Episode72 "海精と英雄"
「あれは......」
墓地が津波ごと石化した後、瀬名はネーレイスとエウリュアレーと共に墓地の最深部へと進むと数多の骸に剣が突き立ててある丘へとたどり着いた。その頂上には何故か一つの王座がポツンと置かれていた。その王座には此方からは良く見えないが、何者かが座っている事を確認出来る。
「ジョン=瀬名!」
王座へと警戒しながら近づこうとすると背後から何者かに名を呼ばれる。
「.......アンタはたしか、オデュッセウス。」
オデュッセウスは此方へと剣を掲げ、その隣にはテーセウスが立ち苦笑いをしていた。
「お前達を此処から先へと進ませる訳には行かない!先の階層へと戻ると言うのであれば俺達は手は出さん、去れ!」
オデュッセウスは親切にそう言うが此方にもエキドナを見つけなかれば行けない理由がある。瀬名はレイピアを抜刀しそれを断る。するとオデュッセウスはその場から姿が消え、神速の斬撃を瀬名へと向け放った。
ガキンッ!!
「いきなり首を狙うとは、ジョンよ、無事か?」
瀬名の首スレスレの位置まで迫ったオデュッセウスの剣をエウリュアレーが曲剣で弾くがオデュッセウスは直ぐ様エウリュアレーへと蹴りを放ち距離を取る。
「あれ....おれ?え?」
首筋に痛みを感じ手を当てる瀬名は血が出ている事に気づく。
(師匠がいなければ死んでいた.............)
瀬名は死への恐怖を肌で感じ取ると無意識に強化を全身に回した。ネーレイスは瀬名を心配した表情で見ると瀬名の前へと立ちオデュッセウスを睨み付ける。
「また、貴様は私の大切な物を傷つけるのか。」
オデュッセウスと縁が深いカリュプソーを取り込んだネーレイスは記憶を共有している為に彼女の性格が全面に押し出されていた。
「貴様は....っ....カリュプソーでは、ない!」
ネーレイスはその台詞を聞き鼻で笑うと冷めた口調でオデュッセウスへと告げる。
「彼女の気持ちを踏み躙り島を去って得た幸福はさぞ心地良かろうな。」
両手を広げ口元を吊り上げるネーレイス。周りは怒りを体現したかの様に水飛沫が舞っていた。
「だが、此処で貴様へと私自らが引導を渡せる事に感謝する!」
グダリと垂れる姿勢を取るとネーレイスがその場から姿を消した。瀬名は何事かと思い眼を凝らすとオデュッセウスの背後へと立ち剣を突き付けようとしていたのだ。
「オデュッセウス!!」
いち早く気づいたテーセウスは叫ぶとオデュッセウスはそれに反応する様に身体を曲げギリギリの位置でネーレイスの突きを避ける。
「まだ、デス!」
突きからそのまま剣を下に下げ避けたであろうオデュッセイアへと振り落とそうとするがネーレイスは何かに吹きどばされる様に丘を転がった。だが転がったと同時にネーレイスは水飛沫を上げ爆散する。
「ネーレイスちゃん!」
瀬名が叫ぶ。すると自分の肩に誰かが手を置いている事に気づき視線を向けるとネーレイスであった。
「え?さっき、え?」
凛とした顔付きでレイピアを少しの間、貸して貰いますね?と女神の微笑みを浮かべるとテーセウスに向け人ならざる速度で駆け出した。
「勇者よ、海精は先程から此処にいたではないか。何を驚く事がある。」
当然の様に言うエウリュアレーに瀬名は口を開けた。師匠の説明によるとどうやら水で作った幻影をオデュッウス達へと一体放っただけだとか。それも実体のある幻影を。
(か、影◯身ぇ.....)
「くっ、オデュッセウス!まだ!」
左腕は切り飛ばされあらゆる場所に切り傷が出来るテーセウス。アリアドネーから授かりし短剣を振るうがネーレイスに効力はない。
「もっと遊んでくれなくなくては殺しがいがないではありませんかぁ、ふふふ。」
ネーレイスはレイピアをテーセウスの左太腿へと突き刺すと加護を発動させ内部から水を暴発させる。左太腿は一度、不可解に振動すると一気に膨らみ風船の様に弾き飛んだ。
「ぐあああああああああっ!!!!!」
左足を失ったテーセウスは丘を転がり、痛みの声を上げる。だが、ネーレイスはそれでは終わらない。転がるテーセウスへとゆっくりと命を刈り取る死神の様に追る。
「....ぐぅ、はぁ、はぁ、オデュセウスッ!」
痛みを抑えながらもオデュセウスへと希望の視線を向けるがテーセウスへと止めの突きが入ろうといた。だがレイピアがテーセウスの顔へと迫った瞬間、ネーレイスはレイピアを残し姿を消した。
「え?.......ネーレイスちゃんっ!?師匠、...師匠?師匠!!」
ネーレイスだけでなくエウリュアレーまでもがその数多の骸が存在する丘から姿を消した。残された瀬名は叫ぶが返事は返って来ない。
「はぁ、はぁ、この術式は、かなりの体力と集中力を必要とするが、何とか成功した用だ。」
ネーレイスとエウリュアレーをこの場から消したのはオデュセウスによる物だった。瀬名はすぐさま、瀕死のテーセウスの元へと走りネーレイスの残したレイピアを拾い上げる。
「オデュセウス!貴様、ネーレイスちゃんと師匠をどうした!!」
テーセウスが力無く握るアリアドネーの短剣を回収すると瀬名はオデュセウス達から距離を取りレイピアをオデュセウスへと掲げる。
「オレ達如きが神に勝てる筈がない....ならば手段は二つしかないだろうが。」
「まさか、封印をっ!」
瀬名はそう叫ぶがオデュセウスは笑いそれを否定する。
「戦闘の最中に何度も試みたさ。だが、強大過ぎた。あの海精を封印すれば先に器が壊れるだろう。.......だが、奴をこの塔から遠ざける事は出来た。幸運な事に貴様のもう一人の連れも神性を纏う者だったようだな。」
瀬名はオデュセウスの発言から理解する。神性を持つ者を遠くへと飛ばす術式をオデュセウスは行使したのだと。
「もう一人の黒髪の女が何処に行ったかは知らんが.........お前には此処で死んで貰う。」
オデュセウスは装備の内側から液体の入った試験管を取り出すと蓋を取り口に含み出した。瀬名はマズったっと感じすぐさまその場を後にしようとするがオデュセウスにより阻まれる。
「女神がいなくては何も出来んか、優男?.....此処が貴様の墓場だ、ジョン=瀬名!」
森林を抜けた先にトンネルへと繋がる巨大な橋が建っていた。
「あの穴の先からは此処とは違う何かを感じる。」
アルセイドはそう言うと橋へと足を踏み出しトンネルへと向かう。
「待ちんすぅ、あの先はぁ.......」
尋常ではない冷や汗を流すキュベレーにアルセイドは冷たい視線を向けながら告げる。
「アルセイドだけでも良いよ?此処から先は恐れを為す神程度じゃあ足でまといだから。」
気遣う言葉では無く純粋に思った事を口にするアルセイド。その台詞が感に触ったのかキュベレーはアルセイドよりも先にトンネルへと入って行った。
(ちょろい奴)
アルセイドもキュベレへと続き魔窟へとその身を進ませる。
四章、クライマックスに近いぜ!サイドで書いてる逆転世界物が此方よりも好評で悲しい.....orz




