ゴールデンウィーク 2
雲一つない快晴、程よい暖かさは自分の気持ちを落ち着かせてくれる。駅で待っているのは可愛い後輩であり、自分の彼女でもある。
そして、様々なところを回りながら一緒にご飯を食べ、遊園地で一緒に夕日を見ながら観覧車に乗る。
それが今日の計画だった。
現在、天気は大雨、どんよりとした湿気が自分を苛つかせる。
「なんで、今日に限ってこんなに雨が降るんだ。だれだ、今日は快晴って言ったやつは」(八尋です)
八尋は自分のスマホを見た。時刻は9時50分。待ち合わせの時間は10時。
「時間は大丈夫だな。とりあえず駅には行くか。もしかしたら待っててくれてるかもしれないからな」
八尋は待ち合わせの駅に行くことにした。
駅に着くと、一人で寂しそうに待っている愛唯がいた。
「ごめん、待たせた?」
「いえ、さっき来たところです」
・・・・・
なぜか、会話が止まる。
「・・・先輩、他に私に言うことはないんですか」
「・・・可愛い?」
「なんで疑問形なんですか。可愛いならしっかりと言ってくださいよ。じゃないとせっかくおしゃれしてきた意味がないし」
後半は聞き取れなかったが、だいたいのことは分かった。
「可愛いよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
愛唯は顔を下に向けた。
「ところで、これからどこに行くんですか?」
「ごめん、今日はずっと晴れだと思ってて雨の場合を考えてなかった」
「そうですよね、私も晴れだと思ってましたから」
・・・・・
ここで、八尋は重大なことに気づく。
(そういえば、俺ってあまりしゃべらないからな。会話を続けるのは俺にとって至難の業だ。・・・だから今までモテなかったのか)
彼女持ちの男子の大半に共通することはコミュニケーション能力が非常に高いこと。それが高い恭也は彼女ができた。そう考えれば納得する。
(いや、なんでこのタイミングでそんな重要なことに気づくんだよ)
「あ、あの先輩?」
すると、愛唯が心配そうに顔を覗き込んだ。
「ご、ごめん。どこがいいか考えてた」
「それなんですけど、今日は私の家に来ませんか。家族は今はいないので」
「・・・うん。わかった」
そして八尋は愛唯の家に行くことになった。
「お、お邪魔します」
「そんなに緊張しなくていいですよ。誰もいないんですから」
(それは逆に緊張するんですけど)
そして、愛唯の部屋に案内された。
愛唯の部屋は机とベットしかないがとても綺麗に整頓されていて、ベットの上にあるクマの人形が女の子らしい。
「あ、あの。何か変でしたか?」
「ううん、普通だと思う」
「そう」
・・・・・
(何話せばいいんだよ。恋愛映画の場合は二人きりになった瞬間男子が女子に迫る展開だが、俺はそんな度胸はない。ならどうすればいいんだ、愛唯には申し訳ないけど今すぐにでも帰りたい)
「あ、とりあえず座ってください」
「うん」
愛唯に促され、八尋はその場に座った。
「先輩って普段はどんなことをやってるんですか」
「うーん、普段は家事をして楓花と一緒に映画を見ることかな」
「先輩って家事を一人でやるんですか」
「まぁね、最初は大変だったけどもう慣れたかな」
「そうなんですか。ところで、先輩の好みの女性を教えてくれませんか」
「好み?うーん、これといってないけど、陽葵みたいにしつこいタイプは苦手になったな」
すると、愛唯の機嫌が悪くなった。
「陽葵?それって女性ですよね。先輩とどういう関係なんですか」
「あいつは俺と同い年で隣に住んでいて・・・」
「お、幼馴染ですか」
「まぁ、そうなるね」
「先輩はその人をどう思っているんですか」
「昔は好きだったけど今は大嫌いになったよ」
「・・・つまり、先輩の元カノということですか」
「なんでそうなる・・・ところで、あの石は何?」
八尋は愛唯の机の片隅に置いてある小石を指さす。
「あれはおじいちゃんからもらったお守りで、私がまだ小さいころに彗星が見えたらしくその時たまたまポケットに入っていた小石らしいです。おじいちゃんが言うにはこれを持っているだけで無病息災になるって言ってました」
「・・・はあ、何だよそれ。くだらない」
「先輩?」
「なぁ、それがあったら母さんは死ななかったのか」
「え?」
「いいから答えろ!!」
愛唯の前には怒り狂っているようにしか見えない八尋の姿があった。
「そんなの、わかりません」
「・・・悪い。今のことは忘れてくれ。それと、今日はありがとう、お邪魔しました」
そして、八尋は大雨の中傘もささずに帰っていった。
(なぁ、母さん。俺はあんたの望み通りの人間にはなれない。だから、俺から離れてくれないか。じゃないと俺が普通の人間になれなくなる)