開店前のひと時
初めまして。読む専門だったのですが書いてもみることにしました。
カフェと、来店されるお客さんをめぐる短編集。
少しずつ更新していく予定です。
1人でも楽しんでくれる方がいれば、幸いです。
よろしくお願いします。
「おはようございます。」
午前6時。
起き抜けでボサボサの髪の毛を手で押さえながら私はカウンターに立っている店長に挨拶をする。
「おはようございます。相変わらず朝が弱いですね。寝すぎですよ?」
朝から爽やかに毒を吐く店長は今日も絶好調のようだ。
「睡眠時間はできるだけ多くとりたい主義なんです。それより、朝だろうと夜だろうと全く様子の変わらない店長がおかしいんですよ。」
「そうですかねぇ?とにかく、今日の朝ごはんはあなたの当番じゃありませんでしたか?」
「それはすみませんでした!」
痛いところを突かれて私はすかさず謝る。
「全然いいですよ。僕が作った方が何倍も効率よく美味しく作れますし。」
その言葉に少しムッとした私は思わずこう返す。
「わかりました。明日からは毎日私が作ります。」
「そんなムキにならなくても。」
「ムキになんてなってません。」
「ほら、コーヒー入れましたから落ち着いて。」
「...ありがとうございます。」
なんだかあやされてる気分だが、店長の淹れたコーヒーはすごく美味しいので黙って頂く。いつも通り角砂糖は3つ、入れて。
「できれば砂糖は入れてもらわない方が嬉しいんですけどね。」
なんて店長は愚痴っているが聞こえないふりをする。
「今日の朝ごはんは卵とトーストです。」
「いつも通りですね。」
「明日からは変えましょうか?」
店長が優しい目をして私に尋ねる。
「いや、いいです。これが一番、好きですから。」
「そうですか。なら、良かったです。」
「それに、明日からは私が作ります。」
「それまだ言いますか...。」
店長は呆れたように私を見る。私は顔を合わせないように顔を横に向ける。
「あなたが朝ごはん食べ終わったら開店ですよ。」
「わかってます。でも急ぎません。」
「天邪鬼だなぁ。」
何か言い返そうと顔を向けると私を見て微笑む店長とバッチリ目があってなんだか頬が熱くなるのを感じる。慌てて顔を背け、パンを口に詰め込む。
「慌てなくていいですからね。」
ふふふと笑いながら店長は私に言う。
開店前のひと時。朝の少しひんやりとした空気と眠気が同居して気だるげな雰囲気が街全体に流れている、そんな時間。
でも私は、この場所のこの時間が、一番のお気に入りだ。
ーカフェ 風鈴草、間もなく開店です。