Episode85 "谷の先に"
「何だ.........此れは!?」
ピロクテーテースは冷や汗を浮かべ目の前の光景に息を呑む。何故ならば、飛龍の死骸が山の様に積み重なっているからである。
(推定百は超える飛龍を.........)
本来飛龍というのは温厚な生物だ。被害や領土に足を踏み入れなければ襲いかかって来る事は無い。だが仮に対峙をする際には最低でも300百の兵士は必要とする。
(女神アテーナが既に進んでいると言うのかッ!)
ピロクテーテースはそう考え隊員達へと指示を出す。
「急ぎ、この場を越える!続け!!」
一団の指揮官であるピロクテーテースは馬へと鞭を入れ、先頭に立つ。そして彼に続く様に団員達も馬を走らせるのだった。
★
「くっ、やはり俺たちも馬を見繕って置くべきだったか。」
先に行くピロクテーテースを目の先に膝をつけるバルトロメウス。
「つ、疲れた」
レシはぐったりとその場へと倒れる。
「はぁ.....はぁ........急ぎましょう。此の儘では先を越されてしまうわ。」
息を切らしながら言うリディア。
「どうした!ピロクテーテースは目の先だぞ!急ごう!」
一人元気な声を響かせるセレナ。その隣にてカライスは耳を抑えため息を吐く。
「休む事は大切ですが、流石に此処では無理です。」
一面に広がる飛龍の血、そして死骸に対しカライスは皆へとそう告げた。
「レシさん.......そんな所で倒れて大丈夫なのかしら?」
血に濡れる大地にうつ伏せに倒れるレシは呻き声を小さくあげる。
「助......けて」
どうやら自力で立てないらしい。即座にセレナがレシを立ち上がらせるとレシの正面は赤く血に染まっていた。
「うぅ........汚れた」
レシの一張羅である紫のドレスは赤と混じり結婚式にて殺人を犯したのでは無いかと言う風貌となっていた。
「あと少しだ。そうすればこの谷を越える事が出来る。それまで耐えるんだ。」
バルトロメウスは水を口に含みながら励ましの言葉を団員達へと向ける。
「珍しいね、こんな所に人がいるなんて。」
突如後ろから声が掛かり、団員達は武器を即座に構える。
「............誰だ、アンタら?」
目の先に立つ女と男に対し警戒の視線を向けながら質問をする。
「はぁ、此れだから教養の無い人間は嫌いなんだ。」
呆れ顔で自分たちを指差す白銀の髪を持つ女。
「ペルセウスくん、この人間達もしかしたら僕たちと同じ目的かもしれないから、此処で摘み取ろうか?」
ペルセウスと呼ばれる男が剣を鞘から抜く。
「一つ、質問を宜しいでしょうか?」
「..........何だ」
既に臨戦態勢にあるバルトロメウスは槍を構えペルセウスを睨みつける。
「ヒュドラの毒という存在に心当たりはありますか?」
「っ.......仮にあると答えればどうする?」
「いえ、既に答えは得ました。貴方方は此方で死んでいただきます。」
突如正面にいたペルセウスが消える。一団は動揺を顔に出すとカライスの懐から剣が飛び出る。
「なっ!?」
血を吐き出すカライス。そしてペルセウスは剣を引き抜きカライスへと蹴りを入れる。
「先ずは一人。次は.......」
★
「なぁランパス、この先が北の最果てなのか?」
「うーん、多分?」
瀬名とランパスは北の最果てを目指すべく谷を越えたまではいいが、その先は霧に包まれ視界がままならない空間だった。
「ジョン、わっちに捕まりんす。この土地は危険じゃ。」
ランパスは即座に飛翔し瀬名を掴み上げる。すると先程まで歩いていた大地が突如泥沼の様になりぶくぶくと泡を立て始めた。
「一度、戻った方が」
「いや、この先に異様な気配を感じる。ジョンが探し求めとるものは其れじゃろ。」
ランパスはそう言うが不安でならない。其れから暫くランパスの肩を借り飛翔していると霧が徐々に薄くなって来た。
「霧が晴れてっ........!?」
だが霧が晴れた先に見えたのは巨大な存在感を出す大蛇。いや、アレは大蛇をも越える巨大な何かだった。
「下手をしたらあの塔と同格か、いや、それ以上の広大さを......」
遠目だからこそ全体図を見れるが分かる。アレは途轍もなく大きい。山々の中間へとその身を置き九つ首が各山々へと巻きつく。天から雲を突き抜け照らす光はその大蛇を神龍と見せていた。
「あれがヒュドラ.....とか言わないよな?」
「ヒュドラ.........ヒュドラはもうちっと小さかった気がするのじゃが、此処の大気が奴を膨らませたのじゃろう。」
膨らませたとかそう言う次元の話ではない。アレは神話で語られるベヒモスやリヴァイアサンと言った類の物だ。
「其れに安心せい、彼奴に息はない。ただ、毒を生成し続ける装置じゃ。」
山の頂上をへと着地し、瀬名は北の最果てを一目する。
(此処に来たまでは良いけど...............何をすれば良いんだ?)
バルトロメウス達からは此処が目標である事は聞いたが目的までは語られてはいなかった。
「どうした、ジョン?この景色をわっちと見たかったのじゃろ?楽しもうではないかや♩」
ソファーをいつの間にやら空間から取り出し座るランパス。そしてランパスはパンパンと隣の席を叩き座る様に言う。
(待つしかないか。)
ランパスは瀬名の肩へと頭を置き心底嬉しそうな表情を浮かべる。そして右手を恋人繋ぎをされる。
「確かに.......此れはいい景色だ。」




