第88話:ちょっとした贅沢を
ーナーク視点ー
「えへへ……嬉しいな♪」
主が怒っていないと分かってボクはすこぶる体調が良い。
ウキウキしてそのままお風呂に直行。これから主と出掛けるんだもん、体綺麗にしとかないと!!!
「王子、何処に行く?」
「とりあえず酔っ払いの居ない場所は確実。と言いたいけど、ここの人達はよくお酒飲んでいるから無理そうだね」
困った感じなのに、そんな風に聞こえない王子。
ボクと同じで主に会えたのが嬉しいのだろう。あと、主から言われた言葉が衝撃的過ぎているんだと思う。
『愛してる』
………うん、ボクも隠れてたけど驚いたもの。
会うのが気まずくて隠れたけど、王子と主の話している事はちゃんと聞いている。
その中で主は怒ってなくても、カルラの方がボク達の行動を怒っていたんだと気付いた。カルラは主が小さい時から一緒にいる。
カルラも主の住んでいる城で生き残ったんだ。
悲惨な事は見て来ているから、ボク等も同じ事になるんじゃないかって怒ったのかも知れない。
(悪い事、しちゃったな)
王子の意見にボクは賛成している。
危険な事はして欲しくない。出来るなら遠ざけたいと思っている。
でも、それは主も同じだった。
リベリーも言ってた。伝えたいなら言葉で伝えろって。
分かってくれるだろうではなく、きちんと話し合えといいたいんだ。実際、主は分かってたみたいだが、カルラの方がそうはいかなかった。
互いに思い合っても、ズレる事はある。
その事を思い知らされた気分だ。
それに今日、主はボクの事を呼んでくれた。
念話をするには互いの同意が必要。ボク等トルド族は主との契約でついてくるから、同意にの有無は関係ない。
(あぁ、でもやっぱり呼んで貰えるのは嬉しいな)
ついニヤニヤしてしまう。
主がボクの事を大好きなナーク君って呼んでくれた。そんな事を言われてしまったら、姿を現すしかないじゃないか。
不意打ちすぎる。主の不意な愛情が嬉しい……。
「ちょっ、ナーク!?」
王子の慌てた声、が、聞こえる……。
何だろ……急に、気が遠く……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーレント視点ー
「そっか。ナーク君、お城でお留守番なんだね」
残念そうに言うウィルス。
仕方ない。だってのぼせたんだから……。ずっとニコニコしてるなとは思ってたけど、まさか彼がそんな事になるなんて思わなかった。
その代わりなのか知らないけど。
「何でいるの?」
「今更だろ」
当然の如くいるエリンス。本人から言わせれば見張りだって。
え、なに、見張りって?
「ある程度は良いがイチャイチャ防止とか?」
「……」
言い返せない。
図に乗らす訳にはいかない、のに。
「図星だろ。半分、こっちに付き合えばあとは好きにしろ」
「半分って?」
「イーグレットに土産を買うんだよ。同姓の意見を聞いておこうかなって。その分、準備する時間与えるんだから感謝してくれないと」
「えーー」
「良いじゃないレント。私、イーグレット様とも話したいから役に立つなら何でも付き合うよ?」
「うぅ……」
「ウィルスが良いなら良いんだろ? ってか、別に許可なんか要らないか」
すっとウィルスの腕を取って歩き出そうとするエリンス。
思わずがしっと彼の手を掴む。付き合うのは良いけど、ウィルスの腕を引き寄せないでよね。
そういうのは私がやるんだから。
「レント?」
「はいはい。何でもないから気にするな」
ぱっと離されたからそのまま引き寄せる。キョトンとするウィルスに、ニヤニヤするエリンス。
やっぱりあとで仕返しは必要か。……なに、しようかな。
「おい、何考えてるんだ?」
「別に」
「わわわっ、レント!?」
ウィルスを横抱きにして王都へと足を向ける。
慌てた声が聞こえたし、エリンスから呆れた様な溜め息も聞こえたけどそれらを全部無視をする。
夕食の前にとエリンスが予め決めていた装飾品店を回る事になった。私も何度か来て、ウィルスに合いそうな物を探していたから道は分かる。
「ウィルス。次、ネックレスを付けて貰って良いか?」
「うん。わあ、綺麗な紅色~」
「色は近い方が良いからな。っと、こんな感じか……ちょっと鏡の前まで来て貰って平気か」
「大丈夫~」
さっきからエリンスはウィルスの耳や首元にアクセサリーを付けていく。イーグレットとウィルスを重ねるような視線……分かってはいるけど、モヤモヤする。
エリンスの行動は間違っていない。
遠く離れた婚約者に対して、会えないお詫びとして贈り物をする。ウィルスと彼女は身長も近いから想像しやすいんのだろう。
恐らく結界を修復するまでに時間は掛かるし……最悪、3カ月は多く見積もって良いと思う。
アクリア王がその辺の事を簡単に了承したのには驚いた。彼はエリンスを大事に思っているし、無茶はして欲しくないのだと思う。
「これも修行だと思って、どんどんコキ使ってくれレント王子」
「はっ?」
「喜んで!!」
「待て待て待て!!!」
抗議するのは当然だけどエリンスだ。
アクリア王が自分の時も武者修行をしたと言い、その話になると後ろに控えていた宰相は微妙な表情をしていた。
触れられたくないのかな、と思ったらアクリア王が「コイツとは幼い頃からの付き合いでな。武者修行の時にも無理に連れて行ったんだ」と楽しそうに語ってくれた。
あぁ。古傷とか知られたくない過去とかなんだ。……色々と大変そうだねと心の中で合掌をする。
アクリア王から許可貰ったから、エリンスには沢山働いて貰おうかな♪
「さっきからなんなんだよ」
「何が?」
「いや……なんか、今、背中がゾクゾクって寒気がしたから」
「気のせいだよ♪」
笑顔で答えたら「嘘だな」と言って、ウィルスの方へと戻っていく。
ちっ、コキ使うのは確定だけど妙に勘が鋭い。
悟られる前に、外堀から埋めておくか……護衛のラーグレスから話し合おうかな。
「じゃ。俺の買い物は終わったからあとはそっちで好きなだけイチャつけ」
「へっ」
「ありがとう♪」
「え、ちょっ、ちょっと~~」
まだエリンスに未練があるのかウィルスは気にする様子。
でもね、ウィルス。エリンスがワザワザ退いてくれたんだから、その意味は分かるよね?
私は、ウィルスと一緒に過ごしたいんだよ。
「っ。そ、それは……分かるけど」
途端に顔を赤くしてキョロキョロと周りを見始める。
装飾品のお店ばかりが並ぶし、私達以外にも男女のカップルはいる。周りの雰囲気もあって断るのはいけないと思ったんだろう。
小さく。でも、はっきりと私も……と答えてくれた。
「ふふっ、良かった。じゃあ、最初はご飯からだね。ゆっくりするのはそれからでも全然遅くないよ」
「うん……」
頭を撫でれば途端に綻ぶ。
嬉しそうにスリスリしてくるから、こっちまで嬉しくなる。
「おい、まだ店の中なんだが?」
エリンスからの注意にウィルスははっとなり、さっさとお店を出る。注意されて恥ずかしそうに俯くから、またニコニコとなる自分。
本当、素直と言うかウィルスに弱いよねって思う。
その後、エリンスと別れてから予約していたお店に入る。
中の内装は少し明るさを暗めにしており、よく見れば私達のように恋人達が多い。その中で個室へと案内してもらい、中に入ったウィルスが目を輝かせる。
「わああ~~。海が見えるなんて素敵!!!」
海が一望できる他よりも高い建物。
白い外装の建物に赤い屋根の建物は、王都の中でも恋人達がよく来るお店として有名。予約制でないとすぐに一杯になるのには、個室の中で海が見える部屋が幾つかある。
その点も人気の理由なのだと思う。
「料理も美味しい……幸せぇ~~♪」
頷きながら言うウィルスに笑いが込み上げる。
料理を前にしながら海を眺めて食べるのも結構豪華だと思いながら、ナークが居なくて助かったと思う。
のぼせてくれありがとうって、今だけは思う。……あとでなんかお土産を買おうかなと考えているから、喜んでくれるといいな。
出てくる料理に喜んでいる。ただそれだけなのに、私も嬉しい。
コロコロと表情を変えて美味しそうに食べているから、不思議とお腹が一杯になる。……また心配かけさせる事になるから、頑張って食べるよ。
「ありがとうございました、またのお越しを!!!」
食事を十分に楽しんで終わった時には、手を繋いでお店を出て行っている。店員さんが凄くニコニコとしていたから、仲が深まって出る人も多いのだろう。……妙に気恥ずかしかったけどね。
「でも、それなりに高かったんじゃない。良いの?」
「平気だよ。ちゃんと自分で稼いでいるから」
ギルドでの魔物狩りの報酬だけど。
リベリーに取りに行かせてたら、凄い顔して睨まれたって言われたけど構わない。その報酬分としてリベリーにもお金を渡したし、今までのもあるから高くても平気なんだけど。
「ギルドでのお仕事でしょ? やっぱりこの国とリグート国って違うもの?」
「まあね。魔物の皮膚が比較的に硬いのが多いし、集団で行動を起こすから襲われたら危ういね」
「だ、大丈夫だった?」
「ナークと居たし、彼が先に突っ走ったから助かったよ」
まあ、それで倒れてるんだから傍目から見れば魔物に襲われたんじゃないかって見えるんだよね。……ははっ、自分でも情けないって思うけどジーク辺りが見たら爆笑だろうな。
じっとしたまま2人で海を見る。
自分のポケットに、彼女に渡す物があるのを確認する。
水面に映っているウィルスと自分の顔が見える。
渡すなら……と、私はあるお願いをする。
「ウィルス。目、閉じてて欲しいんだけど良い?」
「え、っと……う、うん。分かった」
素直に目を閉じる。それだけでも絵になるから本当に彼女は可愛いなと心の中で呟き、彼女の髪に軽く触れる。
「っ………」
「目を開けていいって言うまで待ってて」
「う、うん………」
触れられた事でビクリとされるが、目を開けないようにと言う。緊張した面持ちでじっとしている間に、彼女の耳にピアスを取り付ける。
こっちまで緊張してくるけど、なんとか出来たと思い「開けても良いよ」と言えば徐々に目を開けてくれる。
「うん、やっぱり似合うね。可愛いよ」
自分の顔に熱が集まるけどなんとかやり過ごす。
彼女に耳にはクローバー型のエメラルドとダイヤモンド、2つの小さな宝石が輝く。この国で採れる宝石と自分の国で採れる宝石と言う組み合わせ。
ウィルスの故郷である国と私の居る国。
ピアスを作るのに協力してくれた人達もいる。私はウィルスに付けて欲しいと思ったし、この国にはまだまだ世話になるつもりだ。
「私もウィルスの事を愛してる。先に言われてしまったし、驚かされるとは思わなかったんだ。……不意をつかれて私の方が参ったよ」
「レント……」
ピアスを身に付けた自分が恥ずかしいのか、私の言葉に恥ずかしいのか。またはその両方なのか分からないが、彼女はずっと視線を彷徨わせている。
「可愛いよ。すっごく似合ってる」
「み、耳元で、言わないで……」
「褒めてるのに」
後ろからぎゅっと抱き締めればそうじゃない、と軽く睨まれる。まさかそんな反撃が来るとはと驚いた。
「じゃあ、もう1つプレゼント上げる」
「えっ。でも……あっ」
彼女の左手の薬指にエメラルド色のリングをはめる。
ウィルスと同じ瞳の紫色の宝石。ダイヤモンドカットにしているし、傾ければ色が変化する。
私の瞳の色と彼女の瞳の色に、変化するように特別に作ったものだ。世に出ていない、彼女しか身に付けていない物。
「これ……ど、何処に売ってたの?」
「ん、内緒。ウィルスしかない特別な物だから、他を探しても無意味だよ。……嬉しくない?」
「う、嬉しい……凄く、凄く嬉しいよ」
ウルウルと涙を流す。その涙を舐め取れば不思議と甘い感じがした。そう告げたら嘘だって言われた……。
だったらもう一度と私はキスをする。
私もウィルスと同じ思いはだと知って貰う為に。顔だけじゃない、プレゼントしたイヤリングにも指輪にも、私の物だって意味でキスの雨を降らす。
私の婚約者はこんなにも可愛くて、愛おしくて、誰にも渡さしたくないのだ。
「愛してるよ、ウィルス」
「私も。私も愛してる、レント」
互いに好きだと伝える。愛している、と。
溢れてくる気持ちが嬉しくて、見つめ合った私達は再びキスをした。




