第93話:惚気は恐ろしい
ーレント視点ー
朝日の光で目が自然と開ける。
昨日、ウィルスにピアスと指輪を渡した。私なりに思っていた、彼女の贈り物。本来ならリグート国で行いたいけど、不意打ちにウィルスから「愛してる」なんて言われてたら……ねぇ?
男として何か示さないとって思うじゃない?
婚約者と言うけど、そう言えばはっきりとした形は無かったと思う。言葉と行動だけでは伝わっていないかも知れない。ウィルスは嬉しそうにしてるけど、それでもやっぱり……何か自分の物だと分かる物を身に付けて欲しいなと思ったんだ。
父から貰ったチョーカー。
あれ、意外にイラっとするんだよね。まぁ、ウィルスにとってはないとダメなんだけど、それが妙に……妙にイライラさせられる。
(こんなに心、狭かったかなぁ)
自分でも気付かない程、もしかしたら既にウィルスに夢中なのだと思わされる。そう言えば、ラーグレスに部屋まで送って貰ったから迎えに行こう。
「ん?」
起きようとして自分の腰の辺りに何かが巻き付いているのが分かる。
恐る恐る目で追い、掛け布団を剥がすと……そこに居たのはウィルスとナークだ。
「え………えぇ!?」
ウィルスは私の腰に抱き着き、ナークはウィルスの隣で心地よさそうに寝ている。
いや、だから……何でかな。
「ダメ、だった………?」
起こして2人から話を聞く。
ウィルスはあの後、ギルダーツ王子、ルベルト王子と話をしていて夜遅くまで過ごしたという。ラーグレスも同行しており、私の部屋に入って言ったのは自分だとウィルスは言った。
「…………。」
んーー。疲れたと思ったから別々にと思ったんだけど。いや、嬉しいよ? ウィルスが自分から来て来るなんて嬉しいに決まっている。
でも、そう。……不意打ち過ぎるんだよね。
しかも、自分の行動は間違ってない。と言う表情で見て来るんだから、余計に困った。ナークに視線を向ければ彼は「主の傍に居ただけ」と、当たり前の答えが返って来てガクリと肩を落とす。
「君等……はぁ、何でもない」
「何でもなくないよ」
「王子、説明省いたぁ~」
……なんでこう時だけ息がピッタリなのかな?
ビクリ。
2人は同時に肩を揺らして、互いに顔を見てからすぐに離れていく。あぁ、私が怒ったんだと思った? でも逃がさないから平気だよ。
「わわっ」
「え、ちょっ……」
フワリ、と自分の身体が一瞬だけ浮き上がる。
そのまま私の方へと引き寄せて、逃げられない様に2人を拘束する。ジタバタ暴れるけど「めっ」と言えば、途端に大人しくなる。
………ホント、猫みたいだよね。
「うぅ~~、本当は恥ずかしいよ!? でも、いつもいつも、一緒に居るのに慣れちゃったから……今更1人で寝るとか無理だよ~~」
「王子は無自覚に睨むの怖い!!! 悪いことしてないのに、悪いことしたみたいな感じになる」
「何も言ってないのに逃げるのもどうかと思うよ?」
「「うっ………」」
そのまま私の腕の中で大人しくなる2人。
シュンとうな垂れる感じはどう見ても猫っぽい。ウィルスはぷくーと頬を膨らませ、ナークは私と視線を合わせようとしてすぐに止めるの繰り返し。
「そう。……私と会う前に、魔法を使った可能性があるんだ」
昨日のギルダーツ王子との話を聞いていた。
彼が妙にウィルスを気にしたり、ゼスト王太子での対応を見て王都で会ったよりも前に会った事があるのではと思っていた。
「元々、ハーベルト国とは争いが絶えなくて……。あと、人の物でもこれだと思うとどうしても手に入れたい主義だって聞いた」
「へぇ……そう」
あの王太子。ウィルスの事を口説いていた様子だけど、彼女はきっちり断って足を踏みつけたんだっけ。
……余計な事して、目を付けられたの自覚してる?
「ご、ごめんなさい……。レント以外の人とは、行きたくなくて……そのぉ……気を付けます」
さらに落ち込んだウィルスは、許してとばかりに私の肩に頭をグリグリと押し付ける。もう、朝からその可愛い行動はなんなの。
別に怒ってないけど、無茶はしないでと言おうとしたのに。
「うん。次からはちゃんとレントにも話す。だから今まで通りに一緒に寝て? レントの傍でないと安心出来なくなっちゃった」
責任とってね♪と、言ってぎゅーっと抱き締められる。
ナークはニコニコして「ボクも安心する」と言ってくる。朝から、こんな幸せで良いのだろうか。
キラリと光る指輪を見る。
ピアスは寝台の近くに置かれ同様に光を帯びる。
ウィルスのテンションが妙に高いことや、行動や仕草がいちいち可愛いと思うのは……前に以上に愛おしさが込み上げてくるからだ。
分かりきった事だけど、やっぱりウィルスにプレゼントをして良かったと思う。
手配してくれたギルダーツ王子、ルベルト王子には改めて感謝しなければならないな、と思い行動を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーリベリー視点ー
うっ、昨日飲み過ぎた……。
ちょっと気分が悪いなと思い、ラーファルさんが「研究科行く?」と連れて行って貰った。
魔物の動きを鈍らせる薬から、安眠剤や解毒、胃薬や二日酔いに効くものまで揃えられる第3魔法師団、研究科。薬屋を開いたら儲かるだろうとつい思ってしまう。
「魔物に効く薬を作る過程で出来たので……。あ、実験体は私達であったり騎士達ですから」
さらっと酷い言葉を言ったな。悪びれもなく普通に……。
「お酒も充実しているので、よくいるんですよね……。酔っぱらいが」
え、それオレ……も含んでるんだよな。
ま、まぁ、ローレックを誘っていたのに、いつの間にか冒険者達か来たからな。
朝まで騒いだ自覚はあるが……。って事はここの王子達、見た目にそぐわない酒豪なのか。
「東の方は君に任せきりで悪かったね」
「ん? いやいや。オレはちょっと力を貸しただけだぜ?」
こっち側はラーファルさんやレーナス様の魔法で、魔物は蹴散らし魔獣にもそれなりにダメージを負えた。驚いたのは再生する能力を身に付けた事だな。
もしくは喰われた側の能力か。
魔物の中には自己再生するのはいるが、あんなに早くはないな。切った所から生えてくるって怖いんだよなぁ。
まぁ、なんとかなってしまったから良いんだが。………気のせいでないなら、今回の魔獣、弱い気がするんだよなぁ~。
「Sクラスの冒険者の実力を見る事が出来たし、レントの方はナークと合体ワザまでしたらしいからね」
「その辺はどうなんだよ、ナーク」
「んん?」
パクッ、と飴を食べて口の中でコロコロと転がすナークに聞く。
「むふふっ♪」とか、すんげー、幸せそうに食べてるけどオレの質問に答えろっての。
「ナーク君、行くの早いって……」
「ん、ごめんなさい」
そこに入って来たのは姫さんだ。
いつものストレートな髪を伸ばし、前にも増してキラキラと輝いているように見えると言う不思議付き。……ん、なんか今、キラッと光ったような。
「凄く可愛いね、レントに貰ったの?」
「は、はい……。昨日、貰って……嬉しくて付けて来ちゃいました」
えへへー、と嬉しそうに笑う姫さんは幸せオーラを纏っている。
んーー、左手の薬指にも見えた指輪。……ははーん。弟君と仲良くなっただけじゃねぇな、これは。
「そう言えば、ちょくちょく何処かに出かけていたりするからその時に用意していたみたいだね。………良かったね、姫猫ちゃん」
「わわっ」
優しく撫でるラーファルさんの目は優しく、自分の子供みたいに姫さんの事を見ている。キョトンとする姫さんは、ハテナマークを思い浮かべつつもそのままじっとしている。
………カルラになっていないのに、なんか猫のような仕草で思わず笑った。
姫さんの笑顔もなんだか、自然になっているから良い影響を与えられているのだと理解する。最初は周りに迷惑を掛けないようにと、自分の感情を押し殺している部分もあった。
今は……平気なのかも知れない。
弟君とナークのお陰で、姫さんは自然に笑えるようになった。弟君の過度な表現や行動が押し殺してた筈の姫さんの感情を引き出したとみて良い。……まぁ、あんだけオレ達に姫さんの魅力とはと語ったんだから当たり前か。
………いやー、2度と関わりたくないって言うか、弟君の前で姫さんについて質問するのは危険だと身に染みた。
「そう……随分と明るくなったよね」
「暗くしていたつもりはないんですけど……。無理、していたのかも知れませんね。あの、ラーファルさん……魔法の扱い方、もっと深く知りたいのでこれからもよろしくお願いします」
頭を下げる姫さんに、ラーファルさんは驚いたように目を見開く。その隣でナークも頭を下げている辺り、アイツ自身にも何か思う事があるのかも知れないな。
「あの時の、王子とのは偶然だし何で出来たのかは分からなかったんだけど……少しでも魔法について知っておきたいから」
「うん。2人共、これからもよろしく。リグート国じゃないけど、私は厳しくないから気を楽にしてて平気だよ」
ニコッといつもの微笑みに、2人はほっとしたように息を吐く。
その間にオレは出されたお茶を飲む。なんか、見た目が黒いなとか思ったが気にせずに飲む。
(んーー。姫さんの笑顔、やっぱり癒されるなぁ)
なんつーか、姫さんのテンションが高いのがよく分かる。と、そこでオレにも異変が起きた。
「っ、うぐっ、ぐおおおおおおっ!!!! にっが!!!!!!」
うがっ!!! なんだ、これ!? うぐぐぐ、喉がすっきりしない。なんでねっとりしてんだ。うげーーー、なんだこれ!!!!!
「2日酔いに効くお茶です」
「これが!? ぐっ、よ、余計に気分悪い………」
気が遠くなる。姫さんに呼ばれたが……悪い、何にも答えられない。
すぅ、と瞼が閉じるのを自分で分かった。意識的と言うよりは、すんげー強制的。
ぐぅ、なんちゅーとばっちりを受けるんだ。
心の中でオレは深く深く刻んだ。
人の惚気を聞きながら飲み食いは……するもんじゃ、ないなって。




