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第103話:変化の兆し

ーレント視点ー



 それはウィルスと一緒に寝ている時だった。

 彼女の身体が急に銀色の光に包まれたのだ。淡く、だけど力強く感じたその魔力に私が身に覚えがあった。




(ナークを戻した時に、感じた魔力と同じだ)




 あの時、ウィルスはナークを戻したくて無我夢中で魔法を発動させた。

 私もリベリーも、原理が分からなかったし銀の魔法なんて聞いた事も無かった。


 そんな事を考えている内に、光はすぐに収まってそのまま消える。変わらない寝息が聞こえ、ウィルスに変化が無いのを確認する。




「今のは、一体……」

「……ん、うにゅう……」




 ウィルス自身は夢心地なのか緩み切った顔をしている。

 思わず起きているのでは、と頬を突くが彼女が反応を示すのは「うみゅう……」とニヤけながらムニャムニャとしている可愛い仕草が返ってくるだけだった。




「ふふっ、可愛いな……」




 このままじっと観察していながらも、頭の中ではさっきの現象が気になって仕方なかった。

 何であんなことが起きたのか。


 すると、そんなウィルスの口から発せられたのはナークと言う名前だ。

 護衛としてまたウィルスを守るのに、全力な彼の事を寝言とはいえ言葉として発せられるのは……心が穏やかではない。




「もう。婚約者の前で堂々と他の男の名前を出すとは……」




 むくれても、彼女は意識して出している訳ではない。

 離れたナークを思っての事だと言うのは誰か見ても分かる。分かるんだけど……分かるんだけど、やっぱり心としては晴れない。




「モヤモヤさせるのは、ウィルスだけだよ……もう、いつまでも私の心をかき乱すんだから」




 むにっと頬を引っ張ると、何故だかへらっとした笑顔を返された。

 それがなんだか面白くて、起きるまでウィルスの事を観察しながらも悪戯を実行し続けた。



 エリンスが強引に部屋に入って「いつまで寝てるんだ!!!!」と怒鳴りながら入ってみたのは、私がウィルスの事を遊んでいた場面。




「イチャイチャしすぎだ!!!!」




 理不尽な怒鳴り声でウィルスは「ふへ?」とコテンと首を傾げながらヨロヨロと起きあがる。寝ぼけながらも私に抱き着くから、その反応が可愛くて笑顔でいるとまたも怒られる。

 リベリーが来て「はいはい、気にしたら負けだから」とエリンスを回収しながら早く来るようにと言われてしまった。




「もうちょっと寝る?」

「んみゃ……」




 聞くと同時にそのまま私に倒れ込むようにして2度寝を始めた。それが面白くて、軽く抱きしめながら私も2度寝を開始した。


 そこからエリンスが起こしに来るまで、私とウィルスは起きなかった。その後、文句を色々と言われるが全部無視をしてさっさとギルダーツ王子の後をついていく。


 ウィルスがその後、結界を修復する作業に入り無事にそれが完了したのはすぐの事。



 この時、ナークにも影響が出ていたなんて私もウィルスも知らないままだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーナーク視点ー



 ボクの目の前に暗闇が広がる。

 知っている……この感じを。

 近くにまだ居る。嫌いな相手、主の敵、王子の敵……睨むのが分かり切っているのだろう。


 相手はつまらないとばかりに顔をしかめた。




「やっぱり、ボクはお前が嫌いだ。リナール」

「……っ」




 唇を強く噛み、ボクを睨み付けてくる。

 前と違うのは銀色の鎖が彼女に巻き付いている事。それは魔獣の力を抑え付けているのだろう。


 片足と片腕は、さっきの人みたいに黒い体を要して大きな手と足と言うアンバランスさがある。


 全身から変化するのに、中途半端さが何だが……リナールの醜さを現しているような、そんな印象を受ける。




「諦めろ。内側からボクを喰らうのなら無理だ。その鎖で思うように動けないんだろ?」




 舌打ちしながらもボクを睨むのだから、相当にイライラが増していると見ていい。

 いい気味だと思った。

 王族に手を出してただではすまない。


 やっぱり、リナールの言う「愛している」は狂気を感じた。


 主みたいに王子を思ってはいる。だけど、主みたいにキラキラした雰囲気じゃない。周りを変えるような……良い方向へと進むような感じではない。


 主の事は大好き。

 王子の事も好きだ。


 皆、2人の周りに居る人達は好きなんだ。

 暖かい光を、失うような事はしたくないし……させない。




「ボクは、お前が嫌いだしお前の思い通りにはさせない」




 何度、復活しても構わない。

 ボクへと憑依して体の自由を奪って、主を王子を殺すような真似は絶対にさせない。

 

 2人は絶対に守る。

 ボクに教えてくれた、光だから。




「リナール。お前は、絶対に表には出さない。ボクが何度も、何度もお前を……殺す」

「っ。や、めろ……止めろおおおぉぉ!!!!」




 ボクの心に、踏み込んでタダで帰れるなんて思うな。

 広がる光が柱のように形成されて、リナールを包んだかと思ったら──燃えた。


 ボクに熱気は感じない。リナールの苦しむ声も聞こえない。一瞬で全てが灰になった。




「お兄ちゃん…。お願い、起きて……お兄ちゃん」




 ユイちゃんの声が聞こえた。

 呼ぶ声が悲しげで、泣かせているんだと思った。


 戻らなきゃ……ボクが居るべき場所に……。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お兄ちゃん!!!」

「……ユイ………ちゃ……ん?」




 うっすらと目を開ける。

 ボクの手を握ってほっとした様子。スティングさん達も、ボクの事を見て安心した様子に、心配を掛けたのだと思った。


 それから、1週間は安静にと言う事でユイちゃんの家にそのまま泊まる形になった。


 スティングさんの話ではボクが使った魔法の所為が原因ではないかと言った。その間、ユイちゃんはボクの傍に離れないでじっとしたままなんだけど。




「ユイ。彼が困るから離れなさい」

「やだ!!!」

「……ユイ?」 

「いーーやーー!!!」




 助けたお父さんと娘の攻防が今日も続く。

 ボクは困り顔で、スティングさんはずっと笑っている。楽しんでいるのが分かり軽く睨んでも、涼しい顔をしてるから効果はない。




「ユイちゃん。あの、ボクに構わなくても」

「やっ!! お兄ちゃんのお世話する。ユイの事、嫌い?」

「ううん。嫌いじゃないよ。でも……」 

「お兄ちゃんの事、好き。大好き♪」

「あ、ありが、とう……」




 ユイちゃんの笑顔を見て、そっとお父さんの方へと向ける。ショックを受けたような、魂が抜けたようにフラフラと立ち上がる。




「娘はやらん!!!」

「お兄ちゃんのお嫁さんになるー♪」  




 お父さんの言葉と、ユイちゃんのとが重なる。

 ちょっとの沈黙の後で、ユイちゃんはボクに抱き付くしお父さんはガクリと膝から崩れ落ちる。


 困ってスティングさんの方を見ると、目尻に涙を溜める位には笑うのを我慢している。


 あぁ、助けないんだ。……どうするのが正解だろ。




「ユイ。すっかりナークお兄さんがお気に入りね。あ、違うか。将来の旦那さんね」




 あの、ユイちゃんのお母さん。

 そこは止める所であって、勧める所じゃないんだけど……。




「スティングさん」

「良いんじゃ、ないかな。……良い……報告が、でき……。くっ、ごめん。お腹、痛い」

「……勝手に楽しまないで下さいよ」




 ユイちゃんのお父さんを呼んだら「お義父さんと言うな!!」と怒られてしまう。じゃあ、名前かと思ったらそれも嫌だと返された。

 えっ、じゃあ、何て呼べばいいのさ。




「あのぉ、エリト……さん」

「なんだ」




 ユイちゃんのお父さん――エリトさんにギロリと睨まれてしまった。その横では母親のユンサさんがおかしそうに笑っている。ユイちゃんは……ボクの腰辺りにくっつきて離れる気配すらない。


 どうしよう、これが普通になるのかな。


 スティングさん、クレールさんおかしそうに笑わないで。ネル、頼むから君からもなんか言って。




「アンタ、私より年下が良いんだ。人それぞれなんだね、好みって」




 何でそうなるんだよ!!!!!

 あぁもう、エリトさんの睨みがどんどん怖くなってる。スティングさんに視線を合わせてどうにかしろと訴える。




「すみません、俺達はこのまま近くの村まで言って様子を見てこようと思うんです。この村の様に男性達が魔物に攫われて、女性や子供が攫われて廃村に追い込まれる。それを出来る限り阻止したいと思うんです」

「……それは、俺の身体が変化した事と関係があるんですか?」

「えぇ。噂程度なら聞いた事があると思います。ここ最近、魔獣と呼ばれる新種の魔物が暴れ回っているのを」




 それを聞いてはっとしたように、エリトさんとユンサさんは顔を見合わせる。そして、2人の口から語られたのはここ最近でその魔獣達が数を増やして周辺を荒しているという事。


 この村にも来るのではと怯えた暮らしをしている中で、他の村の様に男達が攫われ次は自分達なのではと思い依頼を出したのだと言う。結果、報酬が食べ物だからと言う事で受けたボクが釣られたって訳ね。




「ナーク君らしいですけどね」

「余計なこと言わないで……主に怒られちゃう」

「あるじ……? 誰なの、その人」

「ナーク君にとって大事な人よ。ユイちゃんがナーク君の事を好きなようにね」




 クレールさん、絶対に楽しんでますよね?

 じっと見られる視線に思わず、ユイちゃんの方に向くと……むすっとした表情でボクの事を睨んでいた。




「ナークお兄ちゃん。女の人?」

「そうだけど……ボクの命の恩人と言うか、大事な人と言うか……」

「………うぅ」




 それからプイッと怒ったように離れて行き、そのまま外へと出て行ってしまった。エリトさんはほっとしたようになり、ユンナさんは「あらあら」とか言ってユイちゃんを追いかけて行っちゃったし……。


 え、これ、ボクの所為なの!?


 さっと顔を逸らされた3人に何とも言えない気持ちになる。それから3日後、体調も良くなりこの村ともお別れだと思っていると……村の出入り口にユイちゃんが居た。

 あれから全然、話しかけないしボクが行ったら避けられるからどうしようかと思っただけにお別れを言えるのは嬉しいなと思った。




「ユイちゃん。最後に会えて良かった。……ごめんね、ボク達もう行くから」

「………」

「ここの村が助かってよかった。たまたまだけど、どうにか出来たんだから。お父さんにも会えたし、ユイちゃんの家族が元に戻ってよかったよ」

「行く……の?」

「うん。でも、また会いに来ても良いかな?」

「……良いよ。あと……これ」




 そう言って渡して来たのは4つ葉のクローバーで繋げた手作りのリングだ。へぇ~凄いなぁと思っていたら、ユイちゃんがボクの左手の薬指へと入れていく。

 ん、あれ……ユイちゃんにも同じようなものが……。




「結婚指輪!!!」

「「「ぶっ!!!」」」

「………え」




 ボクの後ろで同時に噴き出した3人は、今は気にする暇はない。

 と、言うか……え、結婚……指輪?

 

 それって、王子が主に送った指輪の事? あ、あれは婚約指輪か……。じゃない!!!




「ユイちゃん、まっ」

「や!!! やっぱりナークお兄ちゃんの事好きだもん!!! 成人して成長したら、絶対に絶対にナークお兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!!!」

「え、あ、ちょっ……ちょっと待ってよ」

「だから約束。成人したらお兄ちゃんの事を探して、見つけ出して結婚するの!!! それまで絶対に、他の女の人を好きにならないで!!!!」




 な、なんてことを言うんだ!!!! って、一体誰がこんなことを……。

 

 ユンナさんがニコニコしてる……えぇ、母親が犯人なの。

 そう思っていたら、頬にキスをされた。




「絶対に見付けるから、覚悟してて!!! その指輪、外しちゃダメだよ?」




 そ、そんな首を傾げながら言わなくても……。

 うぅ、これ主にどう伝えれば良いのさ。別に好きって訳じゃあないのに……。可愛い子だなとは思うけど、それは妹っぽいって言うだけで好きな対象には入らないよ。……そうだよ、入れたらダメなんだ。


 なのに、なのに……何でこんなに胸がドキドキするのさぁ~~~~!!!


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