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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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すれ違い


 魔獣の進行を食い止めはしたが、それでも油断はならない。

朝、息子のギルダーツとルベルトからの報告を聞いていた国王は深い溜め息を漏らした。




「ギルダーツ。魔獣が来るのを予見していたのか?」




 静かに問わされた内容に、ギルダーツは素直に「はい」と答えた。

理由を聞いてみると、魔女達が残した手記での魔獣と今回の魔獣とでは行動が違いすぎる、と。

 内容によれば、魔獣が団体で来る場合はただ真っ直ぐに来て蹂躙する事。

 魔物は引き連れない。

 魔法を展開しないなどの点があると言う。




「ここ最近、魔獣の数が増えたのも不可解です。夜にしか現れないのに、曇り空や日が出にくい状態での目撃や実際に襲われた所もある」




 その対応や襲撃のタイミングの良さ。

 ギルダーツは意見せずにはいられなかった。

 魔獣と繋がっている人間がいるのではないか。いた場合、内通者がこの城内にいる可能性がある、と言うのも告げた。




「……。」




 正直、信じたくは無かった。

 しかし、ルベルトからも兄と同意見であるのと同時に、内通者側にも予想外な事だったのでは? と意見を示した。 

 それがウィルス達がこの国に訪れた事と滞在だったのではと言う事。


 


「結界の修復を出来るのは魔女と光の魔法を使う人間だけ。もし、最初から結界を破壊する気でいるなら無力化させる必要がある」




 良くも悪くもこの国はその結界のお蔭で、外敵や災害を乗り越えてきた。

 修復する人間が居たくなれば脆くなる。


 そうなると今回、突拍子もないままウィルス達がここに来たのは、ルベルトからしたら良かった事だと言う。




「彼女が光の魔法を扱えるようにしておくのは、私達にとってもメリットがある。しかも、彼女以外にも対抗出来る者が現れたんです」

「リグート国のレント王子とトルド族、か」




 レント王子の使う宝剣と、ウィルスと契約をしたナーク。

 予想外な事が続けば、ボロを出す可能性がある。暫くはウィルスの護衛を強化しつつ、少しでも早く結界の修復をしてもらう必要がある。


 彼等の意見がまとまり、2人がほっとした所で――国王が「あぁ、そうだ」と思い出したかのように言葉を続ける。思わず身構えた息子2人の様子に気付かいまま彼は言った。




「今日も魔法の訓練だろ?」

「え、えぇ……彼女も頑張っていますし、慣れるのには暫くは時間が……」




 答えたのはルベルトだ。

 しかし、内心ではかなり慌てている。そうとも知らずにいる父親は、魔法の訓練をしているであろうウィルスを気に掛ける。聞けば魔法について学んだのはごく最近だと言う。

 知らない事も学ぶべき事も多いだろう。

 いきなりこの国の結界を修復するのに力を貸してくれ。などと何とも都合のいい言葉を言ったと思った。


 彼女――ウィルスは言った。

 協力する、と。被害が出てしまえば終わりであり、プレッシャーを負わせている自覚がある。だから、今日も訓練をしていると聞き安心したのだ。


 見えない期待に押しつぶされてはいない。

 それが確認できただけでも彼は嬉しかった。




「ま、急かして失敗すりよりはな。……今日、早めに仕事を切り上げて彼女と話したい事があるんだ。2人もどうだ?」

「「っ!!!」」




 国王はウィルスの母親とは兄妹であり、ディルランドとの政略結婚の騒動の後は連絡も取っていなかった。

 手紙でのやり取りはしていたが、直接会いに行くのはどうにも出来なかった。


 いつか、きっと……。そう思っていたのに、レーベはいきなり帰らない人となった。何度も後悔し、自分の行動を悔やんだ。いつか、いつか……と引き伸ばして、その結果間に合わなかった。


 だから、と。レーベの娘であるウィルスには色々と話がしたいのだ。政務をしながら、そして息子達の報告を聞きながら彼女との交流をしようとしたのに……なんだか様子がおかしい。




「あ、あの。ウィルスは……その、今、倒れていまして」

「風邪なのか?」

「そ、そう……ですね」

「それは大変だな。どれ、果物を見舞いに──」

「ああと!! そ、それには及ばないかと」

「3日日間、じっと寝ていれば良くなると言っていましたから。その、父が行くと……ウィルスも、気を使ってしまう、と言いますか」




 ルベルトもらしくない言葉を並べ、ギルダーツも珍しく焦っている感じ。むしろ、2人は会ったのかと聞けば「ちょっと、ですよ」と歯切れの悪い返答が返ってきた。




「……そう、か」




 じっと2人を見る。

 息子2人は、自分で思う以上に優秀で頭も切れる。その分、3番目の息子のバーレクの奔放さが目立つが……と、国王は思う。




「……分かった。確かに私が行ってしまうと萎縮させて、余計に悪化しかねないな。では、元気になったら時間を取れるように聞いといてくれ。2人には心を許しているだろしな」

「わ、分かりました」

「ウィルスが起きたら、そのように伝えておきます」




 誤魔化さないといけない、とルベルトとギルダーツは思った。なんとかあの手この手で、父を説得し終え互いに静かに息を吐いた。


 国王の執務室を、出てすぐにルベルトはぐったりした。ギルダーツも無理はあったと自覚しつつ、国王が不意にウィルスに会うような事はないな、と安心する。 



 国王の、父には言っていない事がある。

 今、ウィルスが()()()()()()()、だなんて……これ以上、問題を増やさないようにているのだ。




「なんとか、隠し通すぞ」

「そう、だね……久々に気疲れした」

「あぁ、俺もだ。……ルーチェとバーレクにも協力して貰う。自由にしているから、父と遭遇する確率は低くなる」

「ははっ……2人共、聞いたら驚くだろうね」




 朝からちょっと疲れた、とごちる弟にギルダーツは晩酌を誘った。珍しく兄からの誘いに、ルベルトが断る理由もなく二つ返事で答えた。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ミャアー。ミャミャ」




 ギルダーツとルベルトは、自らの仕事場でもある執務室へと戻って来た。すると帰りを待ち侘びたかのように、1匹の猫が歩み寄ってくる。


 シュッとした体は白い毛並みも相まって美しく保たれている。赤い瞳はキラキラと輝かせており、待っていたと言わんばかりに尻尾を振っている。




「……しかし、参ったな」




 今もカルラがギルダーツに遊んで貰っている時に、ポツリと言った。その一言にルベルトは「どっちの?」と聞いてみる。




「そりゃあ……どっちも、だ」

「そう。……ねぇ、カルラ。レント王子とナークの事、まだ許せない?」



 ピタリ、とカルラの動きが止まる。

 ルベルトの方へと体を向けたカルラは「……ニャフゥ」と、不機嫌な感じに聞こえやがてプイッと逸らしてしまう。




「ダメか」

「……だろうな。レント王子から直々に頼まれてしまったし」




 魔獣を退け、その後片付けをしていた時の事を思い出す。

 騎士と師団の者達に門の警備をするようにし、暫くの間カルラになったウィルスを預かって欲しいと言われたれたのだ。


 彼女には、夜中に魔獣が来る事を伝えてはいない。

 レントが危険に晒さない為と思い、エリンスに預けたのだ。早朝になってカルラとなった彼女は何を思ったのか、レント王子とナークに向けてパンチを繰り出した。


 2人が謝るも、怒りが収まらないのかそこから一切近付く事をしなくなった。そして、ギルダーツの元へと歩み寄りそのまま懐かれてしまったのだ。




「怒らせたから……暫くはそっと、します……」

「しかし」

「視線を合わせただけで、警戒されたので……すみません」




 その時のレント王子の事を思い出す。

 チラッとギルダーツの胸元で大人しくしたかと思えば、レントと視線が瞬間に突然唸ってくる。


 ショックを受けたように、青い顔をしたまま去る。その背中からは寂しさが滲み出ており、ギルダーツもなんと声を掛けていいのか分からなかった。




「はぁ……」

「珍しく弱気だね」




 仕事をしながらも思い出すのは、レント王子の事。ルベルトに遊んで貰って上機嫌になったカルラは「ニャ?」と不思議そうに鳴いている。




「んー、君は気にしないでねぇー」

「ミャアァー」

  



 猫の扱いに慣れているのか、ルベルトはカルラを遊ばせる。小さなボールをコロコロと転がせれば、トテトテと追い掛けていき自分なりに遊ぶ。

 無邪気に遊ぶカルラを見て、自然とルベルトの顔が綻ぶ。




「知らなかった。お前がそこまで猫が好きだったとは」

「え、まぁ……きっかけはあの子猫、かな」




 笑顔だったことに気付かなかったのか、ルベルトは驚いたように目を見開く。

 子猫、か……。

 ギルダーツが思い出すのは、ウィルスと最初に会ったあの日。

 両親に内緒でバルム国に出向いた時。そこで怪我を負った、あの日――。




(………思えば。あの時にウィルスに会った事で俺も変われたんだったな)



 

 思わずフッ、と笑みを零す。

 ウィルスと初めて会ったあの時。思えば自分はあの日、あの時、色々と迷っていたんだろうと思う。

 彼女の何気ない一言でギルダーツは悩みが晴れた気がした。あの時、何も思わなかった事だとしても……あの一言が無ければ、きっと自分は完璧を求めるあまり、期待に応えようと過度な事をしていただろうと思う。


 ……自分を変えられたのは、間違いなくウィルスのお陰なのだと思う。

 今もそのお礼は言えないままだが……。それで良いのかも知れない。思い出す必要のない、ちっぽけなものだから。




「………でも、あの2人大丈夫かな」




 ルベルトの声にふと我に返る。

 2人と言うのは、レント王子とナークの事だ。誰が見ても分かる位に、2人の様子は来た時と比べての差が酷い。


 ナークは何度はカルラとの会話を試みるもその度に気配に気付いて逃げるの繰り返し。

 捕まえられたかと思えば、カルラから頭突きを喰らう羽目になり話を聞く気はないと言わんばかりの態度。


 レント王子はこっそりとカルラを見ているが、声を掛けずじっと見ておりエリンス殿下に「止めろ」と引きずる様にして離していく。今も、国の外でギルドの要請により魔物を狩っている頃だろうと思う。




「今は……距離を置くべき、なのかもな」

「あんなにベタベタしてたのに。………解決できると良いんだけど」

「そう、だな」




 ボールで遊ぶカルラを見る。

 猫の方は気にしない感じで遊び回っているが、果たしてウィルスの方はどうなのだろうか?


 そう思わずにはいられなかった。

 黙って行ったのを怒っているのか、危険な事から遠ざけている事に怒っているのか。




「こればかりは、3人の問題だ。……この事に外野がとやかく言うのは野暮だ」





 ギルダーツの言葉にルベルトは「そうだけど……」と煮え切らない様子。

 弟の言いたい事も分かる。しかし、これは関わった者同士の問題だ。

 

 自分達に出来る事はない。せめて、今は無邪気に遊ぶ猫の世話と外部から来る敵の動きに注意する事しか出来ないなと、ギルダーツは重い溜め息を吐いた。



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