Episode86 "交差"
景色を見ながら甘味を口へと投じる瀬名。ランパスはその姿を満足気に見ていた。
「もっと欲しけりゃ言ってくりゃれ♩」
可愛らしく肩を揺らすランパスを愛おしいなと感じた。だが直ぐにランパスの雰囲気が変わる。
「ジョン、誰かがくるでありんす。」
ソファーの上へと立ち気配のする方向へと顔を向けるランパス。
「...........先客がいたか。」
すると複数人と負傷をした集団が姿を見せた。大方、此処に来るまでの道中を強引に進んだのだろう。
「何者じゃ、お主ら。」
鋭い視線で隊長らしき人物を睨みつけるランパス。
「ポイアースの子、ピロクテーテースである。」
「ほう、お主があのトロイアの英雄かや。」
感心した様に男を見定める。
「知ってるのか?」
「アキレウスと言う男は知っているかや?ギリシアの英雄に置いてもっとも俊足であった英雄よ。其れを射止めたパリスと言うトロイア側の男を射止めたのがこの男でありんす。」
「そうなんだ。因みにアキレウスとアタランテーさんってどっちが速いんだろうな。」
「何もない平坦ではアタランテーよな。だが土地が戦場となれば変わる。」
要する地形で両者の速さは変わると言う事か。
「.........貴様達こそ何者だ。」
二人でこそこそと話しているとピロクテーテースなる者と兵達が武器を構えて行く。
「わっちかや?わっちの名前はランパスでありんす!」むふん
腰に手を当てドヤ顔を見せるランパス。どうだ、かっこいいだろ?とチラチラと視線を此方に向けて来るので親指をグーしといた。
「俺は瀬名ジョンだ。よろしく?」
武器を構える連中に挨拶をして良いものなのか?
「此処は人が容易く立ち寄れる場所ではない。」
弓を此方へと向けるピロクテーテース。
「そう怒りっ」ヒュン
ランパスの頰を掠める弓。だがランパスが神である以上、弓矢は肌を通らない為、傷跡はない。
「人ではないか。精霊、神、何れにしても我らが道を阻む外敵には変わらぬか。」
相手はワザとらしくため息を吐き、一本の禍々しい矢を取り出す。
「アレはヤバイでありんす。」
ランパスは地を踏みしめピロクテーテースとの間に土壁を生成する。そして権能を発動させ、一帯を暗闇と化せた。
「ランパス!いきなりどうしたんだ!?」
普段の二ュンペーならば余裕を持って事をなすはずなのだが、今回は違った。
「あの矢じゃ。」
禍々しい程の覇気を放つあの矢のことか。
「アレはヒュドラの毒が塗られておる。そして、奴が握るはアポロンの弓矢でありんす。アレで射抜かれればお主は即死し、わっちは無限の苦しみを背負う事になろう。二ュンペーの中でも喜んでアレを受ける奴なぞ、ネーレイスくらいでありんす。」
ネーレイスちゃん...........
そして暗闇の中をくるくると二人で浮遊し混乱する兵達を無力化して行く。だがその中に置いても冷静に気配を張り巡らせる男がいた。
「人の根に触れるか。ふっ、吾輩の精神に弱点はない。」
「そうかなー?」
ピロクテーテースの耳へと息を吹きかける。その隙に瀬名がヒュドラの毒が塗られた弓矢をレイピアで弾き落とす。
「くっ!卑怯な!姿を現せ!!」
「英雄と言えど武器が取り上げれば赤子よな」パチン
すると闇は一転して美しい島の景色となった。
「此れは......レームノス島?」
ピロクテーテースは表情を鋭くし辺りを見渡す。すると二つの人影が何やら揉めていた。
「アレはオデュッセウスッ!」
忘れるはずがない。赤髪の髪を靡かせる男、オデュッセウスの姿がそこにはあった。
「アンタは置いて行く。」
「待ってくれ、吾輩は戦える!腕も動こう?何が不満だと言うのだ!」
「毒蛇に噛まれた箇所から異臭を放ってる。兵達の士気が下がる。じゃあな。」
そう言い残すと、オデュッセウスは歩き去ってしまった。其れを外野から見るピロクテーテースは自分以上の殺意でオデュッセウスの姿を睨みつけていた。
「忌々しい男だ。」ギリ
「其処には同感だな。」ギリ
ピロクテーテースはヘレネーの元求婚者だったためにトロイア戦争に参加したが、トロイアに着く前に、テネドス島において毒蛇に噛まれた落ちた矢で傷ついしまう。その傷はなかなか治らず、ひどい悪臭をはなった。このためオデュッセウスがピロクテーテースをレームノス島に捨て、オリゾーン勢は小アイアースの異母兄弟メドーンが率いることになったと言われている。
「馬鹿者!何を共感しとるんじゃ!」ペシペシ
ペシペシと優しくランパスに叩かれる。ランパスの作り出すこの空間は相手の奥底に眠るトラウマを呼び覚ますものだ。其処をじわりじわりと付く事で相手の精神を消耗させ、肉体へとも影響させるいわば毒沼の様な空間だ。
「吾輩の苦渋の時をこうも見せつけられるとはな。10年と言う時を私は.....」
空間内の時間は現実世界とは切り離されている。己の姿を淡々と見せつけられるピロクテーテースは血が出る程、拳を握りしめ憎悪の表情を見せた。
「オデュッセウスッ....憎い.....貴様が生きていれば吾輩はこの手で貴様を殺したと言うのにッ!」
幻想であるオデュッセウスへと向け弓矢を射るピロクテーテース。ただ幻想故に弓矢はオデュッセウスをすり抜けた。
「終いだな。長々と魅せられて奴は精神が限界に来ておる。あとは楊枝を一月すれば完成よな。」
現実世界では2分も経っていないと言うのにこの世界では既に10年以上の歳月が経っている。トラウマを淡々と見せられて、無理矢理とトロイアの戦場に出された記憶は精神的に大きく来るものだろう。
「」
ランパスは怒り狂うピロクテーテースの首を断ち切る。そして空間は現実世界へと戻った。
「なぁ、彼奴を殺したのか?」
目の前には無傷ではあるが放心状態のピロクテーテースがその場へと立っていた。そして他の兵達は力が尽きた様に倒れていた。
「意識を取り戻したとて心は死んだよー?だって心象を切り捨てたんだからー。精神が揺れてる時が砕けやすいんだよねー?」
軽く言うランパスだがゾッとする話だ。要するに彼らは廃人と化したと言っているようなものだ。
(正当防衛とは言え、相手を悲惨な状態へとしてしまった。)
「.........バルトロメウス、返事はないのか?」
指輪へと魔力を流すが未だに応答がない事に心配の表情を見せる瀬名であった。
此の儘では貞操逆転世界の方が追いついてしまう(>_<)




