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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第87話:愛してる

ーラーファル視点ー



「上達したね。姫猫ちゃん」

「ラーファルさんに教えて頂いたからです♪」




 えへへー、と嬉しそうに言う姫猫ちゃん。


 カルラのままギルダーツ王子とルベルト王子の所に居たからか、迷惑を掛けないままで終わってなにより。

 ルーチェ様が姫猫ちゃんにと、水色のドレスを用意して可愛く仕上げて来た。

 彼女からは言わせれば──。




「お姉様に触れようなどと言う不届き者はルーチェが成敗します。しかし、お姉様の素晴らしさを広めないのは絶対ダメです。せめて、せめて城で働く者達には分からせます。お姉様の素晴らしさを!!!」

「い、良いよ、ルーチェちゃん。そんな事しなくても」

「はわぁ、ちゃん呼び。……お願いして良かった。嬉しい……嬉しいよぉ」

「ルーチェ、ちゃん……?」

「はうぅーー」




 フラリと倒れるルーチェ様に、姫猫ちゃんが凄く慌てている。ルベルト様が「気にしないで」と言って私に姫猫ちゃんを預けてきた。

 悪いとは思いつつ、心配する姫猫ちゃんをアーサーさんの仕事場へ連れて行く。


 そこからは、いつものように魔力の流れを水晶で見て自分で感じ取っての繰り返し。今も水晶の中には姫猫ちゃんが流した魔力が渦巻いている。


 グルグルと動き回る光の渦。

 これを持続している時間が長ければ長いほど、魔法の効果は一定のまま保たれる。


 治療するのに魔法を発動し続ける時間が短いと、治療にならないし自分の守りにも繋がらない。力が途切れると渦はなくなるんだけど……姫猫ちゃんの場合はまだ平気。


 カルラの時でもかなり長い時間保ち続けられた。

 持続が出来るようになったのなら、次は発動するまでの時間を短くしようと、今後の方針を頭の中で組み立てる。




「ふぅ、カルラのままでもどうにか出来た。本当、良かったぁ」




 周りがフワフワした感じに包まれているから、かなり上機嫌なのは誰が見ても分かる。アッシュ君が密かに笑みを浮かべているし、アーサーさんの方もニコニコとしているからだ。


 姫猫ちゃんから撫でて欲しいオーラが発していたから、頭を撫でたら笑顔を浮かべている。

 あんまり嬉しそうにするもんだからついつい構いたくなる。




(カルラから戻っても、猫みたいな可愛い感じだな)

「ふふん♪」




 今もゴロゴロと甘えてくる仕草は猫そのもの。

 今、3日ごとに入れ替わりがあるし負担を感じた事もないから、サイクル的にはちょうど良い感じなのだろう。




「あの、良ければ……こちらをどうぞ」




 アッシュ君がそう言って姫猫ちゃんに差し出したのは黄色の飴だ。透明な包装でされていて、鮮やかさを隠さないように包まれている。

 それを見た姫猫ちゃんは、当然ながら目を輝かせる。




「良いんですか!?」

「は、はい。ルベルト様から飴が好きだと聞きまして……私も甘い物は好きですし、持ち合わせで申し訳ないですが」

「そんな事ないです。ありがとうございます!!!」




 一瞬、驚きを浮かべたアッシュ君。でも、本当に一瞬だけですぐに柔らかい笑みを浮かべた。

 そこから包装を解いたかと思えば、姫猫ちゃんの口の中へと放り込んだ。

 既にあーん状態の姫猫ちゃんは、気にしないのか飴をコロコロと転がしご満悦。嬉しそうにしている2人とは違い、私達2人は凝視していた。


 いや、同じ国の出身者であるのも聞いている。


 アッシュ君……本来はカーラス君が姫猫ちゃんの護衛をしているのだから、近くに居ただろうしラーグレス君みたいに世話もやっていたのだろう。

 彼からは姫猫ちゃんの事を構いたいオーラが発しており、無自覚なものか記憶が戻ったのかと暫く見ていた。




「っ。も、申し訳ありません……!!!」




 先に我に返ったのはアッシュ君の方。

 一方の姫猫ちゃんは不思議そうにしており、「なんの事?」と表情からそう読み取れる。




「飴を渡すつもりが……こ、このような事をしてしまい」

「アッシュ? 何で謝るの?」




 弁明を必死でしている彼は、姫猫ちゃんが聞くのも耳に入っていないのだろう。ずっと謝罪を続けている。

 



「気にしないで。いつもして貰っていたから」

「そ、そう……ですか」




 ほっしたような、複雑そうな表情をしていた。

 恐らく記憶が戻る前と、戻っていない自分に差を感じているのだと思う。


 ちょっとだけ落ち込んでいる様子ではあったが、姫猫ちゃんの嬉しそうにしている姿を見て安心した様子。

 姫猫ちゃんの笑顔は癒されるから不思議なんだよねー。




「本当に……あの2人は何をしているのやら」  

「あの、2人……?」

「えぇ、レント王子とナークと言う子です。1日中、魔物狩りをしてぶっ倒れるですから、体調管理はきちんと」

「倒れた!? レントとナーク君が!!!」  




 何で!? と理由を聞く姫猫ちゃん。


 あ、しまった。その事言うの忘れてた……。


 そろっと仕事場から抜け出す私に、アーサーさんは「どうしたんです?」と声を掛けてくるが黙って置くように念話で伝える。チラッと見れば、アッシュ君から事情を聞いている様子。


 

 ごめん。

 あとで姫猫ちゃんの好きな物、あげるから……だから今は見逃してね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリベリー視点ー



 弟君とナークが炎天下の中で魔物狩りを始めてすぐに倒れて2日程安静にしている。……バカだろと思ったぞ。理由もなんとなくだが分かる。


 恐らくはエリンス殿下が言った「プレゼントを用意すれば良いだろ」と言う言葉。

 その前に言葉だって続いていたのに、2人が聞いたのはそこだけだもんな。


 ギルドに登録しているから魔物を狩ったり、薬草の採取とか見回り、住人の軽い買い物やお話とか色々とあるが報酬としてお金が貰える。微々たるものでも貰える。



 一番にお金が貰えるのは魔物狩り。


 国の周りを周回していたり、実際に魔物によって襲われているという実害がある。集団で行動して居たり単独であったりと種類も習性も多い。


 定期的に魔物が狩られればその分、商人達が国へと入るのに危険は少ないしその為にギルドに護衛を頼んだりしている。小物だろうが大物だろうが、魔物の数が減ってくれればいいのだ。




(だからって1日でどんだけ荒稼ぎする気だったんだ……)




 倒れたと言う報告をアッシュから聞いて、その時の怒りようは凄かった。当たり前だよな、南の国なんだから暑さはリグート国とは違う。

 あの国は1年間、安定した気温で過ごしやすい。風に恵まれた国、エメラルドが採れて風の魔法を扱うと言われて納得できる。


 でも、おかしいんだよな。

 バーナンから聞いたんだけど、風の魔法で自分の気温調整は出来るから滅多な事では風は引かないし、熱すぎて倒れたりとか病気でもない限りはないって言ったんだぜ?


 ………弟君、どんだけ姫さんの事した頭にないんだよ。

 ナークもだけどさ。




「気分はどうだ、弟君。ナーク」




 2人は今も大人しくベッドの中にいる。まぁ、この2日間は普通に安静にしていたし熱中症で倒れていたという事。食事もちゃんととれているから、体調的には良い筈だ。

 ………表情が凄くどんよりしているのは、姫さんと話せてないからだよな。

 分かり安過ぎる………。どんだけ離れたくなかったんだよ。




(はあ………重症まっしぐらか)




 2人が倒れてから魔物狩りの依頼の為にとギルドに、完遂したという報告をしたらかなり驚かれたぞ。なんせ狩った魔物は皮膚が固くて腕利きの冒険者でも無傷ではなかなか帰って来られない、と言う程に皮膚が固い物。


 だからか、報酬のお金もそれなりに多かった。妙に睨まれたような視線を感じたが、無視してさっさと出て行ったけどな。


 弟君は宝剣使って切っただろうし、ナークは魔物の急所を姫さんの魔法で突いて来ただろう。

 そうそう。 

 姫さんの魔法って、魔獣に効くだけでなくて様々な場面でも応用が出来るんだと師団長は言っていたな。

 ………姫さんが逃げられるように、それとなく罠を張った方が良いかもな。

 あの人も研究熱心過ぎて、周りを見ないし、自分を見ない人だし、その気持ちを見ない人だから。




「レント!!!!! ナーク君!!!!!」

「うおわっ!!!!」




 その時、慌てて入って来たのは姫さんだ。

 あ、そっか……猫から普通に戻ったのか。と気付く前に姫さんは弟君の方に真っすぐ向かった。

 ん、あれ………ナークの奴、逃げたのか。顔くらい合わせろよ。




「ウィ、ルス………?」

「アッシュから倒れたって聞いて、慌てて来たの。痛い所ない? 気分は平気なの?」

「………っ」




 あ、顔を逸らした。普段の弟君の行動ならありえないもの。

 あんだけ姫さんの名前を連呼していたのに、会ったらその反応なのか。そのままベッドに潜り込んでしまって答える気がない様子だ。




「………レント」




 悲し気に名前を呼ぶ姫さん。

 そこからアッシュから聞いたであろう内容を言い、姫さんが珍しく「何で危ない事したの?」と強めに問い詰めてきた。


 それでも弟君は拗ねてるんだか、言いたくないんだかでずっと黙っている。ここでオレが助け舟を出す訳にもいかないから、そのまま見守るけどさ……。




「私……別に怒ってないよ。レインとナーク君が危ない真似をさせないようにって行動しているの知ってるもの。カルラが怒っているだけだから気にしないで。あの子も分かる時が来るよ」




 でも、と姫さんはそのまま言葉を続けた。

 慌てて来たのは弟君とナークが倒れたと聞いたからだと。それを知らなかった自分に悔しくて、また危険な事をさせたのかと反省もしているという。


 そしたらガバッと弟君が起きてきた。




「そんなことない!!!! これは……私の、ワガママで……安心して欲しくて」

「うん……」




 弟君の手を姫さんの手が包み込む。

 何だか泣きそうな弟君。姫さんの表情はオレからでは分からないが、きっと優しい笑顔を浮かべてるんだと思う。




「私ね。ラーファルさんの教え通りに魔力の流れが読めるようになったの。それで、ね。……私の周りにレントの魔力を感じられるようになったんだ」




 嬉しそうに言ってるけど、一歩間違えると危ないからな、それ……。

 刻印もあるのに、どんだけ姫さんの周りを固める気なんだ。ってかどんだけ警戒しまくってるんだ。




「それで、それでね。……私、レントの事を好きな気持ちは変わらない。これからも、ずっと、ずっと絶対に変わらない。だって愛してるもの。心の底から」 

「……あい……し、て……」  




 弟君の顔がみるみる赤くなる。

 姫さんの言葉を理解するのに時間は掛からない。オレもちょっと顔が赤くなっている自覚はある。


 ってか、弟君がその反応!?

 いつもいつも、いっつも!!! 姫さんの事を困らせておいて、いざ言われるとダメなのか!!!




「ウィ、ウィ、ウィ、ウィル、ウィルス……」

「うん。なに?」

「えっ、と………その」




 うわ、弟君が慌ててる。

 思わず貴重だと思いながらも、弟君の新鮮な反応を見る。

 いつも余裕そうにしているのに、今は殆ど話せていない。しかも、顔が真っ赤で言葉もまとまっていない。


 へぇー、と貴重な場面を見ている。

 するとナークが「主、ボクも好き!!!」と言いながら、2人目掛けて飛び込んできた。




「ねぇ、今、ボクの事を呼んだよね? 念話で呼んだよね!? 呼んでくれたよね!!!」




 興奮した様子のナーク。

 勢い余って弟君が姫さんごと支えて、壁にぶつかったぞ。結構凄い音がしたが……良いのか?




「うぅ、寂しかったぁ~~」

「うん、ごめんね。……ごめんね、ナーク君」

「ううん。念話で呼んでくれたから良いの!!! 全然良いの!!!」




 おい、さっき姫さんの気配にビビって姿消した奴の台詞かよ。

 全然、気にしないでみたいな事言ってるけど、ずっと気にしてたよな。半分、泣いてたしショックでまともに食事食べてないだろ。

 なのに、なのに………。




「主~~~♪」

「そんなに寂しかったんだね。なんだかごめんね?」

「平気~~~」




 思い切り甘えて来るナークに姫さんが、ヨシヨシと頭を撫でればず~~っと嬉しそうにしている。テンション上がるの早すぎるだろ………。今までテンション下がってたのはなんだったんだ。


 なんだか気力を削がれた気分に、オレはもう好きにしろと思って黙って出て行く。入れ違いにラーグレスと会ったけど……なんか、もう返事もするのが面倒だ。



 はあ……。確かまだローレックの奴いたよな。……よし、飲もう。

 飲んで全部忘れてやる。その方が自分の為だしな。


 これから夜になるからと、オレは王都へと足を運ぶ。

 仲良くなったみたいだが……なんだかな。振り回された感じにオレは妙なモヤモヤ感を抱くことになった。


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