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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第83話:狩りの前夜

ーリベリー視点ー



「……なんか怨みでもあんのか?」




 取り出された魔獣の首を見たオレの反応に、ローレックだけでなく2人の反応もピリつくような視線を受ける。……おっと、殺気を隠す気がないからって余計な事をしたか。




「あぁ、ちょっとな………」




 普通に答えたつもりだけど、魔獣を狩ったとされる男からは「下の者達にも伝わるから止めろ」と言われハッとなる。心の中で姫さんの笑顔を思い出せば、自然と治まる……。うん、癒しって大事だなと思い心の中で溜め息を漏らす。

 はぁ……らしくない事をしたなと思い頭をかく。




「仲間がやられかけたんだ。………無事だから良いんだけど、それ以外にも事情があるんだよ」

「そう、でしたか。では……中央大陸の、リグート国で魔獣を見かけたと言うのもあながち嘘ではないんですね」




 それがナークであり、姫さんが治したとは言えない。……この国の王子達に、弟君が何処まで話したかは分からない。オレも広める気はないからと、話しを適当に切り上げる。




「………元暗殺者の貴方ならご存知ではないでしょうか。落葉のギルドが落とされた、と」

「それ、オレ等だわ。ローレックに身代わり頼まれて、散々な目にあったな」

「貴方と言う人は……」




 ジト目でローレックを見ている辺り、アイツはとことん周りを巻き込む性分らしい。あ、じゃあオレも質問してみるか。




「その途中で、妙な奴に茶々入れられたんだが……」




 ナークと弟君が対峙した暗殺者。

 首だけを跳ね、胴体も持ち帰ると言った変な奴。長い黒髪の猫目の男、綺麗な顔立ちをしているがそれらが余計に不気味悪い印象を抱かせる。オレが対峙している時にも、数人はやられてたから処理が大変だったな、と思って質問をした。




「首を跳ねる、暗殺者……ですか」

「猫目の男ねぇ……」

「オレがこっちの国で知っているのは黄色い印の落葉のギルドって所。他に色を印にした暗殺者ギルドは幾つかあるらしいが、オレも長くそっち側には踏み入れてないから最新の情報はない」

「………こちらの方でも似たような事はありますが。そう言った特殊な殺し方をされた者の報告はまだですね」




 まぁ、予想通りか。向こうも「テリトリーに入って来たから」と言う理由で、先に落葉のギルドの連中を潰してきた事を考えると詳細が掴めないのは仕方ないか。

 オレもそんな特殊な殺し方をしてくるのが居るとは思わないから、警戒しといて平気だな。




「んでローレックは何でここに居んだ?」

「その事と少し関係あるんだよ」




 そう言って取り出してきたのは1枚の紙だ。なになに………オレ達が捕えた落葉の生き残りが、死亡した可能性が高い!?




「どういう事だよ!!!」




 思わず胸ぐらを掴んで攻め立てた。あんだけ苦労して捕えたのに、それが全員死亡しているだぁ!? ふざんけんなと言う意思も込めてギリギリと首を絞める掛かる。




「ばっ……それは、こっぢが……」




 なんか言ってるけど、無視して力を込めれば「止めとけ」と腕を掴んでくるのはS級クラスの人物だ。止めている内にローレックの奴が落ちたから思わず「あっ……」となって手を放す。

 バタン、と倒れたのをそのままにしてとりあえず起きるのを待つことにした。



 ローレックが起きるまでの間、色々と話した。

 彼──イーベルと名前を教えてくれた。姫さんに報告出来るから良しとして、ディーデット国に着くまでに魔獣を狩ってきているのだと。


 日が出ない時間帯、夜や夜中以外に出るのはもちろんの事。曇り空や雨の時にも現れると聞き「おかしな……」と呟いた。




「おかしい、ですか?」

「ん? あぁ、魔獣はそんなに数を増やすような事はしないなって話な。意図的に増やしたとしても、目的がなんなのか分からないしなー」

「……本物を知っている口ぶりだな」

「東の人間だからな。魔法を使えば良いが、効くのは威力の高いもの限定だ。オレは瞬時にそれだけのものを編み出すのは苦手でね」




 バーナンに合う前までは苦しかったがな。ドルト族が魔獣と対峙した場合、首と心臓の部分を狙うしかない。元々、他の人よりも頑丈な作りをしているから、獣を狩るのは楽な方だ。


 今、思えば東で魔獣を見るのも遭遇するのも高かった気がする。ナークを乗っ取って、魔獣化したからその方法を独占していると考えていい。




(ハーベスト国……ちっ、国王辺りはやりそうだな。人権とか考えない。欲しい物は何をしてでも手に入れる……胸くそ悪い)




 特殊な力により、オレ達の里は一時的だが支配は軽かった方だ。人攫いや奴隷は当たり前。自分が生きるために家族を売る奴もいたりするし、やむを得ず身売りする者もいた。

 ギリッと奥歯を噛みしめ自分の拳を強く握る。

 同じ王族でも、バーナンとゼストでは全然違う。もちろん、その父親にも同じ事が言えた。リグート国のギース国王は大らかすぎるし器が大きすぎるからオレの事を知っても、息子の助けになる様に言って来るだけで暗殺者だから警戒はしていない。


 自分の息子の目を信じ、また人を信じずらいバーナンがオレを気に入ったのもそれに拍車をかけているような気がした。……宰相のイーザク様はそれで胃を痛めているのは内緒だが。




「もしかして少数民族の里に居たのか。……あの国の周辺には珍しい力を持った連中が多いから国の王はそれらを秘匿しているって言う噂だったが」

「オレはそっから抜け出したんだ。追手もいたけど、返り討ちにしといた。魔獣を倒すのだって高位魔法以外に手立てはある」




 主と結ぶ前でも身体能力が高い奴はいる。目を潰して手足を斬り落として、止めを刺す。時間は掛かるが他の連中よりは幾分か早い。




「………凄い、倒し方……ですね」




 口に手を抑えたエファネが少し気持ち悪がっていた。……解体するからなと思っていると、ローレックが目を覚ました。そしてオレを見るなりいきなり頭に拳骨を叩きつけてきた。




「お前、いきなりすぎるだろうが!!!」

「アンタよりはマシだ!!!」




 すかさず間にイーベルが入り込み、仲裁に入ってくる。

 互いに舌打ちしつつ、ローレックの言う情報を聞く。何でも、行方不明になったのはギルドの連中だけでないらしい。身寄りのない子供や大人も含まれており、詳しい人数を把握するのには時間が掛かると言う事だった。

 本来、オレ達が捕えた者達はディーデット国へと護送されて取り調べを受ける予定だったとの事。だから国の騎士団が来るまでローレックの方で預かっていたんだが……忽然と姿を消したと言う。




「魔法の有無も調べて貰ったが、反応はなかったんだ。だから秘密裏に連れ出せる連中なら同じ落葉のギルドの生き残りだと思ったんだ。だが、そのアジトに行ったらもぬけの殻……じゃなくて、ぶっ壊されていた」

「壊された?」




 この国でも、暗殺者ギルドの所為で被害を受けている事も多かったし、ギルドマスターの暗殺を企てている連中もいる。けど、諜報員が調べ周りようやく見つけたアジトにはボロボロな小屋が見付かり血の海だったと言う。


 酷い状況ではあったが、何か証拠が無いかと調べた途端に周囲を囲うようにして爆発が起きた。調べた者達は幸い無事ではあったが、道を絶たれた事に変わりはなく振り出しに戻ったと言う。  




「既に王子達には知らせているから、各地での警戒を強めて欲しいんだとよ。だが、血の量からしてかなりの人数がやられたとみて良いそうだ。お前達が捕えた人数と合わせても多いって話だったしな」

「………はあ。じゃあ猫目の奴から話を聞くしかないのか?」

「噂程度の情報で悪いが……その暗殺者は止めた方が良い。今、思い出したが殺し方が特殊ではあるがこっちから仕掛けない限りは無害な奴だ」




 名をバールと言う。

 貴族服、神父服、国民などの服を入れ替わりで来てはいるが、その服の色は統一されていて全ては真っ黒だと言う。黒……それを印とした暗殺ギルドか? そんな事を考えていたら「有名なのは多分、ソイツだ」と教えてきた方が何だか苦い表情をしている。




「仕掛けたら間違いなくやられる。依頼以外での殺しはしない主義の考えらしくて1人で行動をしている……と言う噂だ。下手に仕掛けて返り討ちに合うよりは、偶然を見計らうで良いんじゃないか?」

「………偶然を装うのが難しいだろ………」




 会う確率が激減した上に、仕掛けようものなら逃がす気ゼロって……。うん、これは触れない方が良いな。余計な被害を生み出しかねない。弟君にもナークにも注意しておくか。

 思わず何でそんな事を知っているのか、と目で合わせると答えてくれた。




「S級やってるとは色んな嫌味とか嫌がらせがあるんだよ。暗殺者に頼んで襲うって言うのはあるしな」

「やられた口か……」

「まあな。無傷とはいかないが、返り討ちにして殺したさ」

「………うわぁ。良かった」




 うんうん。見るからにヤバそうな奴に手は出したくない。依頼されて報酬が高ければ、やんなきゃいけないし……。うん、バーナンに会えて良かったし姫さん達に出会っておいて良かった。




「話しは戻しますが、この魔獣を狩ったのは夜ですか?」

「いや、曇り空の夕方になる前だったな。夕日に当たってもすぐには引かなかったから、偽の魔獣だろう。言葉も発していたしな」

「「「は?」」」 




 思わずハモッた。

 そう言えばナークの奴も言っていたな、話しを……言葉を片言ではあるが、言っていたと。

 だとするとナークのように憑依させられた魔獣は、人の言葉を話せる奴なのか。じゃあ、仮面の奴は魔獣の人型? 正体を隠したいのなら仮面で覆うのもありだろう。影で人を縛り上げるのだから、魔獣の中に魔法を扱うような奴が現れる可能性もゼロじゃない。


 そう考えていたら、この部屋の扉を乱暴に叩く音が響く。声の主はさっき俺達を通した受付の人だ。緊急を要するものだと分かり、中に招き入れれば彼女は慌てたように言って来た。




「い、今!!! ここに近付いてきている魔獣が居ます。数は10は居ると言う報告です。国の騎士団と魔法師団は既に守りを展開する準備をしています」




 10も!?

 驚いていると弟君から念話がきた。姫さんを城に連れて行った後で、自分達も戦闘に入るのだと。……ほいほい、弟君の要請なら受けない訳にはいかないか。




「分かった。今、A以上の冒険者達に連絡して。魔獣を倒した分だけ報酬を上乗せするからって」

「は、はい!!!」




 今の時間帯で動けるのがどれだけいるかは分からないが……。夕食を済ませたけどまだ寝るのも少し早い位だ。その後、この国に押し寄せて来るのは夜中になるかならないかの時間帯らしい。 


 


「………じゃ、俺は適当にしておく。どうせ、防衛戦になるのなら夜中になる前だ。体力を温存しておいて文句はないな」

「お願いします。今日、かなり酔っている者も多いと聞くのであまりこちらから出せる戦力は少なそうですから」

「オレも抜けるぜ。用は済んだからな」




 そう言って3階の窓から難なく出て行き、素早く城へと向かう。弟君に報告するのも含めて、魔獣対策でもしとかないとな。姫さんは期限的に猫になっているだろうから、今回のは出さないつもりなのは分かるしな。


 ………その前にバーナンに連絡を入れておくか。 


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