放課後
その後、八尋は職員室にいた養護教諭を呼んだ。(ついでに教科担任にノートを提出した)
そして、彼女はそのまま病院で検査を受けることになった。彼女が持っていた教材は養護教諭の人に運んでもらい、八尋は急いで昇降口に向かった。
昇降口には片手でスマホを操作する恭也の姿がある。おそらく彼女とLI〇Eをしているのだろう。
「悪い、遅くなった」
「りょうかい。それじゃあ行こっか」
そして、八尋と恭也はケーキ屋に向かった。
そのケーキ屋は徒歩で1分くらいのところにあり、看板がかなり古くなっていて外見だけではここがケーキ屋と理解するのは困難だ。
「なぁ、大丈夫か?」
「外観は大丈夫じゃないけど中は大丈夫だ。そんなことよりもさっさと入ろうぜ」
恭也は何のためらいもなく店に入っていった。八尋は恭也の後に入っていった。
店の中に入り、八尋はものすごい違和感を感じた。
店内は床や天井などはぼろぼろなのだが、ケーキが入っているショーケースと、ケーキを食べるところであるテーブルといすだけはものすごくきれいだった。そして、たくさんの女性がいた。
「いらっしゃい」
店の奥から爽やかな男性が現れた。八尋はこの男が女性客を集めていると確信した。
「あれ、今日は彼女はいないのかい」
「今日は代わりに友達を連れてきました」
「ほう、ということは君はどちらでも大丈夫ってことかな」
「なんでそうなるんですか。とりあえず、ショートケーキ二つ」
「わかりました」
そして、男性はショーケースに入っているショートケーキを取り出した。
「ここで食べる?」
「はい」
ケーキの味ははっきり言って普通だった。そして、それ以外の感想が八尋にはでてこなかった。
「どうだ、おいしいだろ」
「うん」
(いや、普通だ)
「ここのケーキは食べやすいのが特徴なんだ。だから、女性がたくさんくるんだよ」
(食べやすいってなんだよ)
「それは、さっきの男の人が目当てなだけじゃないの」
「まぁ、確かに嫉みたいほどかっこいいからな。それよりも、八尋。ここで気になっている女子を連れてケーキをおごれ。そうすれば好感度がアップして彼女になってくれるぞ」
「俺はその女子があの男の人に一目ぼれする可能性の方が高いと思うんだが」
「・・・・・・」
「反論しないのかよ」
結局、そのまま食べて解散となった。
店を出て、恭也と別れた後、最悪の人物に捕まった。
「あれ、八尋じゃん」
声の主は陽葵だった。八尋は当然これを完全スルー。
「そんなに照れなくてもいいよ。それよりも一緒に帰ろ」
「照れてねぇから」
八尋は歩くスピードを速くした。しかし、陽葵は八尋の隣にずっと並んだ。
陽葵は八尋の隣の家に住んでいるので家に着くまではずっとこのままだ。そのことが八尋にとって精神的疲労になっている。
「ねぇ、何で恭也と一緒にケーキ屋から出てきたの?」
「・・・・・」
「もしかして、私の誕生日プレゼント?それだったらごめんね」
「は、お前なんかにプレゼントをあげようとか思わねぇよ」
「もう、八尋のツンデレー」
「俺のどこにツンデレがあるんだ?」
すると、陽葵は八尋の前に出て、顔を近づけ、八尋を上目遣いで見た。
・・・・・・
「うそ、本当にデレない」
「お前じゃなければデレたかもな」
「はぁ、何よそれ。完全な差別じゃない」
「差別して何が悪い?」
「そんなんだから女子が寄ってこないのよ」
「ぐっ」
その言葉が八尋の心を貫いた。
「お、お前も、彼氏、い、いないだろ」
「私は今返事待ちだよ。八尋みたいにヘタレじゃないからね」
「ほっとけ」
その後、一切会話せずに家に着いた。
「お兄ちゃん」
すると、八尋は即座に土下座した。
「はい、申し訳ございません」
家に着くなり、さっそく妹に叱られてしまう。
理由は、楓花が陽葵のことを昔から嫌っているからだ。楓花が陽葵を嫌う理由は知らないが、楓花は八尋と陽葵が近くにいる時により一層嫌悪感をだすことは分かっている。
その理由は「大事なお兄ちゃんにあの女の菌を移されたくないから」らしい。
どこの小学生だよ、と八尋は思った。
そんな人物と一緒に帰ったところを見られたら当然、この反応をすることは分かっていた。
だから、帰って即行で土下座をしたのだ。
「私がどれだけあの女のことを嫌っているかわかってるでしょ。なーのーに、どうして一緒に並んで下校しているのよ。ありえないでしょ。あんな女は嫌いだってお兄ちゃんも言ったよね。もしかして、あの女なら彼女になってもらえるっていう浅はかな考えを持ってるんじゃないよね」
「いえ、あの女は今でも大嫌いです。しかし、家が隣ということもあり、仕方なく一緒に帰っただけです」
「仕方なく?それにしては仲がよさそうじゃない」
「あいつが一方的に絡んでくるだけです。俺は何もしていません」
「証拠は?」
「は?」
「だから、その証拠を出して」
「おい、さすがにそれは無理だ。証拠が全くない」
楓花は何やら考えて、パッとひらめいた。嫌な予感しかしない。
「明日から、私がお兄ちゃんを守るために一緒に登下校をする。異論は認めないよ」
「おい、流石にそれは俺の社会的立場が危うく―」
「異論は認めないよ、お兄ちゃん」
「はい」
この日、八尋はこの先への恐怖で眠れなかった。