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Episode65 "二つの渦に"

石化した海面の端に来た二人はこの海洋の荒くれ具合に渋い顔をしていた。


「これほどの渦、人では立ち入る事も出来なかろう。」


「したとしても溺死するぇ。」


「溺死どころではないわ。肉は千切れ抉れる。入れば最後、その者は死した事すらも分からぬまま冥府へと行くであろうな。」


海洋に幾つもの渦が郡を成し、所々に荒くるう様に高波が渦巻いていた。


「さてぇ、堕蛇ぃ、石化を早うせぬかぇ?」


キュベレーが命令口調でエウリュアレーに命令するとエウリュアレーはキュベレーを睨みつけ海洋へと自身の魔眼を使い石化していく。


「良い出来ぇ、悪う無いぇ。。」


我が物顔で石化した海を進んでいくキュベレー。その歩に続く様に石化した地面には草木が生え成長していく。


(はぁ、この者は人使いが本当に荒い。が、恩義があるのは確かだ....もっともこの者が我ら堕ちたる神性を受け入れるのは戦力の増加だろうが、各天宮に住まう我らはそれでも尚、真に感謝をしている事には変わらなぬ。)


行き場をなくした者に居場所を作ったのは他ならぬキュベレー本人であるのだ。


「カリュブディスとスキュラ、本来ならば美しき女神であったが、悲しいものよ。」


キュベレーに運良く出会わなかった両者に多少の同情を感じるエウリュアレーではあるが今は瀬名の救出を第一に頭に置くことにする。


「ふむ、スキュラの半身は死したがぁ獣に成り下がった方はこの海域に生息しておるぇ....くくく、なぁ、堕蛇ぃ、プリギュアに欲しくはないかぇ?」


キュベレーはニタリと笑みを浮かべながらエウリュアレーに問う。


「それは良い考えだと思うが....スキュラがそれに賛同するとは思えんな。心まで獣と化したスキュラは、哀れな船乗り達をむさぼり食うことが愉悦と聞く、そのような者に以前の純粋だったスキュラの後釜が務まるとは思わぬ。」


キュベレーはつまらぬと言う表情を取りエウリュアレーへと告げた。


「其方は何も分かっておらぬなぁ。復讐心、憎悪を持つ者こそ、戦場にて原石の様に輝くぇ。そして、妾がこの海域に生息するスキュラにこう一言告げるぇ。」


意地悪くキュベレーはエウリュアレーの耳元へと近づけ小さく言う。


「妾ら女神が其方の復讐相手である、魔女キルケーを討つのに手を貸そうとな、くくく。」


耳元から口を離し、手元で海面を石化する様に指示をするキュベレー。


「......それは....」


エウリュアレーは何も言う事が出来なかった。


(あの時と同じ.....)


エウリュアレーはアテーナとの戦いの後の事を思い出していた。


「おぉ、よおやく目を覚ましたかぇ?」


一人の女の声が聞こえて来る。アテーナの一撃により地に伏せた記憶まではあるがその後を覚えていなかった。


「我は.....そうだ、ステンノー姉ぇさんは!」


周りを見渡すが声を掛けて来た女しかその部屋にはいなかった。


「まぁ、落ち着くぇ、神気を纏いし蛇よぉ。ソナタの姉ならば無事ぇ。」


とろく甘い声で話すその女に何故か安堵を感じた。


「其方は......」


落ち着きを取り戻しその女へと問うた。


「妾かぇ?...くく、聞いて驚くなよぉ。大地を司る女神「ガイアか!」.....キュベレーぇ。」


大地母神と聞けば最初に考えつく神こそは全ての母と名高いガイアだがその答えを聞きキュベレーは引きつった笑みを浮かべていた。


「その名を聞いた事がある.....信奉者は、みな去勢した男性たちで女性の衣装をまとい、可の都市では社会的に女性とみなされたと。陰間(かげま)ばかりを集める色物女神だとな。」


「なっ!?」


キュベレーは驚きと同時に怒りが顔に出る。陰間とはオカマを意味する語源である。


「我が血を宿すアッティスが去勢をする事で甦ったぇ!それを軸に教えを人に伝える事の何処に恥ずべき事があるかぇ!」


キュベレーは立ち上がり両腕を上げ怒る様に叫ぶ。


「何も悪いとは言わない。唯、社会全般からすれば、それは異端だと思われても仕方が無いと言っているだけだ。」


その後のキュベレーがエウリュアレーの意見を取り入れ去勢システムを廃止したのは言うまでもない。


「さて、妾がソチを此処に連れて来たのはソチの姉がこの宮にいるからぇ。」


「ステンノー姉さんは...生きている。」


目を覚ましてから数日後、身体を動かせる様になり姉がいると言われる天宮の一つに案内される事になった。だがその再開は感動的な物とは言えなかった。


「キュベレー、此れは何だ!何故、我の姉は鎖に繋がれておる!」


ステンノーは鎖に繋がれ目を閉じていた。その姿を確認したエウリュアレーは敵意をキュベレーへと向けた。


「...其方はこの天宮に上がるまでに幾つもの石像を見た筈ぇ。」


「あぁ、それがどうしッ.....」


エウリュアレーはその言葉の真意に気づく。


「まさか....我が姉が....しかし、アレはメデューサの権能.....」


「其方らがオリュンポスの一神と事を起こしたのは聞き及んでおるぇ。そしてソナタの姉、ステンノー、意味するは強い女。自身の血族を守る為に心が砕けて尚もソチを守る様に戦ったぇ。」


その言葉を聞きエウリュアレーは理解した。このキュベレーの聖域に何かしらの術で逃れた後、多方、自我無くして大暴れしたのであろうと。だが一つひっかかる事があった。


「.....心が砕けた....と言ったのか、其方は。」


「あぁ、今は鎖と術式でソナタの血族を封じてはいるが、目を覚ませば破壊の限りを尽くす邪神としてギリシアを震撼させるだろう。妾の一手が少し遅れて入れば其方の命とて無事ではなかったぇ。」


エウリュアレーはその言葉を聞き鎖に繋がれるステンノーの姿を見上げる。


「ステンノー.....」


エウリュアレーは涙を流し自身の胸へと手を当てる。


「復讐したかろうなぁ、ソナタの血族は。」


キュベレーが近くによりそう言葉に出す。すると転移により二人の立つ場所は変わり城にある最っとも高き高台へと立っていた。空には12宮もの浮遊大陸が並び城下には美しい町並みが映し出されていた。


「堕ちたる蛇神エウリュアレーよ、其方の復讐、妾と共に歩むのならば成し遂げられよう。妾らは引かぬ!媚びぬ!ギリシアの歴史に妾の名を深く刻もうぞ!」


その強く溢れる闘志、情熱、野望に目を奪われた。この者について行けば我が姉妹の敵を討てると。


「あぁ...あぁ....そうだな、.....憎きオリュンポス神を討てるのならば.....我は....」


エウリュアレーは目を開き遥か昔に起きた邂逅を思い出し隣に立つキュベレーへと目を向ける。


「何ぇもぅ、天候が酷いぇ。ジョンにこんな姿など見せられぬではないかぇ。何をサボっておる堕蛇ぃ、はよぅ先に続く海面を石化せぬかぇ!」


豪雨により身体がビショ濡れになる女神は毒を吐きながら命令を下す。その姿と言動に苦笑をしながら文句を吐くエウリュアレーは何処か優しげな表情をしていた。


「我に命令をするな能面が、くく。」



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