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ぎこちない手

 確かに五年前、わたしは公園でぐったりとしている大きなリスを見つけた。


 でも、わたしがしたことといえば、リスを洞に戻してやり、水や木の実を用意して、洞の中に落葉を敷き詰めただけだ。


 数日してそのリスは元気になり、やがて洞から出て行った。

 時々木の上にいるのを見かけると、なんだか見守ってもらっているようで嬉しかった。

 誰にも言えない思いを、ついそのリスを相手に話すこともあった。


 リスはつぶらな瞳でわたしを見上げて、いつも、わたしの気がすむまでずっと一緒にいてくれた。


 あれは、ノブだったんだ……。


 胸の中にじんわりと温かいものが広がる。


 自分は結局ひとりなんだという気持ちが、常にわたしの中にはあった。

 伯母さんや従姉妹たちと笑っている時も、クラスメイトが気を使って話しかけてくれた時も。


 他人に迷惑をかけちゃいけない。頼っちゃいけない。

 

 ずっとそう自分に言い聞かせてきた。

 でも、あのリスだけには、素直な気持ちを話すことができた。


 そのことが、わたしをどれだけ救ってくれたことか……。


 あのリスが、わたしのことをそんな風に思ってくれているなんて、考えたこともなかった。


 ――結局、あれはリスじゃなくてムササビで、しかもただのムササビじゃなくて妖怪だったわけだけど。


「……あっ!!」 


 わたしはあることに思い至って、声を上げてしまった。


「ん?」


 ノブが不思議そうな顔でわたしを見る。


「ノブが、しつこくわたしについて来ようとしたのは、もしかしてわたしが放火犯に遭遇するのを心配してくれてたの?」

「し、しつこく……」


 ノブがちょっと傷ついた顔をするのを見て、しまった、と反省する。


「あ、ごめん……」

「いや、いいよ。自分でも俺ってもしかしてウザいヤツ? って思ったし。もちろん、カナをひとりで帰したくないっていうのが一番の理由。でもそれだけじゃないっていうか……。別に、ただ送るだけだったら、本来の姿に戻ってカナに気づかれないようにあとを追えばいい話だろ?」

「あ、そうかぁ。でも、じゃあ……」


「一緒にいたかったんだ」


「……え?」


 予想していなかった答えに、わたしは瞬きをする。


「カナのことが心配で、カナになにかあったらと思うと不安だった。だから、いつでもカナを支えられるように人間の姿で、すぐ手の届く場所にいたかったんだ」

「ノブ……」 


 なんでそこまで、と思う。


 ノブを助けたお返しだというのなら、火事の中から救ってもらっただけで、もう充分に恩を返してもらっている。


 それなのに……。


「昔みたいに笑ってくれないと、気になって放っておけないんだよ」


 ノブは、鼻をぽりぽりと掻きながら照れたように小さく笑った。


「ごめんね。ありがと、ノブ……」


 じわりと涙が目に溢れて、こぼれ落ちる。


「なっ、泣くなよ、おい!」

「ご、ごめん~」


 泣き出してしまったわたしを前に動揺するノブの姿がなんだかおかしくて、わたしは泣きながら笑ってしまう。


 そんなわたしを見て、ノブは困ったように笑うと、わたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 その手の動きはどこかぎこちなかったけれど、優しさがたくさん伝わってきて、わたしの涙は更に止まらなくなってしまった。 

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