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第102話:銀の光

ースティング視点ー



 魔物に捕らわれていた男性達と、洞穴を出た時に地鳴りがした。殆どの人はネルちゃんの薬で歩ける位には回復していたから、そんなに苦労はなかった。


 ネルちゃんもだけど、大ババ様から作り方を教わったからか効果は凄い。小瓶に入った薬を飲んで少し待てば走るだけの力は出ているのだ。



「魔物は仲間が倒しました。今の内にここから出ましょう」



 訳も分からない状況ではあるが、自分達が魔物によって連れ去られた記憶はあるからかすぐに行動を起こした。


 2度も同じ目には合いたくない。


 こう言った事もあり彼等の心と体は素直だ。悪いとは思いつつ、冒険者で依頼を受けた。と言えば、素直に言う事を聞いてくれた。

 そんな事があり、順調に洞穴から脱出し村まで送り届ける。



「パパー!!!」


「っ、よか、良かった……」


「わーん!! 寂しかったよーー!!!」




 村まで来れば彼等の帰りを待つ人達。

 子供や奥さんが、自分の夫を見つけは涙ながらに抱き締め合う姿がちらほらと見える。


 すると、そんな俺達に近付いてくる人が居る。

 茶色の髪に目尻にホクロがある女性と同じようにホクロがある年配の人。親子だと分かると2人は「あの、彼は……?」と誰かを探している素振りをしてきた。


 あぁ、ナーク君が言っていた村長の娘さんとお母さんとだと気付く。2人から本来の任務は終わっており、追加として彼等を助けようとしていたのだと聞き何で必死になるのかを理解した。



 そうか。自分と同じような境遇をさせたくない、か……。

 実に彼らしくて笑ってしまった。何と言うか、暗殺者だと言うけどリベリーよりも素直だし、扱いやすいし可愛いし。


 あぁ、扱いやすいは余計か……。




「そ、それで……彼は……」




 俺達がナーク君の知り合いだと説明をすれば、2人は心配したようにキョロキョロと探していた。そうしていたら、クイッ、クイッ、と俺の服を引っ張る誰か。

 ナーク君と被るような感覚。見れば10歳位の黒髪のオカッパの女の子は困り顔ながらも「あのぉ……」と聞いて来た。




(あぁ~~~~可愛い♪ けどっ、我慢、我慢だ。ナデナデしたら、ダメ……ダメなんだ)




 でも、欲望は素直……体は素直なのだろう。

 手がおずおずと撫でようとして引っ込めるを繰り返している。クレールからは既に冷めた目で見られており、背筋が凍るような感覚を覚える。


 でも、でも……。

 こんな困り顔の女の子が、女の子が……俺に質問しようとしているんだ。

 今も、どう言おうと迷って「えっと、うんと……」とか考えているのがもう……!!!


 俺、どうすればいいの!?




「どうしたの。そんなお兄さんじゃなくて、話してくれる?」

「うん!!!」




 クレール……。

 そんなってなんだ。んでもって、素直に頷くのね!!!


 あ、でも、「お兄さんが良い」とひしっとくっいてくるからまた嬉しくなる。ネルちゃんが「あのお兄さん変なんだって」と説明してくるんだけど、キョトンと不思議そうに首を傾げられるだけだ。


 ネルちゃん、段々容赦なくなってきたね。

 まっ、それでも良いんだけど。




「あの、お兄さん……。赤い目のお兄ちゃん、何処に居るの?」

「ナーク君の事? 今、別行動を……違う所で仕事をしているんだよ」




 そう言うと、分かりやすくシュンと落ち込んだ様子。

 聞けば周りはお父さんやお兄さんなど、知り合いがどんどん増えそして笑顔になる一方。その中で自分のお父さんが居ない事に、酷く心を痛めた様子。


 でも、と自分のお父さんが戻らない事に心を痛める中でも自分に優しくしてくれたナーク君の事が気になっている様子だとも言った。


 


「大丈夫だよ。ナーク君、強いから帰ってくるよ」

「……うん。私の事、魔物から助けてくれたもの」




 頬を赤くしながら話すから(なんだ、ナーク君カッコいいじゃないか)と思いながらニコニコと接している。すると、俺に「怪我、しないで欲しい……」と悲し気に言って来る。




(………仕方ないな)




 ポンポン、と軽く頭を撫でてクレールに「行って来る」とここをお願いするように言う。驚く事もなく「無茶はしないで」と言って素直に送り出していった。




「私も、行く」

「良いよ。でも、ネルちゃん。分かっていると思うけど」




 行動を共にしてきて分かった。

 ネルちゃんは魔獣を前にすると殺そうとすぐに動く。それで危ない目にも何度もあった。

 でも、今から行くのは魔獣でも恐らくはナーク君と同じように無理矢理に憑依をされた人間が相手だ。


 彼女に視線を向ける。 


 分かっているのか、と訴える。

 一歩、間違えば人を殺すことに繋がるのだと込めて見るとネルちゃんは少し考える。




「分かっている。……私の考え方も変わった。貴方達のお陰で、広く視野を広げられる事にもなった」




 だから、大丈夫。

 そう言いう彼女は、以前のような刺々しい雰囲気は幾分か抜けている。敵意を向ける相手には、敵意で返してきたのは嘘のような変わりぶりだ。




「そうでなくても、どうせ魔獣とは何処かで決着をつけないといけない。助けるついで、実行した奴を叩く」

「サポートするからあんまり暴走しないでね」

「………」



 

 え、何その間。

 何でこちらを見ないのかな? あっ、さっさと行っちゃったよ。


 もう、ナーク君と言いネルちゃんと言い言いたくない事はすぐに走るし……。溜め息を吐きながらナーク君が居ると思われる洞穴があった場所へと走る。


 空を見れば大部明るくなったように思える。朝を迎えるのは、もう少しかと考え俺は先へと行ったネルちゃんを追いかけるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーナーク視点ー



 振り下ろされる長い腕。

 それを逆に利用して飛び乗り一気に距離を詰める。もう少しで顔に近付けるという所で、頭上から来た爪に気付いてすぐに離れる。




「ちっ……」




 降りてもボクの傍をくっつくようにして繰り出す刃の攻撃。

 カマキリの形をした魔物は常に魔獣の傍を離れず近付かずに居るが、ボクが魔獣の傍を一定に近付いた時に素早く攻撃してくる。


 瞳の色が赤から紫に変わるのを見て上へとジャンプする。


 ゴオオォ!!!


 口から吐いたのは炎だ。

 ただの炎じゃない。瞳の色と同じ紫色の炎でボクが避けた時に木々に掛かる。燃えるだけで留まらずに、段々とその形が無くなっている光景を見てゾッとした。




(燃やしながら溶かすのか!!!)




 あれでは直撃を受けない様に紙一重で避けるのは危険だと判断する。

 あの炎を少しでも腕なり足に掠れば、そこから溶かしていくもの。木々を一瞬で溶かすものなんだから、人間の皮膚なんて意味をなさないと思い知らされる。




「!!!」




 咄嗟に自分自身に魔力を纏うようにして光を纏う。


 ズドン!!!


 一瞬にして自分の身体が地面に叩きつけられる。バウンドするようにして転がり気絶する暇もなくすぐに動く。即座に紫の炎が焼き逃げ場を失くしていく。



 洞穴が魔獣化した時に崩壊して頭上に逃げる。

 その時、魔獣化に手伝った奴と視線が交わるけど、ボクはただ睨み付けた。


 次会ったら容赦しない……!!!


 そんな思いを込めて強く睨み付けた。そんなボクを嘲笑うようにして、現れたカマキリの魔物は3体。内、2体は魔法ですぐに倒したが残った1体はそうはいかなかった。


 


(2体がやられてた魔法を警戒して、近接戦闘に切り替えた。……意識を共有していたから、警戒してあの炎を生み出したんだ)




 だとしたら厄介だと感じた。

 やられたのを糧に残った1体に情報が行くなら、別々に倒すよりも一気に全てを倒さないといけなかったんだ。残った1体も即座に片付けようとしたけど、魔獣に邪魔をされて手を出せなかった。


 そこからは防戦一方が続いた。

 紫色の炎を吐きながら、距離を保たされていればすぐに魔獣が迫っては爪で抉ろうと攻撃してくる。魔獣に集中すれば魔物が、魔物に集中しようとすれば魔獣が位置を変わる様にして集中を欠こうとしている。




「ナーク君!!!」



 

 炎がボクに迫ろうとした瞬間、逆風の様に炎が遠ざかる。炎が魔物の方に焼かれた時にそのまま輪切りにされていく様を何処か呆然と見ていた。




「どうにかするんじゃなかったの、アンタ」




 そのまま細切れにしていくのは魔女見習いのネルだ。

 城の時と同じように大きな鎌を振り降ろされる。ボクも魔物に容赦ないけど、あそこまで細切れにしなくても……と言う視線を送ったのに無視された。




「人の生活を邪魔する奴を倒して何が悪い」




 ごもっともな答えに、何も言えなくなる。

 自分でも驚いた位に乾いた笑いをしていると、ボクの魔力の質が変わった。


 今までは主が扱うような淡い光だった。ボクの身体を守る様にして、膜の様に現れてからずっと魔獣の攻撃にも耐えられるだけの耐久を得ている。

 叩き落とされても、体が軋む所かダメージが無い事に内心驚いたけど……何となく分かったんだ。


 主の魔力が一段と強く流れ込んでくるんだと、理解した。


 朝になってからそれなりの時間が経ったんだと思う。

 光から銀色の魔力へと変わる。その感じを忘れたくなくて、既に振り下ろされていた爪を消したいのだと願った。




「あの村に、戻ろう……。貴方を待っている人が居るんだから!!!!!」

「グウゥ……」




 その言葉にピクリとだけ反応したのを見た。

 主がボクにしてくれたように、帰りを待っている人が居るんだと訴えかける。それに呼応するようにして銀の光が魔獣を包む。


 銀色の繭のようになったそれは、ボクの願いを叶えるようにして一段と強く発し主が最初にやったような天へと昇るような柱が作り上げていく。




「嘘……こんな事って……」




 ネルが驚いたような声を上げた。

 ボクはそれでギリギリの意識を保っていた。最後に見たのは、黒い体になっていた魔獣が消え去って1人の男性がドサリを倒れるのを見た。



 元に、戻せた………んだ。



 主がやったことを、ボクが出来たんだと言う実感が得られた。倒れた人が、何処かユイちゃんの雰囲気と被るような気がした。


 何処かでお父さんだったら良いなと思ったボクはそのまま倒れた。驚いているスティングさんの声とか、慌てるネルの声が聞こえた。


 

 ほっとして。力が出なくて、何も考えられなかった。

 でも、何だか主に「頑張ったね」と褒められたような……そんな幻聴が聞こえた様な不思議な感覚。


 

 温かい力に包まれたボクは、そのままニヤケたようにして気絶したのだった。

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