Episode84 "飛龍の谷"
「ランパス、そろそろ降ろしてくれないか?」
瀬名はランパスへと尋ねる。既に6時間ほどこの体勢が続いているのだが未だに下ろしてくれないランパスに瀬名は脱力感を抱いていた。
「良いではないかや?わっちはジョンを運べて幸せでありんすよ。」
スンスンと自分の匂いを嗅ぎ満足そうに鼻息を立てるランパス。仕草自体は犯罪的動きなのだが、美人がやると許されると言うのは確かなのだろう。
「..........そろそろお昼にしよっかー」
ランパスは流石に自分が可哀想に感じたのか下ろしてくれた。既に樹海を越え自分達は谷に来ていた。花々が一面に咲き広大な山と山の間を歩く。
「なぁ、さっきもランパス言ってたけど、この谷を越えれば北の最果てなんだよな。」
「わっちを信じられぬと申すかや、ジョン。」うるうる
ワザとらしく涙を浮かべ同情を誘うランパス。瀬名は頭に手を置きワシャワシャする。
「いや、実感を感じられなかっただけだ。」
この世界に来てからと言うもの様々な出来事が自分を襲った。目的もなく流れに任せ此処まで至ったたが、やっと北の最果てに向かうと言う目的を果たす事が出来る。
(もちろん、自分が言ったところで何をすれば良いのかは分からないがバルトロメウス達を待つ事は出来るだろう。)
「なぁ、ランパス......一つ聞いて良いか?」
「何なにー?何でも聞いてー!」
目の前で何処から出したのかも分からないシートを敷きご馳走が小さなテーブルへと置かれていく。
「花嫁達って何時も食べ物とか家具とか持ち歩いているけど、何処から出してるの?」
ランパスは瀬名へと抱きつき耳元で言う。
「秘密かや♡」
可愛らしく誤魔化すランパス。
(これ以上は追求出来ないか。)
ランパスが出した料理は何処かで見た事が有るような料理ばかりだった。
(これって、日本食、だよな?)
天ぷらやら寿司、味噌汁まで色とりどりと並べられている。
「どうじゃ、驚いたかえ?わっちが以前、食をした際に気に入った物を貯蔵しておいたのじゃ。何れも美味いよー。」
ランパスは白米を口に入れ笑顔を見せる。
「以前.........それって誰が作ったと覚えてる?」
「いいんや、わっちはただクロノスから貰った供物を食した。其れだけだよー」
クロノスと言う名が再び出てくる。以前、バルトロメウスがリディアを説得する際に口にした名だ。
(時を操る神って胡散臭さマックスなんだよなぁ......)
出来れば関わりたくないと内心考える瀬名はランパスが出してくれた食事へと手を伸ばすのだった。
★
「ふぅ!久しぶりのご飯美味しかったー!」
瀬名は大の字に寝そべり幸福の表情を見せる。
「ジョン、ほれ。」
何か固形物の様な物を投げられ反射的に其れを掴むと何と其れはペットボトルに入ったアイスティーだった。しかも冷たい。
(何で俺の世界のもんをランパスが持ってるんだ、)
「なぁ、此れもクロノスから貰ったのか?」
ランパスは首を横に降る。
「違うよー。正確には盗んだ!」
「盗んだって、」
「彼奴だけ美味しい物を食べるなど、ズルイではないかや。だから取ったのじゃ。」
其れだけ聞ければ十分だ。確実に俺はクロノスと関係がある。この世界に投げ込まれたのもクロノスの所為かも知れない。
(北の最果ての後はどうする......バルトロメウス達について行くのか?)
彼奴の話を聞く限りじゃあ人の国々は戦乱真っ只中と言う。その国の一つに戻って自分も戦うのか?
(正直に言うともう戦いたくない.........でも彼奴らにも恩がある。)
瀬名はお茶を飲みながら苦悩をする。ランパスは瀬名の膝に頭を乗せ目を瞑っていた。
(..........はぁ、考えるのはやめだ。バルトロメウス達と逢ってから意見を求めよう。)
すると瀬名は全身を襲うほどの寒気を感じた。
「なぁ、さっきから思ったんだけどさ........日差しが少なくなって来たよね、ランパス?」
余り空を見上げたくない。何故ならこういった時の感は良く当たるからである。
「雲...........と言うよりも」
ランパスは自分の顎へと手を当て顔を上に向けさせられる。
「火龍じゃあないかや。」
他人事の様に言うが現在に数十を越える火龍とやらがこの谷の上空を覆っているのですが。
「襲って来なッ」
一頭の火龍が巨大な火を自分達へと吹く。
「血の気の多い獣だねー」
ランパスは紅蓮の目を開眼させると火は目の前で消失した。
「祭りを始めよう。」
ランパスは松明を握り締めると立ち上がりそう宣言する。




