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第98話:ナークの出発

ーナーク視点ー



 王子に、全部話した。

 ボクの中にある魔獣の力は確かに主によって取り払われたもの。だけど、しつこくいるのはリナールだと言う事。


 彼女が言ったボクを壊して、主も殺して王子に絶望を与えると言うのは言わないままにした。だって、話しをしている間にも王子の表情はどんどん……不機嫌になっていったからだ。


 ボク、思わず怖くて主の後ろに隠れちゃったよ。

 アッシュからも軽く睨まれた。


 ……何でこんなダブル攻撃を受けてないといけないの?




「……」

「ナーク君、どうしたの?」




 怖いのを逃れたくて主に、ひしっとくっつく。

 王子とアッシュからは不思議とイライラした視線を感じない。

 ……ならば、ともうちょっと近付く。


 元々、背中にピタッとくっついてた。ちょっと背伸びして主の首筋に顔を近付ける。瞬間、フワッと香る花の香りとボクにだけ突き刺すような殺気に……気付かないフリをした。


 誰がやったかなんて、分かってる。

 アッシュだ。




(主と別れるからもうちょっと、もうちょっとだけ……)

「ふふっ、くすぐったいよ」




 そう言う主は優しくボクの頭を撫でた。甘えていい合図なのはすぐに分かったから、そのままクンクンと匂いを嗅いだり堪能してる。




「猫か、お前は……」




 呆れたように言ったリベリーはガン無視。

 良いもん。主が甘えても良いからと撫でてきたんだ。全力で応えて何が悪い!!!




「……怪我、しないでね」

「うん。無茶しないよ……主も気をつけて」




 無傷と言うのは難しいかも、だが……。言ったら心配掛けちゃうから、一応はうんと返事をする。


 主の事をぎゅっと力一杯に抱き締める。

 あまり長くすると離れたくなくなる。すっと離れて、王子の所に向かう。




「ナーク」




 あ、怒られる。

 そう思って目を瞑ると予想と反して抱き締められた。驚き過ぎて目を開けてしまう。王子はボクに「ごめん」と謝ってきた。


 ボクがリナールの事で苦しめられた事。

 多分、王子にはあの女がしつこい事も含めて、全部自分が処理出来なかった事に対する謝罪。


 ……あぁ、王子には適わない。

 言いたい事も、ボクが言わずにいた事も……見抜かれてる。主に言わない辺り、全部分かってしまったんだと思い恥ずかしくなる。


 ぎこちなく抱き締め返して「時々、連絡はいれて」と念を押されてお金を渡される。




「ないよりいいでしょ」

「うん。……ありがとう」




 次にリベリーには、拳同士を黙ってくっつけた。

 任せろ、と目が語ってくるから安心した。任せるからには失敗した、なんて聞いたら怒る所じゃないしね。




「分かってる。お前、怒らせると手に負えないしな」

「じゃ、お願いね」

「ナーク君」




 行こうとしたら主から止めるような声がした。振り向く前に柔らかな感触に目を見開いた。真正面から抱き締められて、妙にドキッとしてしまった。




「本当……気を付けて……」




 泣きそうにしているのはボクの所為だと自覚している。

 主の傍なら、きっとリナールも出てこれない筈。だけど、それを頼りにする訳にはいかない。


 限界がきっと来る。


 その限界が来た時に対処出来ないでは話にならない。

 王子に絶望を望むリナールに、主を恨んでいると分かったのならボクは何があっても止める。


 それが、ボクに出来る事だから。




「行って来るね……」

「絶対、絶対戻って来てね……!!!」

「うん♪」



 

 もちろん、主の所に戻る気でいる。

 安心してと言う意味を込めて、ボクはキスを落とした。


 手の甲と額に、それぞれに送った。

 敬愛を示す手の甲に、額には友情を意味するらしい。キスを落とす所に意味があるんだと初めて知った。 


 ふふっ、ラーファルさんから良いことを教わった。




「ナ、ナーク君っ……!!!」




 真っ赤に染まる主の顔。

 手をブンブンと振る姿が可愛いな、と思っていると王子がギロリと睨んできた。

 



「これくらい許して」

「あんな事するなんて思ってなかったよ」

「ふふっ。主だからするんだよ」

「へっ、私の所為!?」



 

 どうしよう、どうしよう!! と慌てる主を、リベリーがガシリと頭を抑え「そうじゃないからな」と教えている。なんとか理解を示してから、ボクに向けて小さく手を振る。




《行ってらっしゃい、ナーク君》




 主からの念話。

 出来るようになってから、主からちょくちょく声が届く。

 どうも念話を出来るのが夢だったらしく、前にボクがやったのを羨ましがっていた。


 


《行ってきます。()()()()




 はっと息を飲む主に微笑みかける。

 ボクが名前を呼ぶことは殆どない。呼んだら王子から嫉妬の目を向けられるのは分かり切っていた。


 だから、念話だけなんだけど……何故だか睨まれる感がある。




「………」




 王子。ボクが言うのもなんだけど、心狭いと言うより独占欲強すぎな気もする。

 まぁ、主はそれでも良いらしいから良いんだけど。

 2人が良いならボクはそれを全力で応援する気持ちでいるんだけどね。


 その勢いのまま、挨拶をしようとある人の所へと向かった。

 なんだか王子が何か言ってたような気もするけど、関係ないからと放っておいて問題ないね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーギルダーツ視点ー



「詳細は分かったよ。でも、本当に良いの?」



 護衛をしているリバイルからは不満げな声があがる。分かってはいるが聞いて欲しい気持ちも込めて説明したんだが……不満か。




「不満も不満だよ」




 当たり前、と返されて困ったように息を吐いた。

 その時、リバイルが俺を守るように立つ。しかし、現れた人物にほっとした様子だ。




「ごめんなさい。邪魔だった?」

 



 ウィルスの従者であるナーク。

 彼はこれから王都に行く感じなのか動きやすい格好だ。しかし、それにしてはなんだが荷物が多いように思える。




「ボク。ここを離れて外を見て行こうと思うんだ」

「「えっ」」




 思わず俺とリバイルは顔を見合わせた。

 彼はウィルスの傍を四六時中離れないでいた。離れたのは喧嘩したと思われる3日間だけだと聞いている。


 そんな彼が離れる理由とはなんなのか、と質問をしたら簡単にではあるが答えてくれた。




「ウィルスは納得したのか」

「半々、かな。でも、主はボクの事を送り出してくれたからちゃんと戻って来るつもり」

「……つもり、か」




 むっとした表情で俺を見てくるから、言った自覚はあるのだと思う。引き出しに1枚の紙を取り出し彼に渡す。


 キョトンとしたまま受け取り、中身を見て目をはっとさせる。今、渡した紙は地図だ。魔女の隠れ家を記したものと、紅蓮の魔女であるミリア以外の外で活動している者の名前を別紙でまとめて張ったもの。




「……良いの? ボクの中にある魔獣の力が暴れるかも知れないのに」

「抑えつけたいんだろ? だったら魔法に詳しく魔女に助力を得ると言う選択肢はあって良いだろ」

「見た瞬間、暴れるかも知れないよ?」

「ウィルスの魔力を受け取っているなら、それらにも対応出来る。現に今、暴れていないんだからな」

「それは……」




 魔女を襲うと言うのであれば、繋がりを持っている俺達にも無差別に襲うだろう。むしろ破壊を尽くす魔獣が、選んで暴れる時点でおかしな事だ。


 ナークの魔獣になった経緯を聞き、その過程でウィルスが2度目の魔法を使った。自分の意思で、助けたいと願った結果であるから……初めて使った、と言う表現でも良いのか。




「主にぎゅってしてきた」

「レント王子は怒らなかったか?」

「それ位は許してくれる。キスはダメだけど」

「………」




 俺も、自然と目つきがきつくなる。

 ビクリとなったナークが慌ててリバイルに視線を向けて来る。




「キスって唇じゃないんでしょ?」

「うん。額と手の甲だけだよ!!! あ、あとほっぺにも!!!」

「………」




 リバイルから「許してあげて」と言う風に見られ、はぁと息を吐く。うっ、とナークが苦しそうに目を泳がせている。マズイ? と言う風に聞いているのを、リバイルが丁寧に教えていく。




「唇でないなら良いと思うんだ。ただね、キスって単語だけだと勘違うしちゃう人もいるから。そこに居る主とか主とか」




 何で2度繰り返した。

 繰り返す必要はないだろうに……。しかもナークはそれで「分かった!!!」と納得されてしまいますます困った事になった。




「……リバイルって、同じトルド族?」

「そうだよ。ハーベルト国じゃない方に生まれたから君とは状況がかなり違う」

「え……」

「そう言えば、言っていなかったな。トルド族は東の国のハーベルト国、南の国の2つからなる。……東の方には奴隷としてトルド族を繁栄させていった」




 本来はこの国の出身だと言えば、彼は驚いたように目を泳がせた。

 かなり昔にトルド族は分断された。戦争での戦力と言うのであれば、彼等は使える。


 子供でも南の国であればそれなりに魔物を相手に出来る。

 

 魔力を封じる枷も、その時から急に出て来た事を考えると魔法を扱える者を捕えると言うよりはトルド族だけを狙っているようにも思えた。2つに分けられた彼等は本当なら同じ一族で、リバイルとも兄弟のように育つ筈だ。


 暗殺者ではなく、冒険者や自分の好きな事を出来る少年として。




「リベリーから東側の里が壊滅されたって聞いて、君がその生き残りだと聞いて……何も出来なかった自分に悔しくてね」




 優しく撫でるリバイルに、ナークはされるままだ。

 なんだか、今にも泣きそうな顔をしている。……ここまで表情が豊かになったのは、ウィルスの影響かも知れないし王子達の居る環境がそうさせたのかも知れない。




「……南の里に行ってみる?」

「っ……」




 その提案はナークにはどう思ったのだろう。

 揺れる瞳は行きたいと言うのか、それとも――。




「……いい。ボク、自分の状況をきっちりしてから……ここに戻る。それに、それに里なら僕だけじゃなくて王子達にも来て欲しい。主にも……ボクの事、知って欲しいから」




 だから、今は行かないとはっきりと告げた。

 気になるけれど、今は違う事に専念したというナークにリバイルは俺がウィルスに向けるのと同じような笑みをした。


 兄が弟を気遣う、そんな笑みを……。




(ルベルト……)




 ぐっと自分の手を強く強く握る。

 安否が分からない以上、捜索は海にするしかない。今も捜査しているが海でルベルトを見付けたという報告もない。


 生きている、と信じたいが……何も連絡はないのは不安を煽る。


 


「ありがとう。……じゃ、ボク行くよ。リバイルお兄ちゃんって、呼んでもいい?」




 最後にナークは恥ずかしそうにそう言って来た。

 リバイルは良いと言えば、ぱっと明るく何度も「お兄ちゃん」と繰り返し言っている。




「リベリーにはそう呼ばないの?」

「アイツはいい。そんな風に呼びたくもない」

「……厳しいね」




 ふんっ、とそっぽを向きつつも楽し気にしているのを見ると自分とルベルトの事を重なる。そう思ったからか俺はナークにもう1つ銀色の腕輪を渡した。




「守りの力が強いものだ。危険に飛び込むんだからあって良いだろ」

「……こんな、貰って良いの?」

「構わん。ウィルスに悲しい顔をさせたくないからな」

「はーい、気を付けます」




 同い年のバーレクよりも素直だ。

 そう思っていたらナークはお礼を言い、気配を消した。この国の外に行くのなら危険はある。

 魔物だけでなく魔獣にも対応しないといけない。


 無事を祈りつつ、俺はリバイルにルベルトの捜索をするように言い暫く俺の護衛を外させた。




 

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