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彗星への願い事  作者: 如月ナオト
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告白

 二人が同時に叫んだあと、幸い誰も保健室にやってこなかった。

 八尋は、急いでカバンの中に入っていた体操服を着た。

 だが、二人は先ほどまでの雰囲気とは全く違い、互いに、目線を全く合わせようとしなくなり気まずい空気が漂う。

「あ、あの」

「は、はい」

「え、えっとごめん」

「いえ、私の方こそごめんなさい」

 ・・・・・・・

 (はぁぁ、どうすればいいんだよこの空気。てゆうか、なんで俺が裸を見られるんだ。普通は俺が女子の裸を見てしまうハプニングだろ。くそっ、逆のパターンは全く想定していなかった)


「あ、あの。そろそろ帰らないといけないので帰ります」

 そう言い愛唯は保健室から出て行った。


 それから、何度か顔を合わせることはあったが話すことはなくなった。


 数日後、八尋の下駄箱に一通の手紙があった。手紙を読むと、「今日の16時に校舎裏に来てください」と書かれていた。

 (これはラブレターか)

 普通なら喜ぶが八尋は素直に喜べなかった。理由は、これが偽物であるという可能性があるからだ。しかも、八尋はそれを経験しているが故にその可能性を捨てることはできない。かといって本物の可能性もある。

 八尋は複雑な心境で一日を過ごした。


 そして、結局校舎裏に来てしまった。

 (やっぱり男は来ちゃうよね。逆に来なかったら人間失格だ。だが念のために」

 八尋は周りを見回す。これが偽物の場合、誰かが隠れて八尋を見ているはずだ。しかし、人の気配はなかった。

 (うぅ、去年のあの時よりは寒くないけど少し冷えるな)

 すると、愛唯がやってきた。

「私が呼んだのに待たせてしまってごめんなさい」

「別に気にしてないよ。それより、俺に何か相談があるの?」

「・・・言わないようにしようと思っていましたがもう我慢が出来なくなりました」

 八尋は一瞬にして負の思考を張り巡らせる。

 (やばい、これは俺への不満だ。五月蠅い、自己中、好き嫌いが多い、キモイ、かっこ悪い、こんなところか。だが、俺が気づいていないだけで他にも嫌われる要素があるのかもしれない。もしも、この中で一つでも彼女が言ったら俺はどうすればいいんだよ)


 そして、次の言葉は・・・

 「先輩、私と付き合ってください」

 「えっ?」

 そして、数秒沈黙する。

 「え、ええっと。失礼だけどこれって何かの罰ゲーム?」

 「いいえ、本気です」

 愛唯のすごい勢いに一瞬のけぞる。

 「・・・俺君のこと全く知らないけど」

 「これから知っていってください」

 「・・・わかった。こっちこそよろしく愛唯」

 「はい、先輩」

 こうしてめでたく八尋と愛唯は恋人になった。


 そして、二人はあるルールを作った。

 ・ この関係は誰にも言わない。気づかれたら何とかして口止めする。

 ・ 遊ぶのは二週間に一回。ただ、大型連休の場合はこれの例外。

 ・ 学校では今まで通りに接する。

 これは長い間付き合うという目的ではなく、互いが彼氏、彼女持ちということを言われたくないからである。理由は恥ずかしいから。

 

 その晩、八尋はいつもよりご機嫌に晩御飯を作っている。(本人は気づいていないが)

 そのことを察するのは楓花にとって朝飯前だった。

 「お兄ちゃん、今日なんかいいことあった?」

 「あぁ、まぁな」

 「え、何があったの?」

 ここで、八尋はすでに詰んでいることに気づいた。

 (しまった。一日も経たずしてばれてしまう。俺の嘘は楓花に簡単にばれてしまう。どうすればいいんだ。・・・無視しよう)

 

 「何黙ってるの。もしかして私にばれないようにとでも思ってる?」

 「なななな、何のことだ」

 「動揺しすぎ、実は見ちゃったんだよね」

 「何を?」

 「恭也先輩が彼女と別れたところを」

 「えっ、マジで」

 あまりの出来事に八尋は固まる。

 「・・・違ったかぁ。あ、ちなみに今のは嘘だよ」

 「何だよ、驚かすなよ」

 「えへへ」と楓花は無邪気に笑った。

 

 晩御飯を食べた後、二人で映画を見ていた。

 「なぁ、なんで想像通りに話しが進み、内容が全くない恋愛映画を見なくちゃいけないんだ。今からでも遅くないからミステリーにしようぜ」

 「だぁめ、お兄ちゃんはこれを見て恋愛のイロハを身に着けてもらわなくちゃ」

 「なんで俺がそんなことを」

 「だって、愛唯ちゃんと付き合うんでしょ。だったら勉強しなくちゃ」

 (なんで知ってるんだよ)

 八尋は体験したことのなかったほどの冷や汗をかいた。

 「てゆうか、そもそも私が愛唯ちゃんに告白しなさいって言ったんだよ。だってお兄ちゃんヘタレだから」

 「うっ、うるさいな。余計なお世話だ」

 はぁ、と楓花は息を吐いた。

 「だから、勉強しなくちゃって言ってるの。お兄ちゃんはこの主人公みたいにかっこいい行動をしてヘタレって言われないように」

 「勘弁してくれ、これは映画みたいに架空の世界だからできることであって現実でやればただの気持ち悪い男になっちまう」

 「そういうところがヘタレなの。時に激しく迫り、時にやさしく抱きしめ、どんな時でも相手のことを思いながら行動する。これが恋愛よ」

 「相手が自分のことを知らなかったら逮捕されるな」

 「だーかーらー、今言ったことを愛唯ちゃんにやるの。それで、私はその練習相手。というわけで今から抱きしめて、お兄ちゃん」

 「あほか、そんなことをやらないといけないとかどうかしている。てゆうか、お前の話を聞いて一生ヘタレでもいいと思ってきたわ」

 すると、なぜか楓花が落ち込んでいた。

 「おい、なんでそんなに落ち込んでいるんだ」

 「だって、お兄ちゃんには恋愛映画に出てくるような王子様になってほしいからそういうことを言われると落ち込んじゃうんだよ」

 「そうか、ならお前が落ち込まないように俺のペースで頑張ってみるよ」

 すると、楓花はたちまち元気になった。

 「よーし、そうなったら今からたくさん恋愛映画を見よー」

 「だから、なんでそうなる」

 八尋は逃げるように自分の部屋に戻り、すぐに寝ようとした。

 だが、

 (くそっ、告白の時のことを思い出すと眠れない。これ、あと何日続くんだよ。頼むから俺を早く寝かせてくれ―)


 そして、そのまま一睡もすることはできなかった。

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