Episode73 "冥精の王座"
「ぐッ!」
瀬名はオデュセウスの剣による攻撃を紙一重に避け反撃にレイピアを首狙いで横に振るう。だが、オデュセウスはその攻撃を綺麗に受け流し顔面へと拳を振るった。
「ぐはッ!」
拳を顔面へと受けそのまま地へと振り落とされる。身体は一度、ボールの様にバウンドするとオデュセウスにより蹴りを入れられ丘を転がる。強化を全身に掛けていなければ頭蓋骨は唯では済まなかっただろう。
(速すぎる......常に強化を神経に流しこんでないと.....死ぬ)
身を何とか立ち上がらせレイピアをオデュセウスに対し構える。オデュセウスはその姿を確認すると失笑し瀬名の背後へと瀬名の捉えられぬ速度で駆け剣を振り下ろすが。
「流壁」
瀬名の後部へとレイピアの水飛沫から生じた水流が水域を展開し剣による攻撃を受け流す。本来ならば全身を包む様に四角の水流による結界が張られるのだが意図的に限定し展開をする瀬名。
「舐めるな、餓鬼がぁ!」
オデュセウスは剣に今以上の力を振りそそぐと水流に抗う様に瀬名の背へと剣を届かせた。
「......はぁ、はぁ....」
(どのア二メでも目の前から消えた敵は背後から攻撃するのがルール....だから、即座に展開をする事が出来た....っ、)
「......聞いてねぇーよ、防御が貫通されるなんて」
背中を切り裂かれその場へと手を付き荒い呼吸をする瀬名。その姿を後ろから見るオデュセウスはつまらなそうに見下すと剣を上に掲げ瀬名へと止めを指す為に振り下ろす。
「ほう、此処がエキドナのぉ城へぇ?言いたくはないが魔窟からは考えられぬ程の良き居城よなぁ。」
キュベレー達は橋を渡り長き魔窟の奥へと進んで行くと童話に出てくるであろう吸血鬼の住む様な巨大な城が存在していた。城の上空だけは外と繋がりあらゆる魔物達が城の周りを徘徊する。
「此処は敵に悟られぬ様にぃ慎重に......っ、馬鹿者、何をしておる!」
アルセイドは千は越えるであろう化物達の群れに一人で何の策も無く進もうと言うのだ。
「大地母神、貴方、馬鹿でしょ?」パチンッ
アルセイドは指をバチンと鳴らす。すると近くにいた魔物達が何かに抗う様に暴れ始めると個々に自害を始めていった。異変を感じとり近づいて来た冥府の異形達も同様、アルセイドに近づくに連れ様子がおかしくなり最後は笑いながら互の蔵を玩具の様に取り出すと食し始め絶命していった。
「ふひ、セナには見せられないなぁ?」
嬉しそうにその光景を眺めつつ城へと足を進めるアルセイド。その後に続く様にキュベレーも付いて行くが、内心は穏やかではなかった。
「まだ抗うか、ジョン=瀬名ッ!!」
「生憎、これくらいの修羅場なら何度も経験したんでね。此処じゃあ死ねないよなぁ。」
振り下ろされた剣を両手を使いレイピアで食い止める瀬名。背を切られた痛みはあるがレイピアの加護から傷口は塞がっていた。
「忌々しい女神の加護め、アキレウスの真似事かぁ!」
一度、距離を取り詠唱を始めるオデュセウス。
(レイピア、頼む、オレに力をッ)
「火の精よ、紅蓮の門、燃え盛る火の手に、我が血を捧げる、薪の緋炎ッ!!」
丘を包込む程の炎が一瞬にしてオデュセウスの手に収束し瀬名へと向け放出される。巨大な力の反動かオデュセウス自らの肌も炎の熱に焼け、もう片方の手で焼けていく手を抑える。
「くッ!」
炎が瀬名を包むために押し寄せる。瀬名はとっさにレイピアを地に突き刺し加護を発動させようとするが炎其の物が瀬名を覆い後ろに控える丘の王座の元まで炎は拡散された。そして炎は瀬名の立っているであろう場所に一つの火柱を作り上げ火がその柱を中心に循環し爆炎が続いた。
「女神の加護を持つ剣を有していた所で使い手が未熟なのでは意味は無し。オレは其処らの英雄共とは違い未熟な輩だろうが手加減はせん。常に最善の選択を取る。それが戦争と言う物だ。」
オデュセウスは剣を鞘に戻し瀕死の状態であるテーセウスの元へと戻る。
「オデュセウス.....殺したんだね。」
テーセウスは骸を背もたれに火柱の残滓である煙を眺めながらオデュセウスへと問う。
「あぁ、オレ達も急ぎ、エキドナの城へと向かうぞ。黒髪の女が先行している筈だからな。」
オデュセウスはテーセウスに肩を貸し共に丘を下りて行くがテーセウスが徐々に力を失っていく事に気づく。その反応に気づいたテーセウスは血を吐き出しながら笑った。
「オデュセウス.....ボクの旅はどうやらぁ......此処までだぁ....」
オデュセウスはテーセウスを見て表情を歪ませる。
「テーセウスっ、駄目だ!オレ達はこれからだろうッ!生きろ!オレ達の夢が、平和な世界が、未来を作る為に.........おれにはお前の力が必要なんだ......頼む、死なないでくれ....」
テーセウスは自分の頬に涙を垂らすオデュセウスの姿を見ると最後の力を振り絞りオデュセウスの肩に顔を乗せ告げた。
「平和な世界....叶うといいなぁ....でもボクはそれを見る事が叶わない....だからこそ.....オデュセウス、我が友.......君が叶えるんだ....」
その言葉を最後にテーセウスは地に倒れ笑顔のまま息を引き取った。テーセウスの亡骸を確認するとネーレイスにやられたであろう左腿から血が通常よりも流れ出てきていたのだ。
(カリュプソー.......貴様かぁっ!)
テーセウスの亡骸を抱え路へと着く。
「カリュプソー、貴様はオレが見つけだし.......殺す」
怒りの表情を浮かべ決意をするオデュセウス。
「あれ、セナ?」
ネーレイスの気配と共にセナとのリンクが切れたアルセイドは骸の残骸の中、困惑していた。
「どうしっ.....」
大地母神であるキュベレー自身も瀬名、そしてエウリュアレーの気配の消失に動きが止まる。
「ダメだよ......ネーレイス.....お前が近くにいたのに.....何でぇ?ねぇ、何でぇ?答えてっ!ネーレイスッ!!」
目の下を肌が裂けようとも掻きむしり取り乱すアルセイドはそこいらに転がる魔物の遺体を八つ当たりの為にむちゃくちゃに引き裂く。そしてアルセイドは権能の一部を完全に開放すると城の外面が全て消失し中心から禍々しい程の邪気を放つ卵が露出される。
「今すぐに壊してセナを探すね。」
卵を破壊すると言うアルセイドの発言にキュベレーは正気を取り戻し、止めに入ろうとすると一頭の巨大な獅子が姿を現した。
「此奴、ネメアの獅子かッ!」
キュベレーは警戒し一度距離を取るがアルセイドはその場を動かない。
「神なる襲撃者よ、汝らは此処が我が父眠る地との狼藉か!」
「アルセイドの前に堂々と立つその愚かなる愚行こそが狼藉を働いているっていうんだよ。」
瞳が翠色に光るとネメアの獅子はその場へと眠りへと着いた。それを確認したキュベレーは疑問に感じる。
「何故、此奴を殺さなかぁあたぇ?其方なら出来よう?」
「アルセイドに筋肉英雄の真似事をしろと?」
ネメアーの獅子と言うのはへーラクレースの逸話でも有名な偉業の内の一つだ。獅子は如何なる武器も通じず、自害をしたくとも堅牢な皮膚を貫く事は敵わないだろう。だからこそ、獅子には肉体言語でぶつかるしか殺しの目はないのだ。だからこそ3日間獅子の首を締め上げた事でヘーラクレースは獅子を殺せる事が出来た。
「そんな事よりも前を見たほうが良いよ。」
中心に控える卵の横に姿を現した異形の女。
「蝮の女、元凶、原点、怪物の祖.........エキドナ」
キュベレーは眼を細め観察する様に言うと後部に二体の巨人兵を出現させる。
「殺戮の時間だよ。」
アルセイドは冷たい眼差しで言うと一人城の残骸へと先に歩を開始した。




