自由王妃と姫
ーレーベ視点ー
「これで平気よ。にしても服が少し破れたわね。どうしたの? すっごく慌てた様子だけど……」
久々の自分の国。
兄に手紙を出しても返事をくれないから、痺れを切らして勝手に来ちゃった♪
今頃、城では大騒ぎだろうけど気にしない。日帰りに決まってるから安心して欲しい。まぁ、無理なのは分かってる。でも、返事を出さない兄も悪いんだから、私は悪くない。
……うん、全然悪くない。
当たり前だけど、私が出たよりも国は大きくなっている。今では冒険者ギルドが、有名になるだけの知名度を上げたディーデット国。
のんびりと王都を散策中に飛び込んできた1人の男の子。
娘のウィルスよりは年上でのしっかりした感じの子。なによりも目が合った時にビリッと来た。
あ、惚れてるんじゃないからね? 愛してるのは夫と子供のウィルスだもの。
変な誤解はしないで……と夫に謝りつつ、男の子を見る。
金髪は幼くても兄を思い出させる風貌。
直感的に兄の子供だと思った。驚いたのは瞳が夫と似ている事。国で採れる宝石以外での瞳の色は、扱える魔法が希少だと聞いた事がある。
大体それらは、濃い紫色の瞳として現れている。
加えてそう言う目を持つ人は、決まって魔力が高い。
だから……恐らく彼の使う魔法は人には真似できない力。夫と同じ位に珍しいものだと分かり、妙に嬉しくなる。
「……なに、ニヤニヤしているんです」
私がじっと見ていたのが嫌なのだろ。
急にブスッとし始めた子に、何でもない様に笑う。服が破れていても気にしていないのは、別の事に囚われているのだからだと思う。
……私も似たような気持ちになった事があるから分かる。
「優秀な人が居ると、つい思わない? 自分は要らないかもって」
「えっ……」
ギクリと体を強張らせる。
それからすぐにキョロキョロと辺りを見渡す。さっき近衛騎士と師団の人が見えたから予想しなくても分かる。自分の事を探しているんだと思い、すぐにさっと青ざめた様子だ。
「ねぇ。これからちょっと飛ばない?」
「へっ?」
訳が分からないと言った表情だったけど、無理に手を引っ張ってすぐに飛んだ。
「わ、わああああああっ!!!」
「こら、男の子が騒がないの」
「む、無理だああああ!!!」
何よ、単に空へと逃げただけなのに。
もしかして魔法で飛んだ事ないって……事かな?
「お、降ろして!!! 降ろせーーーー!!!!!」
「あっ。やっと本音を言ったね♪」
何で嬉しそう!? と睨んで来る男の子。ふふっ、私は綺麗に無視よ。
だって彼、小さい時の兄様と被るんだもの。………遊びたいと思うのは普通じゃない?
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ………」
「もう情けないわね」
あんまりにもうるさく言うから、適当な所で降りちゃったじゃない。彼はずっと息を整えようと必死なのが面白いんだけどね。
今、居るのは路地裏。
さっきから探しているであろう騎士達の動きも、まぁまぁ見えるなら隠れるのには良いかも。
「う、うるさい……!!!」
キッと睨む様は兄様を思い出される。おぉ、やっぱり兄様の息子だと思い拍手をする。
今度は「止めろ!!!」と思い切り叩いてくる。
子供の力だから痛くないし、念の為に魔力を防御に当てたけど予想通り。無意識だけど、魔力を纏っての打撃をしている。
「ちゃんとコントロールしないと……怪我、させるわよ?」
「っ!!!」
ピタリ、と彼の手が止まる。
私が言いたい事をすぐに理解しているから、本当に兄様と良く被る。うん、将来は絶対にモテるわね!!!
「貴方は……さっきから、なんなんです」
「名前は名乗ったわよ? あっ、私はねバルム国の者なの。3年後、国に来て欲しいな♪ 娘のウィルスに会って欲しいの」
「は?」
「んもう、可愛いんだよ♪ 私と同じ髪の色で、なんにでも喜んで笑って素直なの。……そうしたら君の悩み、解決するんじゃない?」
「ええっ……」
「バルム国に着いたら私の名前を出せば一発よ。じゃあねーー」
はい!? とよく驚く子だなと思いつつ、私は颯爽と空へと上がった。
なんだか「待てーーー!!」とか、「逃げるなーーー!!!」とか文句を言っているような気がするけど……。
まっ、良いか。
今度と言うか、3年後……会えるのを楽しみにしているね!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからあっという間に3年の月日が流れた。
13歳になったギルダーツは1人、海を眺めた。彼の中ではまだ答えは出ていない。
国民に自分が第1継承者であると公表して既に3年。あの謎の女性の不思議な発言からもちょうど3年の時が流れた事になる。
「……バルム国、か」
ギルダーツはあれから城の資料を調べ漁った。
バルム国。レーベと言う女性の名前、妙に自分の事を構った様子。そして、自分には真似できない魔法技術。
浮遊と治癒の魔法を使った不思議な女性。だけど、妙に被るのは……自分の父と似ている部分があると直感したからだ。
(どんなに急いでも1週間は掛かる。……どうにか長く国を空けていても不審に思われない方法は……)
そう言えば、とギルダーツはある事を思い出す。
この国はギルド本部があり、そのギルドマスターは昔から子の王族達と繋がりを持つ人物だと。
すぐに行動を開始し、ギルドマスターの元へと急いだ。
「えぇ……。それは、その」
「お願いします。どうにか……せめて2週間弱、どうにか上手く国王の目を掻い潜りたいんです」
「……そんな、簡単じゃないよ」
だろうなと思った。自分でも無茶を言っているのが分かるが、ギルダーツにはもうこれしか手立てがないのだ。
ギルドの冒険者としてこの国の王族は研修期間を受ける。
約1カ月は国から離れると言う異例さでもあるが、ギルダーツは運が良いのだろう。
まだ、その研修期間は受けていない状態だ。
弟のルベルト、バーレクは既に終えている状態。
下が活発過ぎるからと言うのもある上、ギルダーツは人が変わったように何かに没頭するようになり周りはその変化を心配していた。
王位継承者としての責務、周りからの期待度もあるからか家族とは必要最低限の会話しかしなくなった。
妙にギスギスした雰囲気を生んでいる自覚はあるが、今のギルダーツには答えが欲しいのだ。
(お父様に聞いても無意味だった。バルム国と言う名前を出しただけで、何も言わなくなった)
つまりその国は少なくとも父とは繋がりのある場所なのだと分かる。
自分が国に離れても不審に思われないのは今しかない。
この研修期間を上手く利用すれば、自分が探し求めている答えが……きっとあると思う。
そう思ったギルダーツの行動力は凄い。
自分でも驚いたが、ある意味自分も父の息子なのだと皮肉にも思ってしまった。
「はあ……どうにか上手くやりましょう。それで良いですね、ギルダーツ王子」
「すみません。助かります」
どうにか無理に言い、その数日後。
ギルダーツは目的の地である中央大陸の1つでもある、バルム国へと1人向かって行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中央大陸と呼ばれる大きな国は全部で3つある。
バルム国、リグート国、ディルランド国の3国を指しているのは、中央大陸を囲む国々なら常識での事。
リグート国とディルランド国は戦争状態にあったが、既に同盟をしてから10年以上も経ち両国の知名度は高くなった。同盟をしてから仲が悪くなった所も少なくない。
しかし、この2国はそうはならなかった。
仲が良すぎる位に互いに尊敬し、競える相手としてどちらも栄えてきた。そうした手本があるからか、周辺諸国も見直そうと影響を受けていた。
「ここが……バルム国、か」
その2国から少し南寄りの国に彼は降り立った。
初めに抱いた印象としては魔力の濃度が他よりも濃い場所と言う印象。国の傍には、宝石が採れる鉱山がありそこから栄える所も少なくない。
バルム国は国の中心部分に大きな湖がある。
湖の中を覗けば、鉱山で採れるであろうアクアマリンが見える。ボートに乗って間近で宝石を見られる。
子供に人気なのだろう。ずっと、ボートを貸し出す所は大行列で繁盛している。
「お母さん!!! あんな綺麗な宝石、初めて見た」
「こらこら。あんまりはしゃぐと落ちちゃうから、気を付けなさい!!!」
そこを観光スポットとして作るのには理由がある。夜には太陽の光を浴び続けたアクアマリンが淡く輝くのだ。
昼はキラキラと光り、夜には街灯が点いているのではと思う程の青い光が包まれる。そんな幻想的な雰囲気だからか、家族連れの観光客が多くいる。
その家族連れを見る度にギルダーツは自分の心が引き裂かれる痛みを感じていた。
(……羨む気持ちなんて……俺には……)
そんなものは持つ必要はないとばかりなのに、視線はどうしても家族連れの方ばかりを見てしまう。
「待ってーーー!!! カルラーーー!!!」
「ぐあっ!!!」
ドン、とギルダーツの目の前に何かが乗りかかる。顔に乗られて、そのまま足踏みをするように踏まれる。
「きゃあっ!!!」
「うぐっ……」
続けざまに誰かにぶつかる。
自分が倒れる感覚が分かりつつ、ドサッと倒れ目がチカチカとなるのを感じる。ようやく目が慣れてきた時、ギルダーツはデジャブを感じていた。
目の前に触れる髪の色は、3年前にぶつかった女性と被る。
自分よりも大分幼いが、引き込まれたのは自分と同じ紫色の瞳。
「フミャアー」
「ぐほっ」
再び自分の視界を何かが覆う。
鳴き声からして猫だと分かり「カルラ!!!」と少女がその猫を持ち上げる。
「ごめんなさい。あの、カルラがご迷惑を……」
「い、いや、大丈夫……。俺も前を見ていなかったんだ」
「お嬢様!!」
慌てて駆け付けて来るのは、ギルダーツと同じ位の歳の男性。青い色を基調にした制服。
その腰には剣を指しているのが見えた上、彼女を心配する素振りが自分の国での近衛騎士と少し被った。
(……上級貴族か)
だとしたら、自分の事も知られているかも知れないと思ったギルダーツはすぐでも退却しようとした。のだが、少女がぐっと自分の腕を掴んでくる。
「………」
ギルダーツの中で(まさか……)と思っていると少女は何を思ったのか「ケガ、してる!!!」と再びのデジャブ。さっと青ざめたが今度は少女の飼い猫が、ギルダーツのお腹へと頭突きを始めた。
「うぐっ」
「ラーグレス!!! ケガしてる!!!」
「いえ、今のは……」
どう見ても猫の仕業だと分かるが、少女の視界には上手く入らない様に攻撃をしたのだろう。彼女は自分がぶつかった事で苦しんでいるようにしか見えない。
そして、頭突きをした子猫の方は「ニャウ~」と自分でないアピールを始めた。思わずギロリと睨み付けるが、知らないフリを決め込まれてしまった。
「ラーグレス!!!」
「わ、分かりました。分かりましたから……」
困ったように笑い、ギルダーツに向けて申し訳なさそうに頭を下げる。
恐らくもう少し付き合って欲しいという視線の訴えを受け、彼は静かにため息を吐いた。
「ミャーミャー」
「……俺を遊んでも面白くないぞ」
今も子猫の遊ばれるギルダーツは不機嫌そのもの。
それでも子猫の飼い主である少女は「良かったね、カルラ」と嬉しそうに歩ていくのだった。




