緑色の一片
哀しみに包まれていた心も、やはり哀しいだけとはいきません。
いくら哀しかったとて、いつまでもその哀しみが、哀しみだけが続くというものでもありません。
真っ白だったキャンパス、青色に染まっているキャンパスに、今度は緑色の絵の具が一片落とされたのでした。
穏やかな気持ちが生む、心が安らぐような柔らかい緑色でした。
マイナスだった気持ちも、プラスへと変換されていくような気が、変わっていくような気だけがしていました。
これなら、もう哀しくない。
これなら、もう寂しくない。
これなら、もう辛くない。
少年に勘違いさせることも可能な優しい緑色でした。
孤独さえ否定する、穏やかな、暖かな色合いなのです。
まるで天が微笑んでいるかのようでした。
しかし、天の本当の意志というものは、最初に渡したものであって、天の授けたそのものなのです。
それこそは染色される前の城であって、色に染められてから脱色したものでも受け入れられる、あくまでも城であるその色なのでした。
修行を積んだ人でしか、知らないことではありますけれど。
それにそれぞれの色を出すと言うところが、求められるところでもありました。
特に人に好かれるところでもありましたから、少年の持っている緑色という色は、限りなく正解に近しいものであるようでした。
天に求められているものはまた違っていようとも、人に求められるところをクリアしているものですから、そこは大きな問題ではないのです。
それよりも問題であるのは、少年が大事なことを忘れていると言うところでした。
緑色の下には、青色が隠されているのです。
上から絵の具を重ねたところで、下にあった青色が消えるわけでもありません。
青色が消えるわけでもありません。
巻き起こされる悲劇のその一端が、この時点で、もう出てしまっていたように思えます。
まだ気が付きやしない、まだずっと気が付きやしない段階でのことでした。