王子にも会えなかったんだから。

 本当の意味で自分の居場所と言うのを教えてくれた人達にも会えなかったんだ。




「あぁ、そうだ。君が憑依された魔獣を元に戻してからの事なんだけど――」




 ニーグレスは自分を落ち着かせてボクに伝えて来た。

 ボクが倒れてから村に魔物が入らなくなったんだと。この村だけでなく、これから向かう街も含めて出入り口に入れずその周りを周回するだけになった事で結界が元に戻ったのだと言った。




「ギルダーツ王子の報告ではそれ以降、結界に不備はないから完全に元に戻ったのだと聞きましたよ」




 主は元々、結界を元に戻せる可能性を秘めていた。

 ボクが魔獣を人間へと元に戻そうとしたあの時。確かに……主であるウィルスの魔力を感じ取れた。




(戻ったら、主にお礼を言わなきゃ……)




 あの時の、銀色の魔法。

 ボクが元に戻された時となんとなく似ていたから、主のだとすぐに気付いた。

 心配させないようにと離れたのに、結局は主のお陰で助けられている事実。情けないなと思いながらも、主の優しさが伝わっている事に嬉しさが増す。




(ユイちゃんのお父さんを、1週間見てたけど、魔獣の力は感じられない)




 恐らくは張り直された結界のお掛けかなとも思う。

 村を出る時に銀色の薄い膜を見たからだ。スティングさんに聞いたら、普通の人には見えていないんだって。


 魔力持ちなら見えるけど、光に反射して見えづらいから心配はないと言ったから大丈夫だと安心させてくれた。




「ウィルス様の魔力を感じますから、害はないから安心だよ。ナーク君がそれを聞いたら、ダメだと思うよ」

「念の為の確認。害がないのは分かるけど、専門職の人に聞いた方が確実でしょ?」

「……うん。そうだね」




 一瞬だけ驚いたようにボクを見てきた。


 聞いたら、ちゃんと確認してくれて嬉しいんだってさ。ボクは自分で溜め込む癖があるから、リベリーから注意するようにって言われてたらしい。


 


「彼、意外にナーク君の事を心配してるから」

「……余計なお世話」




 うん、本当に余計だ。

  

 顔に熱が集まるのだって気のせいだ。恥ずかしいとか、嬉しいとかなんて思わない。

 ……絶対に、違う。


 スティングさんにジロジロと見られるのが嫌だから、ボクは話題を変えるようにクレールさんに次の街はどんな所か聞いたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ールーチェ視点ー



 心臓がバクバクとうるさく感じる。

 もう夜で、時間が経つのを早く感じる。


 それはきっとバーレクも同じなのだと分かる。2人で緊張した面持ちで見るのは怪我をしてから、意識が戻らないルベルトお兄様。


 治療しているのは、ウィルスお姉様だ。

 私とバーレクが隙を窺い、王族でないと開かない秘密の部屋でお姉様に治療を……協力をお願いしたのだ。




「………。」




 お姉様の額から汗が出てきた。

 それを持っていたハンカチで拭うと、それに気付いたお姉様がニコリと笑顔を返してお礼を言った。




「もう少し、魔力を上げてみるね」




 怪我の具合で相手に注がれる量が変わる。

 魔法を扱う者同士で反発される時もあるからだ。反発されないギリギリのラインを探るのは、相当に疲れるし集中力が必要だ。


 5分程で変化が現れた。

 ルベルトお兄様の体を、銀色の光が膜のように包んだ。


 それまで苦しそうにしていたお兄様の表情が、一変して和らいでいく。




「あの……」



 悪いとは思いつつ、お姉様の事を窺う。

 フラリ、と体が傾くのを見て私達は同時に動いた。




「「お姉様!!!」」



 2人で受け止めると何だか疲れた様子のお姉様。

 でも、すぐに私達に微笑みかけた。




「時間は掛かったけど、大丈夫。……2人が毎日、包帯を変えたり着替えをしたり、アッシュから教わった事を実行したから。もう、大丈夫……」




 はっとバーレクとで顔を見合わせた。

 お兄様の呼吸も、荒くない状態。むしろ眠ったような、落ち着いた呼吸に私達2人はお姉様を強く抱き締めた。




「ありが、とう……ありがとう、ございます!!」

「っ……凄い。本当、凄いよ……」




 ルベルトお兄様が、無事だと聞き心から安堵した。


 そんな私達に、ウィルスお姉様はただ優しく抱き締め返した。嬉しさを分かち合うように、共有するような感じに……私はまたポロポロと涙を落とす事しか出来なかった。


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