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彗星への願い事  作者: 如月ナオト
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ストレス

 教室に着き、八尋は自分の机の近くに来た仁と恭也に話しかけることなく席に座った。

「お前、いつもより眠たそうだな」

「やっと、俺が薦めたアニメを見てくれたか」

「そんなわけないだろ。頼むから関わらないでくれ」

 教室についてすぐ、八尋は机に伏せて寝た。

 「こういうときの八尋は関わらないほうがいいな」

 「そうだな」

 そして、仁と恭也は何処かに行ってしまった。

 しかし、八尋にとってそれはどうでもいいことだった。

 昨晩の寝不足や今朝の出来事で八尋は心底疲れていた。


 今朝―

 朝食を食べ終えた楓花は普段決して見ることのないニュース番組をつまらなさそうに見ていた。

「興味のないやつを見ても面白くないぞ」

「わかってるよ。ただの暇つぶし」

 楓花は少しイラついていた。

 (確かに面白くない番組を見るだけだとイラつくよな)


 食器を洗い終えると、八尋は忍び足で家を出ようとしたが、すぐに楓花にばれる。

「一緒に行くって言ったよね、お兄ちゃん」

「・・・はい」

 こうして、二人で一緒に登校することになってしまった。


 ただ、楓花と一緒に歩くことは八尋にとっては問題ない。だが、人目があるかつ、自分たちのことを知っている人に見られるならそれは変わってくる。

 そして、社会は女性に優しい。だから、必然的に八尋は「シスコン」というレッテルを貼られてしまう。


 案の定、歩いて数分経った頃周りの視線が冷たく感じる。八尋の考えと別の意味で。

 だが、八尋は仕方ないとわかっている。なぜなら―

「いいかげん、腕に抱き着くのは止めてくれ。恥ずかしくて死ぬんだが」

「ダメ、どんな場合でもお兄ちゃんを守られるようにこうしておかないと」

 そして、きょろきょろと周りを見回す。

「あほか、そんなことなんかありえるわけないだろ。それに、楓花はブラコンって言われてもいいのか」

「私は誰になんて言われようがお兄ちゃんがずっとそばにいてくれるだけでいいよ。もう、家族と離れたくないからね」

 楓花は悲しそうに視線を落とす。

 母が他界した後、父はすぐに再婚し、海外で仕事をするために家を離れた。兄は大学の進学のために上京、家を離れた。そして、順番的に次に離れるのは八尋だ。

 八尋はそっと微笑み、楓花の頭を撫でた。

「安心しろ。俺はお前が望むなら離れないよ」

「お兄ちゃん」

「だが、そうやってベタベタされると気持ち悪い。だから、少し離れてくれ」

「嫌ですー」

 すると、救いの手?が差し伸べられる。

「八尋が困ってるから離れてあげなさいよ、女狐」

 二人の背中に謎の寒気が走った。声の主は当然陽葵だ。

「出たわね、サキュバス」

「誰がサキュバスよ。それこそ、あんたの方がサキュバスじゃない。今だって八尋の腕に抱き着いちゃって」

「家族だからいいんですー。それを止める権利はあんたにはありません」

「八尋が嫌そうだったから止めようとしただけよ。もしかしてあんたは八尋が全部自分のことを聞いてくれる下僕だと思ってるの。まさか、このご時世にそんな馬鹿げた考えを持っているとか」

 楓花は八尋から離れ、陽葵に近づく。

「はぁ、何言ってんの。もしかして私とお兄ちゃんが仲良く登校していることに嫉妬しちゃった?ごめんねー、あんたのこと全く眼中になかったよ」


 喧嘩はさらに激しくなり、この場に残ることに耐えられず八尋はそっとその場から抜け出した。


「あっ、おはようございます」

 突然、後ろから挨拶され、八尋は一瞬心臓が止まる。

 振り返ると、昨日出会った少女だった。

「昨日はありがとうございました」

「あぁ、昨日の。どういたしまして。それで、怪我はあった?」

「いえ、幸いこれといった怪我はありませんでした。ただ、ところどころ痛みますが」

「俺が転げ落ちた時もそんな感じだったよ。でも、数日も経てば痛みは無くなるから安心していいよ」

「ありがとうございます。すごく安心しました」

「そうか。ところで、なんで俺のことを知ってるの?」

「だってフーちゃんが先輩の話を毎日しますから」

「フーちゃんって誰?」

「先輩の妹の楓花ちゃんです」

 八尋は即座に来た道を振り返った。遠目だが、まだあの二人は喧嘩をしているようだった。

「ええっと、あいつはちょっと変わってるけどいいやつだよ。うちの妹をよろしくね、えぇっと誰?」

「あぁっ、自己紹介もせずにこんなにべらべら喋ってごめんなさい。私は蓼科愛唯(たてしなめい)です」

「俺は橘八尋。妹をよろしくね。愛唯ちゃん」

「はい」

 愛唯は少し恥ずかしがりながら笑った。この時、八尋は心臓の鼓動が早くなることを感じた。


 その後、ダッシュで楓花が八尋に追いつき、「勝手に離れないで」と叱られ、そのまま一緒に登校。そして、なぜか小声で「シスコン」と呼ばわりれ、校内の生徒のほとんどにシスコンと認識されてしまった。


 

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