プロローグ
それは突然だった。今朝、自分の下駄箱に一通の手紙が置いてあった。中身を見ると、「今日の16時に校舎裏に来てください」と書かれていた。橘八尋は行くべきかどうか考えた。
なぜなら、八尋は去年の11月頃に同じように手紙をもらい、校舎裏で3時間も待たされ、その挙げ句、実はその手紙は幼馴染によるものだった。もし、同じようなことなら自分は人間不信になってしまうかもしれない、という不安はあった。だが、もし本当なら、という希望を捨てることは八尋にはできない。だから、行こうと決めた。
四月中旬、春の暖かな夕日が当たらない校舎裏、少しひんやりとした風が吹き体が震えてしまう。
予定の時間よりも十分も早く来てしまったのでどうすればいいのかと思う。
(しっかりしろ、もしかしたら告白されるかもしれないんだ。しっかりと堂々としろ)
すると、目の前に見知った女の子がやってきた。
彼女は前髪で顔を隠しているのでどんな表情をしているのかわからない。だから、八尋は何を言えばいいのかわからなかった。
「私が呼んだのに待たせてしまってごめんなさい」
それが彼女の第一声。八尋は普段通りの彼女の様子を見てこれは告白ではなく相談だと思い、普段通りに接することにした。
「別に気にしてないよ。それで、俺に何か相談があるの?」
「・・・言わないようにしようと思っていましたがもう我慢が出来なくなりました」
八尋は一瞬にして負の思考を張り巡らせる。
(やばい、これは俺への不満だ。五月蠅い、自己中、好き嫌いが多い、キモイ、かっこ悪い、こんなところか。だが、俺が気づいていないだけで他にも嫌われる要素があるのかもしれない。もしも、この中で一つでも彼女が言ったら俺はどうすればいいんだよ)
「先輩、私と付き合ってください」
「えっ?」
高校2年生、成績は普通、運動も普通。これといった長所はなく、女子に告白される要素はないはずの八尋がこの日、生まれて初めて告白された。